第30話 切り札
もう少しで魔力も満タンになりそうだったタイミングで俺の元へ駆け寄ってくる人物がいた。
「クラトス様、こちらにいらしたのですね!」
「一体どうされたのですかディアナさん?」
宮廷魔導師のディアナさんだ。
彼女は一度深呼吸をしてから話し始めた。
「クラトス様のおかげで帝都の魔法障壁は数十時間は展開出来そうです。その隙に魔導師や騎士達が魔物を討伐してくれるでしょう」
「では無事に切り抜けれそうなのですね」
いくら魔物が多いと言っても帝国の魔導師総勢でかかれば何とかなる。
帝都を覆う障壁の分は俺がカバーしているし、他の魔導師達も万全な状態だしな。
「ですが問題があるのは現在帝都を出ている生徒達です! もしリベルタ様の身に何かあっては……」
魔導戦術学部を専攻しているリベルタ様は現在帝都にはいない。
そのことが心配でディアナさんがやってきた。
学園には学長が、帝城には皇帝に魔導師団長に俺と賢者がいるが、リベルタ様の元には圧倒的な強者がいなかった。
「ディアナさんの心配は心中察します。これから私が現場に向かい安全を確認してまいります」
「お願いします。宮廷魔導師である私はここを離れるわけにはいきませんので……」
いくら皇女とは言え現皇帝よりは優先度が落ちてしまう。
真っ先に守らねばならない皇帝を無視し、彼女の元へ向かっては処分ものだ。
その点で言えば一介の教師である俺の方が自由が効く。
独断で動いた場合はお咎めなしとはいかないかもしれないが、解雇まではいかないはず。
いかないよね?
まぁ、その時はその時だと考え、俺はすぐにでも森へ向かうべく浮遊魔法を使った。
帝都を上空から見たところ、四方八方で魔物との戦闘が繰り広げられている。
助太刀に入りたい気持ちを抑え、俺は森へ急いだ。
「一体何が起きているんだ?」
森のすぐ近くには数え切れないほどの魔物が待機している。
数も異常だがそれ以上に統率の取れていることに驚かされた。
目を凝らしてみると、その中で魔物達に囲まれ身動きが取れなくなっている人間を見つけた。
魔物達がいつ動き出すかと警戒しつつ、俺はそこへ降り立つ。
「貴方はクラトス先生! どうしてここへ?」
「えーと……」
50代くらいの男性が俺の元へやってくる。
教師であることは分かるが、名前までは把握していない。
「ああ、すまない。私は魔導戦術の教授をしているペーターと言う」
「ペーターさんですね、それでこの状況は一体?」
周囲を見渡して改めて思う異常性。
魔物達がこちらを凝視しているが、一向に手を出そうとはしてこない。
それに教師だけなく生徒の誰1人も杖を持っていなかった。
「それなのですが――」
ペーターさんから語られた話に俺は開いた口が塞がらない。
どこから突っ込めばいいのかも分からないほどだ。
「つまりマルローがリベルタ様を連れて森へ消えたと」
「はい……リベルタ様自らが御身を差し出し私たちを守ってくれました」
歯を食いしばりながら語るペーターさんの心情は計り知れない。
「助けに行きたくともこの数の魔物相手には我々では勝ち目がありません。クラトス先生に頼るしかないのです!」
夥しい数の魔物を殲滅しつつ生徒の安全を確保する。
普通に考えれば無理な話だろう。
「私にお任せください。魔物を殲滅した上で皆さんに傷一つも付けませんから」
「おぉ! 流石はクラトス先生だ!」
「お願いします、貴方しか頼れないんです」
「あのマルローとか言うやつに一泡吹かせてやってください!」
周囲にいた教員が各々の気持ちを伝えてくる。
俺は杖を握りしめ、生徒達全員を覆うほどの魔法障壁を展開した。
範囲が広すぎるため少しの攻撃で壊される程度しかないが問題はない。
魔物達が反撃する前に殲滅してしまえばいいだけの話。
障壁を展開しきったら次に浮遊魔法を使い、上空へと向かう。
この数の魔物相手にどうやって戦うのか。
いくら魔力が無限にあると言っても物量で押しつぶされたら意味がない。
しかし、俺の固有の能力は何も魔力が無限になるだけじゃない。
俺は上空で杖を構え、攻撃魔法を展開する。
普通の魔導師であれば3つ同時に展開できれば優秀で、4つ出来ればエリート中のエリートだ。
雑談の際に聞いたがユリアーナ先生は4重展開出来るエリートだった。
アブソンとの対決で俺が展開したのは6つだったが、あれが限界とは言っていない。
――無限展開。
これが俺の切り札になる。
攻撃魔法の属性自体は火・水・風・土・氷・雷と限りがあるが、何も被ってはいけないと言うわけではない。
3つ展開するにあたって、火・火・火の様に火力マシマシにすることだって出来る。
そして俺の場合は展開するのに上限はないし魔力も無限。
数千の軍勢を相手にしても勝つことだって可能だろう。
今回使用するのは沢山の風・氷魔法。
以前テミスが決闘の際に使った合わせ技の上位互換で、氷の槍を作り出しそれを風に乗せて攻撃する。
「ブリザードスピア!」
即興で思いついた技名を叫び、俺は魔物達の殲滅を開始した。
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