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8,なつふたり

中平(なかひら) 守華(ものか)

:ぶっきらぼうだけど優しいお兄さん。


斜木(ななめぎ) 朔夜(さよ)

:ちょっとだいぶ変わってる? 女子高生。


斜木(ななめぎ) 陽暮(ひぐれ)

:朔夜の姉貴。ガテン系高身長。


ネルク・ユーテッド・シュトラウス

:朔夜のことが好きな、同級生の男の子


蟻ヶ崎(ありがさき)

:守華の住むアパートの大家さん。

『様々な事件を起こしてきた半グレグループ、

「バタフライ」の幹部数名と取締役が、

先日、逮捕・起訴されました。』

「おー、兄貴仕事早いな。」

「あれから4日しか経ってないのに…。

おにーさんのお兄さん、すごいっすねぇ。」

「昔から色々凄かったからなぁ。」


ぼんやりとしながら、お兄さんとテレビを見る。

いつも通りの、平和で幸せな夕方6時。


『コン、コンコン』

「ん? はーい?」


呼び鈴があるのに、ドアを3回叩く癖。

間違いない、大家の蟻ヶ崎さんだ。


「あぁ、モノちゃん。これ、毎週の回覧板よ。

…あらあら、今日は彼女さんも居るのね?」

「お疲れ様ーっす!」

「だから彼女じゃ…まぁいいや。」


はぁ、とため息をついてから、

お兄さんが回覧板を受け取ってぺらぺらめくる。


「……はーん。龍鳴稲荷(りゅうなきいなり)の夏祭り…。

もうそんな時期になりますか。」

「えぇ。あなたも行ってきたらいいじゃない?」

「独りで行く祭りなんて、面白く無いですよ。」

「あらあら? 今年はひとりじゃないじゃない?」


大家さんとボクの目がバチッと合う。


「……ま、行けたら行きますよ。」

「それは行かないやつじゃない。」


さらさら、とお兄さんが自分のサインを書く。


「…はい、ありがとうございます。」

「有難うね。お祭りで会いましょうね〜。」


また、バチィッと目線がぶつかり合う。

一拍置いてから、扉が静かに閉まる。


「……全く…ばーさんめ……。」


トボトボ、とお兄さんが歩いてくる。


「おつかれさまっす。」

「おう。疲れた。」


ドカッ、と座椅子に腰を落ち着けてから、

ハァ、ともう一度大きくため息をつく。


「…祭りねぇ。」

「誘われてたっすね。」

明明後日(しあさって)だろ……? 仕事は無いけどな……。」


ポリポリと頭を人差し指で掻きながら、

お兄さんは気乗りしなさそうな表情を浮かべる。


「独りで行ったって、楽しくねぇんだよなぁ…。」

「誰かと行けばいいじゃないすか?」

「うーん…。」


お兄さんは、へたれだ。

…ボクのこと、誘えばいいのに。


……いや、違う。本当のへたれはボクだ。

お兄さんは、ボクのことを異性だと思ってない。


…淡い期待は持たない主義だけど。

……淡くないって、期待する。


「ボクとか…どうすかぁ?」

「あん?」


気だるそうに、お兄さんは顔をこっちに向ける。


「だから、お祭りっすよ。

ボク、一緒に行ってもいいっすよぉ?」


何様だよ、自分。


「…いや、お前は友達と行ったりするだろ?

俺のことは気にすんなよ…。」


そう。お兄さんはへたれな訳じゃない。


「いや、別に問題ないっすよぉ?」

「お前にも友達付き合いあるだろうよ…。

地元の祭りなんて、行くのか知らんが……。」


鈍感だ。


「…そう、っすか。」

「おう。」


じゃあ。


「じゃ、お兄さん!」

「おー?」


ボクから踏み出さないといけない。


「お祭り、ボクと一緒に行きましょ?」

「…は?」


お兄さんはきょとん、とした顔で止まる。


「だから、ボクからのお誘いっす!

お祭り、一緒に行きましょうよ!」

「…あー。」


天井を、軽く見上げる。


…もう、ひと押し。


「……嫌、っすか?」


自分の出せる、いちばん寂しそうな声で、

お兄さんに問いかける。


「………行くか。」


お兄さんは、優しい。


「…! やった!約束っすよ!」

「おう。約束だ。」


ボクが甘えると、断らない。


「…おやぁ? これって、デートっすかねぇ?」

「……2人で祭り行くだけだぞ。」


それを、お祭りデートって言うんだと、

ボクは信じたい。てか信じてる。


「……明明後日、どこに集まる?」

「えと…現地集合でどうっすか?」

「何時くらいにする?」

「……19時?」

「よし。」


ぽん、とお兄さんは膝を叩いて、こちらを向く。


「…んじゃ、約束な。」

「うっす!楽しみにしてるっす!」


お兄さんと、初めての2人でのお出かけ。

…楽しみじゃない、訳が無い。






教室の窓から、陽気が差す。

誰しも微睡む、天使のような、悪魔のような。

そんな金曜日の午後3時30分。


『キーン、コーン、カーン、コーン…。』

「お、時間だな。みんなお疲れ!

今日は帰りのホームルームも無いから、

有効に時間を使うんだな!良い土日をな!」


担任の有馬(ありま)先生が、いつも通り大声で、

一日、学校の終了を告げる。


「さーよっ!」

「んー? (ゆう)?どうしたの?」


友達が、声を掛けてくる。


「明日のお祭り、朔夜も一緒に行かない?

ほら、男友達とかも紹介するからさぁ〜!」

「ざんねーん!わたしは先約があるんだ〜。」

「えぇ〜? ネルくん?」

「違うよ。」


…優は、ちょっとお節介なのだ。

ボクとネルくんをくっつけようとしてきたり、

男友達を積極的に紹介してきたり。

…善意なのは知っているから、余計に困る。


「…ちなみに、相手は男の人?」

「……違うよ〜。お姉ちゃん!」


優にお兄さんのことがバレたら…。

……面倒なことこの上ない。


「エ?」

「ん?」


隣の席のネルくんが、急に声を上げた。


「…ミー、朔夜さんのお姉サンと、

お出かけする約束してるんデスけど…。」

「え?いつの間に?」


これは、マズイ。


「朔夜!ホントは誰と行くの!ねぇ!」

「いや、ホントにお姉ちゃんだって!」

「……!」


ネルくんが、なにかに気付いた表情を浮かべる。

…もしや、マズイ。


……お兄さんのことを口走られたら、マズイ。


「すみまセン、優サン。

ミーとお姉サンが一緒に遊びに行くノ、

あさっての間違いだったデス。」

「え?そうなの?」

「ハイ。」


ネルくん。君はやっぱり出来る男だよ。

最高の友達だ。


「……………なぁんだ、そっか!

じゃあ、朔夜!明日お姉さんと楽しんでね!」

「あ、うん!」


優がバッグを持って、席から立ち上がる。

そのまま、教室のドアまで近付く。


ドアを開けた瞬間、急に視線が交差する。


「…楽しんでね!」

「う、うん。」


…これ、誤魔化せてるのか……?


「…朔夜サン。」

「あ、ネルくん。さっきはありがとう。」

「イヤ、ミーが招いた危機デスから。」


ふりふり、と優しく手のひらを横に震る。


「…朔夜サン、ホントはアノ人デスよね?」

「…え?」

「お祭り、一緒に行くヒト。

前、ミーと朔夜サンのコトを助けてくれた、

金髪のお兄サン……デスよね?」


少し、言いにくそうに。ネルくんはそう言った。


「…うん。」

「エト。伝言、頼めマスか?」

「え?」


いつもより優しく微笑んだネルくんは、


「『助けて頂いてありがとうございマス』と。」


そう告げた。


「……ネルくん…。」

「イヤぁ、カッコイイデスよねぇ……。

あのお兄サンも、朔夜サンのお姉サンも、

喫茶店のマスターサンも。」


キラキラと目を輝かせながら、

静かな、落ち着いた声でそう言うネルくんは、

いつもとは、少し違って見えた。


「…エヘ。ちょっとミー、変デスね。

ともかく、明日。楽しんでくだサイね。」


いつものにっこり笑顔に戻ったネルくんは、

そんな応援の言葉をくれた。


「……うん。ありがとうね。ネルくん。」

「…コレカラも、「トモダチ」として、

仲良く、よろしくお願いしマスね!」


やっぱり、ネルくんはいいやつだ。


「……今日も、お兄さん居るかな。」


昨日はバイトで会えなかったからな。

今日は、会いたい。






「…明日、祭りだな。」

「っすねぇ。」


ご飯を食べ終わり、二人でくつろぎながら、

パリポリとポテチを食べて、映画を見る。


いつも通り、何もない。二人の日常。


「龍鳴稲荷の祭り、結構デカいんだよな。」

「出店もいっぱいだし、花火もあるっすねぇ。」

「てか、あの神社がそれなりに大きいんだよな。」

「そっすねぇ。」


映画の内容なんて、ボクの頭には入ってきてない。

お兄さんと一緒に喋れるだけで、十二分以上だ。


「……朔夜?」

「なんすかー?」

「花火って、どこから見る?」


声色は変わらず、お兄さんがそんなことを尋ねる。


「…下、っすかね。」

「なんでだ?」

「……えと。」


美しいものは。


「見上げたいから、っすかねぇ。」

「………なるほどな。」


お兄さんが、タバコを一本咥えてから、

軽やかに火を乗せる。


「…お兄さんは、どう見るんすか?」

「ん?俺か?」


ふわり、と白煙が踊る。


「…俺は、真正面からも、下からも見る。

真横なんてのもいいな。何か違うかもしれん。

なんなら橋に上って、花火を観る人々を見る。」

「なるほど。」



「そしてお前の瞳に映った花火を見つめる。

多分、それが一番きれい(・・・)だから。」


くす、っと微笑むような、優しい瞳がボクを撫でる。


「…なるほど……。」



「…ま、ある人の受け売りだけどな。」

「誰なんすか、それ言ったの。」

「さてね。」


悪戯っぽく微笑んでから、タバコをまた咥える。


「ま、明日は楽しもうや。ほどほどに。」

「…そっすね。ほどほど。」


すぐそこにいるお兄さんが、遠く見える。






「おう、朔夜!お前ェ、明日の祭り行くんだろ?」


お兄さんのところから帰ってきて、

家のドアを開けた瞬間、

下着一丁の姉貴にそう言われた。


「藪から棒に何さ姉貴…ってか服着ろよ!」

「いやぁ。あちぃんだもんよォ…。」


姉貴は、だらしない。

ホントにお兄さんと同い年なのか疑わしい。


「……てか、姉貴はいつの間に、

ネルくんと仲良くなったんだよ?」

「いや、この前のことを謝りに来たんだよ。

わざわざ菓子折りまで持って来てなァ。

ま、お前ェはモノんとこ行ってたけど。」


……知らなかった。来てたのか。ネルくん。


「……で、菓子折りとやらは?」

「食った。オレが全部。」

「はぁ?」

「ついでにあの坊主も食えばよかったなァ。」


じゅるり、と舌なめずりをする姉貴に、

ボクは少しだけ恐怖を感じた。


「…っと、オレの事はどうでもいいんだ。」


ぱん、と手を叩いて姉貴は話を戻す。


「お前ェ、祭りに何着てくつもりだよ?」

「え、何って普通に…。」

「ちっ、ちっ、ち〜っ!」


人差し指を横に振りながら、姉貴は答える。


「そんなんつまんねぇだろォ?

だから、オレがお前の服を買ってきてやった。」

「なっ…余計なことを。」

「いいからこっち来い!」


強引に手を引かれ、リビングまで連れられる。


「おら、これ。」

「……わぁ………!?」


姉貴が持っていたのは、浴衣。

黒の生地に白や赤の蝶の模様が入っている。

……悔しいが、センスがいい。


「おら、ここに下駄もあるぞ!

扇子に巾着だの、小物も揃えてあンぞ!」

「いつの間に……。」

「へッ!オレはお前の姉貴だぞ?

どーなるかなんて、お見通しに決まってンだろ!」


姉貴は握り拳を作って、

自分の胸に向かって叩き付ける。


叩きつけた握り拳は、ぽよんと跳ねる。

腹立つ。


「…じゃ、お前ェは明日、これ着てけよ〜!」

「なっ……着ないし!

第一、お兄さんは絶対私服で来るから!

ボクだけ楽しみにしてたみたいなの嫌だから!」

「ほほぉ〜ん…?楽しみなんだなァ〜?」


ニヤニヤと、姉貴に笑われる。

…腹立つ。


「……もう、いいっ!」

「おいおい、怒るなよ〜!」


……明日。デート。

…ボクはどんな服装で行けばいい?






土曜日、龍鳴稲荷。鳥居前。


「……ちょっと、早く来すぎたなぁ。」


…午後6時30分。


「………おしゃれ、してきたんだけどなぁ。」


結局、姉貴が買ってきた浴衣も、

下駄も扇子も巾着も。全部装備してきた。


こんな格好してきて、お兄さんはどう思うかな。

…浮かれてるとか、子供じゃないんだから、とか。


そういうこと言われたら、ちょっと傷付く。


「待たせたか?」

「え?」


顔を上げ、声の主を見る。


白い無地の着流しに、黒い帯。

上には観世水(かんぜみず)模様の入った黒い羽織を、

袖を通さないで、肩にかけるように着ている。

足は黒板に白の鼻緒のついた下駄。

さながら、「棟梁」か「組長」かの風格。


けど、琥珀の瞳も、金の髪も、その声も忘れない。


「おにい、さん…!?」

「……なんだ、そんなに驚いて。」


いつものお兄さんじゃない。

じゃないけど、異常な程に似合ってる。


「…てか、お兄さん。来るの早すぎっすよ。」

「お前にだけは言われたくねぇ。」


いつものお兄さんは、かっこいい。

…けど、今日のお兄さんは、美しい。


歩き方、喋り方、目線の配り方、

その全てにえも言われぬ雅さを孕んでいる。


「じゃ、行くか?」

「…うっす。」


目が、合わせられない。




「……やっぱり、人でいっぱいだな。」

「結構有名なお祭りっすからねぇ。」


お兄さんとボク。2人並んでゆったり歩く。

周りはお兄さんが言った通り、人人人。

お客さんとお店の人の声とが混ざりあって、

がやがやとうるさいくらい。


そんな中でも、お兄さんの声は意外と聞こえる。


「……朔夜?」

「ほぇ〜?」

「なんか、食べたいもんあるか?」

「あー…えーっと……。」


周りのお店を見渡す。

焼きそば、焼き鳥、かき氷、クレープ…。


クレープ?


「あれ?お兄さん、あのクレープ屋さん…。」

「あん?」


左斜め前にあったクレープ屋さんに、

2人並んでつかつかと早歩きで近づく。


「…何やってんだ、アンタ。」

「ん? あ、真星ちゃんとこの。」


先週、ネルくんと一緒に行ったクレープ屋さん。

間違いなく、そこの店主さん。


「なんだ、やっぱり君ら付き合ってたのか。」

「えっ、えっ!?」

「誤解だ。」


からからと、嬉しそうな笑い声を上げる。


「……で、なんで出店なんて出してるんだ?」

「妹に頼まれたんだよ。」

「アラ? モノちゃんと彼女さん?」


次は後ろから、聞き慣れた声がかかる。


「え、大家さん?」

「あー…やっぱりか。」


お兄さんは、納得したように頷く。


「じいさん、あんたの名字、蟻ヶ崎だよな。」

「そういうことだ。」

「兄さん、売り上げはどう?」

「ぼちぼちだな。」


……あー。


…兄妹だったのか。


「…で、兄ちゃんたち、食べてくかい?

味は保証するよ。店の味をそのまま出せる。」

「どうする? 朔夜?」

「…あっと。」


メニューの書かれたボードを見つめる。

……何か、あるかな。


「…抹茶カスタード白玉いちご。食べたいっす。」

「おう。じゃあ俺も同じので頼む。」

「任せな。」


店主さんは、手際よく鉄板に生地を引く。

それを丁寧に延ばしていく。


「結局、お祭り来たのねぇ、モノちゃん。」

「えぇ、まぁ。」


肩に手が乗る。


「え?」

「彼女さん、よく勇気を出せたわね。」


大家さんが、そんな事を小声で呟く。


「……っす。」

「はい、お待たせ。1000円ね。」

「サンキュ。」


お兄さんがお札とクレープを交換する。


「あ、あの。ボク払うっすよ?」

「払わせろ。ちょっとは頼れ。」


お兄さんが、ボクのおでこを柔らかく弾く。


「…払わせろ、って。払わせてくれないくせに。

お兄さん、いっつもボクのお勘定も、

まとめて出しちゃうんだもんなぁ……。」

「自分に金使うの、億劫でなぁ。」


くす、と小悪魔っぽい笑いを浮かべるお兄さん。


「おい…店の前でイチャつくなよ〜?」

「そうよ〜?」


ニヤニヤと、大家さんと店主さんが笑う。


「……イチャついて…。まぁいいや。」

「…否定しないんすか?」

「するのも億劫になってきた。」


……まぁ、色んな人に言われるしなぁ。

確かに、否定するのも億劫かも。


「…じゃ、すまん。ありがとな。」

「ごちそうさまっす!」

「また、店にも来てよ。気軽にさ。」

「うふふ。またね〜。」


蟻ヶ崎さんたち兄妹に見送られて、

祭りはまだ更けていく。




「……にしても、ほんっと人だらけだな。」

「…っすねぇ。」


歩きながらクレープは食べきった。

たぶん、美味しかったんだろうけど。

……緊張して、味はなんにも分からなかった。


「…色々、買ったな。」


お兄さんの左手には、焼き鳥とか焼きそばとか、

買ったものがいっぱいぶら下がっている。


「……はぐれたら、困るよな。」

「…っすねぇ。」


何故かお兄さんのその台詞に、胸が高鳴る。


「………朔夜?」

「……はい。」


ふら、ふら、と。

お兄さんの右手が近付いてくる。


「…手。」


ぶっきらぼうに、お兄さんは言い放つ。


「……え〜?」


自分の出せる、1番腹が立つ声で、聞き返す。


「……手。」


お兄さんの顔は、わかんない。

…わかんないけど、そっぽを向いている。


「………っす。」


抗うだけの覚悟なんて、ボクには無い。


手を重ねたら、ギュッと握り返される。

お兄さんの熱は暖かくて、ほわほわっとして。

…ボクも、恥ずかしい。


「……え、えへへ………。」

「…。」


……このまま、ずっと。


………淡い期待は、しない。

…けど。


…………淡い心は、抱いてもいいと思う。




「……ふぅ。ここまで来れば、人居ないな。」

「っすねぇ。」


長い石段を上がってたどり着いたのは、

出店から離れた人気のない摂社。

がやがやとした喧騒とは、無縁だ。


「…ここで食うか。」

「……わかったっす。」


石段の上に2人並んで腰を落ち着ける。

この場所からなら、花火も見えるのかな。


「……いいただきます。」


お兄さんが焼きそばを開けて、かき込む。

その後に、ビールでそれを流し込む。


「………かぁっ…美味い。」


お兄さんは満面の笑みを浮かべる。

……楽しそうだ。


「…お兄さん、楽しかったっすかぁ?」

「んー?」


ふふっ、とお兄さんは明るい笑いを浮かべる。


「……1本、吸っていいか?」

「もちろん、っすよ。」


着流しの中からマッチとキセルが出てくる。


……え?キセル?


「……お兄さん、いつものは?」

「ん? ……まぁ、祭りだからな。」


キセルの先に刻みタバコを詰めて、

マッチの火を当てる。


……タバコも似合うけど、キセルも似合う。


…長い石段を上がってきたせいだろうか。

……心臓が締め付けられる。


「……お前は何か食わないのか?」

「…んー。もってかえる、っす。」

「そか。」


どうせ、今食べても味は分からないだろうし。

……だったら、お家で美味しく食べる。


「……そろそろ、花火が始まるな?」

「そうっすね。」


…お兄さんの顔を見上げる。

お祭りの灯りが、琥珀の瞳に反射する。

……ホントに、綺麗。人じゃないくらいに。


「あ、お兄さんは色んな角度から、

花火見て回るんでしたっけ?」

「ん? ……いや、あれは例え話だ。

別にここから見られれば、それで良い。」


くす、と風雅な笑いを浮かべる。


「……お兄さん。」

「…お?」


どぉん、と轟音が鳴ってから、明るくなる。


「わっ…。」

「……ふふっ。」


……綺麗。


「……で、朔夜?どうしたって?」

「………何でも、ないっす。」


幾度も、轟音が鳴り響く。


「………そうか。」

「……っす。」


………へたれ。


「…綺麗だな。」

「……そうっすねぇ。」


…花火を見ている、あなたの瞳が、1番綺麗。


「……ん。」

「………朔夜?」


身体をお兄さんに寄せる。

もっと、ボクのこと、見てほしい。


「…おにーさん?」

「……どうした?」

「………綺麗、っすねぇ。」


身体を全部、お兄さんに預ける。

今、お兄さんが立ったら、ボクは倒れる。


「…綺麗、だな。」


ボクの顔を見て、瞳を見て、そう呟いた。


花火に嫉妬するなんて、我ながら馬鹿らしい。

でも、嫉妬したっていいじゃない。


「……うん、綺麗だ。」


お兄さんはボクを跳ね除けるでもなく、

邪険に扱うでもなく。

けど、肩を抱くでも、手を重ねるでもなく。


ただ、ボクの瞳を見つめ続けた。






「いやぁ、楽しかったっすねぇ!」

「だな。」


花火も終わり、2人で一緒に歩いて帰る。

…空元気は、出そうと思えば出る。


「お兄さん?」

「んー?」



「来年も、また来ましょうねぇ。」



小指の代わりに、手のひらを差し出す。



「あぁ、きっと、また来るぞ。」



お兄さんの手のひらが、重なる。



「……きっとじゃ嫌っす。」

「おう。そうか。じゃあ、絶対。」


勇気も、出そうと思えば出るものだ。

夏。暑いですねぇ。

小説の中みたいに、涼しそうならいいですが。

肌はベタベタ、汗は服に滲んで。

ただ、ビールは美味しいって聞きますし、

夏は素麺や野菜だとか、食べ物も美味しい。

プールや海なんかも楽しいですねぇ。

個人的には±0くらいの季節です。

下戸で食べ物嫌いで運動嫌いな人には、

まぁどんまいな季節ですね。

そもそもそんな人はどの季節でも、

楽しめなさそうですけれど。


さて、夏祭り。この物語でも行ってましたが、

この時期にはいろんなところでやりますよね。

北の大地でもやってたんで、行ってきたんです。

……人、人、人。いや、いいんですよ。

すごく賑やかで楽しかったんです。

………お店の被り、多すぎ。

出店自体はいっぱいあるんですよ。

けど、品物被りが多すぎまして……。

何十、下手すれば百の単位のお店でも、

結局種類で言えば10といくつか。

…いやまぁ、仕方ないんですけど。

けど、油そば屋さんとか、

ホットドッグ屋さんとか。

去年あったお店も無くなって落ち込みました。

……意外と競争率高いのかな?

けど、焼き鳥屋さんは無限にありました。

毎年買ってるところでしか、買いませんが。

目の前で焼いてくれるの、いいですよね。


あ、あと浴衣。いいですよね。

老若男女問わず、あれは絵になる良い物です。

浴衣を着ている異性の、どこを見ますか?

くるぶし、かかと、つま先。

ちらっと見えるふくらはぎなんかも。

私はうなじですね。いいですよね、うなじ。

とにかく、浴衣って普通の服とは違うんです。

魅力とか、風格とか。

そんなことが伝われば、幸いです。


さて、ここまで読んでくださった方々、

いらっしゃれば本当に感謝です。


これからも、

貴方様の素晴らしいストーリーライフを、

お祈り致しております。


いだすけさんでした。

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