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第四十八話 ハンネローレはお化けが怖い

 俺が一肌、もとい、一服脱いだ翌日。


 無事タティアナさんとイヴァンカさんが魔法を習得した。選んだ魔法は、タティアナさんがカエデと同じ変幻魔法、イヴァンカさんはグウェンと同じ強化魔法だ。


 魔法の習得がうまくいったのは喜ばしいが、毎回脱がされる様になるのは勘弁してもらいたい。早急に、服を脱ぐ以外の方法を考えなくてはな。


 そこで役立ちそうなのが――というと失礼か――1人だけ魔法習得ができなかったハンネローレさんだ。彼女は、お化けの大ボスだと思っている俺のことを怖くて直視できていなかった。それが魔法を習得できなかった理由かは定かではないが、別の方法を試す良いきっかけになる。


「私に良い考えがあります」


 そう言って自信をみなぎらせているのは、意外なことにマリーさんだ。


 普段はリリーナ様のそばに仕え、あまり自己主張をするタイプではないが、意気をみなぎらせている。


「まだ1日目だし、色々試してみてもいいわね。それじゃあハンネローレのことはマリーにまかせるわ。イヴァンカとタティアナは、それぞれ同じ魔法を覚えた人に基本的な魔法の使い方を教わって頂戴」


「わかりました。私はカエデに教わるとします」


「私はリリーナ様の護衛騎士の方ですね。よろしくお願いします」


 魔法を覚えた2人は早速魔法を使ってみている。神言ひとつでは工夫も何もないが、初めての魔法に楽しそうだ。ストッパーにはセレナさんがついているので、MP切れになることもない。


 一方、ハンネローレさんはマリーさんに連れられて部屋を出て行った。マリーさんの『癒し』を受けまくっていたからか、マリーさんに対しては従順だ。良い考えとやらがうまくいくといいな。


 そうして1時間ほどが経過して、新人の魔法使用にストップがかかった頃、マリーさんとハンネローレさんが戻ってきた。


「申し訳ありません。どうやら逆効果だったようです」


 肩を落として入室してきたマリーさんの後ろには、従順だったのが嘘のように怯えているハンネローレさん。怯えすぎて、小鹿のようにプルプルしている。


「一体どうしたんですか? ハンネローレさんも怯えているようですし」


「マーリン様の真のお姿についてお話しただけなのですが、このように怯えてしまって……。私もこのような結果になるとは思ってもみませんでした。以前はこれで信者を増やせたのですが。困りましたね」


 信者って言った!


「わ、私は、お化け教になんて入らないぞ! 近衛騎士団は、お、お化けになんて屈しない!」


「ますます頑なになったわね。これで魔法の習得なんてできるのかしら?」


「これまでの例を考えると、難しいでしょうね」


「マーリン様の偉大さを伝えきれず、本当に申し訳ありません」


 謝る観点が違うが、人の反応を完全に予測することなんて無理だ。ハンネローレさんがこうなってしまったのも仕様がない。


「マリーは気にし過ぎないでいいわ。ハンネローレのことは気長に対応していきましょう」


「私も何か考えてみますね」


「宣教の仕方を改めなくては」



 ◇    ◇    ◇



 私の名前は、ハンネローレ・クルーガー。栄えある帝国近衛騎士団の団員だ。ただしこれには"元"が付くのだが。


 私は今、皇帝陛下直々の命令によって、魔法研究所なる怪しい研究所へと潜入している。いや、実際の命令は他2名と一緒に極秘の研究所へと転属するというものなんだが……、このような怪しげな研究所へと配属されるということは、潜入して調査をしろという隠れた命令に違いない。


 一緒に転属となったのは、天才と名高いタティアナ女史と、なんだかパッとしないイヴァンカとかいう侍女だった。侍女がメンバーに入っているのは、きっと警戒心を下げるだめだろう。天才と私が揃っている時点で相当警戒されているはずだからな。


 初めの挨拶は完璧にこなせた。極秘の研究所というのが、あのサイオンジ家が組織しているというのに内心かなり驚いたのは内緒だ。


 サイオンジ家といえば、クレイトス帝国建国の折からアレキサンダー王家に仕える最古の公爵家だ。その忠誠に王家も答え、居住可能惑星であるカミヤをサイオンジ家に任せている。


 まだ若干16歳のリリーナ様も、さすがサイオンジ家の一員だ。私やタティアナ女史を目の前にしても、なんら臆することなく自然体でいる。


 リリーナ様の隣に立っているのが、マーリンとかいう男。珍しい黒髪と、若い見た目とは裏腹な落ち着きを感じさせる黒い瞳が特徴的だ。背丈は私と同じくらいで、程よく引き締まった肉体をスーツが包んでいる。


 そのマーリンという男の口から、怪しげな言葉が飛び出した。


 "魔法研究所"


 魔法とは、いわゆる比喩的な表現で使われる。魔法のような技術や、あなたの手は魔法のようで、とか。要は何か不思議な力が働いているということを表現しているわけだ。


 まったくバカバカしい。


 完全に非科学的だ。


 お化けが存在しないように、魔法もまた存在しない。だからマーリンという男が唱えている意味不明な呪文もただの出まかせのはずだ。そう思っていたのに――、


 こ、ここはどこだ!? インプラントが伝えてくる位置情報がエラーを起こしている! これは近衛騎士団だけに許された特別製で帝国内のほぼすべての場所で機能するはず……。


 まさか、神隠し!?


「今体験してもらった事象を引き起こしたのが"魔法"よ。あなたたちは、魔法を研究する、"魔法研究所"へと所属することになるわ」


 今、リリーナ様の口からも魔法という言葉が聞こえた気がした。いや、そんなことはありえない。魔法なんてないんだ。


 魔法があるとしたら、お化けも存在するということになってしまう! そんなことは非科学的だ!


「席についてちょうだい」


 せ、席だな。全体を見渡しやすいこっちの席にしよう。決して出口が近いとかそういう理由ではない。椅子に座って、冷静になろう。


 テレポート。マーリンはそう言っていた。帝国でテレポート、つまり瞬間移動が実用化されたという話は聞いたことが無い。もし実現すれば様々な面で役立つことは間違いないだろう。


 わかったぞ。魔法というのは私を驚かせるためのブラフで、本当はテレポート実用化の研究所だったのか! くそ、まんまと騙されてしまった。いや、自力で気付けたのは私だったからだ。良くやったぞ私!


 おっと。どうやら自己紹介の番が回ってきたようだ。あまり2人の自己紹介を聞いていなかったが、問題はないだろう。


「わ、私は近衛騎士団から異動となった。ハンネローレ・クルーガーだ。ま、魔法という面妖な術とて、お、恐れはしない。お、お化けなんて、怖くないぞ!」


 よ、よし。少し声に震えが残っていたような気がしないでもないが、お化けを怖がって震えていたわけではないと、しっかり主張できた。


「ねえねえ、ハンネローレ君」


 ん? 誰だ、この子供は?


「私の顔が――、なくなっちゃった!」


「ひぃ! 顔なしお化けぇ!」


 お化けだ! お化けがいる! やっぱり魔法は本当だったんだ! 近衛騎士団のインプラントが異常を起こしたのも、お化けの仕業なんだ!


「気になるわ」


「ひぃ! 声だけお化けぇ!」


 隣から女性の声がする! ここはお化けの巣窟なのか!


「『癒し』!」


「ほへぇ……」


 はっ! いけない、お化けの巣窟で気を抜きすぎた。リリーナ様がお化けの紹介をしている。子供はカエデといって副所長なのか。お化けだし、見た目通りの年齢というわけではないんだな。そしてマーリンというのはここで顧問をやっていると。


「魔法という技術はマーリンによってもたらされたの」


「ひぇ、お化けの大ボス……。ふわぁ」


 癒されるぅ。この女性はもしかして、お化けの中に潜入した天使なのか? だからこうして私を助けてくれているんだな。


 この困難な状況でも、きっと任務を果たして見せる!


「マーリン君の服を脱がせるんだよ!」


「ひぇっ、大声、ふへぇ……」


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