第7話 アトラス王国はその頃②
「マルロー、どうして呼ばれたか分かっておるな?」
「す、すみません……」
魔導馬車の一件から数日後、デニス陛下によって呼び出されていた。
応接室の中で、ソファに座る陛下の顔は眉間にシワが寄っていてとても険しいものだ。
「魔導馬車の一件はもう良い、解決したのであろう?」
「は、はい何とか!」
マルローはてっきりその一件で怒られているのだと思っていたが、陛下の怒りはそこではない。
その事実がさらに不安を加速させていく。
(一体陛下はどうして不機嫌なんだ……?)
「俺が何故怒っているのも理解できないのか!」
「も、申し訳ございません!」
頭をフル回転させ原因を探るがやはり分からない。
どうすればいいのか分からなくなったマルローは怯えながら質問をする。
「大変恐縮ですがその原因をお聞かせ願えますでしょうか?」
「ふぅ……国防大臣からのクレームだよ」
「え?」
予想の遥か上の事を言われますます混乱してしまう。
国防大臣が何故この場に出てくるのだろうかと必死に考える。
「ここ数日王都を囲っている障壁に不具合が生じているそうだ。そのせいで魔物の被害が増えている」
「は、はぁ……」
王都を始めとした国の防衛は国防大臣を始めとした騎士達の仕事じゃないのか。
それが何故魔導師である自分の責任の様に言われているのか理解できない。
「いいか! 魔導師の仕事の一つに障壁の維持があったんだ! 先王の時代から出来ていた事を何故いまになって問題を起こす!」
「そう言われましても……あっ!」
その時マルローは思い出した。
彼が魔導師として王宮に仕え始めていた頃、魔力を提供し障壁を張っていた事を。
(だがそれも途中で無くなったはずだ……)
一人ひとりから大量の魔力を吸い取られるので魔導師達はこの作業を嫌っていた。
なのに7年ほど前だったか、気がつけばその作業は無くなっていたと思い出す。
「何か思い出した様だな、まだ甚大な被害は出ていないそうだ。早急に魔力を渡しておけ」
「か、かしこまりました!!」
部屋から去ったマルローは仕方なく魔導師達の部屋に赴きことの顛末を説明する。
貴族出身の者を中心に反論が出てくるがお構いなしだ。
「とにかく魔力の高い者から順に提供する様に」
そう言って現副団長の男に魔導師達の能力が示されたプロフィールを持って来させる。
これには一人ひとりの得意魔法や魔力量が記載されており、誰が魔力が高いかなど一発で把握できる。
「えーと、ドミニクの魔力量は980か。悪くないな」
団員の魔力量を確認していくマルローだが何かしらの違和感を感じ始めた。
「モーガンは999か……それにしても999が多すぎないか?」
大半の魔導師の魔力が限界値である999を示していた。
かく言う自分のプロフィールも999である。
「団長殿、その数値に関してなのですが申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?言ってみろ」
疑問に思っていた時、一人の魔導師が勇気を出して進言してきた。
「この国で測定に使われる魔導具は建国時から使われている物と聞いております」
「それがどうした?」
「……現在では建国当初よりも豊かになり平均寿命も伸びたと言われており、それに伴って個人の魔力量も増えているかと」
建国当時は999が上限でも問題はなかったが今は違う。
大半の魔導師が999を超えるほど保有している為、測定器が機能していない。
「なるほどな……」
違和感の正体はその数値だった。
同率で999ばかりでは優劣がつけられない。
「上限を引き上げた測定器はないのか?」
「この国では開発されておりません。クラトス様が着手しようとされていましたが……」
「あいつの名前を口にするな!」
忌々しい相手の名を出されマルローは一気に不機嫌になった。
先代のノア陛下に引き上げられた平民上がりの魔導師であるクラトス。
選民主義者であるマルローが認められるはずがない。
「まぁ良い、測定値が上限の者を中心に魔力を提供していく様に」
「「「は!」」」
クラトスが嫌いでも今するべきことは違う。
先に王都の魔法障壁を維持する為の魔力提供作業を終わらせなくてはいけなかった。
数日後、何とか障壁を維持できるほどの提供は出来たと一息ついた所、またデニス陛下に呼び出されるのであった。
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