表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

15,変わる

中平(なかひら) 守華(ものか)

:ダチ。小説家やってる。


斜木(ななめぎ) 朔夜(さよ)

:妹。高校生やってる。


斜木(ななめぎ) 陽暮(ひぐれ)

:オレ。大工やってる。


烏野(からすの) 真星(まほし)

:マスター。サ店やってる。


ネルク・ユーテッド・シュトラウス

:ネル。高校生やってる。

「なぁ、陽暮。」

「ンだよ。」


行きつけの居酒屋で、久しぶりにサシ呑み。

相手はいつもと変わらず、守華。


「…流行りの服って、今はどんなんだ?」

「……はァ?」


守華の投げてきた話題は、想像と180°違った。

いつもだったら、最近出たゲームの話だとか、

バイクの話だとか、仕事の軽い愚痴だとか。


今更、服?


「………なんか、あンのか?」

「いや、そのな。」


灰皿に灰を落とす守華の頬は、少し赤い。


「…正式に、朔夜と付き合うことになった。」

「……え?」


その瞬間、頭は真っ白になった。

ある意味で。


「……お、おめェら…」

「だよな、そういう反応になるよな。

俺みたいな歳食ったおっさんが、朔夜と…。」

「いや、そうじゃなくて…」

「皆まで言うな、陽暮。俺だってわかってる。

夢見すぎだとか、俺ごとき釣り合ってないだとか。

そんなのはこの世界で誰よりも、俺が理解してる。」

「……まだ、付き合ってなかったンか?」


今度は、守華が固まった。


「…え?」

「お待たせ致しました〜。

熱燗と豚串のタレ5本です〜。」

「あ、すまねェ。そこ置いといてくれ。」

「かしこまりましたぁ〜。」


ポケットをさぐって、ライターとタバコを取る。


「……では、失礼致します〜。」

「おー、サンキュなァー。」


マールボロを1本取りだして、口にする。


「…て、どういう意味だ今の。」

「あン?」


ライターの発火石を擦り、火を付ける。


「…………ふぁーっ………で、今のって何だァ?」

「いや、まだ付き合ってなかったとか。」

「はァ?」


すぅ、と煙を吸い込む。


「…おめェが朔夜に過去話してたあたりで、

もう付き合ってると思ってたンだよ。」

「……なるほどな。」

「だってよォ、毎日楽しそうにおめェんトコ行って、

毎日ニッコニコで帰ってくンだぜ?」

「そうだったのか。」


日本酒をちびちびやりながら、酒の肴に恋バナ。


大学生かオレらは。


「……まだ付き合ってねェかったんなら、

オレにもチャンスあったんだな…。」

「…ん?」

「気にすんな。」


10年来。

朔夜なら良いかって諦めたから。

今更掘り返さない。


今は、幸せだし。


「……あ、そういえば。」

「ンだ?」


ぴっ、と守華の小指がオレの方に向く。


「……ネルク青年に手を出したらしいな。お前。」

「………はァッ!?」


ぼうっ、と顔が燃えるのを感じる。

なんで、なんでお前が知ってる?


「…まぁ、俺も似たような立場だから責めんが。」

「お、おう…ッてか、なんで知ってンだよ!?」


猪口に入った日本酒を飲み干してから、

守華は改めて、オレと真正面から向かい合った。


「朔夜からいろいろと聞いたんだよ。

『ネルくんがよく出入りしてる』ってな感じで。」

「で、でも付き合ってるなんてどうわかるんだよ?」

「…俺は、『手を出した』としか言ってねぇぞ。」

「あ。」


しまった。


「…………ほー、付き合ったんだ?」

「ま、まだ付き合ってねェ!付き合ってねェって!」

「……いつか付き合う気はあるんだな?」


全力で否定する。

否定するが、否定できているかはわからん。


「…け、けど……。」

「ん?」

「…………しょのー…。」

「何だ?」

「キス、は。した。3回、くらい。」


ニヤニヤと笑っていた守華の目は、まんまるになる。


「あ、ごめ、ウソ。多分、10回くらい、かも。」

「…どっちから?」

「……全部、オレから。直近のは、押し倒しかけた。」

「…………はぁ。」


守華が大きくため息をつく。


「しゃ、しゃーねェだろ! オレだってさ…。」


傷心気味、だったし。

だからこそ、ネルに惹かれたのもあるし。


「…お前ら、姉妹揃ってそうなんだな。

1番上の兄貴が1番上品なのは、どうなんだよ。」

「兄貴のは上品じゃなくてヘタレなだけだろうが!」


言い切ったところで、大事な所に気がつく。


「……姉妹、揃って?」

「…………んー。言うべきか。」


すぅ、とひと息吸った守華が、話し始める。


「…付き合ってもいいな、って思った直接の要因。

お前に教えてやろうか。」

「お、おう。」

「……朔夜に寝込みを襲われたことだ。」

「はァっ!?」


笑いたくなるのか。困っているのか。

オレの頭ん中の感情が、よーいドンで走り始める。


「そ、それはその、なんだ。つまりおめェらは、

やることまで、きっちりヤッちまってるワケか。」

「…勘違いするな。キスだけだ。」


守華の呆れたような一言に、少し落ち着く。


「…………もしかして、深いやつ?」

「……………………。」


黙り込んだ守華は、1度だけ、こくりと頷いた。


「………寝てる最中に、深いやつされたンか?」

「…………完全に、不意打ちでな。」

「…あ、アイツ……意外とやるなァ………。」


完全な不意打ちは、やった事がなかった。

一瞬のスキをついて、は1度だけある。

ファーストだったと後で聞いた時に、少し反省した。


「…まぁ、それに比べりゃ姉貴はまだマシか。」

「……どうだろな。」


朔夜と違って、生娘じゃない。いわば中古品。

オマケにそれなりのいわく付きかもしれない。


「………昔のこと、ネルク青年に話したのか?」

「…一応、した。」

「何だって?」






「『これから、ミーだけ、見てて欲しイ』って、

その…ギューッとしながら、言いまシタ……。」

「キャー! ネルくんやるぅ!」


カフェ『黒兎』のボックス席で、朔夜さんと話す。

恋心はとっくに諦めているけれども、

こうして友達として過ごすと気が楽で助かる。


「…意外とやるんだねぇ、ネルちゃん。」


何故か、マスターがボクの隣に座っている。

さっき店の入口の方でなにかしていたが、

まだ19時。営業中じゃないのだろうか。


「……そっか。陽暮ちゃんがねぇ…。」

「あれ、マスターと陽暮サン、仲良いんデス?」

「そうそう。君たちストーカーした時に、

連絡先とか色々交換して、仲良くなった。」

「あー、ありましたねぇ。そんなこと。」


未だにあれに関しては、怒るべきか感謝するべきか。

判断出来ないでいる自分がいる。


ストーキングされたのはたしかに嫌だったが、

そのお陰で朔夜さんは守華さんに助けられた。

……自分は陽暮さんと出会った。


「…アノ時はホント、助けられまシタ。」

「はは。お陰で次の日は身体バキバキだったよ。」

「えぇ、蹴り2発だけでそんなになるんですかぁ?」

「あのねぇ、意外と集中力いるんだよ。」


助けがなければ、朔夜さんがどうなっていたか。

…想像に難くないが、想像したくもない。


「……マァ、ミーは真剣に意識してもらえてるノカ、

よく分からナイんですけれどもネ。」

「えー、なんで?」


なんで、と聞かれると。難しいかもしれない。


「…子ども扱い、されてるんじゃないカナ、ト。」

「えぇー? そんなことないと思うけどなぁ?」


別に、それが不満かと言われれば、それも違う。

そんな空気感が、嫌いなわけじゃない。


だから、もどかしい。


「ソノ、別に文句がある訳じゃナイんデスケド…。」

「………分かるなぁ、その気持ち…。」


うん、うんと朔夜さんは大きく頷く。


「まぁ、朔夜ちゃんと守華くんも似てたしねぇ。」

「エ?」

「ちょ、店長!」


わーわー騒ぎながら、朔夜さんがマスターを止める。


「あれぇ?まだ言ってなかったんだ?

守華くんと付き合い始めたってこと……。」

「店長! 言い過ぎですって!」


あ、と気付く。


それで、か。


「…………朔夜サン、あのお兄サンと、

お付き合いしてるんデスネ……。」

「あ、えと…その……。」


朔夜さんは、少し気まずそうにする。


そりゃそうだろう。

自分だって、1度は片恋慕した身だから。


だから。

だからこそ。

これがふさわしいと思った。


「……おめでとうございマス、朔夜サン。」

「………え。」

「絶対絶対、お似合いデス!

お2人なら、ずっと仲良しデス!」


にっこり笑って、心の底からの賛辞。

そう、心の底から。


諦めた、というのも違う。

次の恋を見つけた、というのも違う。


なんというか。


朔夜さんには守華さんしかいないと思うのだ。

隣に守華さん以外がいる姿を、想像できないのだ。

もしも代わりに自分が入ったとして。

多分、それは何かが間違っている姿だと思うのだ。


「……うん、ありがとう!

ネルくんも、その…頑張って!」

「………エト。ありがとう、ございマス。」


お互いにふふっと笑って、終わり。

それで良かった。


「…………ねぇねぇ。」

「……ハイ?」


急に、マスターが喋り始めた。






「…億が一、俺と朔夜が将来的に結婚したら、

ネルク青年は俺の義兄ってことになるのか?」

「ぶっ…また、随分話飛んだなァ……。」


面白い話だが、いかんせん現実味がない。


「……ン?待て待て、オレとネルが結婚するの、

前提条件になってんじゃァねェかお前。」

「違うのか?」

「違…。」


自分の喉から、声が出てこない。

次のセリフが、出てこない。


「…………ネル次第。」

「………ま、まずは付き合ってからだな。」

「…………だな。」


とりあえず、もっかいキスしてみるか。


「…どう思ってるんだ、ネルク青年のこと。」

「……んー…。」


好き。多分、ネルの事は好きだと思う。

最初はそれこそ、つまみ食い程度の感覚でもあった。


半分は寂しかったから。

妹も、1番のダチも、いつの間にオレから離れた。

いや、今考えれば、別に離れてはいないんだけど。


もう半分は、当て付け。

一番好きなダチが、一番大事な妹に奪われたから。

いや、今考えれば、別に奪われてはいないんだけど。


けど。


なんだか、今はちょっと違う気がする。


つまるところ。


「……わからぁん…。」

「…フフ、俺もそうだったな。」


アイツがオレを好きなのか分からない。

オレが、アイツを好きなのかも、少し怪しい。


それに中古品の不良品を、新品ピカピカの優良株が、

わざわざ引き取ってくれるとも思っていない。


…思っていないが、それでも少し期待している自分。

そんな自分が大嫌いだ。


「………まぁ、そんなもんだろ。

とりあえず飲み直しだ。飲み直し。」

「……おう。」


とぽとぽと、猪口に日本酒が注がれる。


「…まぁ、深く考える必要は無いだろうよ。」

「あン? 何でだァ?」

「お前が一体全体どうかは知らんが、

ネルク青年はお前のこと好きだろうからな。」

「………何でンなこと分かんだよ…。」

「…ネルク青年は嘘をつけないだろうからな。」


その言葉に、ハッとする。

なんでオレより、こいつの方がわかってんだろう。


オレの方が、長い時間一緒にいるはずなのに。


悔しい。


「……はァー、もう告っちゃおっかなァー。」

「好きにすればいいんじゃねぇか。止めないぞ。」


タバコを灰皿の底に、ぐりぐりと押し付ける。


「…なァ。」

「……ん?」


豚串を手に取った守華に、聞きたいことがあった。


「…ぶっちゃけ、お前から見て、オレってどうよ。」

「……どうって?」

「いや、女として。」

「………んー…。」


口にタレ串を咥えながら、守華が考え込む。


「…………女として見た事ねぇ。」

「ンだよ。泣くぞ。」

「いや、そのな。」


串の先っぽをこっちに向けて、説法が始まる。


「…俺、基本的に感情は言葉にされないと、

まともに伝わんねぇんだわ。」

「……鈍感め。」

「だな。俺の欠点だ。」


そうだ。欠点だ。


同時に、オレの欠点も思い知らされる。


「……さらにもうひとつ欠点上げるなら、

俺は好意を向けられてることを言われないと、

そいつに対して好意を抱くことがほとんど無い。」

「………だな。」


だから、朔夜も、あいつ(・・・)も、自分から告ってる。

オレはただ、見てただけ。


「…恥ずかしい話、朔夜が俺に好意を持ってるって、

初めて気付いたのは、寝込み襲われた時だ。」

「マジ?」

「あぁ、大マジだ。朔夜が俺の部屋に来るのも、

晩飯食えるからだろうな、とか思ってた。」


多分、いや絶対。嘘じゃないんだろう。

守華は嘘が嫌いだ。


「………朔夜もよくオトしたな。」

「…しかも、ほぼ半年でな。」


くす、と守華がいたずらっぽく笑う。

オレは、この表情が好きだ。好きだった。

多分、朔夜も好きなんだろう。


「……傷心とは言え、ホントによくやったな。」

「ん、傷心って程じゃなかったけどな。」


串をカップに入れてから、酒を飲み干す。


「…俺があれ(・・)と別れてから、みんな俺に対して、

なんかいろいろと気を使うようになっただろ。」

「……あんな別れ方したら、そりゃァな。」

「………なーんか、それが申し訳なくってな。」


豚串を食い終わった守華が、タバコに手を伸ばす。

中学の時から吸ってる、ウィンストン。


「…そんなバカみたいなしがらみが無くなった日に、

変な女に絡まれたよなぁ、ホント。」

「その節に関しては、すまねェまであるな。」

「フフ。今となっちゃ、あれは本当に救われたな。」


また、いたずらっぽく笑う。

その瞳には、多分オレが映ってない。


「なんかよく分からんが、マジで救われた。

そういう運命だとか、簡単な言葉で片付けるような、

そんな安っぽくてつまらんことしたくねぇ。」


遥かに遠いところを、じっと見つめるような。

昔のオレなら、嫉妬してしまうような。


それくらい、お前の朔夜を見る目が綺麗。


「…あー、また中坊の頃にでも戻って、

お前とヤンチャしてェもんだけどなァ。」


もしその頃なら、言葉にするのに。


「……ま、楽しかったよな。やっぱり。」

「だははっ。」


けど、今が幸せだから。

今が幸せそうだから。


「…まァ、これからもよろしくな。ダチとして。」

「おう。」


こういうのも、悪くない。






「………飲み過ぎたな。」


ぼけーっとしながら、アパートへの道を歩く。

時間は21時。早く始まって、早く解散した。


「…あ、お兄さん。」

「……ん?」


アパートの手前の一本道。

朔夜が居た。


「………おー。」

「いや、おーじゃないっすよ。呑んだんすか?」

「わかるか。」

「顔色はぜんぜん変わってないっすけど、

お酒の匂いはちょっとするっすよ。」


ちょっとだけ心配そうな顔をしながら、

朔夜が俺の眼前で、手のひらを振る。


「……帰りか?」

「あ、えっと。お兄さんち行こうと思ったけど、

留守だったんで、帰ろうかなって思ってたっす。」

「あー…。」


とぼとぼと歩く俺の隣に、朔夜が来る。


「…………ウチ、来るのか?」

「もちっす。カノジョなんで!」

「意味がわからん。」


意味がわからないが、クスッと笑ってしまう。


「…てか、お前合鍵持ってんだろ。」

「……いや、その。緊張するっすよ。」


わざとらしく、朔夜は目を逸らす。


「…俺がいない時に入るための合鍵だろうに。

絶好の機会に使わんでどうするんだよ。」

「……その。」

「何。」


朔夜が真下に目線を落とす。


「…お兄さんが居ない時に家に入ったら、

何しちゃうか、ボクにもわかんないんで。」

「……別に何やってもいいけどな。」

「えー? ホントにいいんすか?

家探ししてえっちなものとか見つけても。」

「いいぞ。無いし。」


これは嘘じゃない。

電源入れっぱなしのパソコンの中にさえ、

見られて困るようなものは何も入っていない。


「…ネットで見る派っすか?」

「そもそも見ねぇな…。ほとんど……。」

「えぇ? どうやって処理してんすか?」

「……ここ数年、処理自体してねぇかも。」

「えぇ〜?」


人ならざるものを見るような目で、朔夜に見られる。

まぁ、にわかには信じられないだろう。


「………枯れちゃってんすか?」

「失礼だな。まぁ、ある意味合ってるがな。」


俺の生活に必要なものは、飯とタバコと紙とペン。

あとは水もあれば特段の文句は無い。


「…でも、お兄さんの小説って、

それなりには濡れ場、多い気がするんすけど。」

「……かもなぁ。」


実際、出版側から官能小説の依頼が来ることもある。


「まさか、それが発散になってるなんてことは…。」

「さてな。」


自分のことは、自分が1番わかっていない。

少なくとも、俺はそうだと思っている。


「……あ、家探しされたら困るもの、あるな。」

「え?」

「………次に出版予定のと、初期作品の下書き。」

「え、お宝じゃないすか。初期作品のは。」

「…燃やしてしまおうか。」


俺は、自分の初期の作品がどうにも好きになれない。

世界観が綺麗すぎる。


「…お兄さんがいない間に、やってみようか……。

あ、いやでも次に出る予定のやつ見つけたら、

立ち直れないかもしれないしなぁ……。」

「なんでだ?良いじゃねぇか。」

「……ファン的にはNGなんすよ。」

「そうなのか。」


俺にはよく分からない。


「………あー、ついでに教えてやろうか。」

「え?」

「…『しにがみうた』の2期が決まったらしい。

去年のアニメが随分評価良かったらしくてな。

2期次第では、映画化も視野に入ってるそうだ。」

「……はぁ〜!?」


驚いたような、嬉しいような、怒ってるような。

そんなよく分からない声を朔夜は発した。


「困るっすよ、今言われたらぁ!」

「……何でだ?」

「今、お祝い出来ないじゃないすかぁ!」

「何でだ。そもそもしてくれなくていいが。」


朔夜が、俺の裾をギュッと引っ張る。


「フラゲなんて困るんすよぉ、マジで!

自分はドキドキワクワクしちゃうのに、

周りには絶対に言っちゃダメなことだし!

オマケにフラゲでお祝いしたらルール違反だし!」

「……なんのルール違反だ。」

「自分の中のファン…いや、オタクルールっす!!」

「そうか。」


いつかの鳩岡みたいな表情。

なんというか、ふんすっ、って感じの。


けど。


「………その顔、可愛いな。」

「ふぁっ…!?」


自分は多分、怒られているんだろう。

だが、きっとどうでもいい事(・・・・・・・)に目がいってしまう。


「…今日はピアスしてないんだな。」

「あ、その…バイトだったんで。

……いや、アレがバイトだったのか分からないけど。」

「……あってもなくても、朔夜は可愛いな。」


朔夜の顔が、みるみるうちに赤くなる。


「…………酔って、ます?」

「かもな。」


夜風に煽られて、良い気分。

良い気分なのは、夜風のせいだけじゃない。


「………良いだろ、恋人なんだから。」

「……そ、そっすね…。」


自分の思ったことを、ぽつりぽつりと話すだけ。

そんな関係で、果たして恋人と言えるだろうか。


「……………お、着いたぞ。」

「…っす。」


この前、朔夜に『恋人っぽいことしてないけど』、

みたいな事をふっと言われた気がする。


「……鍵、お前が持ってるだろ?」

「…っす。」

「それで開けてくれ。」


恋人っぽいことって、そもそもなんだ?


「……え?」

「いいから。1度使っちゃえば、緊張しないだろ。」

「…………なるほど?」


キスすれば恋人っぽいことか?

セックスしたら恋人っぽいことか?


そんな安っぽいことで、恋人になるのか?


「………あ、開いたっす。」

「おう、サンキュな。」


俺は好きだ。

俺がお前のことを好きで、

お前が俺のことを好きなこの瞬間が。


「…なんか飲むか?」

「……ジンジャーエールで。」

「……お前、俺の好みに似てきてないか?」

「気のせいっすよ。気のせい。」


これ以上に、この瞬間以上に恋人っぽいことなんて、

世界中駆けずり回ってでも、見つけられるものか。


「………あれ、このゲーム買ったんすか?

ノベルゲー好きじゃないって言ってたのに?」

「…ちょっと気になったんでな。」

「……お兄さんも、ボクの好みに寄ってないすか?」

「気の所為だよ。気の所為。」


このやり取りが。

この一挙手一投足が。


「…じゃ、お兄さんがこのゲームやってるの、

ボクが後ろからじーっと見てるっす。」

「なんだそれ面白いのか。てか、何時に帰る気だ。」

「泊まるっす。」

「おう。布団2枚敷いとく。」


この想いが。


恋人っぽいことじゃなければ、なんなのだろう。

あけまして、おめでとうございます。

今年も、よろしくお願い致します。

…遅い。


事実は小説よりも奇なり、なんて言います。

絶対小説の方が奇です。

けど、普通に生きて普通に死ぬだけで、

多分、その人の人生を小説にすることって、

出来るんだろうなって思います。

一瞬の感情の揺れ動き。

それに対する自分の感想。

後悔や反省。

十人十色。多種多様。

なので正しくは、事実は小説です。

常に主人公は自分です。

そうやって生きてください。

…何様かしら。


それでは、ここまで読んでくださった皆様。

きっと優しい方なのでしょう。

そういう優しさで、この世界は回っております。

ありがとうございます。


今後とも、あなたの素晴らしいストーリーライフを、心の底からお祈りしております。


いだすけさんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ