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第三十四話 ターブラでの日常?

(んむっ! エアーコントロール!)


 ターブラでの目覚めは、エアーコントロールの魔法から始まる。


 眼前には暗闇が――いや、ほわにょんが覆っている。それ自体は大変心地よいのだが、如何せん口も鼻もすべて塞がれてしまうので呼吸ができない。万力のように抱きしめられているので逃げることも困難だ。


 朝方には特にほわにょんが襲ってくることが多く、目覚めとエアーコントロールは切り離せない存在となっている。


 え? ショートテレポートで逃げればいい? チョットナニイッテルカワカラナイデスネ。


「フィーネ、起きてください。またマー君をつぶしていますよ」


「ふわぁ……、ふぅ、おはようございますわ」


「ぷはっ。おはようございます、セレナお姉ちゃん、フィーネお姉ちゃん」


 ほわにょんの正体はフィーネだ。いまだに寝室には1つのベッドしかなく、毎日フィーネと一緒に寝ている。段々とそれにも慣れていっているので、セレナさんの策略は着々と進行しているかもしれない。


 言っておくが、まだお風呂には一緒に入っていない。


「本日の予定は、午前にカエデ様と魔力の検知実験、午後はお嬢様と召喚ガチャです。いつも通りですね」


 俺の活動範囲は限られていて、基本的には公爵邸内の魔法研究所にいることがほとんどだ。ここにいれば魔法も科学も両方楽しめる。宇宙船を楽しみたいときはサイオンジ家の宇宙港に行けばいい。


 宇宙港は他家のものもまとまって建てられているので、発着する宇宙船が楽しめる。サイオンジ家が所有し俺が乗ってきた座布団型の通称クッションや、拳銃の銃身部分のような細長い護衛艦――こちらの通称はバレルーー以外にも、色々な形の宇宙船が飛んでいて面白い。


「また召喚ガチャをしますの? リリーナも強情ですわね」


「アリスを召喚できるまでは続けるつもりのようです。魔法の訓練にもなっているので無駄にはならないでしょう。そうですよね、マー君?」


「はい。効率は良くないですが、ちゃんと熟練度は上がりますよ」


 まず、リリーナ様は無事召喚魔法の熟練度が15に上がり、小妖精を召喚するための神言『小妖精』を覚えた。


 意気揚々とアリスーーたれ耳ウサギーーを召喚しようとし、出てきたのが鳥だったときのリリーナ様の顔といったら。ひとしきり戯れた後に送還し、俺に説明を要求してきた。


 その結果が召喚ガチャだ。俺がぽろっとこぼした言葉で、この呼び方が定着してしまった。


 どんな動物になるかはランダム。ウサギが出ても、アリスのようなたれ耳ウサギになるかもランダム。ランダム×ランダムで、すごいランダムだ。リリーナ様は頑張って毎日ガチャを回し続けている。


「リリーナが召喚ガチャをしてくれるおかげで、毎日いろいろな小妖精が見れて楽しいですわ」


「もう何日も続けていますし、そろそろアリスが出るんではないでしょうか?」


 おっとセレナさん。その考えはガチャを回すときに一番やってはいけない考えだぞ。次で出るはず、もうすぐ出るはず、そう言ってみんな散っていく。必要なのは無心。心に波風を立てず、止まった水のようにガチャを回すのだ。



「今回のはちょっと自信があるよ!」


 朝食をとってやってきた研究所でカエデが胸を張っている。うむ。


「前回もそう言っていましたよね? 今回はどんな仕組みなんですか?」


 カエデがずっと取り組んでいるのは、機械での魔力検知だ。魔法使いであれば感覚的に理解できる魔力の存在だが、機械に検知させようとすると途端に難しくなる。


 詳しい原理は理解できなかったが、魔力は4次元空間とは別次元に存在していて、魔法使いを通して4次元空間に干渉してくるらしい。つまり、4次元空間上にある機械では、どうやっても魔力には干渉できない。


 そこをどうにかできないかと色々と試行錯誤しているわけだ。ちなみに、魔石があれば魔法陣を使って比較的簡単に実現できるが、問題はこの世界に魔石がないということ。カエデの研究のポイントは人工的な魔石、あるいは、魔石の機能を持った機械を作ることだ。


「この装置には、全部の部品に私が魔法で加工した材料が使われているの!」


 カエデも変幻魔法の熟練度が15を超えて、新しい神言『鉄』を覚えた。これで鉄素材の簡単な加工が可能になったのだ。


「私の髪やマー君の体液を使おうとしていた時と比べたら、ずいぶんまともな機械になりましたわね」


「科学は何事も挑戦だよ!」


 いきなりガラス皿を手渡されて、ここに体液を頂戴、と言われた時には、びっくりしたものだ。即座にセレナさんストップがかかり、エミリさんにも説得されて中止になった。


「さっそく試してみますか?」


「もちろんだよ! マー君はこっち、フィーネはこっちね。私が魔力を操作するから、エミリ君は記録をしてね」


「わかりました」


「いくよー? はい!」


「「「…………」」」


「動いた? ねえ、動いた?」


「ダメですね」


「ダメですわね」


「残念ながらダメです」


「あーん、今回もダメだったよ!」


 今のところ、成果らしい成果はあまりない。結局のところ、魔力に反応する物質が必要だということはわかってきた。髪の毛や体液、今回の魔法で加工した鉄にしても、物質としては平凡なもので、魔力に反応したりはしない。


「ところで、どうして魔法金属は使いませんの? マー君は持っていますわよね?」


「あるにはありますが、少量しかないんです。保管していたものは、ほとんどあちらの世界に置いてきてしまいました」


「それならこちらの世界に取り寄せればいいだけじゃありませんの。何が問題でして?」


「え? そんなことができるんですか?」


「私がこちらにこれたのですから、マー君の保管していたものだって持ってこれますわよ」


「……たしかに。一理ありますね」


「元々マー君のものですから、持ってきたって誰も文句は言いませんわ」


「ちょっとマー君! 魔法金属や魔石があるって本当なの!? お取り寄せできるの!?」


「わぷっ! カエデ、落ち着いて! すぐには無理です! 取り寄せるための新しい魔法を作らないと無理です!」


「今すぐ作って! 最優先、最優先事項だよー!」


「カエデ様、落ち着いてください」


 カエデ係のエミリさんによって、俺を絞め殺さんとするカエデが回収された。助かった。ほわにょんの持ち主は、俺を窒息させる義務でもあるのか?


「召喚魔法を少し改変すれば、マー君ならすぐに作れますわよ」


「そうなの? じゃあ明日ね! 明日までに作っておくこと! そうしたら魔法金属と魔石で……、ふおおお! 急いで実験計画を作らなきゃ!」


 子供ってさ、次といったら明日、また今度といったら明日、すぐといったら明日、そういうとこあるよね。


 走って部屋を出ていったカエデを見送って、新しい魔法について考える。フィーネが言ったように、難易度は高くないように思える。何も知らない物ならともかく、良く知っている俺が拠点にしていた保管庫の中身をこちらに持ってくるならできそうだ。


「できそうな気がするので、ちょっと試してみましょうか。『世界を』『越えて』、『宝よ』『我が』『手に』! グラスプ マイ トレジャー! あ、できましたね」


 俺の手の中に現れたのは、白銀に輝くインゴットで、MFOでは魔法銀とも呼ばれていたミスリルという魔法金属だ。俺の杖術特化装備にも含まれている機械翼の素材でもある。


「これが魔法金属ですか。銀のように見えますが、たしかに魔力を感じます」


「これで問題のひとつは解決ですわね」


「そうですね。カエデに渡すのは……、明日にしましょう」


「そうしましょう」


 俺はミスリルをインベントリにしまった。



 お昼、ここからは召喚ガチャの時間だ。


「来なさい! 『小妖精』!」


「ウサギ型ですね。ですが耳がピンと立っていて、アリスよりも細身ですね」


 またダメだったよ。


「あなたも可愛いけれど、アリスとは違うわね……」


「何度も言いますけど、私が召喚したアリスとリリーナお姉ちゃんが召喚する予定のアリスは別の存在ですよ」


「それはわかっているわ。私だけのアリスがいいのよ」


 なんとなく言わんとしていることはわかる。ということは、俺が召喚したアリスは、名前を変えた方が良いんじゃなかろうか。アリスという名前は、リリーナ様が付けた名前だしな。


 なんという名前にしようか……。言っておくが、アリスだからリス!なんて名付けはしないからな? そうすると思ってた人、怒らないから正直に言ってみなさい。


 そうだな。垂れ耳、ウサギ、ラビット、ロップイヤー。よし、お前の名前はロップだ。俺にしては斬新な名付けができたな。毛色も変えておこうか。アリスは全体的に茶色の毛で、お腹は白い。ロップは黒色にしよう。どう? 黒色でいい? オッケー? ヨシ!


「というわけで、私の小妖精は、アリス改めロップです」


「あら、別に同じでも良かったのに」


「アリスはリリーナお姉ちゃんが付けた名前ですから愛着があるかなと思いまして。毛色は折角なので変えてみました」


「ロップも可愛いわね」


 机の上で、リリーナ様が召喚したウサギ型小妖精とロップが、ぷいぷいと身を寄せ合っている。大変可愛らしい。


 リリーナ様がアリス召喚ガチャに成功するまで、この光景が続くだろう。いや、成功してからも続くのか?



 夕食後は自由時間になる。


 大体は昼間の続きをしている人が多いが、魔力の使い過ぎにはセレナさんストップがかかるため活動はほどほどだ。


 さて、俺は夜のお仕事がある。別に変なことではないが、皆には秘密のお仕事だ。


「今日も行ってきますね」


「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


「マー君、たまには私にもかまってくださいまし」


「明日はお休みになりますから、それで許してください」


「約束ですわよ? じゃないとお仕事の最中に押しかけますわ」


 フィーネは俺が何をやっているか気付いているんだろうな。やってこられるとすごく困るので、約束はしっかりと守ろう。


「約束です。では、テレポート!」


 俺が移動した先は、質素ながらも作りのしっかりした天然木の家具で囲まれた部屋だ。飴色で艶のある家具には歴史を感じさせる。


 窓には部屋には似つかわしくない格子がはまっていて、物理的な出入りを禁じている。もちろん扉にもしっかりと錠前が付いており、鍵を持つ一握りの人物しか出入りできない。俺は別だが。


「おお。今日も楽しみにしておったぞ」


 部屋の主は、リリーナ様と同じ年ごろに見える少女だ。透き通るような銀髪と、髪とは対照的な黒い瞳が特徴的な少女の名前は、グウェネス・アレキサンダー。


 クレイトス帝国の第18代皇帝、その人である。


「こんばんは、グウェン。今日も魔法を教えに来ましたよ」


 そして俺の夜のお仕事とは、皇帝の魔法教師である。


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