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第二十五話 カエデ係

「これにするわ」


「よくお似合いです」


 ようやく。ようやくリリーナ様の装備選びが終わった。長かった。


 リリーナ様以外はとっくに装備を選び終わって、魔法の訓練に戻っている。カエデはグリモワールを選んだようで、本に書かれた内容が何かの物語になっているとかで興奮していた。


 俺もそっちが気になったが、意識をそらすとリリーナ様が不機嫌になるので不用意なことはできなかった。


 リリーナ様が選んだのは、暗めの紅色に控えめの金の刺繍が入ったローブだ。やや地味にも感じるが、リリーナ様が着ればミステリアスで大人な雰囲気になる。


 唐突に始まった装備配布が終わったので、俺の装備確認に戻る。まだ広域殲滅装備しか確認できていない。


「どんな装備か楽しみだね!」


 カエデの一言で、散り散りになっていたみんなが戻ってきた。どうせならリリーナ様につかまっているときに戻ってきてほしかった。


 雇い主には逆らえない? そう……。


 次に確認するのは、先日使った金属杖を含む杖術特化装備だ。


 フル装備だと金属杖を3本持つが、今は1本だけ。体装備には、動きやすいように深いスリットの入ったローブと、脚の動きを妨げない余裕のあるズボン。ローブのスリットは脇腹辺りまであるので、実際に着用してみるとちょっとスースーする。


 そして特に目立つのが、背中に装着した機械翼だ。1枚の長さが1メートルほどの翼が2対4枚生えていて、俺の動きに合わせてバランスを取るように自動的に可動する。


 また、下側の2枚の翼は腰の辺りから前側へ可動し、金属杖を握る副腕になる。俺が持つ1本と合わせて、合計3本の金属杖を操って戦うのが、この杖術特化装備だ。


「前の装備とずいぶん印象が違うのね」


「これは近接戦闘用の装備ですからね」


「マーリン様の武神スタイルというわけですね」


「動きやすさに重点が置かれているようです。脇腹がむき出しなのは……、少し防御に心もとないのでは?」


 セレナさんの冷静なツッコミが脇腹に刺さる。確かに脇腹が見えてしまっているが、魔力的ななんやかんやでしっかりと保護されているので、ちゃんと防御力はある。不思議だね。


 装備の効果としては、敏捷に6割、器用と筋力に2割といった強化具合で、魔力についてはほとんど強化されない。まさしく杖術特化装備というわけだ。


「機械式! 魔法と科学の融合! 動力はなんなの、どういう機構なの! バラしたい! バラしていいよね!?」


「可動式の副腕ですか。たしか、そういうコンセプトのパワードスーツがあったように記憶しています」


「この機械翼は1つしかないので、バラすのはやめてください。パワードスーツは気になりますね。打ち合ってみたいです」


 機械翼をバラしてみたい気持ちはわかるが、現状これ1つしか持っていないので、はいどうぞと渡すわけにはいかない。材料があれば簡単な機械翼を作ることも可能だが、メインの素材は魔法金属のミスリルなんだよな。


 魔法銀とも呼ばれるミスリルは、魔力との親和性が非常に高い金属で、こうした可動式の装備によく使われる。


 産出するのは、魔力が豊富な地で、そうしたところは強い魔物の住処になっていることが多い。この世界でそうした地があればいいのだが、なければ機械翼の作製は難しいだろう。


「バラしたり削ったりしなければ見ていていいですから、次の装備に行きますよ」


「味も見ておこうかな!」


「舐めるのも禁止ですよ」


 3つ目の装備は、回復魔法と強化魔法に特化した支援用装備だ。この支援用装備と、前に確認した広域殲滅用、杖術用の2つがMFOで主に使っていた装備になる。


 この装備は、構成としては広域殲滅用に近い魔法使いスタイルで、杖がグリモワールに変わって、3つの宝珠が周囲に浮いているのが異なる点だ。


 体装備は、漆黒のローブの元になった【白銀のローブ】。回復魔法の効果が増加し、消費MPも少なくなる優秀な装備だ。見た目は真っ白で、銀の刺繍がそこかしこに入っている。まさに白銀。


「……マリーさん、祈るのをやめてもらえますか?」


 さきほど選んだ純白のローブを着て祈りをささげるマリーさん。この場面だけを見たら、宗教関係者に祈りをささげる信徒、という風に見えるだろう。


「毎日この装備を着てもらえませんか? 10分だけでいいですから」


「本格的に隠さなくなってきましたね……。いやですよ、着ませんからね」


「残念です……」


「マリーではないけど、祈りたくなる気持ちは少しわかるわね。今まで宗教なんてと思っていたけど、神聖さというのかしら、そういう雰囲気を感じるわ」


「リリーナ様まで」


 周囲をうかがってみると、みんなも同意している。唯一カエデだけは平常運転で、機械翼をいじりながらも浮遊する本や宝珠を凝視している。カエデが心の平穏になるなんて、ちょっとくやしい。


「とりあえず祈るのはダメです。研究所の規則に追加してください」


「そうね。追加しておきましょうか」


「……」


「諦めなさい、マリー」


 少なくとも魔法研究所が新しい宗教施設になることは避けられた。一安心だ。


「装備の確認はこれで終わりですよ」


「そうなの。それじゃあ魔法の訓練に戻りましょうか」


「もう終わり? 残念……。でも、そろそろ新しい神言を覚えられそうだよ! また検証項目が増えちゃう!」


「私も次の神言が楽しみです」


 リリーナ様とカエデとセレナさんは、あとちょっとで新しい神言を覚えられる。やはり気になっているようで、すぐに訓練へと戻っていった。


 マリーさんは見納めとばかりに支援用装備をガン見している。マリーさんも早くもどりなさい。


「マーリン様の御心のままに」



 ◇    ◇    ◇



「きたー! きたよ、新しい神言が!」


「カエデ様、危ないので椅子から降りてください」


「あっ、ごめんなさい」


 しまった! 少し離れたところにいたので、カエデを注意する役目をセレナさんに取られた! まあそんな役目なんてないんだけど。


「むう、カエデに先を越されてしまったわね。どんな神言を覚えたの?」


「新しい神言は、『石』だよ!」


「いし?」


「岩石の石ですね。変幻魔法で直接石を操作したり、強化魔法を組み込んで石のように強化する、破壊魔法で石を飛ばす、といった使い方があります」


「石を操作! そもそも石ってどう定義されるの! どこまでが石なの! ちょっと石を拾ってくる!」


 テンションの上がり過ぎたカエデが、部屋を飛び出していった。すぐに騎士の1人が追いかけていったので、連れ戻す役目は彼女にまかせようと思う。


 しばらくして、両手いっぱいに石ころを持ってカエデが戻ってきた。追いかけていった騎士の人は、一抱えもある大岩を持っている。あんな大岩どこから持ってきたんだ?


「これでいっぱい検証できるよ! ところで、石を操作する魔法ってどうやるの?」


「『石よ』『曲がれ』でストーンフォームの魔法が――」


「『石よ』『曲がれ』! ストーンフォーム!」


 行動が早い。


 カエデの覚えている神言で組み合わせられるものが『曲がる』だけなので、今は曲げることしかできないが、色々な神言を覚えれば自由自在に変形させる魔法になる、という説明をしそびれた。


 まあ後で説明しておこう。


「ふおおお! 石が曲がったよ! 石が! 曲がったよ!」


 椅子の上に立ち、小石を掲げるカエデ。おっと、これは注意しなければ。と思ったと同時に、さっきまで大岩を抱えていた騎士の人が、カエデをひょいと持ち上げて椅子から降ろしたではないか。


 2回も注意しそびれてしまった。まあ別にいいのだけれど。


「ほらほら!」


「いくら見せられても、曲がる前の形を見ていないのでわかりませんよ?」


「しょうがないなぁ。いい、この形だよ! よーく見てね! この形が――、ストーンフォーム! ほら!」


 微妙な変化過ぎて、正直よくわからない。覚えたてで、新しい神言への理解が深まっていないせいだろう。だが、キラキラした目で小石を突き出しているカエデに対して、あまり酷なことは言えない。


「少し、曲がっていますか?」


「そう! 曲がっているんだよ! ふおおお! 私が魔法で石を曲げました!」


 再度小石を掲げるカエデを、騎士の人がひょいと持ち上げた。なるほど、これなら椅子に上らなくてもいいね。


 ぱちぱちと拍手が起こり、カエデの顔が得意げな笑みになる。


 俺はカエデを持ち上げる騎士の人と目を合わせ、静かにうなずき合った。


 ちなみに、カエデを持ち上げている騎士の人は、カエデと同じく変幻魔法を習得した人で、名前はエミリさんだ。


 エミリさん、カエデ係をよろしくお願いします。


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