第3話 勝負
「助けて頂きありがとうございます!」
襲われていた女性は開口一番にお礼を言ってくる。
「助けられて本当に良かったです」
ドラゴンに襲われた騎士たちもなんとか一命を取り留めていたので死者はいない。
後少し遅ければ全滅もあり得ただろうと考えるとゾッとする。
「私はディアナと言います。リシア帝国で宮廷魔導師をしています」
「リシア帝国の宮廷魔導師ですか」
リシア帝国の宮廷魔導師がどれくらいのものか俺はピンとこない。
アトラス王国では志願すれば大抵の者が働けるくらい敷居は低かった。
最も敷居が低いだけで上に上がるのは、実力もさながらコネの方が大事なのがアトラス王国の実情だが。
「クラトス、お前すごすぎないか?」
後ろからやって来たのは騎士達の治療にひと段落つけたダニエル。
俺がドラゴンを討伐したことに驚いている様だ。
「これでも俺以上の実力者は世界にいるからな。まだまだだよ」
ここで驕ってしまえば成長が望めない。
実際に俺の師匠だったら上手くドラゴンを討伐して見せたに違いないし。
「いや、それでも普通じゃねぇって……俺魔法大学受かるのかな……」
「ダニエルの実力は分からないけど全力を出せばいいさ」
彼の魔法を見ていないからどの程度かは分からないのは事実。
「もしかしてお二人は魔法大学を受験されるのですか?」
ダニエルとの会話を聞いていたディアナさんが興味を示して来た。
宮廷魔導師をしているくらいだからきっと魔法大学に何か思い当たるのだろう。
「俺はその為に帝都を目指しているんだ! んでクラトスはただの旅行だったけど受験する流れになったんだ」
「そうだったのですね、クラトスさんでしたら実力は充分でしょうし合格しますよ。宮廷魔導師である私が保証します」
どうして宮廷魔導師だと保証になるのかと問おうとした時、ダニエルが腰を抜かして驚きの声をあげた。
「宮廷魔導師なんですかっ!?」
「ええ、私は宮廷魔導師のディアナと申します」
「ディアナってあのディアナ様!?」
「はい、あのディアナに違いありません」
帝国の事情に疎い俺は二人の会話の意味が全く分からない。
宮廷魔導師の地位とディアナさんの知名度が高いのは何となく分かるくらいだ。
「いいかクラトス! 帝国の宮廷魔導師ってのはだな――」
ダニエルに力説され俺はようやく理解が追いつく。
魔法大学で上位の成績を収めた者だけが宮廷魔導師になれる事。
だけどその前に見習期間があり、それを越えた者が宮廷魔導師を名乗れる。
魔法大学を受験するのに年齢の制限はないが、卒業するのに四年はかかり、見習期間に至っては平均して10年は必要だ。
つまり普通であれば30代かそこらで宮廷魔導師になれる所をディアナさんは20代の若さで登り詰めたエリートとなる。
「お前が化け物みたいに強くても帝国の事を何も知らないのは理解したよ」
「ははは……」
アトラス王国で働いていた頃は他国の情報は殆ど入ってこなかった。
外に出てみて初めて理解したが、母国は相当遅れていそうだ。
「きっとお二人でしたら合格されるでしょう。応援していますね」
ディアナさんのお墨付きをもらいダニエルは感動していた。
まだ実力を知られていないのにだ。
でも彼女から見て俺の実力は合格の水準に達しているのは確かだ。
何しろ俺は生まれつき固有の魔力があり、そのおかげで人と一線を画する実力があるのだから。
「ちょっとディアナ、何を勝手に言ってるのかしら?」
鈴を転がした様な美しい声でディアナさんを咎めたのは、たった今馬車の中から降りて来た女の子。
綺麗な銀色の髪を腰まで伸ばし、薄紫色の瞳はディアナさんを捉えていた。
「申し訳ございませんリベルタ様」
様付けをされている事から高貴なお方だと察することが出来た。
「も、もしかしてリベルタ皇女殿下ですか?」
ダニエルが声を震わせて口にしたのは皇族の名。
俺は目を見開いてリベルタ様の顔を見た。
「先ほどは助けて頂きありがとうございます。私はリシア帝国第一皇女、リベルタ・リシアです」
凛々しく挨拶をした彼女はこの帝国で一番を争うレベルで偉い女性だった。
「申し遅れました。私はクラトスと言います。成り行きで魔法大学を受験することになりました」
「先ほどからお話は聞かせてもらいました。ですが成り行きとは少々傲慢ではなくって? いくらドラゴンを倒せたからと言って座学や魔法の基礎が出来るとは限りません」
鋭い視線で彼女は俺を睨みつけて来た。
自国の有名大学を記念受験程度にしか考えていないと思われたのだろう。
「確かに成り行きですが魔法大学を侮るつもりはございません」
「でしたら私とどちらが点数を取れるかで勝負しません? あなたが負ければ舐めた発言を謝罪しなさい!」
俺の話を聞いてくれない皇女殿下は一方的に勝負をふっかけて来た。
舐めた態度に取られてしまったのは俺の落ち度だし謝罪は元々するつもりなのに……
「もし私が負ければ何でも言う事を聞いて差し上げますわ!」
「何でもっ!?」
俺はその言葉に釣られてしまった。
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