第31話 リベルタの危機
辺り一面を埋め尽くしていた魔物が減り始める。
魔物達は反撃しようにも氷の槍が飛び交う竜巻に飲まれズタズタにされていた。
「す、すごい……」
「何だあの人は……」
生徒達は皆驚きの声を発していた。
そんな中で、教員は既に勝ったかの様な表情で彼らに言う。
「あの人は魔導工学部のクラトス先生。彼は賢者だ」
賢者であると知り、彼らは更に驚いている。
国で4人しかいなかった賢者が目の前にいた。
そして夥しい数の魔物を1人で相手にして、物ともしていない。
「あれが賢者……」
「かっこいい……」
「俺もあんな風になりてぇ!」
賢者に憧れを抱く生徒は多かった。
それから程なくして魔物はほぼ全滅し、教員共々生徒達は大喜びをしている。
「助かったああああ!!」
「ありがとうクラトス先生!!」
「まさに英雄だ!」
ゆっくりと降下してくるクラトスに各々の気持ちを伝えていた。
地面に足を着いた彼は、先ほど話していた先生の元へ向かう。
◇
生徒達に魔法障壁を展開しつつ何とか魔物達を駆逐しきれた。
無限の魔力なので肉体的な疲労こそないが、精神的にはだいぶ疲れる。
一歩間違えば生徒達に攻撃が当たってしまう可能性もあるし、攻撃と防御の同時展開はもうやりたくはない。
一息をついたところで地面に降り、先ほど話したペーターさんに声をかけた。
「これで魔物は無事殲滅しきれました。ですので今の内に生徒を連れて帝都まで避難してください」
「しかしリベルタ様がまだ――」
肝心のリベルタ様はこの場にはいない。
彼の話ではマルローが連れ去り森へ消えたと言う。
目的は分からないが、殺すだけならその場でもいいはず。
わざわざ連れ去ったと言う事はまだ生きている可能性が高い。
「リベルタ様の身は私が命に変えてもお助けします」
俺の言葉に対してペーターさんは引き下がらない。
「クラトス先生にだけ任せてはおけません! 我々教師一同も救助に向かいますとも!」
周囲を見渡せば教師達が「私も行く!」「もちろん俺もだ!」と意気込んでいた。
生徒に関しても皆が助けに行きたいと言う感じだ。
「お気持ちはありがたいですが、私1人で向かわせてもらいます」
「何故だ! いくらクラトス先生の頼みとは言えこれは引き下がれぬ!」
堅い意志を示す彼に俺は自分の杖を差し出した。
「ん? クラトス先生の杖がどうしたのかね?」
「先ほどの攻撃魔法で私の杖は限界を迎えました」
杖を少しの力で叩くと、全体にヒビが広がり砕けてしまう。
魔力がもっても杖の方が耐えきれなかった。
「杖のない魔導師がどうなるか……ペーターさんならお判りですね?」
「それは……」
魔導師は杖がなくとも魔法を行使する事は可能。
だが、それだと効率が悪くなるだけでなく、コントロールも荒れてしまう。
普通の火魔法であるファイアーボールですら大きくなりすぎるか小さいままかのどちらか。
自分が想定したサイズで作り出すのは賢者である俺でも不可能。
「ならクラトス先生が生徒達を避難させてください! その間に我々が助けに行きます!」
ペーターさんが言い淀んでいると、他の教員がそう言った。
「その方法は私も考えました。しかし相手は魔物を自由に使役します。一体多数ならやつにとって苦にはならないでしょう」
「……っ!」
ひどい言い方になるが、魔法大学の教師クラスでは賢者になったとされるマルローを相手にするのは厳しい。
ならば俺が魔力を暴走させた状態で単独で行く方がいいだろう。
森ならば暴走したとしても被害は出ないしな。
「分かりました……リベルタ様の事をよろしくお願いします!」
「ええ、絶対に助けて参ります!」
彼らに見送られながら俺は森へと駆けていく。
鬱蒼とした森では空から見つけるのは困難だし、何より今の状態で浮遊魔法を使えばどうなるかは明白。
地道ではあるが自分の足で探すしかない。
◇
リベルタは人生で最大のピンチに陥っていた。
ドラゴン襲撃の際は馬車の中で避難していたし、帝都もだいぶ近かったので楽観視していた。
入学式の際も自分を狙っているとは考えもしていなかったので同様だ。
しかし、今目の前に男は違う。
自分が帝都から離れた時を見計らい襲撃し、名指しで攫った。
その上で魔物を従える能力の賢者である。
例え拘束されていなくとも勝ち目は殆どないと悟る。
(私はここで死ぬのですね……)
両腕を後ろで拘束され身動きが取れない状況。
しかもその拘束具は魔導師を拘束するためのもので、魔法も封じられている。
「あいつからは殺せと言われていたが――別に連れ去ったり、楽しんだりしても問題ないよな?」
マルローのまとわりつくような視線に晒されたリベルタは思わず身の毛がよだつ。
これならば普通に殺された方がマシだ。
「貴方の様な下衆には屈しません! さぁ殺すなら殺しなさい!」
「皇女殿下は威勢がいいな、屈服させがいがあるな」
そう言ってマルローはリベルタに襲い掛かろうとする。
近づいてくるマルローを見て、涙を滲ませた。
(誰か……助けて!!)
彼女の願いが通じたのか足音が聞こえ始めた。
その音は徐々に近づいてきて、異変に気がついたマルローは一度離れる。
「何の音だ? あいつらがくるはずがないが……」
マルローが振り返るとそこには全速力で駆けてくるクラトスの姿があった。
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