第三十七話 魔法の研究テーマ
いくつかのイレギュラーもありつつ、ターブラでの日常は順調に過ぎている。リリーナ様は召喚ガチャを回し続け、カエデは魔法金属にかぶりつきで、皇帝グウェンに魔法を教えてはいるが順調だ。
唯一対処が中途半端になっていた、グウェンに従属魔法をかけた相手の捜索だが、最近グウェンが自力で解決していた。
従属魔法をかけた本人に自覚がなく、魔法陣の仕込まれたペンダントも宝飾品入れの奥にしまい込まれていたのにどうやって見つけたんだ?
ん? どうしたんだアイちゃん、済まなそうな動きをして? 何? 女子会? 秘密? まあ解決したんなら良しとしよう。
さて、この世界での生活が概ね安定し、グウェンという帝国最高権力者とも知己を得た。もはや俺に怖いものはない。というわけで俺も魔法の研究を始めよう。MFOでも魔法の研究が本業?みたいなものだったしな。
ここで大切なのが、研究テーマ選びだろう。これには1つ考えがある。科学の発達したファンタジー世界へ来たのなら、科学の要素を組み込みたい。したがって――、
"魔法と科学の融合"
これだろ。融合、テンションの上がるワードだ。研究テーマの柱になるものが決まったら、あとは実際に何を研究するか考えよう。
まず破壊魔法。これは科学との融合という点で相性が良くない。強化魔法も同様だ。
カミヤワンでの検証を思い出して欲しいのだが、狙撃用ライフルに強化魔法のひとつであるバフ魔法をかけてみたところ、威力が大幅に上がった。それ自体は興味深い結果だが、融合か?と言われると、うーんちょっと微妙。
次に回復魔法。これはどうあっても人体実験と切り離せないので気軽にやるものじゃない。必要なら仕方ないが、進んでやりたいとは思えないので却下だ。
次は神秘魔法。神秘魔法は色々とやれることが多い反面、テーマとして選ぶと内容が薄くボケてしまいそうだ。折角の科学ファンタジーで1発目の研究なのだから、突き抜けた研究がしたい。ということで却下だ!
残るは召喚魔法と変幻魔法。変幻魔法はカエデとフィーネが色々とやっているので被る。そうすると、テーマとして選ばれるのは召喚魔法になるか。
召喚魔法と科学との融合……、パッと思いつくことはないな。
召喚をする魔法というのは、召喚という動作で完結しているので、そこに科学が介入する余地がない。と思う。
少し方向を変えて、科学ファンタジー的なものを召喚するというのはどうだろうか。魔法ファンタジー的な小妖精や精霊を召喚できるなら、科学ファンタジー的なメカを召喚できても良いんじゃないだろうか? 方向性は良さそうだ。
けれど、1つ重大な問題がある。それは、科学ファンタジー的な神言が無いということだ。『機械』なんてあれば色々と用途がありそうだが、少なくとも俺が覚えている中には無い。
例えば、カエデも習得している『鉄』に『人形』を合わせて召喚しても、鉄でできたゴーレムが召喚されるだけで、内部構造がしっかりしたロボットが召喚されるわけではないんだよな。さっき改めて試してみても、やっぱりダメだった。
外側だけを科学ファンタジーっぽくしたとしても、それは科学との融合とは言えないだろう。中身も伴っていないとダメだ。
やはり新たな神言を習得するしかないか。チュートリアルクエストみたいに、ガッと祈って、パッと習得できれば楽なんだけどな。神様お願いします!ってね。
あっ。
◇ ◇ ◇
「言い訳は終わったかしら?」
ソファに座る俺の前で、仁王立ちしたリリーナ様が言い放った。
「言い訳だなんてそんな。新たな神言の習得法についての検証をですね」
「私がついていながら。ストッパーとしての役目を果たせませんでした」
「いい、別にやるなとは言っていないの。ただ一言伝えてからやって欲しいってお願いしてるのよ。そんなに難しいことかしら?」
「申し訳ありません」
「パパをいじめちゃやっ!」
耳が痛い正論を受け入れていると、マー君状態の俺よりももっと小さい子供が腰に抱き着いてきた。
「マナちゃん。いじめているわけではありませんのよ。パパは約束を守れなかったから怒られているのですわ」
「やくそく?」
「そうですわ。約束はちゃんと守らないとダメですわよ? パパみたいに怒られてしまいますわ」
「うん! わかった!」
「マナちゃんは偉いですわ」
「えへへへ」
はい。マナちゃんです。新たに覚えた神言『機械』を使って俺が召喚しました。黒のおかっぱヘアーが特徴的な6歳くらいの見た目の女の子です。
「マナちゃんマナちゃん! 次はこれ! これに、えいってしてください!」
「またなのカエデちゃん? いいよー、えいっ!」
「ふおおお! 魔力! 機械に魔力が!」
「カエデちゃんっておもしろーい。ふおおお!だって」
はい。マナちゃんです。俺が召喚した、機械の精霊の、アンドロイド少女です。属性が多すぎるだろ!
"俺が召喚した"の部分はいいだろう。文字通り、神言『機械』を組み合わせて召喚した。
"機械の精霊"については、精霊の得意分野みたいなものだ。マナちゃんなら機械だな。本人が幼いこともあってまだ詳しく調べていないが、えいっとやることで機械と魔力を相互作用可能にすることができる。
これの何がすごいかと言うと、機械による魔力の検知が可能になったということで、予想外の方向からカエデの研究に進展がありそうだ。
最後の"アンドロイド少女"とは、マナちゃんの肉体が機械と有機物から成るアンドロイドということ。精霊の肉体は魔力が受肉したもので、その精霊の性質が自然と現れる。マナちゃんはそれがアンドロイドだったというわけだ。機械の精霊としてはぴったりだな。
「お説教は終わりにして、マナちゃんのことを考えましょうか」
「わかりました。送還するのは無しですよね?」
「大丈夫だとは思うけれど、こんなに幼い子を送還するのはちょっとねぇ……」
アイちゃんに教えてもらったんだが、召喚体は召喚されていないとき別の世界――便宜上精霊界と呼ぶことにした――にいるらしい。そこには色々な精霊や妖精たちがいて、基本的にはただ存在しているだけで何をしているでもない。
精霊界にマナちゃんを送還するのは良くないだろうということで、サイオンジ家で保護することが決まった。保護というか、リリーナ様たちが構いたいだけとも言う。
マナちゃんは精霊であるので、時間がきたら自動送還されてしまうので、毎日俺が再召喚する形になる。これで俺が維持している召喚体は、フローティングアイのアイちゃん、カーバンクルのクルちゃん、小妖精のロップ、そしてマナちゃんの4体になった。普通だったらMP消費がきついが、限界突破した今の俺には何の問題もない。
フィーネ? フィーネは大精霊だから自分の力だけで世界に留まれる。なので俺のMPは痛まない。
「専属の侍女を付けたいけれど、魔法がある都合上、簡単に人を増やすわけにはいかないのよね」
「そうですね。現状でもリリーナ様にマリーさん、私とフィーネにセレナさんと、人手不足が否めないですし」
「しばらくはセレナに頑張ってもらうしかないわね」
「セレナさん、私はいいので、マナちゃんをしっかり見てあげてください」
「かしこまりました」
マナちゃんは俺のことをパパと呼んで一緒にいたがるので、お世話をするとなるとセレナさんが適任だろう。俺もフィーネも自分のことは自分でできるしな。
「マナちゃん、よろしくお願いしますね」
「んー? セレナさんがママだったの?」
ママ! その瞬間、部屋の時間が止まった。すべての視線がセレナさんに集中し、誰も身動きできないでいる。
「そうですわ。セレナがママ、マー君がパパ、そして私がお姉ちゃんですわ」
「やったー! ママもできたー! あたしのママだー!」
もう訂正不可能だ。フィーネのテキトーな発言が真実になってしまった。満面の笑みで喜ぶマナちゃんに、ママじゃないよ、と言える人がいるだろうか。いや、いない。
「ママー!」
「はい、ママですよ。落ち着きましょうね」
「はい!」
セレナさんも否定できなかった。
セレナさんに抱き着いて、にこにこしているマナちゃんが嬉しそうで……、ん? なんだかマナちゃんの顔つきが微妙に変わっているような? いや確実に変化している。髪色と瞳の色も変化して、どこかで見たことのあるような……?
「セレナがママに決まって、姿が固まったようですわね」
そうだ。セレナさんだ。セレナさんに似ているんだ。でもそれだけじゃないような。
「パパはマー君ですわね」
そう! 目の形は俺にそっくりで、瞳も黒に近い。全体的な顔立ちはセレナさん似で将来は美人になりそうだ。耳はどっち似だ?
「見た目は完全にマーリンとセレナの子供ね」
「魔力の質は、お姉ちゃんである私に似ていてよ」
「フィーネは張り合ってどうするのよ。まあいいけれど」
「あたしママに似てる? ママに似てるの?」
「ええそうね。マナちゃんはママにそっくりよ」
「えへへへ。ママ、あたしママにそっくりだって! ママうれしい? あたしがママそっくりでうれしい?」
「ええ。マナちゃんが可愛くてうれしいですよ」
「えへ、えへへへ。パパもうれしい?」
「パパも嬉しいですよ」
「やったー! えへへへ」
「お姉ちゃんは? お姉ちゃんには聞いてくれないんですの?」
「んー? お姉ちゃんもうれしい?」
「もちろんお姉ちゃんも嬉しいですわ!」
「きゃあー! えへへへ」
フィーネがマナちゃんに構いだして一気に騒がしくなったな。持前のほわにょんを活かしてマナちゃんをほわほわさせている。きっと精霊同士ということで気が合うんだろう。
「バックアップはするけど、マナちゃんのお世話はマーリンとセレナにお願いすることになるわね」
「ママですから、責任をもって育てます。マーリン様もよろしくお願いしますね」
「わかりました。協力して良い子になるよう育てていきましょう」
魔法の研究テーマを考えていたはずなのに、子育てすることになった。
科学ってスゲー!




