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第五十四話 回復魔法の治験

 魔法研究所の方針がまとまって、いっそう皆の動きが活発になった。


 魔力検知器は小型化し、持ち運びできるようになるにはあと一歩。すでに魔力遮断は実用化できているので、俺やフィーネの側でも問題なく動作する。


 持ち運びできるようになったら、まずはサイオンジ星系内の惑星で、有用そうな物や地域がないか調査する予定だ。


 理想を言えば魔石の代替になるような物が見つかればいいのだが、そうそう簡単には見つからないだろう。


 調査をする人手を増やせないかグウェンには相談してある。体制を整えるのにもう少し待ってほしいとのことだったので、それまでには魔力検知器の持ち運びを仕上げないとな。まあ仕上げるのはカエデとタティアナさんなんだけど。


 俺の方はというと、暇をしているわけではなく、回復魔法の検証をやっている。カエデとタティアナさんのレポートから、回復魔法とアストラル体の相互作用の調査だ。


 今日は回復魔法の検証の一環で、マリーさんと回復魔法を習得している護衛騎士のシャロンさんの3人でカミヤワンに来ている。


「やあマーリン殿。今日は治験の第四段階ということだったね。すでに準備はできているよ」


「ありがとうございます、アクリティオ様」


 目的は、回復魔法の治験だ。


 ここで少し治験について説明しよう。


 治験はおおまかに4つの段階に分かれている。


 まず第一段階。これは治療の作用機序の研究だ。言い換えると、その治療にどういう効果があるのかの研究だな。これを治験に含めるかは微妙なところなんだがいいだろう。


 次の第二段階は、動物実験だ。主に人以外の哺乳類を使って治療の効果を検証する。培養した細胞などを使って行うこともあれば、生体そのものを使うこともある。ほぼ全ての治療法は動物実験を経て実用化される。


 そして第三段階は、健康な人での検証だ。言うまでもなく、治療を必要としている人は健康な人よりも弱っている。弱っている人に試す前に、まずは健康な人で治療の悪影響がないかを確認するわけだな。


 最後の第四段階は、実際に治療を必要とする人への治療の実施だ。今回カミヤワンで行うのはこれ。治療するのは四肢欠損、つまりは回復魔法での四肢再生だ。


「治療室にはすでに設備は搬入済みだ。動作はカエデが確認済み。他に何かあるかい?」


「いえ、大丈夫です」


 検証を行うための魔力検知器は設置済みで、あとは人さえ入れれば治験は実施できる。


 魔法を使うのは俺、観察するのはマリーさん、魔力検知器をシャロンさんが担当する。他の細々とした作業は、サイオンジ家の騎士団がやってくれる。


「アクリティオ様は見学されますか?」


「本当なら見学したかったんだけれど、都合がつかなくてね。代わりに妻が立ち会うそうだ」


「フィオナ夫人がですか。わかりました」


 アクリティオ様と一緒にカミヤワンへと帰還したフィオナ夫人が立ち会うらしい。夫人の前では、あまり魔法らしい魔法を使っていないから、興味が沸いたのかな。


「それでは失礼します」


「ああ。治療が終わったら声をかけてくれ」


「はい。わかりました」


 マリーさんの案内にしたがって、治験の行われる部屋へと移動した。治療といっても、外科的な手術をするでもなく薬を投与するでもないので、一般的な普通の部屋だ。


 変わった点と言えば、仕切りで部屋が二分されており、その仕切りに穴が開いていることくらい。この穴に欠損した部位を入れて、反対側から治療することになっている。


「いらっしゃい、マーリンさん。準備はできているわよ」


「こんにちは、フィオナ夫人。今日はよろしくお願いします」


「私の方こそ、魔法での治療がどんなものか、とても楽しみにしていたのよ」


 無理を言って、ティオに変わってもらったのよ。そう言って笑う夫人は、どう見てもリリーナ様の母には見えず、控えめに言っても姉妹のようだ。


「マーリン様。魔力検知器は正常に動作しています」


 挨拶をしている間に、シャロンさんが魔量検知器のテストを終わらせたようだ。あとは患者を案内してもらうだけ。


「準備はできたようです。夫人、患者さんを連れてきてもらっても良いですか?」


「ええ。一人目をお願いね」


 夫人に声をかけられた騎士団員が部屋から出ていってから、仕切りの向こう側が少しざわついている。しばらくすると、仕切りの穴から腕が突き出された。ちょうど手首から先がなくなっており、欠損としては手が丸々なくなっている状態だ。


 ついで、様々な検知器が患者に接続され、こちら側のモニターに数値や波形が表示された。俺にはほとんど意味が分からないが、マリーさんとシャロンさんは満足そうだ。


「準備完了です」


 仕切りの向こうから声がかかった。


「準備はいいですか?」


 俺の声に、マリーさんとシャロンさんがうなずいた。


「フィオナ夫人」


「ええ。いいわ」


「それでは開始します。『母なる回復の風よ! 彼の者の傷を癒せ! ヒーリング オール』」


 きらきらと光る白銀の風が、いびつに歪んだ手首へと集まる。効果は一瞬で、瞬いた光が消えた後には、日に焼けていない薄っすらと白い手が存在していた。


「無事治療完了ですね」


「……あらあら」


 さすがのフィオナ夫人も驚いた様子である。俺がグウェンの教師をやっていると言っても平然としていたので、相当な驚きだったんだろう。


 そしてマリーさんとシャロンさんは、何故か膝をついて、俺に対して祈りをささげている。――シャロンさん、あなたもですか。


 聖句のように「マーリン」って言うのやめて。


 とりあえず、治療に関してこちら側でやることは終わった。あとは色々な検査や運動テストなどをやって、さらに経過観察を経て治験は終了となる。


「本当にあっという間に治ってびっくりしたわ。マーリンさんのいた国でも同じなのかしら?」


「そうですね。概ね同じでした」


 MFOでは治療途中のモーションとかは特になかった。というかプレイヤーの肉体は欠損したりしなかったので、そもそもの四肢欠損治療の機会がほとんどない。


 サブクエストで「誰それの治療を行え!」というのはあったので、俺自身は欠損治療の経験はあった。ただ、その場合でも途中モーションはなく、ぴかっと光ったら治療完了という感じだ。


「すぐにわかる情報では、治療後に少々心臓に負荷がかかる点と、針で刺された程度の神経伝達パルスが観測された程度です」


 祈りから復帰したシャロンさんが教えてくれた。


 心臓に負担があるのは、今まで欠損していた手の分の血液が、急に血液循環系に導入されるからだという。神経伝達パルスも同様で、急に神経がつながったからだ。


 どちらも特に深刻なものではなく、例え足一本まるまる欠損治療しても問題はないとのこと。さすがに四肢全部を一度にとなると問題になりそうなので、その場合は少しずつ治療を行うことを確認し合った。


「マーリンさん、残りは4人だけど、続けて治療はできそう?」


「ええ、問題ありません。次の患者さんにいきましょう」


「そう、わかったわ。何かあったら言ってね。二人目を入れて頂戴」


「はっ」


 そうして、予定していた5人の治療を終えた。治療にかかるMP消費なんて俺からすれば誤差みたいなもので、実質消耗ゼロだ。


「マーリン様、お疲れ様です」


 魔力検知器での記録も終えて、シャロンさんとマリーさんが揃って俺のところへやってきた。


 なにその十字を切る仕草は? ディバインシールドの模様? ああ十字っぽいもんね。マーリン教のシンボル? ああそうね、うん、いいんじゃないかな。


 俺がマリーさんたちのマーリン教を否定しきれないのは、これはこれで魔法の効果を上げるために有効だからだ。


 俺への信仰が神言への信頼になり、魔法への信頼にもつながる。つまりイメージがはっきりするのだ。


 普通はわずかながらに疑念が生じる。治るかな?火は出るかな?盾は出るかな?、そんな疑念だ。その疑念は魔法の効果へと影響する。その疑念を繰り返し魔法を使うことで払拭していくわけだ。


 しかし、俺への信仰で疑念をぶっ飛ばしているマリーさんの回復魔法は、MFOの時の同レベルのヒーラーよりも格段に効果が高い。多分シャロンさんも同じ感じなんだろう。


 変な教義にならないようにだけ注意してコントロールできたら、魔法研究所にもプラスになるだろう。コントロールできるよね?


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[一言] 制御なんでできない方に、一億ジンバブエドルを賭けましょう。
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