第23話 マルローの災難①
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マルローが部下を引き連れ帝都に到着したのは、リシア魔法大学の入学式の前日だった。
「いいかお前たち、今回は魔導師を雇う事が目的だ。明日にでも魔法大学へ行くぞ」
「「「はっ」」」
実家の侯爵家の騎士や貴族出身の宮廷魔導師たちで構成された部下たちは返事をし、この場は解散した。
帝国に伝手のないマルローは貴族向けの宿屋の一室で一息つく。
「最低でも10人は雇わねばならないな。それもできる限り魔力量の多い奴を……」
魔導師を雇い何をさせるか――王都の防衛に必要な魔力の提供。
簡単に言えば魔力を供給してくれるだけの存在だ。
クラトスを解雇してから魔力量の不足が問題になり始め、宮廷魔導師の全員から提供をさせる事で切り抜けた。
しかし、魔力を限界まで提供しては魔導師の疲労は相当なもの。
貴族出身の魔導師はそれを嫌がる。
そこで目をつけたのが帝国だった。
外部の人間ならば無碍に扱ってもいい。
「何としても今の地位を追いやられる訳にはいかないんだ」
マルローには野望があった。
デニス陛下とその供回で共有されていた計画――プロメテ王国への侵略。
成功させれば彼にも爵位が与えられる予定。
実家の侯爵家を継げない境遇では眼から鱗。
それらの計画を成功させるためにも彼はやる気に満ち満ちていた。
◇
「立ち入り禁止だと!」
「はい、どなたか存じませんがリシア魔法大学へ用がお有りでしたら正式に手順を踏んで下さい」
翌日、意気揚々と魔法大学を訪れたマルロー達は門前払いを受けていた。
「私はアトラス王国の宮廷魔導師団長のマルロー・グラナードだぞ!」
「ですから貴方が誰であろうとまずはアポイントを取ってください」
魔法大学の警備を任されている者は一歩もひかない。
その態度にマルローは怒りを表す。
「平民風情が調子に乗るな!!」
警備を任される程度の者は平民しかあり得ない。
その認識のまま彼は発言をする。
「むっ、私は歴とした男爵家の出です。その発言を撤回してください」
魔法大学は皇帝が住う城の次に重要な場所。
そこを警備するのに貴族出身の者がいてもおかしくはない。
「ふんっ! たかが男爵家が粋がるな。私は侯爵家だぞ」
「そうですか、ですが例え侯爵家でも勝手にお通しする事は出来ません」
何が何でもマルローは押し通ろうとしていた時、キャンパス内でとてつもなく大きな破壊音がした。
「何事かっ!」
周囲でマルロー達を警戒していた警備の者が一斉に音のなるほうへ視線を向けた。
それをチャンスかと思い、マルローは彼らを横切りキャンパス内へと行く。
「団長! それは流石にまずいです!」
「うるさい! 貴様らはついて来ればいいのだ!」
部下の引き留めも気にする事なく突き進むマルロー。
実はキャンパス内で起きている事も目の前の男の仕業ではないかと疑う警備達は最後警告をした。
「止まれ! 出なければ先程の爆音も貴様の仕業とみて攻撃をする!」
その程度の事でマルローは止まらない。
自分の立場であれば多少無理しても黙らせれると驕っていた。
「忠告はした! これより攻撃を開始する!」
そう言い、警備の者は一斉に攻撃を開始する。
部下達も大慌てだ。
何しろ上司であるマルロー1人の暴挙で攻撃されなくてはいけないのだから。
「待ってください! 俺たちは何も――うわああああ!」
「やめてくれ降参する!」
まともに装備を整えていない彼らはなす術がなくやられる。
一方で、杖を持っていたマルローは障壁を展開し防御をした。
「ぐっ……防ぎきれんっっ!」
攻撃を仕掛けてきた警備の者は複数――ではなく1人。
たった1人に押し負けそうになっていた。
「私如きにその程度では宮廷魔導師とは嘘だな!?」
リシア帝国の魔導師において、宮廷魔導師はエリート中のエリート。
その団長ともあろう者が一介の魔導師に負けるはずがない。
それが例え良い装備を渡されている警備であってもだ。
「障壁がもたん……ぬわああああ!」
押し負けたマルローは地面に這いつつばる。
複数の警備の者は杖を遠くへ蹴飛ばしつつ、彼を拘束した。
「とりあえずこいつらは一度牢へ閉じ込めておけ!残った者は先程の音がなった方へ駆けつけろ!」
マルローの部下を含めて全員がお縄につき、牢へと連行されていく。
魔導師は杖がなければ魔法の威力は激減する。
そのため杖は確実に没収し、その上で魔力を吸い上げる拘束具をつけた。
無駄がないよう、吸い上げた魔力は魔法水へ貯蔵する。
帝国は合理的だった。
結局、マルロー達が解放されたのは一週間後。
その間、常に魔力を吸われ続け疲労困憊のマルローは解放後、一週間は寝込んでしまう。
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