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最終話 ニジイロ・イロコイ

 文化祭以来、授業などではいつも通り話すが、何となく俺と彩の距離は遠くなっていた。そして紅い葉は全て地面に落ち、今度は空から白が落ちてくる季節になった。


「……明季、イルミネーションに行きたい。一緒に……」


 塗られた黒に何をしても色は変わらないと思い、筆先を持て余していたが、色が変わらないのと同様に、気持ちも変わってはいなかった。あの日は二人の責任だ。そして先に勇気を出してくれたのは彩だった。


「俺も行きたい! 一緒に行こう!」




「うー、寒い! 彩は平気そうだけど、寒さには強い?」


「ううん、中にしっかり着込んでいるし、カイロも持っているから。はい、あげる」


「ありがとう!」


 彩と明季は大規模なイルミネーションがある街に出かけ、少し暗くなった道を歩いていた。


「え! 明季! 冬野さん!」


 すれ違いざまに声を掛けてきたのはクラスメイトだった。隣には彼女らしき別クラスの生徒がいる。


「こんなところで会うなんて奇遇だなー。って、相変わらずお前の私服はモノクロだな」


「似合ってるだろ。また学校でな!」


 お互いの状況を察して長く言葉を交わすことなく再び明季と彩は歩き出す。


「あの二人、付き合っているのかな」


「でしょうね。二人でイルミネーションを見にくるくらいだもの。……服、モノクロばかりなの?」


「うん」


「どうして?」


「彩にできる限りありのままの俺を見て欲しいから。下心だよ」


「……分かりにくい下心。ねぇ、明季。私、白と黒しか見えないの」


「うん」


「大好きな明季のことも見えない。あなたの髪の色は? 目の色は? 私といる時、私と触れた時、あなたの顔は赤らんでくれている?」


「俺は茶髪。眼は紺色。顔はどうなっているのか自分じゃ分からないけど……熱いよ。着込んでいるからじゃない。カイロを持っているからじゃない。彩といるから体が熱い」


 明季は彩の手を握る。


「彩が知りたい色は俺が何でも教える。それで少しでも彩の見ている世界が鮮やかになるなら」


「……じゃあ虹色って何……? あなたが分からないその色は……」


「それは彩が虹色を見つけてからって言ったでしょ」


「……私は知っているの! モノクロな世界に唯一の色が……虹色が見えるっ……。明季、あなたが虹色……。全ての色が混ざり合った、けど黒にならなかった私の虹色なの……!」


 彩の小さな叫びと共にイルミネーションが点灯した。その瞬間、明季は彩を抱きしめ、彩は目を閉じた。


「俺の虹色も彩だよ。初めて彩に出会ったとき、初めての色にも出会ったんだ。何よりも鮮やかな色、虹色に……」


「……ふふ。私たち馬鹿みたいね。人に色を見て、好きになるなんて」


 涙を落とさないように必死に閉じていた目を彩が開いた瞬間、数えきれない光と色が差し込んだ。そしてそれが涙で滲み、溶けていく。


「……虹色。明季、虹色が見える。眩しい」


「彩? まさか……」


「……明季。本当に茶髪なんだね、染めてるの? 眼の色は……ごめん。泣いてるからよく見えない……っ」


「……彩っ……。ゆっくりでいいよ。俺はどこにも行かない。彩とずっと一緒にいるから。彩に知ってもらいたい色がある。見て欲しい色がある」


「うんっ……。うん、そうだね……。私も知りたいよ、見たいよ。だから、だから教えて……! これからずっと、私の隣で教えて! 思い出を鮮やかに。虹色に……っ。明季、大好きだよ……っ!」




 星が地上に降り注いだような光景の中で、彩と明季は色を噛みしめた。他の人よりも鮮やかに世界が見えていても、他の人よりも色褪せて世界が見えていても、一人では見えない色がそこにはあった。


 好きと色は混ざり合う。溶け合う。そして見つめ合う。二人は四月からの色恋沙汰を思い出しながら、そっと赤を重ねた。


『イロコイ~虹色な彼女とモノクロな彼~』はこれで完結です!

執筆のモチベーションに繋がりますので、もしよければ評価やいいね、感想をお聞かせください。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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