第27話 魔物の襲撃
リシア魔法大学には前期と後期がある。
前期が終われば長い休みがあり、その後に後期。
生徒からすれば長期休みが楽しみでしょうがないだろうがその前に一つ乗り越えなければならないものがある。
――試験だ。
選択した講義によって試験の内容は異なるが、どれも簡単ではない。
「ユリアーナ先生……これ全部読んで採点するんですか?」
「はい、この時期は本当に地獄ですよ〜」
俺が担当している魔導工学基礎の場合は筆記試験ではなく、レポートの提出のみ。
生徒からすれば数千文字書くだけだが教師は違う。
「一体何万文字あるんだ……」
講義を選択している生徒全員のレポートを読んだ上で採点する。
これを期間中に終わらせなければいけないそうだ。
「クラトス先生も慣れますよ。それに魔導工学部はまだ楽ですからねー。……1年はね」
最後にボソッと言っているユリアーナ先生の目は虚だった。
来年以降からは違うと匂わせているあたり恐怖しかない。
「他の学部はこれ以上に大変なんですか?」
「実技試験があるところは筆記と両方採点しないといけませんからねー。特に大変なのは魔導戦術学部ですよ。前期の終わりには帝都郊外で魔物狩りしますから」
魔導師を活用した戦争の仕方から魔物の狩り方など、武力に関することを教えている魔法大学の花形学部。
「だから職員室にいる先生が少ないんですね」
職員室を見渡すといつもより先生の数が少ない。
帝都から離れて実技試験をしている真っ最中なのだろう。
「そう言うことですよー。でも他を気にしている余裕はありませんからね。来週までにこのレポートを全て読んで採点するんですから」
俺の目の前に積まれた紙の束を指してユリアーナ先生は苦笑いをしていた。
他を気にする余裕がないのは確かだった。
そんな時、職員室の扉が勢いよく開かれた。
「クラトス先生いるっ!?」
「慌ててどうしたんだテミス?そんなに呼吸を荒げちゃって」
職員室へ飛び込んできたのはテミス。
俺を見つけると駆け足でよってきた。
「それどころじゃないの! 帝都全体をものすごい数の魔物が覆ってるのよー>帝都上空に魔物がいないならー>囲んでいるのよ!」
「何だって!?」
大声で叫んだため、ユリアーナ先生だけでなく他の教員も驚いている。
帝都を覆う囲むほどの魔物なんて異常事態に違いない。
そして目的はきっと勇者あたりだと予想ができる。
「状況を学長へ伝えに行く、テミスもついて来てくれ」
「う、うん」
少し駆け足で学長室へ向かう途中で誰から聞いたのかを教えてもらった。
警備にあたっている兵が異変に気づき、魔導師が上空から確認したそうだ。
学長室へ着くと既にこの事を把握していたのか何人かの教員が揃っている。
「学長、魔物が帝都を――」
「ああ、聞いているとも。原因は分からないが異常事態には変わりない。生徒の安全を確保するため我々は警戒をしておく。その間にクラトス先生は帝城へ行ってくれないか?」
「帝城ですか?」
警戒するなら俺もこの場に残り警備に回った方がいいと考えた。
以前もアブソンが襲撃してきたのは魔法大学であるからだ。
「敵の狙いがまだ分からないがそれ以上にまずい事がある。帝都の魔法障壁が保つか怪しいのだ。そこでクラトス先生には魔力の補充を頼みたい」
四方から魔物が襲ってきた場合、大量の魔法障壁を展開することになる。
現在魔法水タンクに貯蔵されている魔力量では足らない恐れがあるそうだ。
「分かりました。直ぐに向かいます!」
「私も行く」
後ろに控えていたテミスもついて行くと主張するが、彼女も生徒の1人。
勇者になりうる可能性がある人を連れまわすのは危険だ。
「君は生徒だ、ここに残って避難していなさい」
「で、でも……クラトス先生が心配だし……」
「心配してくれるのは嬉しいよ。でもね俺からしたら君の方が心配なんだ。だからここで待っていて欲しいんだ」
俯く彼女の頭に手を乗せ落ち着かせる。
「絶対帰ってきてよね」
「帝城に行くだけ大袈裟だよ」
テミスに別れを告げ、俺は浮遊魔法を使い帝城へ向かう。
空から見れば遠くではあるが、魔物らしき影がこちらへ向かって進軍していた。
帝城についてからは身分を証明してから直ぐに貯蔵タンクへ足を運ぶ。
現在の魔力量は6割程度で満タンにするには時間がかかる。
「はやく溜まってくれ!」
この間にも魔物は帝都へ向かってきているし、魔族が襲撃してくる可能性もあった。
もどかしい気持ちのまま俺はタンクの前に立っていた。
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本日中にもう一話投稿出来たらと思います!