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第三十八話 修羅場

 マナちゃんを俺たちで育てることが決まったところで夕食の時間だ。アンドロイドなのに食事ができるのかということなら、フィーネと同じように問題なくできる。アンドロイドといっても精霊だしな。


 ちなみに、俺が召喚している子たちだと、アイちゃんとクルちゃんも精霊なので食事ができる。アイちゃんは体の下の方にちっちゃい口がついているのだ。かわいい。ロップは小妖精なので、この中だと唯一食事ができない。


 閑話休題。


 初めての食事に大興奮のマナちゃんにお姉さん風を吹かせたフィーネが、あれもこれもと食べさせていた。しかしこれに待ったをかけたのがセレナママである。


「フィーネ。そんなに味の濃いものばかり食べさせては健康に悪いです。野菜もしっかり食べさせなくては」


「別にいいではありませんの。精霊にとって食事は娯楽のようなものですわ」


「ダメです。好き嫌いなく、何でも美味しく食べられる方が良いに決まっています」


 姪になんでも与えたい叔母 VS しっかり教育したいママの構図だ。そういう俺も、できれば好き嫌いなく色々と食べて欲しいと考えている。


「パパ、真っ赤なトマトさんおいしーね!」


「そうだね。こっちのソースがついたブロッコリーさんも食べてみようか。あーん」


「あーん、むぐ、むぐ、むぐ。ごくんっ。おいしー!」


 肝心のマナちゃんは好き嫌いないようで、トマトもブロッコリーも美味しそうにもぐもぐしている。うちの娘が良い子すぎる。むしろフィーネの方が偏食気味で、少々旗色が悪いだろう。


「マナちゃん、こっちのお肉もおいしいですわよ?」


「おいしー!」


「マナちゃん、次はお野菜を食べましょうね。あーん」


「あーん。おいしー!」


 少なくともマナちゃんが偏食になることはなさそうである。


 騒がしくも楽しい食事を終えて、お風呂に入ることになったのだが、ここについては俺はノータッチだ。戦略的撤退とも言う。ついでにこの時間はグウェンへの魔法指導の時間でもあるので、撤退するに十分な名目はある。


「パパが夜におでかけしようとしてるー! あたし知ってるよ、ふりんって言うんだ!」


 なんだって?


「マナちゃん? ふりんって言葉をどこで知ったのか、ママに教えてくれる?」


 内心の激情を見事に抑え込んだセレナさんがマナちゃんに優しく尋ねた。さすがセレナさんだ。俺は衝撃で動けないでいた。


「えっとね。カエデちゃんの持ってた端末のね。『アブナイ女教師2 ライバルは子供先生!?編』にのってた! 夜にパパが出かけるのは、ふりんかすぱいのどっちかだって!」


 機械の精霊らしく、端末内の情報を見るのもお手の物なのか。俺の端末に変なもの入れてなくて良かった。


 ちなみに件の『アブナイ女教師』シリーズだが、一応年齢制限の無いマンガだ。政府のスパイでもある女教師が、知略と美貌を武器にターゲットを丸裸にするというスパイアクションもので、年齢制限ぎりぎりを狙った表現で一部に大変受けている。それでも一応年齢制限は無い。


「そうなのね。教えてくれてありがとう。ところで、カエデちゃんの端末を見たのは、ちゃんと見せてってお願いしてから見たのかな?」


「それは……、えっと」


「お願いせずに見たのね。マナちゃんはそれが悪いことだってちゃんとわかっているでしょう?」


「……ごめんなさい」


「きちんと謝れて偉いわ。でもね、カエデちゃんにもちゃんと謝らなきゃだめよ? ママも一緒に謝ってあげるから、明日一緒に謝りに行きましょう?」


「うん、わかった。ママ、ごめんなさい……」


「いいのよ。カエデちゃんもきっと許してくれるわ。……変なものを端末に入れないように絞めておきましょうか。ふふふっ」


 おおっ……。背筋がぶるっと来たぜ。これからも端末には変なものを入れないでいよう。


「マナちゃん。パパが出かけるのはお仕事なんだ。だから不倫やスパイではないんだよ」


「そうなの?」


「そうだよ。だからママとお風呂に入って待っていてね。もし眠くなったら寝ていても良いからね」


「わかった。あたしちゃんとお留守番する。起きてパパを待ってる」


「無理はしないでね。パパも早く帰ってこれるようにするからね」


「うん。パパ、いってらっしゃい」


 いやもうグウェンの指導とか行かなくてもいいのでは?、という考えが頭に浮かんだが、帝国最高権力者の機嫌を損ねるのも良くない。少し指導の頻度を減らす方向で提案してみるか。



「新しい使徒とな? ほう、使徒とは増えるものなのか。興味深いのう」


「ええ。そういうわけなので、少し指導の頻度を減らせないかと思いまして」


 前にも言ったが、指導といっても何をするわけでもない。実質的にはグウェンとおしゃべりしに来ているようなものだ。あれ、これって……、いやいや不倫じゃないから。


「まあよかろう。次の神言は『力』であったか。新たな神言はお主がおるときに使ってみるとして、『補助』には慣れたものだ」


「このペースで訓練を続ければ、『力』はすぐに覚えられますよ。詳細は覚えてから説明しましょう」


「うむ。次の神言も楽しみだな。『補助』!」


「張り切り過ぎてMP切れにならないようにしてくださいよ」


「ギデオンがおるから良いではないか。『補助』! おお、疲労感がきたな。ほれ、いつものように運んでくれ」


「仕様がないですね」


 着替えを済ませたグウェンを彼女のベッドまで運んで、いつものように羽布団で覆った。


「この羽はいつ触っても極上の手触りだな。私にも生えぬものか」


「人間に羽は生えないでしょう。魔法であればできないことはないですが」


「ほう。そんなこともできるのか。それは興味深いのう」


「また今度教えてあげますから、今日はもう寝てください。ほら、頭も撫でてあげますから」


「子ども扱いか。まあそれも良かろう。眠るまで撫でているのだぞ」


「はいはい」


 寝つきの良いグウェンはこれをやるとすぐに寝てしまう。ほら、だんだんと呼吸が長く深くなって、力が抜けてベットに体が沈み込んでいく……。眠ったな。


「アイちゃん。いつもお願いして悪いですが今日もお願いしますね。ん? 念話でどうしたんですか?」


 珍しくアイちゃんが念話で話しかけてきた。なになに……、もっと警戒心を持って?


「ふふん、私は警戒心が服を着て歩いているようなものですよ? 心配無用です。では、早くマナちゃんのところに帰らなくては。アイちゃんのことも明日になりますが紹介しますね。テレポート!」


 言ってみたいランキングに微妙に入りそうなワードを言うことができた。さて、マナちゃんは寝てしまっているだろうか。それとも起きているだろうか。早く帰って顔がみたい。


――――――

――――

――


「アイちゃん、やはりもう少し強く言うべきではないか?」



 ◇    ◇    ◇



「パパが知らない女の人の魔力つけてる!」


 急いで帰った俺を、こっくりこっくり舟をこぎながらも待っていたマナちゃんが、くわっと目を見開いたかと思ったら、この発言だ。


「やっぱりふりんだったんだ!」


「いやいや、違うからね! セレナさんもそんな目で見ないでください。フィーネ、あなたは私が何をしていたのか知っているでしょう? 不倫ではないと言ってください」


「そうですわね。不倫ではないですわ。おしゃべりして、身を寄せ合って、ベッドに行った。それだけですわね」


 説明に悪意がある! いや状況としては正しいのだが、不随する説明を意図的に省いているから正確ではない。けれど嘘は言っていないので否定もしづらい。


「パパ。マナちゃんの教育に悪いのであちらでお話しましょうか?」


「ちょっと待ってくださいママ、きちんと説明するので聞いてください。マナちゃんにもちゃんとお話しするからちょっと待っててね。パパはリリーナお姉ちゃんのお父さんにお願いしてくるから。テレポート!」


 こうなったら洗いざらい話すしかない。グウェンのことを皆に共有しないと決めたのはアクリティオ様だ。パパとしての尊厳の危機なので、なんとかアクリティオ様から許可を貰おう。


「アクリティオ様、緊急事態です」


「! そんなに慌てて、一体何があったのだ」


「緊急事態なのです。グウェンのことをママとマナちゃんに話す許可をください」


「ママ? マナちゃん? 一体誰のことだ」


「ああ失礼しました。マナちゃんは私とセレナさんの子供です。ママとはセレナさんのことですね。2人に誤解を受けていて、私のパパとしての尊厳が危ういのです。グウェンのことを話す許可をください」


「ちょっと待ってくれないか。マーリン殿とセレナに子供だと? いつの間に、いやそもそもそんな時間はないはず……、これも魔法だというのか」


「そうです。マナちゃんは魔法で生まれた私とセレナさんの子供でとても可愛い良い子で……、いえ、それはいいのです。とにかくグウェンのことを話す許可をください」


「状況が良く飲み込めないが、許可は出そう。そもそも余計な心労をかけないために情報をとめていただけで、秘密にし続けたいわけでも――」


「ありがとうございます。それでは急ぎますので。テレポート!」


――――――

――――

――


「……なんだったのだ。どうしたクルちゃん? いつものやらかし? うーむ、何事もなければ良いが……。胃に回復魔法をかけてもらえないか?」



 ◇    ◇    ◇



「あっ、パパがもどってきた! ママ、パパきたよ!」


「ありがとう、マナちゃん。さて、話を聞きましょうか」


「ええ。許可を貰いましたので、何をしていたのかちゃんと説明します」


 俺は誠心誠意きちんと説明した。


 皇帝グウェンとの出会いは避けられなかったこと、再度の被害を防ぐために魔法を教えることにしたこと、甘えられる人がいなかったグウェンのために少々甘やかしたこと、もちろん俺の立場を確かなものにするためという前提も合わせてだ。


「それってふりんとどうちがうの?」


「ぎりぎり不倫ではありませんね。一緒にベッドに入っていればアウトでした。パパはもうちょっと警戒心を持ってください」


 あれ、おかしいぞ? ちゃんと説明すれば誤解は解けると思っていたのだが、説明前と後であんまり変わんないぞ?


 俺は警戒心が服を着て歩いているような男じゃなかった? そんな馬鹿な。


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