15,変わる
中平 守華
:ダチ。小説家やってる。
斜木 朔夜
:妹。高校生やってる。
斜木 陽暮
:オレ。大工やってる。
烏野 真星
:マスター。サ店やってる。
ネルク・ユーテッド・シュトラウス
:ネル。高校生やってる。
「なぁ、陽暮。」
「ンだよ。」
行きつけの居酒屋で、久しぶりにサシ呑み。
相手はいつもと変わらず、守華。
「…流行りの服って、今はどんなんだ?」
「……はァ?」
守華の投げてきた話題は、想像と180°違った。
いつもだったら、最近出たゲームの話だとか、
バイクの話だとか、仕事の軽い愚痴だとか。
今更、服?
「………なんか、あンのか?」
「いや、そのな。」
灰皿に灰を落とす守華の頬は、少し赤い。
「…正式に、朔夜と付き合うことになった。」
「……え?」
その瞬間、頭は真っ白になった。
ある意味で。
「……お、おめェら…」
「だよな、そういう反応になるよな。
俺みたいな歳食ったおっさんが、朔夜と…。」
「いや、そうじゃなくて…」
「皆まで言うな、陽暮。俺だってわかってる。
夢見すぎだとか、俺ごとき釣り合ってないだとか。
そんなのはこの世界で誰よりも、俺が理解してる。」
「……まだ、付き合ってなかったンか?」
今度は、守華が固まった。
「…え?」
「お待たせ致しました〜。
熱燗と豚串のタレ5本です〜。」
「あ、すまねェ。そこ置いといてくれ。」
「かしこまりましたぁ〜。」
ポケットをさぐって、ライターとタバコを取る。
「……では、失礼致します〜。」
「おー、サンキュなァー。」
マールボロを1本取りだして、口にする。
「…て、どういう意味だ今の。」
「あン?」
ライターの発火石を擦り、火を付ける。
「…………ふぁーっ………で、今のって何だァ?」
「いや、まだ付き合ってなかったとか。」
「はァ?」
すぅ、と煙を吸い込む。
「…おめェが朔夜に過去話してたあたりで、
もう付き合ってると思ってたンだよ。」
「……なるほどな。」
「だってよォ、毎日楽しそうにおめェんトコ行って、
毎日ニッコニコで帰ってくンだぜ?」
「そうだったのか。」
日本酒をちびちびやりながら、酒の肴に恋バナ。
大学生かオレらは。
「……まだ付き合ってねェかったんなら、
オレにもチャンスあったんだな…。」
「…ん?」
「気にすんな。」
10年来。
朔夜なら良いかって諦めたから。
今更掘り返さない。
今は、幸せだし。
「……あ、そういえば。」
「ンだ?」
ぴっ、と守華の小指がオレの方に向く。
「……ネルク青年に手を出したらしいな。お前。」
「………はァッ!?」
ぼうっ、と顔が燃えるのを感じる。
なんで、なんでお前が知ってる?
「…まぁ、俺も似たような立場だから責めんが。」
「お、おう…ッてか、なんで知ってンだよ!?」
猪口に入った日本酒を飲み干してから、
守華は改めて、オレと真正面から向かい合った。
「朔夜からいろいろと聞いたんだよ。
『ネルくんがよく出入りしてる』ってな感じで。」
「で、でも付き合ってるなんてどうわかるんだよ?」
「…俺は、『手を出した』としか言ってねぇぞ。」
「あ。」
しまった。
「…………ほー、付き合ったんだ?」
「ま、まだ付き合ってねェ!付き合ってねェって!」
「……いつか付き合う気はあるんだな?」
全力で否定する。
否定するが、否定できているかはわからん。
「…け、けど……。」
「ん?」
「…………しょのー…。」
「何だ?」
「キス、は。した。3回、くらい。」
ニヤニヤと笑っていた守華の目は、まんまるになる。
「あ、ごめ、ウソ。多分、10回くらい、かも。」
「…どっちから?」
「……全部、オレから。直近のは、押し倒しかけた。」
「…………はぁ。」
守華が大きくため息をつく。
「しゃ、しゃーねェだろ! オレだってさ…。」
傷心気味、だったし。
だからこそ、ネルに惹かれたのもあるし。
「…お前ら、姉妹揃ってそうなんだな。
1番上の兄貴が1番上品なのは、どうなんだよ。」
「兄貴のは上品じゃなくてヘタレなだけだろうが!」
言い切ったところで、大事な所に気がつく。
「……姉妹、揃って?」
「…………んー。言うべきか。」
すぅ、とひと息吸った守華が、話し始める。
「…付き合ってもいいな、って思った直接の要因。
お前に教えてやろうか。」
「お、おう。」
「……朔夜に寝込みを襲われたことだ。」
「はァっ!?」
笑いたくなるのか。困っているのか。
オレの頭ん中の感情が、よーいドンで走り始める。
「そ、それはその、なんだ。つまりおめェらは、
やることまで、きっちりヤッちまってるワケか。」
「…勘違いするな。キスだけだ。」
守華の呆れたような一言に、少し落ち着く。
「…………もしかして、深いやつ?」
「……………………。」
黙り込んだ守華は、1度だけ、こくりと頷いた。
「………寝てる最中に、深いやつされたンか?」
「…………完全に、不意打ちでな。」
「…あ、アイツ……意外とやるなァ………。」
完全な不意打ちは、やった事がなかった。
一瞬のスキをついて、は1度だけある。
ファーストだったと後で聞いた時に、少し反省した。
「…まぁ、それに比べりゃ姉貴はまだマシか。」
「……どうだろな。」
朔夜と違って、生娘じゃない。いわば中古品。
オマケにそれなりのいわく付きかもしれない。
「………昔のこと、ネルク青年に話したのか?」
「…一応、した。」
「何だって?」
「『これから、ミーだけ、見てて欲しイ』って、
その…ギューッとしながら、言いまシタ……。」
「キャー! ネルくんやるぅ!」
カフェ『黒兎』のボックス席で、朔夜さんと話す。
恋心はとっくに諦めているけれども、
こうして友達として過ごすと気が楽で助かる。
「…意外とやるんだねぇ、ネルちゃん。」
何故か、マスターがボクの隣に座っている。
さっき店の入口の方でなにかしていたが、
まだ19時。営業中じゃないのだろうか。
「……そっか。陽暮ちゃんがねぇ…。」
「あれ、マスターと陽暮サン、仲良いんデス?」
「そうそう。君たちストーカーした時に、
連絡先とか色々交換して、仲良くなった。」
「あー、ありましたねぇ。そんなこと。」
未だにあれに関しては、怒るべきか感謝するべきか。
判断出来ないでいる自分がいる。
ストーキングされたのはたしかに嫌だったが、
そのお陰で朔夜さんは守華さんに助けられた。
……自分は陽暮さんと出会った。
「…アノ時はホント、助けられまシタ。」
「はは。お陰で次の日は身体バキバキだったよ。」
「えぇ、蹴り2発だけでそんなになるんですかぁ?」
「あのねぇ、意外と集中力いるんだよ。」
助けがなければ、朔夜さんがどうなっていたか。
…想像に難くないが、想像したくもない。
「……マァ、ミーは真剣に意識してもらえてるノカ、
よく分からナイんですけれどもネ。」
「えー、なんで?」
なんで、と聞かれると。難しいかもしれない。
「…子ども扱い、されてるんじゃないカナ、ト。」
「えぇー? そんなことないと思うけどなぁ?」
別に、それが不満かと言われれば、それも違う。
そんな空気感が、嫌いなわけじゃない。
だから、もどかしい。
「ソノ、別に文句がある訳じゃナイんデスケド…。」
「………分かるなぁ、その気持ち…。」
うん、うんと朔夜さんは大きく頷く。
「まぁ、朔夜ちゃんと守華くんも似てたしねぇ。」
「エ?」
「ちょ、店長!」
わーわー騒ぎながら、朔夜さんがマスターを止める。
「あれぇ?まだ言ってなかったんだ?
守華くんと付き合い始めたってこと……。」
「店長! 言い過ぎですって!」
あ、と気付く。
それで、か。
「…………朔夜サン、あのお兄サンと、
お付き合いしてるんデスネ……。」
「あ、えと…その……。」
朔夜さんは、少し気まずそうにする。
そりゃそうだろう。
自分だって、1度は片恋慕した身だから。
だから。
だからこそ。
これがふさわしいと思った。
「……おめでとうございマス、朔夜サン。」
「………え。」
「絶対絶対、お似合いデス!
お2人なら、ずっと仲良しデス!」
にっこり笑って、心の底からの賛辞。
そう、心の底から。
諦めた、というのも違う。
次の恋を見つけた、というのも違う。
なんというか。
朔夜さんには守華さんしかいないと思うのだ。
隣に守華さん以外がいる姿を、想像できないのだ。
もしも代わりに自分が入ったとして。
多分、それは何かが間違っている姿だと思うのだ。
「……うん、ありがとう!
ネルくんも、その…頑張って!」
「………エト。ありがとう、ございマス。」
お互いにふふっと笑って、終わり。
それで良かった。
「…………ねぇねぇ。」
「……ハイ?」
急に、マスターが喋り始めた。
「…億が一、俺と朔夜が将来的に結婚したら、
ネルク青年は俺の義兄ってことになるのか?」
「ぶっ…また、随分話飛んだなァ……。」
面白い話だが、いかんせん現実味がない。
「……ン?待て待て、オレとネルが結婚するの、
前提条件になってんじゃァねェかお前。」
「違うのか?」
「違…。」
自分の喉から、声が出てこない。
次のセリフが、出てこない。
「…………ネル次第。」
「………ま、まずは付き合ってからだな。」
「…………だな。」
とりあえず、もっかいキスしてみるか。
「…どう思ってるんだ、ネルク青年のこと。」
「……んー…。」
好き。多分、ネルの事は好きだと思う。
最初はそれこそ、つまみ食い程度の感覚でもあった。
半分は寂しかったから。
妹も、1番のダチも、いつの間にオレから離れた。
いや、今考えれば、別に離れてはいないんだけど。
もう半分は、当て付け。
一番好きなダチが、一番大事な妹に奪われたから。
いや、今考えれば、別に奪われてはいないんだけど。
けど。
なんだか、今はちょっと違う気がする。
つまるところ。
「……わからぁん…。」
「…フフ、俺もそうだったな。」
アイツがオレを好きなのか分からない。
オレが、アイツを好きなのかも、少し怪しい。
それに中古品の不良品を、新品ピカピカの優良株が、
わざわざ引き取ってくれるとも思っていない。
…思っていないが、それでも少し期待している自分。
そんな自分が大嫌いだ。
「………まぁ、そんなもんだろ。
とりあえず飲み直しだ。飲み直し。」
「……おう。」
とぽとぽと、猪口に日本酒が注がれる。
「…まぁ、深く考える必要は無いだろうよ。」
「あン? 何でだァ?」
「お前が一体全体どうかは知らんが、
ネルク青年はお前のこと好きだろうからな。」
「………何でンなこと分かんだよ…。」
「…ネルク青年は嘘をつけないだろうからな。」
その言葉に、ハッとする。
なんでオレより、こいつの方がわかってんだろう。
オレの方が、長い時間一緒にいるはずなのに。
悔しい。
「……はァー、もう告っちゃおっかなァー。」
「好きにすればいいんじゃねぇか。止めないぞ。」
タバコを灰皿の底に、ぐりぐりと押し付ける。
「…なァ。」
「……ん?」
豚串を手に取った守華に、聞きたいことがあった。
「…ぶっちゃけ、お前から見て、オレってどうよ。」
「……どうって?」
「いや、女として。」
「………んー…。」
口にタレ串を咥えながら、守華が考え込む。
「…………女として見た事ねぇ。」
「ンだよ。泣くぞ。」
「いや、そのな。」
串の先っぽをこっちに向けて、説法が始まる。
「…俺、基本的に感情は言葉にされないと、
まともに伝わんねぇんだわ。」
「……鈍感め。」
「だな。俺の欠点だ。」
そうだ。欠点だ。
同時に、オレの欠点も思い知らされる。
「……さらにもうひとつ欠点上げるなら、
俺は好意を向けられてることを言われないと、
そいつに対して好意を抱くことがほとんど無い。」
「………だな。」
だから、朔夜も、あいつも、自分から告ってる。
オレはただ、見てただけ。
「…恥ずかしい話、朔夜が俺に好意を持ってるって、
初めて気付いたのは、寝込み襲われた時だ。」
「マジ?」
「あぁ、大マジだ。朔夜が俺の部屋に来るのも、
晩飯食えるからだろうな、とか思ってた。」
多分、いや絶対。嘘じゃないんだろう。
守華は嘘が嫌いだ。
「………朔夜もよくオトしたな。」
「…しかも、ほぼ半年でな。」
くす、と守華がいたずらっぽく笑う。
オレは、この表情が好きだ。好きだった。
多分、朔夜も好きなんだろう。
「……傷心とは言え、ホントによくやったな。」
「ん、傷心って程じゃなかったけどな。」
串をカップに入れてから、酒を飲み干す。
「…俺があれと別れてから、みんな俺に対して、
なんかいろいろと気を使うようになっただろ。」
「……あんな別れ方したら、そりゃァな。」
「………なーんか、それが申し訳なくってな。」
豚串を食い終わった守華が、タバコに手を伸ばす。
中学の時から吸ってる、ウィンストン。
「…そんなバカみたいなしがらみが無くなった日に、
変な女に絡まれたよなぁ、ホント。」
「その節に関しては、すまねェまであるな。」
「フフ。今となっちゃ、あれは本当に救われたな。」
また、いたずらっぽく笑う。
その瞳には、多分オレが映ってない。
「なんかよく分からんが、マジで救われた。
そういう運命だとか、簡単な言葉で片付けるような、
そんな安っぽくてつまらんことしたくねぇ。」
遥かに遠いところを、じっと見つめるような。
昔のオレなら、嫉妬してしまうような。
それくらい、お前の朔夜を見る目が綺麗。
「…あー、また中坊の頃にでも戻って、
お前とヤンチャしてェもんだけどなァ。」
もしその頃なら、言葉にするのに。
「……ま、楽しかったよな。やっぱり。」
「だははっ。」
けど、今が幸せだから。
今が幸せそうだから。
「…まァ、これからもよろしくな。ダチとして。」
「おう。」
こういうのも、悪くない。
「………飲み過ぎたな。」
ぼけーっとしながら、アパートへの道を歩く。
時間は21時。早く始まって、早く解散した。
「…あ、お兄さん。」
「……ん?」
アパートの手前の一本道。
朔夜が居た。
「………おー。」
「いや、おーじゃないっすよ。呑んだんすか?」
「わかるか。」
「顔色はぜんぜん変わってないっすけど、
お酒の匂いはちょっとするっすよ。」
ちょっとだけ心配そうな顔をしながら、
朔夜が俺の眼前で、手のひらを振る。
「……帰りか?」
「あ、えっと。お兄さんち行こうと思ったけど、
留守だったんで、帰ろうかなって思ってたっす。」
「あー…。」
とぼとぼと歩く俺の隣に、朔夜が来る。
「…………ウチ、来るのか?」
「もちっす。カノジョなんで!」
「意味がわからん。」
意味がわからないが、クスッと笑ってしまう。
「…てか、お前合鍵持ってんだろ。」
「……いや、その。緊張するっすよ。」
わざとらしく、朔夜は目を逸らす。
「…俺がいない時に入るための合鍵だろうに。
絶好の機会に使わんでどうするんだよ。」
「……その。」
「何。」
朔夜が真下に目線を落とす。
「…お兄さんが居ない時に家に入ったら、
何しちゃうか、ボクにもわかんないんで。」
「……別に何やってもいいけどな。」
「えー? ホントにいいんすか?
家探ししてえっちなものとか見つけても。」
「いいぞ。無いし。」
これは嘘じゃない。
電源入れっぱなしのパソコンの中にさえ、
見られて困るようなものは何も入っていない。
「…ネットで見る派っすか?」
「そもそも見ねぇな…。ほとんど……。」
「えぇ? どうやって処理してんすか?」
「……ここ数年、処理自体してねぇかも。」
「えぇ〜?」
人ならざるものを見るような目で、朔夜に見られる。
まぁ、にわかには信じられないだろう。
「………枯れちゃってんすか?」
「失礼だな。まぁ、ある意味合ってるがな。」
俺の生活に必要なものは、飯とタバコと紙とペン。
あとは水もあれば特段の文句は無い。
「…でも、お兄さんの小説って、
それなりには濡れ場、多い気がするんすけど。」
「……かもなぁ。」
実際、出版側から官能小説の依頼が来ることもある。
「まさか、それが発散になってるなんてことは…。」
「さてな。」
自分のことは、自分が1番わかっていない。
少なくとも、俺はそうだと思っている。
「……あ、家探しされたら困るもの、あるな。」
「え?」
「………次に出版予定のと、初期作品の下書き。」
「え、お宝じゃないすか。初期作品のは。」
「…燃やしてしまおうか。」
俺は、自分の初期の作品がどうにも好きになれない。
世界観が綺麗すぎる。
「…お兄さんがいない間に、やってみようか……。
あ、いやでも次に出る予定のやつ見つけたら、
立ち直れないかもしれないしなぁ……。」
「なんでだ?良いじゃねぇか。」
「……ファン的にはNGなんすよ。」
「そうなのか。」
俺にはよく分からない。
「………あー、ついでに教えてやろうか。」
「え?」
「…『しにがみうた』の2期が決まったらしい。
去年のアニメが随分評価良かったらしくてな。
2期次第では、映画化も視野に入ってるそうだ。」
「……はぁ〜!?」
驚いたような、嬉しいような、怒ってるような。
そんなよく分からない声を朔夜は発した。
「困るっすよ、今言われたらぁ!」
「……何でだ?」
「今、お祝い出来ないじゃないすかぁ!」
「何でだ。そもそもしてくれなくていいが。」
朔夜が、俺の裾をギュッと引っ張る。
「フラゲなんて困るんすよぉ、マジで!
自分はドキドキワクワクしちゃうのに、
周りには絶対に言っちゃダメなことだし!
オマケにフラゲでお祝いしたらルール違反だし!」
「……なんのルール違反だ。」
「自分の中のファン…いや、オタクルールっす!!」
「そうか。」
いつかの鳩岡みたいな表情。
なんというか、ふんすっ、って感じの。
けど。
「………その顔、可愛いな。」
「ふぁっ…!?」
自分は多分、怒られているんだろう。
だが、きっとどうでもいい事に目がいってしまう。
「…今日はピアスしてないんだな。」
「あ、その…バイトだったんで。
……いや、アレがバイトだったのか分からないけど。」
「……あってもなくても、朔夜は可愛いな。」
朔夜の顔が、みるみるうちに赤くなる。
「…………酔って、ます?」
「かもな。」
夜風に煽られて、良い気分。
良い気分なのは、夜風のせいだけじゃない。
「………良いだろ、恋人なんだから。」
「……そ、そっすね…。」
自分の思ったことを、ぽつりぽつりと話すだけ。
そんな関係で、果たして恋人と言えるだろうか。
「……………お、着いたぞ。」
「…っす。」
この前、朔夜に『恋人っぽいことしてないけど』、
みたいな事をふっと言われた気がする。
「……鍵、お前が持ってるだろ?」
「…っす。」
「それで開けてくれ。」
恋人っぽいことって、そもそもなんだ?
「……え?」
「いいから。1度使っちゃえば、緊張しないだろ。」
「…………なるほど?」
キスすれば恋人っぽいことか?
セックスしたら恋人っぽいことか?
そんな安っぽいことで、恋人になるのか?
「………あ、開いたっす。」
「おう、サンキュな。」
俺は好きだ。
俺がお前のことを好きで、
お前が俺のことを好きなこの瞬間が。
「…なんか飲むか?」
「……ジンジャーエールで。」
「……お前、俺の好みに似てきてないか?」
「気のせいっすよ。気のせい。」
これ以上に、この瞬間以上に恋人っぽいことなんて、
世界中駆けずり回ってでも、見つけられるものか。
「………あれ、このゲーム買ったんすか?
ノベルゲー好きじゃないって言ってたのに?」
「…ちょっと気になったんでな。」
「……お兄さんも、ボクの好みに寄ってないすか?」
「気の所為だよ。気の所為。」
このやり取りが。
この一挙手一投足が。
「…じゃ、お兄さんがこのゲームやってるの、
ボクが後ろからじーっと見てるっす。」
「なんだそれ面白いのか。てか、何時に帰る気だ。」
「泊まるっす。」
「おう。布団2枚敷いとく。」
この想いが。
恋人っぽいことじゃなければ、なんなのだろう。
あけまして、おめでとうございます。
今年も、よろしくお願い致します。
…遅い。
事実は小説よりも奇なり、なんて言います。
絶対小説の方が奇です。
けど、普通に生きて普通に死ぬだけで、
多分、その人の人生を小説にすることって、
出来るんだろうなって思います。
一瞬の感情の揺れ動き。
それに対する自分の感想。
後悔や反省。
十人十色。多種多様。
なので正しくは、事実は小説です。
常に主人公は自分です。
そうやって生きてください。
…何様かしら。
それでは、ここまで読んでくださった皆様。
きっと優しい方なのでしょう。
そういう優しさで、この世界は回っております。
ありがとうございます。
今後とも、あなたの素晴らしいストーリーライフを、心の底からお祈りしております。
いだすけさんでした。