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第8話 アトラス王国はその頃③

 再度呼び出された時にはデニス陛下の隣に他の男性がいた。

 ぱっと見で年齢は50代ほどの初老の男性だ。


「貴方が今の魔導師団長ですね?」


「は、はい。私はグラナード侯爵家のマルローと申します」


 相手が誰だか分からないが陛下の隣に座っているからにはお偉いさんに違いない。

 家名も含めてきちんと挨拶をした。


「私は国防大臣を任せられているオリバー・キャッスルリア侯爵だ」


 以前クレームを言ってきた張本人である。

 その彼がこの場にいると言うことは以前の続きに違いないだろう。


「それで大臣殿は何故この場に?」


「心当たりがないのかね?」


「うっ……」


 言われたことはちゃんとやってきたはずだ。

 魔力量が多い者から順にちゃんと提供させ、満足のいく障壁は展開させている。


「これも全ては陛下の判断のせいでもあるのですがね」


 ため息をはいたオリバーは横でどこ吹く風のデニス陛下を睨み付ける。

 不敬と分かっていても彼の愚行を咎めずにはいられなかった。


「俺は間違っていない、ちゃんと成果を出せないマルローが悪いんだ」


 あくまでも責任はないと主張するデニス陛下に呆れつつ、現状がどうなっているかを二人に説明しようとする。


「今、国全体で魔物の活性化が進んでいるのです。原因は調査中ですのでまだわかりませんがこれは由々しき事態なのですよ。それなのにクラトス殿を罷免させるとはどう言う事ですかっ!」


 オリバーはつい熱くなりテーブルを勢いよく叩きつけてしまう。

 ソファに座る3人の後ろで待機している近衛騎士も彼の行動にはすかさず剣を抜き警戒した。


「よい、剣を下げよ。それでクラトスがどうしたって?あいつは父上に気に入られていただけであろう? 何故庇うのだ?」


 デニス陛下は先代のノア陛下と比べて視野が狭い。

 自分の専門外の分野に関しては理解が及ばない事が多々ある。


「先代様は本当に素晴らしかった……彼の様な天才を見出し国の為に貢献させたのだから。いいですか?クラトス殿がしてきたことは――」


 オリバーもクラトスの全てを知っているわけではないが、国防にどれほど携わってきたのかを説明した。


 彼一人の魔力で王都の魔法障壁を維持していたこと。

 そのおかげで他の魔導師が魔力を節約する事が出来たので、魔物狩りに人員を増やせたこと。


 現状では魔導師団の魔力を吸い尽くしてしまい、魔物狩りが思う様に上手く言ってないこと。


「ど、どうしてその様な事を黙っていたのですか?」


 マルローが震えながら質問をした。

 その事を教えてもらっていたら自分もクラトスの解雇に反対しただろうと思う。


「黙っていただと? この事は先代の時代から問題として提出していたが?」


「……そうだったのですか」


 クラトスが現れてから、彼に頼りっきりの状況に危機感を覚えたのはオリバーだけじゃない。

 ノア陛下も早急に解決しなくてはいけないと思い、計画を練っている間に亡くなってしまった。


「俺はそんな話聞いていないが?」


 実の息子であり、当時の王太子であるデニスはその計画を知らされていなかった。

 ノア陛下は優秀であるが故にあまり人に頼る事がなく、信頼できるものにしか計画を伝えていない。

 彼の最大の過ちはきっと他人を信用しなさ過ぎた事だろう。


「仕方ありませんよ……」


 貴方は父親に信頼されていなかったとは言えなかった。

 言葉を濁すので精一杯だ。


「過ぎたものは仕方ありません。今後のことについて考えましょう」


 過去をぐちぐち言っててもラチがあかないと言いオリバーは次に何をするべきかを問う。


「魔導師をたくさん雇うのはどうでしょう?」


 魔力が足らないなら人員を増やせばいい。

 簡単なことに気がついたマルローは明るい表情で提案をした。


「そもそも魔力持ちが少ない現状で人員を確保出来るのか?」


「で、でしたら隣国から雇うとかは……」


「……帝国か、帝国があるじゃないか」


 2人の会話を聞いていたデニス陛下が帝国の名を思い出す。

 かの国は人口が多く、その分魔導師の数も多い。


 そして何より魔法大学があると噂で聞いた事があるデニス陛下は早速計画を進めようとした。


「帝国から人員を引き抜く自体はやり方次第では悪くありませんけどね」


 難色を示すのはオリバーだ。

 この分野は国防大臣の自分ではなく外交大臣や、実際に雇った場合の上司であるマルローになる。

 

 それでも一つ分かるのは、引き抜きに失敗すれば即開戦もあり得ると言う事。

 国土からして帝国に勝てるはずもない。


 現状アトラス王国が生き残っているだけでも奇跡に近いとすら感じていた。

 そんな中で引き抜き工作はリスクが高い。


「ではその任は私にお任せください!」


 自信満々に言うのはこの男――マルローだ。


 この時オリバーは思った。


(キャッスルリア侯爵家とその傘下、それに領民を守るにはやはり亡命しかないかも知れぬな……)


 悲しい事に帝国と接しているのはキャッスルリア領である。

 真っ先に被害が出るのは自分の領地で間違いない。


 ならば先に帝国へ亡命した方が良いかも知れない。

 こうしてマルローの主導の元帝国から引き抜き工作を実行するのだった。

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