表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/123

第97話 俺、アリスベル、フィオナ――だんご三人組

 今日の俺は国王クロウ=セントフィリア=アサミヤではなく、


「おや、クロノスケさん。また来てくれたんですね。しかも今日は両手に花じゃないですか」


 『貧乏貴族の三男坊』で『訳アリ王宮騎士』のクロノスケとして、フィオナとアリスベルと共にお忍びで城下の復興具合の視察にやってきていた。


「まあな」


 視察というか実際は息抜きデートなんだけど、いちおう名目だけね。

 王宮はそういうのすごく面倒なのだ。

 名目とか建前をものすごく大事にする。


 俺はその辺をちょいちょい華麗にショートカットして抜け出してるけど(そしてそのたびに怒られる)、今日はアリスベルとフィオナも一緒なのでちゃんと正規の手続きを踏んでいた。


 今は俺のいきつけのお団子茶屋に2人を連れてきて、すっかり馴染みとなった店主のじーさんと話をしているところだ。


「もしかして、最近はやりのレンタル彼女というやつですかな?」

「レンカノ違うから、2人とも俺のいい人だから」


「おやおや、2人ともとは。三男坊とはいえさすがは貴族のクロノスケさんですねぇ。では立ち話もなんですし、席にご案内いたしましょう。どうぞこちらへ」


「今日は天気がいいから店先のオープンスペースを頼むよ」

「かしこまりました」


 こうして俺たちは店先のオープン席に案内してもらうと、この店の名物である三食団子を食べ始めた。


 ちなみにこの団子茶屋があるのは、飲食店が集まる「屋台通り」ではなく普通の町中だ。

 近々この辺りを大々的に再整備する話が内々に進んでいるのだが、今は特に関係はない。



「なにこれ!? このお団子、すっごく美味しいよ!」


 食べ始めて早々、この店で自慢の一品として名高い三食団子を頬張ったアリスベルが、驚きで目を輝かせた。


「な? だろ? 初めて食べた瞬間に『おおっ!』って思ってさ。いつか連れてきたいと思ってたんだよ」


「ほんと美味しいよ! もっちりもちもちだけど適度に柔らかいから、絶妙な食感で食べやすいんだよね。水と白玉粉の分量のさじ加減がポイントなのかな?」


「おいおい、俺がそんな難しいこと分かるわけないだろ。俺に分かるのは、きっと秘伝のレシピなんだろうなってことだけだ」


「あはは、だよね。おにーさんだもんね」

 よほど気に入ったのか、笑って言いながら2つめの三食団子に手を出すアリスベル。


「いやー、アリスベルに喜んでもらえてよかったよ」

「おにーさんが日々お城を抜け出した成果だもんねー」


 三食団子を頬張りながらアリスベルがニヤッと小悪魔っぽく笑う。

 王宮抜けだし常習犯という痛いところを突かれた俺は、アリスベルの視線から逃げるようにフィオナへと視線を向けた。


「フィオナはどうだ? 気に入ったか? ってまだ食べてないじゃん」


「申し訳ありません。3つの色が目に鮮やかで、つい見とれてしまっていました。ピンク、白、緑……見ているだけで幸せになっちゃいそうです」


 しかしフィオナはというと三食団子を目の前に持ち上げながら、いろんな角度から楽しそうに眺めてばかりいる。


「うんうん、三食団子は見た目も綺麗だから食べる前から楽しくなってくるよな」


「なんだか食べるのがもったいないですよね。持って帰って部屋に飾っておきたいくらいですよ」


「フィオナの気持ちは分かるけど、せっかくだから美味しうちに食べちゃおうな。時間がたつと固くなっちゃうし」


「ふぅ、残念です……ところで、エルフのスイーツにはこのような三食のお団子はないんですけど、この色の取り合わせには何か意味でもあるんでしょうか?」


「え? きゅ、急にそんなこと言われても……」

 三食団子の三食のそれぞれの意味なんて、そんなことはちっとも考えたことがなかった俺は、すがるようにアリスベルに視線を向けた。


「んーと、色んな説があるみたいだけど。先のピンクが太陽で、真ん中の白は雪。根元の緑は草木の緑を現してて、春になって陽光で雪が解けて、大地に緑が広がっていくのをイメージしたって説がアタシは一番好きかなー」


「――だそうだ」


「なるほど、そのような意味があったのですね。でもそれを聞くと、よりいっそう食べるのがもったいなく感じてきちゃいました」


「ふーん。じゃあフィオナさんが食べないならアタシが食べちゃうよ?」

「そ、それはダメです!」


「あはは、もう冗談だってば」

「わ、分かりました、食べます。食べますから」


 フィオナはまだ少し後ろ髪をひかれた様子だったが、しかしついに三食団子をパクっと口に入れた。

 その顔はすぐに驚きと幸せでいっぱいな様子へと様変わりする。


「すごく美味しいです……!」


「だろ? なにせここは俺のおすすめの団子茶屋だからな。特にこの三食団子は初めて入った時からのイチオシだから」


「見ても良し、食べても良し。勇者様がお勧めするのにも納得です」


 俺とアリスベルとフィオナの3人であれやこれやと盛り上がりながら、お団子とお茶を楽しんでいると――、


「おうおう! 相変わらずしけた店だな!」

「おい店主! とっとと三食団子2本と茶を持ってこいや! ぐずぐずすんな!」


 明るく朗らかな空間には似つかわしくない2人組のチンピラが、大きな声をあげながら入店してきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ