表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/58

第十五話 魔法習得はチュートリアルクエストで

 セレナさんも合流して、魔法の習得を目指すために色々とやってみることになった。


 場所は演習場のまま。ここなら万が一にも周りに被害はでない。


 魔法の習得を試すのは、セレナさんと護衛の人が2人の計3人。リリーナ様は当然ながらお預けだ。今は俺が召喚したアリス(たれ耳ウサギの小妖精)で我慢してもらおう。


 実際に手を動かすのが3人なだけで、説明は全員に行う。


「まず確認なのですが、魔力を認識できる人はいますか? 今、私の右手に魔力を集めています」


 俺の右手に視線が集まるが、誰もピンと来ていない。もし魔力がはっきり見えていたなら、右手の上にデフォルメされた猫の姿が確認できただろう。


 魔力操作を鍛えれば、こんな風に魔力を扱えるのだ。


「ダメね。全然わからないわ」


 代表してリリーナ様が答えてくれた。誰も否定しないのは想定内だ。


「では次に、3人はこの腕輪を装備してください。これは魔力を上昇させる効果が付与されています」


 腕輪の効果は、【魔力+200】。魔法が上達すると魔力が増加する。逆説的に言えば、魔力が増加すると魔法が上達するとも考えられる。


「リリーナ様も着けている魔法の品ですか……。本当にぴったりになるのですね」


 率先して装備したセレナさんの腕に、ぶかぶかだった腕輪がちょうどいいサイズに収まった。他の2人にも装備してもらって、再度魔力を認識できるか試してもらう。


 が、ダメ。デフォルメされた猫は誰にも気付いてもらえなかった。MFOのステータスを結構信用していたので、魔力が高いのに魔力を感じられないというのは、少し意外だった。


「それはそうでしょ。いくらパワードスーツを着せたって、歩き方を知らない赤ちゃんは、歩けはしないわ」


 もっともだ。だがどうにか歩き方、つまり魔力を認識してもらわなければ、魔法を使うスタートラインにすらつけない。


 次に試したのは、魔法陣を通して魔法を使ってみるという方法。


「魔力を流すとは?」


 ダメだった。魔力を認識できないんだからそうだよな。


「マーリンのやろうとしていることは、いきなり高度過ぎると思うのよ。もっと初歩的な訓練方法はないの?」


 そうは言っても、MFOでは誰でも大なり小なり魔法が使えたのだ。1を10にする訓練方法は、マーガリン魔法大国では盛んだったが、0を1にする訓練などやっていない。


 俺だって最初から魔法が使えたし……、いやそうだったか? MFOを初めてプレイしたのはずいぶん昔のことだが、最初に何かクエストがあったはず。そう――、


「チュートリアルクエストです!」


「何よ。何か思いついたの?」


「チュートリアルクエストですよ。思い出しました。私が魔法を覚えたきっかけです」


 MFOには、キャラメイクの後、スキップできないチュートリアルクエストがあった。そこで最初の魔法を覚えたのだ。


 たしか、6つの種類の魔法から1つを選んで神言を授けてもらうクエストで、βテストから遊んでいた俺が正式版で選んだのは神秘魔法だった。


 今思えば、あれは神様から魔法を使えるようにしてもらっていたのではないだろうか。MFOは異世界に魂を移して遊んでたって話だしな。


 肝心の神言を授ける方法だが、これは神言を唱えて神に祈るというもの。神秘魔法なら最初の神言は『光』。


「神に祈るねえ。一気に胡散臭くなったわ」


 リリーナ様はあまりお気に召さなかったようだ。


 俺の認識としては神様は確実にいる。そもそもこの世界に来るきっかけになった人?柱?だしな。


 問題は、神様の存在を信じているかどうかが魔法の習得に影響するかだ。


 MFOでは「祈る」コマンドひとつでクエストが進行したので、祈りの内容や内心どう思っていたか、神様から何か反応があったのかなどわからない点が多い。


 何はともあれ、まずやってみてから。


 3人とも最初に覚える魔法は神秘魔法で良いとのことなので、『光』の神言を唱えてもらう。各々が思い思いの姿勢をとって、神に祈る。


「『光』をお与えください……」


「どう? 何か変わった? 魔法を使えそう?」


 リリーナ様が食い入るように様子をうかがっているが、結果は芳しくない。やり方が悪いのか、そもそもの問題なのか、魔法の習得はうまくいかなかった。


「ダメなようです。何か変わったようには感じません」


「ふぅむ……。やっぱり神様なんて曖昧なものに祈るのが良くないと思うのよね。いっそのこと、マーリンにでも祈ってみたらどうかしら?」


「名案です。お嬢様」


 今まで静かにしていたマリーさんが急に興奮しだした。その場の雰囲気も、それは盲点だった!、みたいな感じになっている。どうして?


 俺はどうかと思ったのだが、リリーナ様の鶴の一声に反対するには弱く、3人は俺に向かって祈りの体勢にはいった。


「マーリン様、『光』をお与えください……」


 何も起こらずに失敗するかと思われた祈りは、何か繋がりのようなものを俺と3人の間にもたらした。


 その繋がりから、『光』の神言が3人へと流れていこうとするのを感じる。今は押し留められているが、俺の意思ひとつで、すぐにでも流れていきそうだ。


 これはもしかして、魔法の習得がうまくいきそうなのか? 神様の代わりじゃないけど、俺が神言を授けるのか?


 いいのか? いくぞ? ええい、許可だ! 『光』よ行け!


 うつむき、祈る3人の体がほのかに発光し、繋がりを通して『光』の神言が確かに授けられるのを感じる。


「これが、魔力……、ですか」


「セレナ、わかったの?」


「はい、お嬢様。マーリン様から、『光』の神言を授かりました」


「さすがはマーリン様です」


 成功したっぽい。こんな方法があったのか。良かったと思う気持ちと、魔法の習得には俺の存在が不可欠なのかと心配になる気持ちが両方湧いてきた。


「おそらく、実在する人物に祈りを捧げないとダメなのでしょうね。マーリンの世界では、教師や両親にでも教わっていたのではないかしら? これなら誰でも魔法が使えた理由になるわ」


 MFOを遊んでいたプレイヤーが特別だっただけで、本来はそうやって魔法を習得していたのかもしれない。ある種の常識だったんではないだろうか。それならゲーム中で言及がなかったのも肯ける。


「魔法を教えるのに何らかの限界があれば問題だけれど、今考えても仕方ないわね。マーリン、次は何をしたらいいの?」


 神言を授かるのがチュートリアルのメインとはいえ、それだけでクエストは終わらない。実際に魔法を発動することでクエストが完了するのだ。


 魔法の発動には、魔力を一か所に集めて神言を唱える必要がある。このとき、ありきたりではあるが、どういう結果になるかのイメージが大事だ。魔法――正確には神言――にはある程度の範囲があり、その中で効果を調整することができる。


「今覚えた『光』の神言単体では、少し眩しい程度の光しか出ませんから、遠慮などはせず魔法を発動してみてください」


「セレナ、早速やって見せてちょうだい」


「では私からやってみます」


「まず魔力を集めてください。どこでもいいですが、心臓や頭、手足の先端は集めやすいと思いますよ」


「はい」


 顔の前に構えた、ピンと伸ばした人差し指と中指に魔力が集まる。少し集まりが悪いか?


「『光』!」


「「「……」」」


「ま、まあ、最初から成功はしませんよ。魔力の集まりが少し弱かったので、次は全力で集めてみましょう」


「……はい」


 真っ赤なセレナさんの顔を努めて無視しながら、助言を送ってもう一度魔法を使ってもらう。今回は十分な魔力が集まっているぞ!


「『光』!」


 微かに光った指先に、周囲は色めき立った。すぐに消えてしまった光だが、興奮は収まらず、冷静に事実を認識するにしたがってじわじわと増していく。


「光ったわよね?」


「はい、リリーナ様。確かに光りましたね」


「セレナ、あなた、光ってたわよ!」


「は、はい、光りました」


「セレナさんも魔法使いの仲間入りですね」


「つ、次は私が!」


 護衛の2人もチャレンジし、無事に指先を光らせることに成功した。セレナさんという成功例があったから、やりやすかったのだろう。


 新たに誕生した3人の魔法使いを囲んで、わいわいがやがやとても楽しそうだ。この雰囲気とてもいいな。やはり魔法はいい。


 と、その集団からリリーナ様が飛び出してきた。


「マーリン、私も魔法を習得するわよ!」


「リリーナ様、今日は3人だけという話だったのでは?」


「習得の仕方がわかったのに、そんな悠長なこと言っていられないわ」


「ちなみに召喚魔法の最初の神言は『虫』で、虫を召喚する魔法なのですが?」


「うっ……。ええ、それでも召喚魔法を鍛えていけばアリスを召喚できるのでしょう?」


「そうですね。見習いを卒業するころには召喚できるでしょう」


 MFOでは魔法をどれだけ扱えるかは、熟練度レベルによって表されていた。最小は0、最大は100だ。


 熟練度レベル0~14を見習い、15~29を初級、30~59を中級、60~89を上級、90~100を超級という。


 リリーナ様お気に入りの魔法である、サモン・レッサーフェアリーの魔法は、熟練度15から使用可能になる魔法だ。ちなみに複数体召喚するのは中級にならないと無理だ。


「マーリン様、私にも神言を授けてください」


 すでに祈りの体勢にはいったマリーさんも加えて、俺包囲網は着実に形成されていく。


「わかりました。各自、覚えたい魔法を選んでくださいね」


 即座に俺包囲網は解散し、誰がどの魔法を覚えるかの議論が始まった。素早い。


 その結果、まずリリーナ様とマリーさんは、それぞれ召喚魔法と回復魔法を覚えることに。


 護衛の人は7人いるが、先ほど神秘魔法を覚えた2人を除いて、破壊魔法・回復魔法・強化魔法・召喚魔法・変幻魔法を1人ずつ覚えることになった。


 破壊魔法は『火』、指先に小さな火花が散った。回復魔法は『癒し』、なんだか良い匂いがした。強化魔法は『補助』、これは一番わかりづらく、次の動作に一定の補助が働く。


 リリーナ様待望の召喚魔法は『虫』、小さな羽虫が現れてすぐに消えた。最後の変幻魔法は『影』、指先が一瞬だけ暗くなった。


 回復魔法を使ってみるかどうかで少し躊躇したが、思い返せば宇宙船を焼き尽くした後に、俺自身に回復魔法を使っていた。あの時は動揺でリスク云々を考える余裕がなかった。


 マリーさんの同意と、リスクは低くメリットが大きいというリリーナ様の判断で、最初に授かる神言だけという条件で回復魔法を覚えてもらったのだ。


「最初は少し取り乱したけど、なんだか地味ね」


「良い匂いがします。寝室で使用すれば、安眠できるかと」


「指先が見えにくくなるのが、どう役立つのでしょう?」


 言いたいことはわかる。けれどそれは、魔法とも呼べない神言単体での発動だったからだ。しっかりと訓練して神言を組み合わせれば、ちゃんとした魔法っぽい魔法が使えるようになる。


「毎日魔法を使って、しっかり訓練してくださいね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ