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第55話「それでも俺は世界を救う」

「でもセントフィリア王国はおにーさんを追放したじゃない。おにーさんが戦う義理なんてなくない……?」


「それでも俺は世界を救う、なぜなら俺は勇者だからだ。そこに俺という個人の損得や感情はこれっぽちも関係ないんだ」


「でも……」


「それに超越魔竜イビルナークが根城にしている場所は、エルフ自治領からそう遠くない場所なんだ。実際にこの辺りの魔獣たちも影響を受けて活性化してただろ? 放っておけばそう遠くないうちに、ここエルフ自治領にも大きな被害が出る」


 今になって思えば、ここ最近続いていた魔獣たちの活発な行動は、超越魔竜イビルナークの影響を受けたからだったのだろう。


 魔王と同じで、超越魔竜イビルナークから発せられる強大過ぎる邪悪な力が、魔獣たちの力を大幅に増大させていたのだ。


「わたしたちのためってこと……?」


「もちろんアリスベルやフィオナのためでもあるさ。守りたい世界の中でも、とりわけ一番守りたいのはアリスベルとフィオナ、俺の大切な2人なんだからな」


「でもでも相手は神様を殺した伝説のドラゴンなんでしょ? そんなのいくらおにーさんが最強の勇者でも勝てないよ……」


「たとえ勝てなくても、それでも俺は行かなくちゃならないんだ。わかってくれアリスベル。それが先代から勇者と『破邪の聖剣』を継承した俺の――勇者クロウ=アサミヤの為すべきことだから」


 そう、こればっかりはアリスベルがなんと言おうと、曲げることはできないのだった。

 それが俺が受け継いだ『勇者』の在りようなのだから。


「だったら……」


「ん?」


 そんな俺の態度を見て、アリスベルが意を決したように口を開いた。


「だったらアタシも行く! おにーさんと一緒にアタシも行くもん! おにーさんが死ぬときはアタシも一緒だもん! だってアタシたちは運命共同体なんでしょ!?」


 アリスベルが俺への想いを必死に届けようとしてくる。

 けれど。


「悪いけど今回ばかりは連れていけない。相手はSSSランクの超越魔竜イビルナークだ。こんなヤバいのを相手にして、アリスベルを守りながらじゃとてもじゃないけど戦えない。勝てるものも勝てなくなる」


「…………」


 正論で真っ向から否定されてしまって、アリスベルは何も言えなくなって黙り込んでしまった。

 その瞳には涙が浮かんでいる。


 だけど何があっても、たとえ泣かれたとしても、アリスベルを連れていくわけにはいかなかった。


 超越魔竜イビルナークとの戦いは、魔王と戦った時と同等か下手をすればそれ以上に激しい戦いになる。

 今までみたいにアリスベルにイイカッコを見せる余裕は、あろうはずがなかった。

 誰かを守りながらで勝てる相手では到底ないのだから――。


 だから俺は感謝の気持ちをアリスベルに告げる。


「今までありがとうアリスベル。俺を好きになってくれてありがとう。あの時行き倒れていた俺を助けてくれてありがとう。アリスベルがいてくれたから、アリスベルが俺の腰を治してくれたから俺はまた戦えるんだ。こうやって世界を救う戦いに向かうことができるんだ。だからありがとうアリスベル、君には感謝してもしきれない」


「あの時治さなきゃよかった……腰が悪いままなら、おにーさんはずっとここにいてくれたのに……」


「そう言うなってば」


「だって世界を救いに行くとか言われても、そんなのアタシ全然わかんないもん……おにーさんにそばにいて欲しいんだもん……死なないで欲しいんだもん、生きてて欲しいもん……」


「そんな心配しなくても大丈夫だって。いつもみたいにちゃんと勝って帰ってくるからさ。だから泣かないで、安心して家で待っててくれないか?」


 俺はアリスベルの悲しそうな顔をこれ以上見ていたくなくて――つい、嘘を言ってしまった。


 はっきり言って単騎で挑んで勝てる可能性は低い。

 それでも、これはきっと許される嘘のはずだから。


「この前SSランク4体相手におにーさんは死にかけたんだよね? じゃあそれよりも弱いってこと? ねぇフィオナさん、どうなの?」


 だけどアリスベルは俺ではなく、フィオナに質問の矛先を向けたのだ。


「えっと、それは……」


 そして正直なフィオナが、ここで口ごもってしまう。


「ぐすっ、おにーさんのばか……ひぐっ、うそついた……アタシにうそついた……うそつきは死んじゃえ……うそ、死なないで……お願い……お願い、お願い……」


「アリスベル……わかってくれ……」


 アリスベルが大粒の涙を流しながら何度も何度も「お願い」と繰り返す。

 だけど俺はその「お願い」を絶対に聞き入れることはできなかった。


 アリスベルのすすり泣く声と、重苦しい空気が家の中に立ち込めて――、



 「相も変わらずクロウは女心がちっともわかってないんだから」



 だけど唐突に、そんな空気を笑い飛ばすようなその声が家の中に響いたのだった。


 それはとてもとても懐かしい声で。

 勇者パーティ時代は毎日のように聞いていたその声は――



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