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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
1/547

01

詳細な描写はありませんが、連載前半にレイプ、殺人、肉刑が出てくるので、R15指定をしています。


サブタイトル、本文の表現、ルビや誤字などを修正するかも知れませんが、内容は変えませんのでご容赦ください。

「好きだよ、リリ。今日も綺麗だね。お願いだから、俺と付き合ってよ」

「おはよう、バル。お断りよ」

「おはよう、バル。今日もいつも通りね」

「やあ、パノ。今日も良い笑顔だな。俺と付き合わない?」

「遠慮するわ、バル。ほら、リリが睨んでいるわよ?」

「睨んでないわよ」

「ああ、そういう表情も素敵だよ、リリ。頼むから俺と付き合ってくれない?」

「おことわり」


 貴族の子息令嬢と成績優秀な平民の通う学院の門を(くぐ)って、生徒達が互いに挨拶を交わす。

 そんな中、一人の男子生徒、コードナ侯爵の孫バル・コードナが見目麗しい女生徒達にアプローチをしているが、周囲の令嬢達は慣れたものだ。


 バルがリリにアプローチして振られ、他の令嬢に交際を申し込んで振られ、再びリリにアプローチするのが、セットの様に繰り返される。

 バルの本命はコーカデス侯爵の孫リリ・コーカデスであると周囲は認識しているが、リリがバルの気持ちを受け取る事は一度もなかった。リリの家族がバルの行動を許しているから周りは何も言わないが、関係者はみな苦笑いだ。そしてお陰でバルの祖父母のコードナ侯爵夫妻は、リリの祖父母のコーカデス侯爵夫妻に頭が上がらなくなっている。

 それでもこんな状況が許されているのは、バルがリリを本当に慕っていてリリも満更ではないと、認める人達が周囲にいるからだ。リリが肯いたら婚約させても良いと、両家の間で口約束もされていた。



 そのバルは、少し離れた所に立っている少女に気が付いた。


「あれ?見た事のない子がいるな」

「新入生っぽいわね」


 パノもそちらを向いているが、リリは横目でチラリと見て直ぐに視線を戻した。


「知らない顔だから平民かな?」

「地味な感じだし、そうなんじゃない?」

「ちょっと行ってくる」

「さすがバル。見境(みさかい)ないわね」


 バルの背中に投げられたパノの言葉にリリは溜め息を()くと、パノに声を掛けて校舎に足を向ける。


「先に行きましょう」

「ふふ。バルってば、手を振り(ほど)かれているわよ」


 パノの笑い声に振り向けば、バルは少女に謝っている様だ。次はまた自分にアプローチしてくるのかと思うと、もう一度リリは溜め息を吐いた。


「あれ?」

「何?」

「バルがあの子と一緒に行っちゃうわ」

「え?」


 リリが再びバルの方に顔を向けると、確かにバルが少女と並んで遠ざかって行く。


「どこに行くの?」

「いや分からないけれど、でもあの子が肯いていたから、お詫びに教室にでも案内するんじゃない?」

「教室はこっちでしょう?」

「知らないわよ。いや知っているけれど、二人がどこに行くのかは知らないわ」


 立ち止まって二人の背中を見送っていたリリは、パノに促されて校舎に向かって歩き始める。

 いつものアプローチのお代わりが来ない事に、リリの心にスッと一筋の波紋が広がった。




 学院は今日が新年度の初日なので、授業はなくてガイダンスだけで終了した。

 帰り支度(じたく)もそこそこに、バルが教室から出て行こうとしている。

 リリは慌ててバルを呼び止めた。


「バル!」

「お?どうした、リリ?」

「急いでどこに行くの?」

「カフェ。じゃあ、また明日」

「待って待って!一緒に帰らないの?」

「帰りどうなるか分からないから、今日は先に帰って」

「え?なんで?」

「え?なんでってなんで?」

「カフェに何しに行くの?」

「今朝、女の子がいたろう?交際を申し込んだらOKを貰ったから、話をしに行くんだ」

「「「ええ~?!」」」


 バルとリリの()り取りを聞いていたクラスメイト達は、皆驚きの声を上げた。

 リリは息が止まって声が出せない。

 代わりにクラスメイト達が近寄って来て、口々にバルに訊ねる。


「バル!その子と付き合うの?」

「うん?その積もりだけれど、なに?」

「相手は誰なんだ?」

「ラーラ・ソウサさんって言う新入生」

「え?そんな名字って、平民?」

「ソウサ?ソウサ商会の?」

「え?ソウサ商会?いや、どうだろう?」

「聞いてないのか?」

「言われなかったから、違うんじゃないか?」

「でも、ソウサ商会の会長の孫娘が入学するって聞いたよ?」

「名前はラーラだった筈よ。パーティーで見掛けた事があるわ」

「そうなのか?本人に聞いてみるよ。じゃあな」

「待って待って!バルはその子と付き合うの?」

「え?だからそうだってば」

「じゃあリリは?」


 クラスメイト達の視線がバルとリリの表情の間を行き来する。


「リリには今朝も振られたんだよ。その(あと)、ソウサさんにOKして貰ったんだ」

「リリの事、好きじゃなかったの?」

「何言ってんのさ?好きじゃなければ、俺は言い寄ったりしない」

「その割にはリリ以外にも声掛けてたじゃない?私にも言ってたし」

「私も日に1回は言い寄られたわ」

「好きな子にしか声掛けないし、応えて貰えたらちゃんと付き合っていたよ」

「え?リリが好きなんじゃなかったの?」

「もちろんリリが一番好きだよ?」


 その言葉を聞いたリリの頬が朱に染まる。

 それに気付いたクラスメイトは、あれだけ毎日好き好き言われていたのに今更赤くなるのかと、不思議に思った。一番と言うのがポイントなのだろうかと。


「え?知らなかった?」

「知っていたわよ」

「あの様子ではリリ本人がどうかは分からないけれど、バルはリリが一番なのは(ほか)のみんなは知っているわ」

「でも付き合うのは他の子でも良かったの?」

「もちろん」

「誰でも良いって事?」

「声を掛けた子ならそうだけれど?」


 バルがクラス中の女子の敵になった瞬間だった。

 誰でも良いなんて、リリにも他の女性にも失礼過ぎる。


「その子、バルがコードナ侯爵家の人間だって知っていたの?」

「いや、どうだろう?家名も名乗ったけれど、特に何も言ってなかったけれど?」

「絶対、侯爵家とのコネが欲しくてOKしたのよ」

「コネの為に自分から声を掛けられに行ったとか?」

「ええ?俺、三男だし、爵位は父親ではなくて、まだ祖父が持っているんだよ?大したコネにならないんじゃない?ソロン殿下も在学中だから、コネを狙うならそっちでしょ?」

「バルを足掛かりにして、お兄様を狙うとか?」

「兄を?ああ、まあ注意するよ。忠告、ありがとな」

「バル」


 ずっと声を出さなかったリリがバルに呼び掛けた。


「私と帰らないで、その子の所に行くの?」

「ああ」

「私が好きなんでしょう?」

「ああ。リリが一番好きだよ」


 またリリが頬を染める。耳も赤い。

 クラスメイト達は、赤くなってないで何か訴えろ、と思った。


「じゃあ、ソウサさんがもう来ているかも知れないから、俺は行くね。みんな、また明日」


 バルが片手を上げて教室を出て行く。


 リリは「あっ」と言って腕を伸ばしたけれど、言葉は続かなかった。

 クラスメイト達もバルの言う事とやる事の違いに「えっ?」と呆気に取られて、動けなかった。

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