第20話 ゼミ
講義を終えた後は、午後の支度をしていた。
何をするかと言うとゼミの準備だ。
「えーと、生徒の名簿と教室の場所は……」
一年生はまだゼミを自由には選べない。
教員側が適当に決めてしまうからだ。
一応二年からは好きなゼミを選択できる様にはなっているとの事だ。
「ダニエルがゼミ生なのかー、それにあの2人も」
ダニエル・シャーロットさん・エレノアさんは魔導工学を専攻していたからもしかしたらと考えていたが、俺のゼミになっている。
彼女達はともかくダニエルに関しては学長が気を回してくれたのかもしれない。
◇
午後になり、俺は早めに教室に向かい待機していた。
俺のゼミには生徒が6人と少なめだ。
これは新人である事と、本来の目的である勇者と思われる人物を探す為、負担を減らす配慮だろう。
「あれ、もうクラトス来てるのか」
「ダニエル、もう俺は先生で君は生徒だ。少なくともキャンパス内では先生と呼びなさい」
一番乗りでやってきた人物はダニエル。
入学の際に色々と測定していて、その資料を渡されている。
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名前:ダニエル・フォルトナー
性別:男性
年齢:18
魔力量:1320
得意魔法:火
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最初に驚いたのはリシア帝国では魔力測定の上限が999ではなく9999だと言う事。
アトラス王国に比べて魔導具関連も進んでいた。
ダニエルはアトラス王国の宮廷魔導師としてもやっていける素質はあった。
「こんにちはー、やっぱりクラトスさんだったのね!」
「シャーロットさんお久しぶり」
続いて部屋に入ってきたのはシャーロットさん。
入試試験や入学式で見かける事はあっても、こうして話すのは久しぶりだ。
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名前:シャーロット
性別:女性
年齢:18
魔力量:1508
得意魔法:水
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家名がないので平民出身だが、貴族であるダニエルよりも魔力量は多い。
「ゼミの先生がクラトスって書いてあったからもしかしてって思ったけど、まさか先生になっていたとはねー。先生と生徒って中々いいと思わない?エリー?」
「ちょっとロティー!こんな時にやめてよ!」
シャーロットさんの後ろから姿を現したのはエレノアさんだ。
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名前:エレノア
性別:女性
年齢:18
魔力量:2322
得意魔法:土
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魔力量は驚異の2000越え。
ユリアーナ先生に学生の平均魔力量を聞いているので、彼女の特質性がよく分かる。
素質で見ればきっと宮廷魔導師になれるレベルだろう。
「エレノアさんも久しぶり。同級生じゃなくて先生になっちゃったけどこれからよろしくね」
「は、はいよろしくお願いしますクラトス先生……」
シャーロットさんの後ろで姿がよく見えないが、顔を俯かせている。
一体どうしたのかと聞こうとした時、他の生徒がやってきた。
「扉の前でモジモジするなよ平民が」
大柄の男性は彼女達にそう言って道を空けさせる。
実際に道を塞いでいたのは彼女達であり、文句を言われても仕方ないが、もう少し言い方があると思う。
「君は確かハンスくんだね」
手元の資料と照らし合わせて確認をとる。
その彼は適当に椅子に座ったかと思えば、不機嫌な態度で返事をした。
「そうだよ、俺がシュタイン子爵家のハンス様だ」
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名前:ハンス・シュタイン
性別:男性
年齢:18
魔力量:983
得意魔法:氷
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他のみんなに比べて若干魔力量が見劣りするが、問題はない。
これでも十分優れている方だろう。
「道を塞いでいたのは彼女達の落ち度だからその事には触れないが、もう少し言い方を考えてくれないかな?これから一年間同じゼミの仲間なんだ。ギスギスしてて欲しくないんだ」
「へっ、平民のセンセは平民の味方ですかー」
俺の話に聞く耳を持たない彼は視線を窓の外へ向けている。
「あ、あの。ここがクラトスゼミですか?」
扉の方から声をかけてきたのは細身で、メガネをかけた男性。
俺のゼミは男性3人・女性3人となっている。
「確か、ザシャくんだね。ここがクラトスゼミで、私が先生のクラトスだよ」
「ザシャです……よろしくお願いします……」
少しおどおどとしている印象があるザシャ。
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名前:ザシャ
性別:男性
年齢:19
魔力量:739
得意魔法:なし
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リシア魔法大学の受験するにあたって年齢の制限はないが、基本的に18歳とされる。
これは各地にある教育機関が卒業する歳になるからだ。
そんな中でザシャは他のものに比べて一つ年齢が上。
こう言うのは深く聞かないほうが身のためだろう。
これでゼミ生は5人集まった。
残るは後1人なのだがくる気配がない。
――キーンコーン
遂には講義開始の鐘が響き渡ってしまう。
「1人欠席の様ですが早速始めたいと――」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
勢いよく扉を開いてやってきたのは小柄の女性。
そして俺は彼女の顔を知っている。
「君は今朝追いかけまわしてきた――」
「それは貴方が逃げるからでしょ!?」
早朝に運命的な出会いをした女性はまさかのゼミ生だった。




