第四十六話 お茶会終了と新たな人材
女子会は大変盛り上がったらしい。
らしい、というのは、俺がその場にいなかったからだ。グウェンが女子会の開催を宣言したと同時に、テレポートでサイオンジ邸へと撤退していたのだ。女子会が終わったら教えてね、とアイちゃんにお願いしておいたので、終了と同時に俺に連絡が来た。
「マナちゃん、楽しかった?」
「うん! いっぱいデータコアをもらったの!」
「そうなんだね。よかったね。グウェン、ありがとうございます」
「私も久しぶりに楽しい時間をすごせた」
ほくほく顔のマナちゃんと同じような顔をグウェンもしている。
「それじゃあマナちゃんはママと一緒に先に帰っていてね。パパもすぐに帰るからね」
「ありがとうございます、パパ。マナちゃん、グウェンお姉ちゃんにさよならしましょうね」
「グウェンお姉ちゃんまたね! んー!」
「うむうむ。またいつでも来て良いからな」
「ありがとうございます。陛下」
グウェンとさよならの頬っぺたキスを済ませたマナちゃんとセレナさんをサイオンジ邸へとテレポートさせ、代わりにアクリティオ様をこちらへとテレポートさせた。
クルちゃんに癒してもらったからか、随分顔色が良くなっている。
「陛下、本日はお招きいただきありがとうございました」
「うむ。帰る前に一つだけ頼みたいことがある」
「なんでしょうか」
「サイオンジ家で組織しておる魔法研究所だが、そこに3人ほど私からの人員を受け入れてくれぬか」
皇帝陛下からの頼み事だ。実質これは決定事項ではあるのだが、新たな人員の受け入れか。
俺はこの増員に賛成だな。魔法を扱う秘匿性の高い研究所であるので、人員に求められるのはその秘密を厳守できる人格だ。幸いにも初期のメンバーは問題がなかった。
ただ、ほとんどがリリーナ様の護衛であることで、研究所としての動きがどうしても遅くなってしまう。自由に動けるのは、俺とセレナさん、カエデとエミリさんくらいだ。あ、エミリさんは無事正式にカエデ専属となった。
そこでグウェンからの人材だ。皇帝が送り込む人材であるから、当然それなり以上の能力を有しいるだろう。それが3人も。これは魔法研究がはかどるぞ。
「研究所はリリーナに任せておりますので。リリーナどうする?」
「陛下のご依頼お受けいたしますわ」
「そうか。後日そちらに当人をやろう。そうだな、3日後で良いか?」
「問題ありませんわ。受け入れ準備を整えておきます」
「うむ。私からの人員であるが、そちらの自由に使ってもらってかまわない」
「承知しました」
そういうわけで、新たな人員を得てお茶会は終了した。いきなりギデオンの正体がバレたときにはどうなることかと思ったが、最終的には良い結果になったな。
一足お先にテレポートで帰宅して、マナちゃんと一緒にデータコアの整理をしていると、しおしおになったリリーナ様が帰ってきた。一体何があったんだ?
「ロップを、ロップをここに寄越してちょうだい」
ゴー! ロップ、ゴー!
「ふぁふわひゅわむわぁ」
抱き上げたロップに顔をうずめ、何事か呻いている。こんなリリーナ様は初めて見るぞ。本当にこの短い間に何があったんだ?
「リリーナお姉ちゃんどうしたの?」
「なんでもないのよ、マナちゃん。ちょっとお姉ちゃん緊張しすぎて疲れちゃったみたい」
緊張? 緊張するようなことがあっただろうか。俺が知る限りそんなことはなかったので、もしかすると女子会の最中に何かあったのかもしれない。そうなると俺では解決できないな。女子会は男子禁制なので。
「心当たりが無いって顔をしているわね、マーリン。はあ、あなたたち精霊は陛下に会っても緊張なんてしないのね」
グウェン? つまりなんだ、グウェンとのお茶会で緊張しまくってお疲れモードというわけか。あと俺を精霊のくくりに入れないで。精霊に近いだけで人間だと思うので。……人間だよね、神様?
「グウェンお姉ちゃん優しいよ?」
「そうね。陛下はとてもお優しいわ。でもとっても憧れている人だから、お姉ちゃんが勝手に緊張しちゃうのよ」
なるほどな。その気持ちは少しわかる。最推しに会えて緊張するみたいなことだろ?
「ありがとう、ロップ。落ち着いたわ」
解放されたロップがぷいぷいと鳴く仕草をして、いいってことよ、と言っている。今はロップと呼んでいるが、初代アリスとしてリリーナ様を癒してきたロップだ。面構えが違う。
試行回数的に、そろそろリリーナ様がアリスを召喚する日も近いだろう。そうすると、ロップはマナちゃん専属ということになるかな。最近は、アイちゃんが自由行動――あとで聞いたらグウェンの所に良くいるらしい――、クルちゃんはアクリティオ様と、そしてフィーネは自由気ままにいることが多い。俺と行動を共にしてくれる新しい子を召喚しようかな。
◇ ◇ ◇
グウェンとのお茶会というイベントを乗り切って、3日。グウェンから派遣される新しい人員との顔合わせは思いのほか早くやってきた。気が抜けていただけとも言う。
ちなみに、一番気が抜けていたのはリリーナ様だ。推しのグウェンと会えて、両親も家にいるということで安心しちゃったんだな。
ああ。さすがにアクリティオ様もまだ残っている。グウェンから預かる人材と顔を合わせていないのはまずいらしい。
そして、フィオナ夫人も同じく残っている。俺のおかげでターブラに避難している必要もなくなったので、アクリティオ様と一緒にカミヤワンへと戻る予定だ。離れていた時間を埋めるように、2人でイチャイチャしている。これはリリーナ様の妹が産まれるはずだ。
さて、話を追加される人員に戻そう。
「本日付でサイオンジ家へと異動となりました。こちらは陛下からの書状です。お確かめください」
「ありがとう。確認させてもらうわね」
今、3人を代表して挨拶をしているのが、近衛騎士団から異動となったハンネローレ・クルーガーだ。
騎士団所属とあって、背筋がピンと伸びていて立ち姿がきれいだ。服装は黒のパンツスーツであるが、所々に深緋の差し色が入っていて地味に感じはない。イメージとしてはシークレットサービスとかが近いか?
本人の容姿はというと、体格はセレナさんに近い。髪は茶に近い金髪をショートにし、左側だけを後ろに流して耳が出ている。顔立ちは意外と言ってはなんだが、穏やかそうで威圧感の少ない感じだ。あえてそうしているのかもしれない。茶色の瞳は油断なく周囲を見渡している。
「確認したわ。3人とも、自分たちがどこに所属することになるか聞いていないのね?」
「はい。陛下からは、帝国の未来を左右する重要な組織だと聞いています。実際に見るまでは、陛下の言葉でも心から信じることはできないだろうから、自分の目で確かめるように、と」
うーん。これはグウェンのやつ、あえて説明を省いたな。信じることはできなくても、心構えをさせることには役に立つはずだ。面倒くさがったのか、面白がったのか。後者な気がするのはなんでだろうな。
「そう。それじゃあ、まずは体験してもらいましょうか。マーリン、皆で研究所へと移動しましょう。一瞬でね」
なるほど。これ以上ないほどの実演になるな。リリーナ様もなかなか粋なことを考える。よーし、やっちゃうぞ。
「わかりました。まずは自己紹介をしますね。あなたたちが所属することになる研究所の顧問をしているマーリンと申します。今から"魔法研究所"へと移動します。一瞬ですので、しっかりと目を開いて、体感してくださいね」
折角だからちゃんと詠唱もしよう。いざ魔法が現実になったら、いちいち詠唱するのが少し面倒になったんだよな。ただ、初めての魔法体験に詠唱が無いなんて、醬油の無い寿司みたいなもんだ。
「『時空よ』! 『歪み捻じれ異なる地を繋げよ』! テレポート!」
一瞬で視界が切り替わる。先ほどまでいた応接間から、武骨な魔法研究所の一室へ俺たちは移動した。
室内には研究所の皆が待っていた。俺がセレナさんに連絡して、集まってもらったのだ。その方がインパクトがあるだろ?
「今体験してもらった事象を引き起こしたのが"魔法"よ。あなたたちは、魔法を研究する、"魔法研究所"へと所属することになるわ」




