1,おかしなひとたちと、おかしなであいと
「…………はぁ。」
月の無い夜。星さえ霞ませる街並。
空には何も無い。そんな日。
『先週の火曜日に『乳ガン』で亡くなった、
剣道家で女優の「鹿島 凛」さんの葬儀が、
本日執り行われました…。』
街の大画面には、どうでもいい深夜ニュースが映る。
『鹿島さんは享年23歳…あまりに早い天才の死に、
町やネットでは、嘆きの声が上がっております。』
スクリーンの前で、ぼんやりと立ち尽くす。
特にどこに行くわけでも無い。ただの散歩。
「……ねぇ。」
『環境省の就鳥大臣や、新羽出版の燕昇司社長、
シュトラウステクノロジーのアイド副社長など、
様々な界隈から著名人が参列しました……。』
「…………。」
「……………ねぇ、そこのお兄さん。」
「………………。」
「……ねぇってば!」
「…………あん?」
その瞬間、俺の夜に月が昇った。
「そこの背の高いスーツのお兄さん!
もしかして今、暇じゃないすか?」
「……はぁ。生憎今はそう言う気分じゃねぇ。」
「………え?」
「……どっかの店の引張りだろ?
………地雷系コンセプトの。」
「…ち、違うっす違うっす!
ボクはただの一般女子高生っす!」
俺の目の前にいる、妙なちっこい女。
白い、あのよくわからんフリフリのついたシャツに、
首元にはグレーのリボンが光っている。
下は黒のスカートだろうか。
サイドにベルトの模様がついていて洒落ている。
耳にはいくつものピアスが付いている。
背中に大きめのリュックを背負った、そんな女。
いわゆる、地雷系ファッションとでも言えばいいか。
純黒の髪をショートにした、ボーイッシュな美少女。
「……一般女子高生なら、尚更何の用だ。」
「いやぁ〜、なんか暇そうな背中だったんで……。
つい声掛けちゃっただけなんですよ……。」
変な女。
「じゃあ、もう用はないな。じゃあな。」
「わーっ!待って、待って!こんな深夜に、
こんな街で女の子一人にする気っすか!?」
「……元々は1人だったろうが。」
「いやぁ、河川敷から付いてきた…じゃなくて。
まぁ、なんでもいいじゃないっすか!」
妙なのに捕まったな。
今日はとことんツイてない。
「お兄さん、どっか行きましょ!どっか!」
「……どっかって、どこだよ。」
「………えーと、コンビニ…とか?」
「…………わかったわかった、背中押すな。」
どっかで撒いて、さっさと帰るか。
「っしゃっさっせ〜。」
「……結局コンビニまで来ちまった。」
「ん、なんか言いました?お兄さん?」
よく聞くBGMが流れる、どこにでもあるコンビニ。
「何買うんだ。」
「飲み物に食い物に…あと……何だろう?」
「……さっさと済ませるぞ。」
女はぱたぱたと店内を走り回る。
「あ、コレコレ〜!
このエナジードリンクが1番好きなんすよね〜!」
「……ほー、良いじゃねぇか。」
その少女は、三本の爪痕が付いた缶を取る。
色は白。俺の一番好きなフレーバー。
「お? お兄さんも、もしかしてこれ好きっすか〜?」
「……まぁ、な。」
「んじゃ、2本買っていきましょうか?」
「………ほら、カゴに入れろ。」
「あざーっす!」
少女は惣菜の方に走っていく。
「……ど・れ・に・し・よ・う・か・な・?」
「…おにぎりか?」
「うーん…おにぎりの具って色々あるっすけど、
お兄さんは何が好きっすか?」
「……胡麻昆布。」
「おお、なかなか渋いとこ突くっすね。
じゃ、胡麻昆布とエビマヨと〜……。
……あ、これも欲しいっすね。」
俺の持つカゴに色々と食べ物が入っていく。
「ただーまからっげぼー、あげたてーす。」
「……コンビニのホットスナックって、
えもいわれぬ魅力持ってるっすよね…。」
「………わかったわかった。好きなの買え。」
「うっし!甘えてみるもんすね〜。」
「甘えたっつーか、たかったっつーか…。」
レジの方に歩を進める。
何故か分からないが。ゆっくり、ゆっくり。
「っざぁっとござーす。」
「えと、唐揚げ棒2本お願いします。」
「あーりゃとざーす。」
随分とやる気の無い店員だな。
まぁ、0時にやる気がある人が沢山いても困るが。
「あ、すまん。キャビンのロースト1つ。」
「あっかりゃしたー。」
「……お兄さん、タバコ吸うんすね。」
「まぁな。」
どうでもいいがこの店員、動きは速い。
歴、そこそこ長いんだろうか。
「にせーっひゃくあんじゅーよえんでーす。」
「あ、袋頼めるか。」
「あーかりゃしたー。ごえんかかりゃしてー、
にせんっひゃくあんじゅきゅーえんでーす。」
2139円。コンビニユーザーでは無いからだが、
こんなに色々買うのは初めてかもしれない。
「んーと……あ、ピッタリあるな。」
自動精算機に金を突っ込む。
機械は音を立てて、全て飲み込んでいく。
「あるぁっとぉーざいやしたぁー。」
「ありがとございました、お兄さん!」
「はぁ……気は済んだか?」
「はい!じゃあこれどっかで食べましょ!一緒に!」
「…………はい?」
深夜の行脚はまだ続くらしい。
「ちょーっと歩いたら、落ち着いた公園がある。
都会ってのは割とすぐ抜けられるんすよねぇ。」
「そうかもな。」
入口から1番近いベンチに腰かける。
すぐに少女も俺の左側に座る。
「で、お前はいつ帰るんだ?」
「え? …まぁ、どうでもいいじゃないすか。
食べましょ食べましょ!」
袋をばっと開いて、少女は白い缶を2つ取り出した。
「…はいっ!まずは、お疲れ様っした!」
「……あぁ、ありがと。」
缶のプルタブを手前側に曲げる。
ぱしゅっ、と良い音が辺りに鳴り響く。
「お疲れさまーっす!かんぱーい!」
「………乾杯。」
俺の持つ缶を、もう1つの缶にこつんと当てる。
「んくっ、っんくっ……!ぷはぁーっ!美味ぇ〜!」
「……いい飲みっぷりだな。」
エナジードリンクを飲んだ少女の目は輝いていた。
「いやぁ、美味いっすよねぇ。この味。
何味とかわかんないすけど……
それでもなんか、無性に飲みたくなるんすよ。」
「ま、言いたいことは分かるな。」
缶に口を付ける。
……甘い。久しぶりに飲んだ。
言葉で表現するのは難しいが、癖になる味。
「……ふぅ。美味い。」
「えーと、次は〜……。」
少女は袋の中をがさがさと漁る。
「あったあった!おにぎり!胡麻昆布とエビマヨ!」
俺の手の上に、おにぎりが2つ乗る。
「さ、食べましょ食べましょ〜。」
器用にフィルムを剥がしていくのを傍目に、
手の中に収まった2つのおにぎりを眺める。
……久しぶりに食うな。
「……いただきます! はむっ!
……………んーっ!美味ぇっすわ〜!」
「…美味しそうに食うな。お前。」
「当たり前っすよ!
ご飯てのは美味しく食べるもんっすから!」
にっこにこでおにぎりに食いつくのを見ながら、
自分も噛み付いてみた。
…美味い。パリッとした海苔から薫る磯の香りと、
キメの細かい米がマッチしている。
胡麻の風味と甘い味付、昆布の食感が非常に良い。
全てが合わさって、ひとつの料理になっている。
「……美味いな。」
「そうっすよねー!フィルムおにぎりって、
なんか美味しいんすよね。コレ。
……っとぉ、忘れるところだった。」
袋の下の方から、少女は何かを取りだした。
「コレコレ〜。唐揚げ棒っすよ〜。」
「……あぁ、買ってたなそういえば。」
「コメにはおかずが要るっすからね〜。ハイ。」
「ん、ありがとな。」
紙の袋を結ぶテープを剥がして、口を開ける。
揚げたての唐揚げの薫りが鼻に突き刺さる。
いつ嗅いでも、食欲をそそらせる香ばしい匂い。
「ん〜っ……唐揚げ棒をおかずにおにぎりを食う!
コンビニ飯における正解の1つっすね!お兄さん!」
「…まぁ、美味いよな。」
ザクっと良い音を鳴らした唐揚げから、
旨味と肉汁がじんわりと滲み出してくる。
狐色のよく揚がった衣が、食感にアクセントを出す。
唐揚げほど人類を魅了する料理は、中々無いだろう。
同時に、これほど米と合う料理も滅多に無い。
米と米の間を縫って、肉と油の旨味が駆け巡る。
エビマヨにも手をつける。
エビ自身の食感と、マヨネーズの甘みと酸味。
それを米と海苔が包み込むことで完成している。
いつもは食わない具だが、これはこれで美味い。
「ん〜、まだなんか買ってたっすよねぇ〜…。
お、あったあった。」
彼女の手には、サンドイッチが握られていた。
「…そんなの買ってたのか。 ……ハムレタスか?」
「お? そうっすそうっす!
結局この王道がいちばん美味いんすよねぇ〜。」
「全く賛成だな。」
食の好みは合うみたいだな。
「……1個しか買ってないんだな?」
「2個入りっすからね。半分こっすよ。ハイ!」
おにぎりを食べきった左手にサンドイッチが乗る。
「ハムレタス美味ぇ〜!
レタスほどパンに合う野菜もないっすよ〜!」
「…今更だが、お前声デカイな?」
「………迷惑っすかね?」
「……まぁ、周りに家無いしな。三方は林だし。」
「…つまり?」
「………声出してもいいぞ。」
「……………なんかスケベっすね。そのセリフ。」
「………何に影響されたんだ。」
「…世界一好きな作家様の小説から…。へへ……。」
……こいつ、小説オタクか。
「…小説好きなんだな。」
「まぁ、正確には全方位オタクっすけど……。
小説は大好きっすね……。えへへ…………。」
「…………ふーん。」
「…な、何っすか? その間……。」
「………別に? フフっ。」
「何っすか! その笑い!」
面白いことも、あるもんだな。
「ま、何でもいいだろ。サンドイッチ食わせろ。」
「…いや、まだ話は終わってないっすよ!?」
ぱりっという快音が口の中で鳴る。
「何で笑ってたんすか!」
ジューシーなレタスから水分が溢れ出る。
「ねぇ、無視しても無駄っすよ!」
ハムとマヨネーズもレタスとベストマッチだ。
「お兄さんってば!ねぇねぇ!」
何層にも重なった旨みが口の中に溢れる。
「お兄さん……お兄さん?」
最初から同じ存在だったように綺麗に混ざる旨味。
「……お兄さん!」
柔らかいパンがこの美味さを後押しする。
「おにーさん!!」
シンプル・イズ・ベストとはまさしくこいつの事だ。
「お! に! い! さ! ん!」
視点が砂の地面から碧眼に移り変わる。
「………なんで変に笑ったんすか?」
「…お前、碧眼だったんだな。」
「……い、今はいいじゃないすか!ボクのことは!」
「…割と綺麗な色してるな。」
「……い、いやぁ〜、それほどでもあるっすよ!」
おだてりゃ木に登るくらいのちょろさで助かる。
「……そ、そういえばお兄さんは琥珀眼なんすね。」
「…血筋の影響でな。」
じぃっと瞳をのぞき込まれた。
「じゃあ、この金髪も?」
髪を指先でいじられる。
柔らかい手の感覚が、髪を通じて伝わる。
「……あんまり他人の髪をいじんな。
…地毛だよ。お袋の方の爺さんがイギリス人でな。」
「へぇ……。染めてんのかと思ったっす………。
…………なんか雰囲気ちょっと怖いし…。」
「非常に失礼だな…お前。事実だから構わんが。」
少女は興味深そうに髪をいじり続ける。
少しくすぐったい。
「……キレーな色っすねぇ…。」
「…いじりすぎだ。そろそろ辞めろバカ。」
「…もう少しだけ、もう少しだけ。
その……触らせて欲しいっす。」
「…………はぁ。もう好きにしろ。」
少しだけ、寂しくない。かもしれない。
「…10分以上も他人の髪いじくり回す奴があるか。」
「………すんませんっす。」
「唐揚げ棒がしっかり冷めたぞ。」
ひとつだけ、哀れに串に刺された唐揚げを頬張る。
……冷めても結構美味いもんだな。
「……ま、減るもんじゃないから別にいいが…。」
「…………マジですんませんした。」
しょぼんとしてしまった。
……強く言い過ぎちまったかな。
「……そんなにしょぼくれんな。ほれ。」
「んむっ…。」
サンドイッチを半分ちぎって彼女の口に突っ込む。
「……ん…美味しいっすね。やっぱり。」
あらゆる悲しみはパンがあれば少なくなる、
とはよく言ったものだと感心した。
口の中に放り込んだサンドイッチを咀嚼しながら、
その効果をたった今実感している。
「はぁ……。今何時だ…?」
「んーと……。1時半…っすね。」
「………そろそろ帰るか?」
夜も更けてきた。
「……こんな真夜中に、女の子放り出す気っすか?」
「…じゃあどうする気だよ?」
「……ここで寝てください。」
「新手の拷問か?」
流石に野晒しで寝るほど、落ちぶれてはいない。
「いや、流石にこのまま寝かせないっすよ!
ちゃんとボクは準備してきてるっす!」
「……準備って、何のだよ?」
「………お兄さん安眠装備一式?」
なんだそりゃ。
「…なんでそんなもん持ってきてんだよ。」
「えーと…その………何でもいいじゃないっすか!」
「……で、どんなの持ってきてんだ?」
「うーん……ブランケットに…耳かき棒………。
あとはカイロに…ホットアイマスク…?
とにかく色々あるっすよ!」
俺に何をする気だ。
「……じゃ、ブランケットだけ貸せ。」
「…それ以外はいらないんすか?」
「………あー、枕かその代用品無ぇか?」
「ふふん、ありますよ!ここに!」
そう言って少女は、自慢気に自分の太腿を指差した。
「…無いが?」
「あるっすよ! 女子高生の膝枕!」
「普通に事案だろ。」
「合意っすから大丈夫っすよ!?」
「俺の合意が無いが?」
なんなんだこの押し問答。せめて逆だろ。普通。
「とーにーかーく!何でも良いんで寝てください!」
思いきり頭を両手で包まれ、視点が太腿まで落ちた。
…脈音がはっきり聞こえてきた。
いつも感謝している耳を、今回は少しだけ恨んだ。
「…どうっすか? 膝枕。気持ちいいでしょ?」
「………かもな。」
「お!? お兄さん!やっとデレたっすか〜?」
「………はぁ。」
とりあえず上を向いた。
障壁は何も無く、少女の顔がただ見えるだけ。
遠くにはうっすらと星空が見える。雲も少ない。
「……おい。お前。」
「んー? どーしたっすかー?」
「………財布は右ポケットに入ってる。
メインの財布は家に置いてあるから問題無ぇ。
10万とちょっとくらい入ってるはずだから、
小遣い稼ぎにゃなるだろ。好きに取れ。」
「じゅうまんっ……!?
……って、いやそもそも盗みませんよ!
ボクのことをなんだと思ってるんすか!」
「……こうして小遣い稼ぎやってるんじゃねぇの?」
「そんなことしてたら危な過ぎるし…!
第一、誰にでもこんなことできるほど……っ!
と、とにかく!絶対安全に朝を迎えられますから!」
「………そうか。」
変な女。
俺、金毟る以外に何か利用価値でもあるんだろうか。
……あったらこんな事になってねぇか。
「……お兄さん。寒いっすよね。
……その、ブランケットかけます?」
「…………悪ぃな。」
「………やっぱりホットアイマスク、付けます?」
「……………頼むわ。」
……にしたって。
「………お前、いつ寝るんだ?」
「うおっ!? お兄さんまだ起きてたんすか!?」
何十分経ったか知らんが、意識はまだ飛ばなかった。
同時に、俺が使わされてる枕が眠る様子もなかった。
「…いやー、ボク、カフェイン効きやすい体質で…。
エナドリ1本飲んじゃったら寝れないんすよ……。」
「…………ふーん。」
「そういえば、お兄さんも飲んでましたよね?
ちゃんと寝れるんすか?」
「…俺は逆だ。カフェイン全く効かない体質でな。」
「へぇ…。」
まぁ味が好きだから、エナドリはたまに飲むんだが。
「…ん。」「…………!?」
頭をふわっと触られた。
「……お前、今何した?」
「その……頭、撫でました。」
「………何でまた。」
「…なんか、リラックスするかなって。」
「…普通に事案だろ。」
「大丈夫っす!お兄さんにしかやんないんで!」
「…………はぁ。」
ホントに…………変な女。
「…触ってて、いいっすか?
…触り心地良くて、好きなんすよ。お兄さんの髪。」
「………好きにしろ。」
「あざーっす!」
はぁ、と薄くため息をつく。
「……おー、このロザリオかっこいいっすねぇ。」
俺の胸にかかるロザリオが、柔らかい手で弄られる。
「…スーツでロザリオって、
なんかのキャラみたいっすね。お兄さん。」
「……悪いかよ。」
随分と、よく喋る枕だ。
「……あんまりいじるなよ。壊したら怒るぞ。」
「…うす。おやすみなさい。」
変わった枕じゃ、なかなか眠れないものだな。
「……おにーさん?」
……。
「…………おにぃさん?」
…誰の声だ?
「……朝っすよー?」
……朝?
「………アイマスク取るっすよ〜?」
「…起きてるさ。」
「うわぉ。」
……………思ったよりも、いい朝だな。
「…お前、ホントに眠らないし、
財布だとかも一切取らないんだな。」
「約束は守るっすよ。もちろん。」
目の上に重なった布を取る。
昨晩見た綺麗な顔が、朝日に照って一層輝く。
「…お兄さん、割と顔面偏差値高くないすか?」
「……へぇ、そんな感情あったんだな。」
春の陽光が瞳に真っ直ぐ差し込み、少し目が眩む。
「…今、何時だ?」
「んーと……。6時…っすね?」
「……お前、女子高生だったよな?」
「…そうっすけど?」
「………学校、大丈夫なのか?」
「…今日、土曜日っすけど?」
「……そっか。曜日感覚なかったわ。」
もう少し寝ていたい気持ちを抑え、頭を上げる。
これだから朝は嫌いだ。
「………はぁ。帰るか。」
「……………………そっ……すね?」
朝に照らされたアスファルトを並んで歩く。
少しだけ、いい気分。
「…………お前。なんでこんなことしたんだ?」
「……えと。」
どっかの引っ張りでもない。金目的でもない。
ただ一晩、ずーっと起きて俺の頭を撫でるだけ。
純粋に理由が不明すぎる。
「…お兄さん、いつもこの道歩いてるっすよね。」
「……夜の散歩がてら、な。」
「………その…ボク、この通りに住んでて……。
二階が自室なんで、お兄さんが歩いてるの、
窓から見えるんすよね。普通に。」
「…ふーん。」
「……けど、最近歩いてなかったじゃないすか。」
「………………ヤボ用で出掛けてたからな。」
「…だからその、なんつーか…心配になっちゃって。
いやほんと、何様だって話なんすけども…。」
「……で?」
「で、その……。昨日、久しぶりに見たと思ったら、
なんか、すげー落ち込んでるように見えて……。
…へ、変な話なんすけど、気になっちゃって……。
まともに話したこともないのに、何様だって…。
………で、自分も気づかないうちに、
着替えてバッグ持って追っかけてて…。」
「…河川敷で追いついて、後ろについてきた、と。」
「……まるっきり、ストーカーっすよね。
け、警察だけはご勘弁くださいっす!後生なんで!」
……警察?
「通報なんざ無粋なことする訳ないだろ?
……んー…ま……すこしだけ、楽しかったぜ。」
「……えっ?」
いつも通る十字路に差しかかる。
……俺の家は、ここを右。
「とにかく。ありがとな。またな。」
「えっ!? も、もう帰っちゃうんすか!?」
「俺ん家、ここ右なんでな。じゃあな。」
「お、お疲れ様…………っす。」
つか、つか、と道を歩く。
「……あ。」
ふと、大事な用を思い出して後ろを振り向く。
用のある相手は、まだこちらをぼんやり見ていた。
「………おい。そこのお前。」
「……ふぇ、あ、ぼ、ボクっすか?」
また、つかつかと十字路に戻る。
「…これ、持ってろ。」
首から銀色のロザリオを外す。
「…………え、これロザリオ…。」
「貰ってくれ。」
「で、でもこれ大事な物なんじゃ……。」
「…いいから。受け取れ。」
「い、いやボクん家は神道だし……。」
「そうか。俺は浄土真宗だ。だから貰え。」
「……何で、ボクに?」
「………なんとなく、だ。」
少し乱暴に十字架の首飾りを押し付ける。
「……それだけだ。じゃあな。」
また、家路に着く。
「あ、あの!お兄さん!」
「…まだなんかあるのか?」
「…その、ありがとう、ございます。」
ぺこ、と少女は頭を下げた。
「………じゃあな。」
「はい!また会えたら!」
俺には贅沢過ぎる時間は、さっさと過ぎていった。
このお話をここまで読んで頂き、
本当にありがとうございます。感謝の極みです。
小説投稿は初めて、しかもほぼスマホで編集した為、
読みにくい、文章が汚い、キャラ設定が粗い、
物語が薄い、描写が雑etc.....
そのような感想などがございましたら、
全て受け入れる所存でございます。
その上で、また精進するのが、
趣味とはいえ「仕事」だと思っていますので。
一応、次話では『少女』や『お兄さん』の名前や、
どういう人間なのかも少し掘り下げますので、
これに懲りず、またお付き合いしてくださると、
作者は感謝で吹き飛びます。
…正直言わせて頂きますと、
今作の『少女』のキャラクターには
モチーフが存在しております。
DLsiteさんで専売されてる、
『【耳かき・膝枕・歯磨き】真夜中だけが僕たちの救い~卑屈なボクっ娘サブカル女~【CV.佐藤日向】』
(サークル:RaRo様)
という素晴らしい作品です。
先に言っておきます、ステマじゃないです。
もしRaRo様に異議申し立てなどされましたら、
速やかに小説ごと削除する所存でございます。
ただし、あちらの「真夜」さんは、
こっちなんかよりも遥かに魅力的で個性的です。
その上、こちらの薄味で稚拙な文章と違い、
お話の密度がぎっしり詰まっております。
有意義な時間になること間違い無しです。
最後に改めまして、
何千、何万、何億とある物語の中から、
このお話を選んで下さり、本当に有難うございます。
これからも、あなたの素敵なストーリーライフを
心から願っております。