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第二十三話 騎士への魔法教練

「とにかく、無事終わったことを喜ぼう」


「そうね、伯父様。マーリンのことは別として」


「うむ」


 解せぬ。というほどでもないが、やや釈然としない反応をもらいつつ、作戦は終了。気絶させた24人+洗脳した1人は、改めて拘束し直して、騎士団に設置されている勾留用の施設へと移送されていった。


 俺とリリーナ様は公爵邸へと戻り、オランティス様とはここで別れる。


 オランティス様は残った騎士団への説明がある。さっきまで一緒にいた騎士が、急に気絶させられて移送されていくともなれば、動揺するのも必至だ。


 超技術――という名の魔法――の説明も行われる。これはアクリティオ様から許可がでた。俺としては、俺が魔法を使えること自体を隠すつもりはない。魔法研究所の警備を厳重にしたのは、魔法を"習得する方法"を隠すためだ。


 その点アクリティオ様はもう少し慎重で、魔法研究所の皆がある程度の魔法を使えるようになるまで、極力魔法の存在を公にしないようにしていた。


 俺だけ使える技術ではそこで終わりだが、誰かに伝授できるとなると価値は跳ね上がる。そうすることで、俺の価値を、ひいては俺を援助するサイオンジ家の力を上げようとしているのだ。


 まあそれも今までのことで、オランティス様を巻き込んだ今回のことで、俺の存在を隠すことは難しくなるだろう。


「できるだけ早く事態を収めるので、マーリン殿には手合わせをお願いする」


 またお願いされてしまった……。


 宇宙港での作戦は午前中だけで終わってしまったので、昼食の後、少し時間がたってから手合わせの予定とした。オランティス様の説明が長引けば後ろへずらす。



 昼食後、きっかり時間通りにオランティス様は現れた。


「騎士団の皆にも魔法の脅威を知る良い機会になるだろう」


 百聞は一見に如かずということで、騎士団の人たちも一緒だ。ちなみにカエデや魔法研究所の皆も、ものものしい検出器群と一緒に見学している。


 オランティス様との手合わせというより、戦闘に魔法がどう応用できるかの教練という感じになってしまった。まあこれはこれで、魔法沼に引き込むためにはいいかも。


「聴け! 今からマーリン殿に魔法の実践戦闘について教授いただく。マーリン殿の身は、サイオンジ家当主のアクリティオ様自らが保証している。失礼のないように。私からの説明だけではわからない、魔法の脅威について身をもって確認するように。マーリン殿お願いいたす」


「はい。ご紹介いただきましたマーリンです。サイオンジ家にお世話になっていますが、私はただの星民なのであまり硬くならずにお願いします」


 この感じ、なつかしいな。MFOでもたびたびこういう授業のようなことをやったものだ。


 俺と仲間たちが興したマーガリン魔法大国では、魔法教育に力を入れていた。その一環として、選抜された国民に対して、宗主が魔法の授業をすることがあったのだ。宗主とはつまり俺だ。


 魔法に対する熱意が凄まじかった過去の授業に比べて、騎士団の人たちはまだ半信半疑と言った感じ。まずは掴みが大事だな。


「まずは魔法を体験してもらいましょう。『地を』『縛る』『重き』『楔よ』! 『我が』『意思に』『従え』! グラビティコントロール!」


 オランティス様を含めて、騎士団のひとたちをまとめて浮き上がらせた。掴みと言えば浮遊。鉄板ネタだ。


 騎士団の装備には、簡易的な重力制御機構が含まれている物がある。これは宇宙船に搭載されている重力制御コアのような能力はないものの、無重力空間で姿勢制御できるほどには効果がある。


 その装備を使って、なんとか姿勢を立て直そうとする騎士団の人たちを、くるくる回したり、整列させたりして魔法を体験してもらう。


「どうだ。魔法というのはやっかいだろう」


 両手を組んで仁王立ち姿勢のままくるくる浮遊しているオランティス様が若干シュールだ。


「司令、重力制御がまるで効きませんよ!」


「周りにある重力そのものが私の制御下にありますからね」


「うおっ!」


 発言した騎士の1人を追加でくるくるしてから皆を地上に降ろした。


 半信半疑だったのが、今は驚きと興味が前面に出て、掴みはバッチリだな。


「今体験してもらったように、魔法とは魔力と神言――呪文のようなものを用いて様々な現象を起こす技術です。科学とは異なる体系で発展してきた技術ですね」


「これが魔法ですか。司令が危機感を持つのもわかります」


「引き起こされる現象もそうだが、科学的には全く検知できない点も見逃せないな」


「その通りだよオラン君! どんな検出器でもモガモガッ!?」


「カエデ様――。失礼いたしました」


 急に騒ぎ出したカエデだが、我らがストッパーのセレナさんに即座に抑え込まれた。ジタバタと抵抗するカエデをぴたりと止めたあの耳打ちは、一体何だったんだ。


「……コホンッ。説明を続けましょうか」


「そうだな」


 変な空気を一掃するために、また魔法を体験してもらった。


 次に使ったのはシールド魔法だ。銃弾も防いだと言えば、この攻撃はどうだと、嬉々として殴りかかっていった。……いや殴るんかーい。


 何人かが殴りかかってシールドを破壊してからは、1枚のシールドを何発殴れば破壊できるかの競争が始まった。オランティス様もしれっと参加している。


 整列した全員の前にシールドを出し、各々がやりやすい方法で殴ってもらう。なんて異様な光景なんだ。その異様さにスパイスを加えているのが、周囲を飛び回っているカエデだ。


 またとないデータ収集のチャンスとばかりに、高速で仮想コンソールを叩いている。シールドを殴る音と仮想コンソールを叩く動作がリンクして、まるで指揮を執っているかのようだ。


 カエデに率いられた騎士たちは、3発でシールドを破壊する猛者が現れたり、キックし始めたり、第二回戦が始まったりしてもうめちゃくちゃ。カエデがおかしくした空気をどうにかしようとシールド魔法を使ったが、結局また変な空気になってしまった。


 助けてセレナさん!


「皆さん落ち着いたようですので続きをどうぞ。よろしいですね、オランティス様?」


「う、うむ」


「ありがとうございます、セレナさん」


 さすがセレナさんだ。オランティス様に対しても遺憾無くストッパーとしての力を発揮している。俺も安心して授業に集中できるな。


「場も温まってきたようですし、魔法を使った手合わせをやってみましょうか」


「そうだな。マーリン殿は相当な実力を持っている。ここは全員で……、というのは冗談で、一人ずつ、一人ずつ手合わせを行う。回数は、3回? 2? いや1回だな1回。皆、1回だぞ」


 というわけで、魔法ありの手合わせの準備が整った。実にスムーズだ。


 最初に戦った騎士に、シールド魔法を相手に張ってがちがちに動きを固める戦法をやったところ、ものすごく悲しい目で見られた。


「防御以外の目的でのシールド魔法の使用は禁止いたします」


 セレナさんの判定はアウトで、この戦法は禁止になった。割とメジャーな戦法なんだが、少しやり過ぎたようだ。


 さすがに可哀そうだったので再戦となった騎士に対して、今度は変幻魔法で俺の幻を出し、一人ジェットストリームアタックをしかける。


「ホログラムごときで! これも、これも偽物か! ということは!」


 2体の幻を消し去り、最後の1体に襲い掛かる騎士に対して俺は――、


「ふっ、それも幻です」


 幻を出すと同時に、同じく変幻魔法で透明化していた俺は、騎士の背後から首に手を添えた。決まったぜ。


「透明化の魔法は以降禁止といたします」


 その後も一戦するたびに禁止魔法が増えていき、これはこれで魔法の多様性を見せられたと思うので授業という点では良かった。


 手合わせのトリを飾るのはオランティス様だ。


「さすがのマーリン殿もここまで制限されれば苦しいのではないかな?」


「さあ、どうでしょうか」


 実際かなりの部分を禁止されているので、オランティス様に何もさせずに完封、というのは難しいだろう。それでも負けることは万に一つもない。


「自信ありということか。一人の挑戦者として、一人の騎士として、一矢を報いらせてもらおう」


「私も、魔法の可能性、その最も根源的なものを見せてあげましょう」


「マーリン様、少しお待ちを」


 高まる俺とオランティス様の威勢をくじいたのは、冷静なセレナさんの声だった。


 え? 使おうとしている魔法を説明しろ? はい、魔力を操作して身体能力を向上させるもので。ええ、そうです。はい。出力は魔力次第です。ただでさえデタラメなステータスなのにそんなことするな? えっ、でも、あっ、はい、わかりました。


 禁止になった。


 見ろ、オランティス様が悲しい目をしている。


「魔法なしでもマーリン様が規格外だと知らしめる良い機会ではないでしょうか。オランティス様、よろしいですね?」


「……はい」


 奇しくもアクリティオ様と予定していた通りに、魔法無しでの手合わせとなった。オランティス様をへこませるという当初の目的は、すでにセレナさんが達成してしまっているが。


「それでは始めてください」


 セレナさんの合図でオランティス様の表情が真剣なものに戻った。シールドを殴り始めたときから、なんとなく武器を使う雰囲気にはならず、俺とオランティス様も素手で相対している。


 オランティス様の構えはどっしりとした待ちのスタイルで、うかつに飛び込めば手痛いカウンターが飛んできそうだ。それならばこちらは素早さを活かした軽快なフットワークで攻めさせてもらおう。


「いきますよ。目を離さないでください」


 神様特製の敏捷9,999を発揮して、俺は高速で反復横跳びを開始した。踏みしめる地面が爆散しないように、シールド魔法で保護しているのは見逃して欲しい。


「幻だと!?」


 知覚できる速度を超えて反復横跳びをしている俺の姿が、オランティス様には2人に分かれて見えていることだろう。


 これがありあまるステータスを利用した幻(物理)だ。


 幻(物理)を維持したまま徐々に近づいていく。強者ムーブみたいでテンションが上がるな。


「「これは魔法ではなく、純然たる物理です」」


 そう宣言してから、俺は幻(物理)を突っ込ませた。そっちも俺だから、自分が突っ込んだだけだ。


「質量のある幻か!?」


 幻(物理)と打ち合うオランティス様がいい感じに驚いている。もっと驚いてもらおうと、幻(物理)をもう1体増やして挟み撃ちにした。


 本体(物理)は涼しい顔して立たせておいて、攻撃は幻(物理)にまかせる。まあ全部俺なんですけど。


「うおおおお!」


 左右からの攻撃をなんとか凌いでいるオランティス様。手加減しているとはいえ、なかなかの対応力だ。満を持して本体も攻撃に加わる。


 幻と合わせて計6本の腕がオランティス様を圧倒し、ついにガードを潜り抜けて鼻先へ3つの拳を突き付けた。


「っ!? ……はぁ、俺の負けだ」


「お疲れさまでした」


 幻を消して1人に戻った。


「魔法無しでもこれほどとは。ずいぶんと手加減をしてもらったようだ」


「ええまあ。そうですね」


 分身しているように見えるほどに素早く動けるなら、その速度で殴りに行った方が早いもんな。


「本気の一撃はどれほどになるか気になるな」


 俺も気になる。


 魔法の方は、来て早々に宇宙で放ったオリジナルファイアで大体の感覚がつかめている。一方武術の方は、使うタイミングもなかったので、あまり検証できていない。


 オランティス様と手合わせるすることになってから、セレナさんと手加減の練習をしたくらいだ。


 それは如何に手を抜くかの練習であったので、俺が本気に近い攻撃をしたらどうなるか、これはわからないままだ。


 セレナさんチェックはどうだろうか、と顔を向けると、少し悩んでいる様子。


「そうですね。シールド魔法を使った上で、上空に向けてなら良いでしょう」


 お、許可が出た。やったぜ。


「私が得意とするのは杖術です。杖を使った突き技を使ってみましょう」


 インベントリから取り出したるは、近接戦時に愛用していた金属杖。フル装備のときは、機械式の副腕と合わせて3本の金属杖を振り回していた。


 杖を握ってくるりと一回転。手首は柔らかく、腕はしなやかに。いい感じだ。実に手になじむぞ。


「それでは一発やってみましょう」


 周囲に厚めにシールドを張り、杖をしごいて準備を整える。


 使う技は、杖術の中でも特に速度に特化した突きだ。MFOの近接戦はシールド魔法の隙をついた一撃が重要になる。この技で幾人ものプレイヤーを行動不能にしてきた。


「行きますよー。ふっ!」


 光があふれた。


 突き出された切っ先は進路上の大気を圧縮し、圧縮された大気は赤熱し光を放つ。置き去りにされた音ははじけ飛び、シールドに囲まれた領域を縦横無尽に刈り尽くし吹き荒れる。


 それらはまとめて空へと向かい、その姿はまるで昇り龍。演習場での一幕を思い出す惨状だ。


「あっ」


 慌てて舞い上がる土砂や諸々を回収し、なんとかその場と取り繕った。取り繕えたと思いたい。


「マーリン殿……」


「マーリン様……」


 言ったじゃん! 使っていいって言ったじゃん! 今回だけは少なくともセレナさんは同罪だ!


「禁止です」


「はい……」


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