第6話 アトラス王国はその頃①
クラトスが解雇されて数日が経過していた。
魔導師団長に就任したマルローは悠々自適な生活を送れると信じていたはずが、現実は違う。
「団長、こちらの道具はどうすればいいですか?」
「このシステムの直し方を教えてください!」
クラトスを慕っていた魔導師を閑職に追いやり、貴族出身で自分を慕うもので固めたのが仇となっていた。
「俺に聞かれても分かるわけないだろ! クラトス派の魔導師にやらせろ!」
国を維持していく為の魔導システムの構築や生活を豊かにする魔導具は大体がクラトスが考え、その部下達と一緒に発明して行ったのだ。
そのクラトスは既にいない上、部下も閑職に追いやってしまった以上今のマルローには手に余る。
「団長! 王都内の魔導馬車が大変なことになっています。至急現場へ来てください!」
執務室に舞い込んできたのは王都の交通手段を担っている魔導馬車。
馬に頼らないこの道具は貴族達に好まれ重宝していた。
「一体何があったんだ!?」
「それが……定期メンテナンスの際に我々が弄ってからまっすぐに走らなくなり王都内で事故が多発しているようです」
「どう言うことだ?」
開発したのはクラトスとその部下で、取扱説明書はあっても実際に弄ったことがない魔導師が、自分の腕を頼りにめちゃくちゃにし、この結末へと至った。
「ならば魔導馬車を止めればいいだろう!」
「そうは行きません……今から馬を確保するとなると時間とお金がかかりすぎます。それに貴族の中には既に厩を撤去したものもいます故、今更馬を飼えと言われても反発するでしょう」
「た、確かにそうだな……」
マルローの実家である侯爵家にも既に厩はなかった事を思い出す。
今更言われてもどれほどお金がかかるか想像に難くない。
「ならば閑職に追いやった魔導師を全員連れ戻せ! そうすればこの問題は解決するはずだ」
苦肉の策ではあるが、まだ解雇したわけじゃない魔導師であれば連れ戻せる。
奴らをつけ上がらせる可能性があるがそれ以外に選択肢はないのだ。
「はっ!直ちに伝えておきます! それで現場の方は……」
「分かっておる! この後向かう!」
団長ともあろうものがわざわざ現場に出なくてはいけないと思うとプライドが許さなかったが、諦めて向かうことにした。
◇
「あんたが責任者か? いつもはこんな事起きなかったのにどうしてくれるんだ?」
「……申し訳ございません」
事故現場に到着すると憤慨していたのはこの国の伯爵。
マルローの実家は侯爵であり、爵位こそは上だが相手は伯爵家当主。
それに引き換えマルローは現侯爵の弟に過ぎない。
だから強く出ることが出来ず頭を下げるほかなかった。
(この俺が伯爵家如きに……)
この場はなんとか乗り切る事が出来たが彼の受難はまだまだ続く。




