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第四十一話 お母様への挨拶イベント

「明日、お母様がやって来るわ」


 お昼を少し回った頃、魔法研究所へやってきたリリーナ様が開口一番に言い放った。


 あ、違った。開口一番に言い放ったのは、「マナちゃんのヘアピン可愛いわね。私の分はないの?」だった。


 その後、ウサギのヘアピンを装備したリリーナ様の開口二番が冒頭の発言だ。


「アクリティオ様づてにやり取りしていたので、直接会うのは初めてですね」


「お母様はターブラにいたし、魔法関連のやり取りは最小限にしていたものね。今回来るのは、お父様の件で直接お礼を言いたいそうよ」


 お礼の言葉はもう貰っているが、俺がターブラへ来たことで直接会ってみようと、そういう感じだろうか。公爵夫人となれば忙しいだろうに、俺がターブラへ来てから1週間ほどで予定を空けて会いに来るのはフットワークが軽いな。それとも魔法への興味かな?


「わかりました。ところで、今は子供のマーティンの姿でいますが、お会いするときにはマーリンに戻った方がいいですか?」


「そうね……。折角だから、目の前でマーリンになったら面白いと思わない?」


「あまり驚かせるのはどうかと思いますが」


「大丈夫よ。驚くよりもきっと喜ぶ方が強いから」


「やはりやめておきます。やり取りはあったとはいえ、初対面ですから」


「そう。きっと面白かったのに」


 にやりと笑うリリーナ様の期待に応えられなくて悪いが、お世話になっている家の奥さんに不用意なことはしたくない。為人が分からないので、最初くらいは大人しくしていよう。



 そういうわけで翌日。


 朝食を食べた後、公爵夫人に会うべく久しぶりのマーリンの姿に、久しぶりのスーツ姿だ。


「パパのスーツ、かっこいいー!」


 よし、今日はスーツ記念日だ! 


 マナちゃんも一緒に夫人と会うことになったので、昨日よりも少し豪華なドレスに着替えている。髪も編み込んであって、そうしているとセレナさんとそっくりだ。そしてワンポイントのウサギさんも健在。


「マナちゃんも可愛いね。髪はママにしてもらったの?」


「うん! ママとおそろいなの!」


 セレナさんも、今日はマナちゃんのママとして俺と一緒にいる。こちらははっきりといつもの服装とは違っていて、なんか華やかな感じだ。布が違うのか?


「こちらは準備ができました。あ、パパ、ネクタイが少し緩んでいますよ。公爵夫人と会うのですからきっちりしないと」


「ああ、ありがとうございます。少し気が緩んでいたのかもしれません」


 ひとにネクタイを締めてもらうというのはなんだか気恥ずかしいな。大勢での着替えの手伝いは気後れして断っていたが、こういう落ち着いた感じなら大歓迎だ。


「あ! 『アブナイ女教師』で見たことあるやつだ。このあとは、いってらっしゃいのキスをするんでしょ。あたし知ってるよ」


 おっと。落ち着いた感じが、マナちゃんの一刺しによって一気に激しい感じになってしまった。なるほど不倫だなんだと話題になっていたから、いってらっしゃいのキスが描かれていてもおかしくはないな。


「もちろんするわよ」


 なんだって? ちょっとセレナさん。マナちゃんの期待に応えたいという気持ちはわかるが、いくらなんでもキスをするのはまずいでしょう。


「お化粧を崩さないように、ほっぺたを合わせるのよ。こうやって、ね」


 セレナさんの顔が近付いて、ちょんと1回頬を触れ合わせてから離れていった。なるほどそういうことね。


「誰とでもするものじゃないのよ。好きな人、親しい人だけよ」


「おー。あたしも、あたしもしたい!」


「もちろんいいわ。ママとパパとしてみようね」


「うん! んー! えへへ、ちゃんとできた?」


「上手よ。次はパパとね」


「パパ、しゃがんでしゃがんで! んー! えへへ」


「ありがとうマナちゃん。これでパパは今日一日頑張れそうだよ」


「フィーネお姉ちゃんにもしてくるー!」


「マナちゃん、走らないの」


「はーい!」


 よほど気に入ったのか、かろうじて走っていない速度で元気よく部屋を出ていった。


「まったくもう。ふぅ、私たちも行きましょうか」


「そうですね」


 夫人と会う場所は、魔法のこともあるので魔法研究所になった。セキュリティの面から、魔法研究所が便利すぎるんだよな。ただ、客を迎える作りにはまったくなっていないので、昨日は総出で準備に追われた。


 そこで活躍したのがフィーネだ。家具の移動や細かい部分の掃除を魔法でちゃちゃっと熟し、皆の羨望を一身に集めて悦に入っていた。便利な家電扱いだが、それでいいのか大精霊?


 そんな急ごしらえな魔法研究所へと入った俺たちを迎えたのは、何かを囲む人の壁と、わーきゃーという歓声だった。


「いったいどうしたんです?」


「何を囲んでいるんでしょうか?」


 近付いた俺たちの目に入ってきたのは、中心に立ったマナちゃんと順番にチークキスをしている皆の姿だった。


 盛り上がるのもわかるよ。マナちゃんはとっても可愛いからね。


 だけど順番待ちをしている人の中に、見慣れない人がいるのはどうしてかな? リリーナ様と似た顔立ちをしていて、歳を重ねたらこうなるんだろうなぁという大人の女性がいるのはどうしてかな?


「あ、マーリン、来たのね。こっちが私のお母様よ。お母様、こっちがマーリンでマナちゃんのパパよ」


「あら。もういらっしゃったのね。私がリリーの母でティオの妻のフィオナよ。よろしくね。でももうちょっと待ってね。もうちょっとで私の番だから」


 こちらへ向き直って短い挨拶をした後、夫人は再度マナちゃんとのチークキスの列へと戻っていった。


 なにこれ?


「ちょっとリリーナ様、夫人がもういらっしゃっていますが、どういうことですか?」


「サプライズのつもりで早目に来たみたいよ。そうしたらマナちゃんを見つけてこうなったの」


 なるほど、マナちゃんはとっても可愛いからね――、


「いえ、ちっともわかりませんが」


「ほら、私は昔から綺麗だったでしょう。だからお母様は可愛い系のマナちゃんに夢中というわけよ」


 ちょうど夫人の番になったチークキスの列から、一際大きな歓声が上がったのでリリーナ様が言っていることは真実なんだろう。



 ◇    ◇    ◇



「改めてリリーナの母のフィオナよ。よろしくね」


「よろしくお願いします。魔法研究所の顧問を任せられているマーリンと申します。それと、フィオナ夫人の隣に座っているマナの父でもあります」


「娘のマナです。よろしくお願いします!」


「元気に挨拶できて偉いわね~」


「えへへへ」


 どうしてマナちゃんはフィオナ夫人の隣に座っているんだろうか? 考えてもわからないことは考えないようにしよう。


 親として一日の長があるフィオナ夫人に、マナちゃんはすぐに懐いた。柔らかい雰囲気で包み込むような母性のなせる業だ。見習わなくてはな。


「子供はいいわね~。あ、そうだ。リリーナ、あなたにも妹ができるわよ。産まれたらしっかり可愛がってあげてね」


「え?」


「妹?」


「そうよ~、マナちゃん。ここにね、新しい妹がいるのよ」


「赤ちゃん! 赤ちゃんがいるの? わー!」


「まだ小さいけれど、ちゃあんと生きているのよ。触ってみる?」


「いいの?」


「いいわよ。優しく、優~しくね」


「うん。やさーしく、やさーしく。わぁ、新しい命だ」


「ちょっと待ってお母様……、初耳なんだけど」


 おお、リリーナ様が頭を抱える様子がアクリティオ様にそっくりだ。やっぱり親子なんだな。そしてフィオナ夫人が妊娠しているとはめでたい。


「そうね。ティオが体調を崩したタイミングがタイミングだったから、隠していたのよ。それをマーリンさんが解決してくれたから、隠す必要もなくなったというわけね。だからマーリンさんにはとても感謝しているのよ」


「そうだったんですね。お役に立てて良かったです」


「これでようやくティオの所に戻れるわ。まあその前に皇帝陛下とのお茶会があるから、ティオがこっちに来るんだけどね。あ、リリーナも出席よ」


「待って。ちょっと待って……」


「急に決まったのよね。一体何なのかしらね?」


 おお、リリーナ様が一層頭を抱えたぞ。これは最近グウェンのことを伝えたときのアクリティオ様にそっくりだ。


「グウェンとのお茶会ですか。どんなことを話すんでしょうか」


「あら。マーリンさんは皇帝陛下とお知り合いなの?」


「ええ。成り行きで魔法を指導することになりまして。数日に一度、指導をしに部屋にお邪魔しています」


「まあ、そうなのね」


「ちょっと待って、そっちも初耳なんだけど!」


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