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第二十七話 非公式会談に出発

「それじゃあ行っていらっしゃい。くれぐれも変なことをしないようにね、マーリン」


 わざわざ宇宙港まで見送りに来てくれたリリーナ様から、ありがたいお小言をいただいた。


「さすがに誰かを吹き飛ばしたりはしませんよ?」


「あたりまえよ。敵味方はちゃんとお父様に伝えるのよ。テレポートするときは行き先を伝えてから移動すること。あとは……」


 リリーナ様が、まるで初めてお使いに行く子供を心配する母親のようだ。顎に指をあてて、他に注意することがないかを指折り考えている。


「お嬢様はマーリン様を心配しているのです」


 セレナさんからフォローが入った。心配されていることは確かなので、素直に受け取っておくか。


 俺としては、カエデを残していく方がよほど心配だったりする。


 セレナさんやリリーナ様に続いて、騎士の何人かが新しい神言を覚えた。まだ十分な検証をできていないので、俺がいない間にカエデが無茶なことをしないか心配なのだ。


 そのために用意したのが、セレナさんの肩にちょこんと座っている新しい召喚体、額に紅い宝石が埋まった緑色のリスのような見た目をしている精霊のカーバンクルだ。


 省略をしない完全詠唱に、召喚時間を延ばす神言を合わせて、1日は召喚を維持できる。小さい体に反して守りに特化した強い力を持っているこの子なら、カエデが何かをやらかしても皆を守ってくれるだろう。


「クルちゃんもいますし、マーリン様からいただいた装備もあります。心配せずとも大丈夫ですよ」


 名前はクルちゃんだ。


「クルちゃん、頼みましたよ」


 クルちゃんには、セレナさんの命令を聞くよう言ってある。逆に、カエデの命令は緊急時以外は聞かなくていいとも言ってある。念のためだ。


「それでは行ってくる。予定では夜には戻ってくるが、それまで頼んだぞ、リリーナ」


「まかせて、お父様。マーリンもね」


「行ってきます。何かあればクルちゃんに言ってくださいね」


 移動のための宇宙船に乗り込み、俺たちはカミヤツーに向けて出発した。


 道中で今回の会談についてアクリティオ様から説明を受ける。


「私たちは初日の会談にのみ出席する。賠償については文官同士が2日目以降に議論することになるだろう」


 すでにたたき台はお互いに用意されていて、あとは擦り合わせを行うのみだ。こういうことは通信で終わらせることはなく、実際に会ってやりとりするのだな。それが最高のセキュリティになるという。


「やってくる大司教についてわかっていることを共有しておこう」


「お願いします」


「まず下手人とされる大司教から」


 歳は63の男性で、名前は大司教になるときに捨てるため、呼称は大司教としての席次となる。この人物だと三席だ。


 三席の名の通り、大司教のナンバースリーであり、サーレ内では外務を担当していた。外務大臣とでも思っておこう。


 事を起こしたのも、サーレ神聖王国の拡大のためで、無理やりサイオンジ星系を手に入れようと独断専行したと。


「入り込んでいたスパイから得られた情報と、サーレからの説明は、どちらも同じだな」


「少なくとも現場ではそういう認識だったんですね」


「そうだ。そして肝心の魔法陣だが、三席が不正に持ち出した物を使用していた」


 使用された魔法陣は本来国が管理していたものであるが、三席によって不正に持ち出しされた。で、その管理を担当していたのが、会談にやってくるもう1人の大司教だ。


 46歳の男性で、大司教になってから日が浅く、席次は十席。主に祭事に用いる物品の管理を行っている。これは、大司教の仕事を覚えるための実習でもある。


 本来なら慣習通りにこなせばいいだけの仕事だったはずなのに、管理する魔法陣が持ち出され、あまつさえ国外の要人に使われたかもしれないとうことで、十席は大慌てだ。


 確実に管理責任を問われる。


 誰がサイオンジ星系に行くかという時に、率先して立候補したのは、その責任を少しでも軽くしようという意図があったのだろう。


「わかっていることはこれくらいで、それほど多くない。サーレは国民の9割がエル・サーレ教で、人を送り込むのも難しいのでな」


「宗教国家の怖いところですね。管理方法が変わらなければ、次の三席が現れてもおかしくありません」


「そうだな。だがそこが攻める点だろう。我々の要求は魔法陣と魔石の引き渡しであるしな」


 今回の会談におけるサイオンジ家の要求は、アクリティオ様に使われた魔法陣と保有する魔石の引き渡しだ。もちろん賠償金――金といっても貨幣ではなく天然資源――も要求する。


 管理できないならこっちに渡せ。早い話がそういうことである。


「十席の方は大司教に成りたての小物だ。そういう演技の可能性を捨ててはいないが、自己保身の色が強すぎる。むしろ三席が唯々諾々と十席に従っている方が不気味だ」


「もっと上からの命令に従っていると?」


「うむ。少なくとも、目下の者には横柄な態度をとるような為人ひととなりだったようだ」


 急に心を入れ替えて、素直にお縄を受けたとか? ないことはないかもしれないが、襲撃を受けた身としてどうしても疑ってしまう。


 こちらに敵意があるかどうかは、マップの反応を見れば一目でわかるので、それまでは心に留めておくことにしよう。


「マップの反応がわかったらすぐにお知らせします」


「ありがとう。まだ敵意があるかが分かるだけでも助かるよ」


 そうこうしているうちに、カミヤツーへと到着した。青と緑が美しい。


 カミヤツーは、カミヤワンよりも外縁に位置している。恒星からの距離があるため、環境調整技術によって人間が生存できるよう調整している改造惑星だ。


 目的は軌道上の交易ステーションなので、今回は降下しない。いつか行ってみたい。


「会談は昼食後、14時から始まる。昼食までは自由にしていてかまわない」


「サーレ側はまだ来ていないんですか?」


「すでに到着しているはずだ」


「それなら一度偵察しておこうと思います」


「偵察か、具体的に何をどうするか聞いても?」


「召喚体をサーレの元に送り込んで視界を共有し、その視界越しに偵察をします」


「報告にあった召喚か、たしかフローティングアイといったか」


「はい。フローティングアイのアイちゃんです。かわいいですよ」


「アイちゃん……」


 というわけで、アクリティオ様からの許可も得たので早速アイちゃんを召喚し、サーレのところへ送り込む。


 アイちゃんが現れた瞬間、アクリティオ様の肩が跳ね上がったのは見ない振りをした。アイちゃんは不思議そうに体を傾けていた。かわいいね。


 サーレから来た人たちがいるのは、会談が行われる場所の近くに建つホテルだ。ここからだと会場を挟んで反対側にあたる。


 少し距離があるため、マップ反応の詳細を確認することはできないが、少なくとも赤色の反応はなさそうだ。


 アイちゃんをホテルに侵入させ偵察を進める。サーレのために最上階がまるまる押さえられているので、偵察がやりやすい。


 魔法陣を使っているということで、魔法的な防御を警戒していたが、今のところはなさそうだ。さらにアイちゃんを進めると、見るからに高そうな衣装をまとった男性が2人。この2人が大司教だろう。


「大司教がいました。映像を共有します」


「おおっ。確かに。この2人が大司教で間違いないだろう」


「ステータスも確認しておきます」


 ―――――――――――――――

 名前:十席

 HP:1,120/1,125 (現在値/最大値)

 MP:50/50 (現在値/最大値)

 付与効果:なし

 ―――――――――――――――


 ―――――――――――――――

 名前:三席

 HP:804/1,091 (現在値/最大値)

 MP:50/50 (現在値/最大値)

 付与効果:チェンジ オブ マインド(残り効果時間:■■秒)

 ―――――――――――――――


 あのー、三席が洗脳されているんですが。


「大司教自身が洗脳されているだと……、どういうことだ」


 俺が知りたい。


 オランティス様に使用された洗脳の魔法陣はすでに回収してあるので、三席が最近洗脳されたとしたら、サーレには複数の洗脳の魔法陣があることになる。


 魔法陣がひとつしかない場合は、最低でもオランティス様が洗脳されるよりも前から洗脳されていたことになる。魔法陣は副官として入り込んだサーレの者がずっと持っていたからだ。


 なんだかややこしくなってきたな。


 情報が足りなくて考えてもわからない。ではどうするか。情報を持っている人から情報をもらえばいいのだ。


「というわけで、三席の洗脳を解いた後に、もう一度洗脳し直そうと思うのですが」


「反則のようなものだな。こちらの正体がバレるのは避けたい。何か方法はあるか?」


「変装の魔法があるので、事前に使っておきましょう。姿だけでなく声も変えられるので、私の正体には気付けないでしょう」


「方法があるのだな……」


 ちゃんと対処法があるのに、何故かアクリティオ様が頭を抱えている。


「ふぅ……。念のため、別の建物に部屋を用意しよう」


「わかりました。折角なので性別も変えて、大精霊を召喚して二人組になっておきましょう。これなら私とは似ても似つかないです」


「……好きにしてくれ」


 よし。三席を洗脳し直して、ショートテレポートで拉致……、こほん、任意同行してもらうぞ。


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