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第四十話 マナちゃんの力

 朝食後にフィーネと合流した。


「あの羽は危険ですわ。きっと睡眠の魔法がかかっていますわ」


 と言って、俺たちがフィーネを放置していったことについては気になっていないようだ。助かった。


「そんな魔法はかかっていませんよ。前にフィーネが出した羽と同じく、ただの羽です」


「そんなわけありませんわ。私の感知をすり抜けて影響を与えるなんて、マー君はいじわるですわね」


「本当にただの羽なんですが」


 精霊にだけ何らかの効果がある可能性は、マナちゃんに効果の無い時点で除外される。ということは、単にフィーネが寝坊助というだけだ。


 4人揃った俺たちはそのまま研究所へと移動した。午前中はたいていカエデの魔力検知の研究に付き合っていたが、今日はマナちゃんに何ができるかの確認をする。もちろんカエデも一緒だ。


「マナちゃんの力はすごいよ!」


「おはようございます、カエデ様。まずは挨拶をしましょう」


「カエデちゃんおはようー」


「マナちゃんはちゃんとできてえらいわ」


 研究所で待ち構えていたカエデが早々に突撃してきた。手には、昨日マナちゃんが「えいっ」とした端末を持っている。


「おはよう! マナちゃんの力がすごいんだよ!」


「それよりも、カエデ様に謝らなくてはならないことがあります。マナちゃん、ママも一緒に謝るから、頑張ってみて?」


「うん。カエデちゃん、端末の中の『アブナイ女教師2 ライバルは子供先生!?編』を勝手に見ちゃってごめんなさい!」


「え?」


「申し訳ありませんでした。マナちゃんが好奇心からカエデ様の端末にアクセスし、『アブナイ女教師2 ライバルは子供先生!?編』を盗み見てしまったのです」


「え゛!?」


「ですから、カエデ様の端末にあった『アブナイ女教師2 ライバルは子供先生!?編』を――」


「やめて! 繰り返さないで! あれはたまたま子供先生がどんなのか気になったから買っただけで、そういう目的じゃないから!」


「ママ、そういう目的って何?」


「あとで教えてあげるから、今はカエデちゃんに許してもらえるか聞いてみようね」


「うん、わかった。カエデちゃん、ごめんなさい。許してくれる?」


「もちろん許すよ!」


「ありがとうカエデちゃん!」


「カエデ様、ありがとうございます」


 よかった、無事カエデは許してくれた。もし許してもらえない場合は、俺が魔法の力で交渉――友愛魔法じゃないよ――するつもりだったのだがそんな必要なかったな。


「それよりも! 私の端末にアクセスできたってことは、仮説がより確かになったよ!」


「どういうことです?」


「つまりね、マナちゃんの力は、ソフトウェアに干渉して好きなように変更できる力なんじゃないかな。私の端末はハード的には皆のと同じだけど、セキュリティソフトは自前で用意してあるんだよ。真正面から突破するのは時間がかかるはず。それでもアクセスできているなら、ソフトに干渉しているとしか考えられないよ。メモリも同じセキュリティをかけてあるし」


 つまり、どういうことだってばよ?


「どうかなマナちゃん!」


「んー、カエデちゃんが何言ってるかわかんないけど、端末に『中を見せて』ってお願いしたら、見せてくれたよ?」


 こっちはわかりやすい。うんうん、お願いしたら見せてくれたんだね。


「唐突な擬人化! この端末にそんな性能はないはずだし、魔力の反応も微弱で知能を付与するレベルじゃないはず。つまり子供特有の擬人化! マナちゃん、もう一度この端末に"お願い"してもらってもいいかな? あとあと、ログを残すようにも"お願い"してくれないかな?」


「ログ?」


「お話の内容を覚えておいてね、ってお願いすればいいのよ」


「ママ、わかった。じゃあお願いしてみるね、カエデちゃん」


「はい、どうぞ! やっちゃって!」


「中を見せてください。あと、お話の内容を覚えておいてください。ん、カエデちゃん、中を見れたよ」


「ふおおお! ログが! 正規ユーザーで閲覧中! ユーザー名は登録していないはずのマナちゃんになってる! ふおおお!」


「あー、またカエデちゃんが、ふおおおってしてるー」


 カエデは得られたログにかぶりつきで解析に取り掛かっている。俺の方も、マナちゃんが魔法を使う場面をしっかり見たことで、大まかな性質がわかってきた。


 これはあれだ、機械相手の友愛魔法だ。


 親子そろって友愛魔法の使い手かぁ……。まあ親子だし当然だな! こうなるとセレナさんだけ友愛魔法を使えないのは仲間外れ感があるな。セレナさんにも使えるようになってもらうべきか?


「やっぱりソフトだったんだよ!」


 エミリさんに持ち上げられたカエデが、右腕を突き上げて宣言した。うらやましそうにしていたマナちゃんをセレナさんが持ち上げて、マナちゃんも真似っこして腕を突き上げている。かわいい。


「ハードにこだわり過ぎていたんだよ! 私が固定観念にとらわれていたなんて……、くぅ、悔しい!」


 セレナさんの翻訳によると、魔力によるソフトウェアへの干渉が魔法陣としての役割をし、機械と魔力との相互作用を可能にするとのこと。つまり、魔力を電気信号に変換できる。


 カエデが苦心していた魔力検知の研究が一気に進んだな。とはいえ、問題がないわけじゃない。


 現状、魔力によるソフトウェアの書き換えをできるのがマナちゃんだけしかいない。俺もカエデも無理だ。だが、両者では理由が違っていて、俺は機械の知識不足で、カエデは魔法の熟練度不足。……勉強するか。


 ちなみにマナちゃんにも機械の知識はないが、そこは感覚的な精霊パワーでなんとかなっている。精霊ってスゲー!


「マナちゃんの力はすごいね。カエデの悩みを解決しちゃったよ」


「そうなの? あたしの力が役に立った? えへへへ」


「きっとマー君の意識が影響したんですわ。精霊の力は世界の共通認識によって決まりますもの」


「そうなんですか?」


「そうですわ。マナちゃんは生まれたばかりの機械の精霊、影響を与えられるとしたら、召喚者のマー君だけですわ」


 精霊の力ってそうやって決まるのか。知らなかった。


 今は俺の認識が大きな影響を与えているが、セレナさんがママになって姿が変わったように、今後は魔法研究所の皆の認識がマナちゃんの力に影響を与えるかもしれないな。


「大精霊は違いますわよ? 私たちは自分で個を定義できていますわ。むしろ、それができる者を大精霊と呼ぶのですわ」


「わー、フィーネお姉ちゃんかっこいいー! あたしも大精霊になる!」


「あら、大精霊への道は厳しくてよ?」


 時間が経って経験を積めば、マナちゃんも大精霊に至れるのだろうか。これからどう成長していくのか楽しみだ。


「マナちゃん大きくなった時に困らないように、たくさんお勉強しようね」


「うん!」


「パパも一緒にどうですか?」


「パパと一緒にお勉強する!」


 ……勉強するか。



「えいっ! これにも入れたよ!」


 机に向かって勉強しているだけでは疲れてしまうだろうからと、座学と実技を交互にやっていて、今は魔法の実践の番だ。どの程度のセキュリティを突破できるかマナちゃんに試してもらっている。


「うーん。これは魔法研究所用に用意された、サイオンジ家でも最高ランクのセキュリティなんだけどねー」


 わかったことは、魔法防御力の無いセキュリティでは、マナちゃんの友愛魔法(対機械ver.)を防げないということ。俺が人に対して友愛魔法を使う際と同じだ。


 対処方法も同じで、機械に魔法防御力を持たせてやればいい。あるいは、シールド魔法で友愛魔法そのものを妨害するか。


「どんなセキュリティも無駄となると、ちょっと大変なことになりそうだねー」


「影響する範囲を考えれば、マーリン様よりもよほど危険です。マナちゃんの身の安全のためにもセキュリティを強化しなければいけません」


「そうですね。まずはマナちゃんの装備を整えなくては。幸い材料は取り寄せることが可能になっています。最高級の防具にアクセサリーを作りましょう」


「よろしくお願いしますね、パパ。性能も大切ですが、可愛いデザインにしましょう」


「最強の防具に最強の可愛さですか。マナちゃんも合わさって最強ですね、ママ」


「あたしの装備? やったー!」


「うーん、この夫婦に守られていて、危険なんてあるの?」


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