どうも、この世界の勇者です。
「名前まだ聞いてなかったな。」
「すみません!僕ウィンチェスターと申します」
「ウィンチェスター?」
かっこいい名前じゃないか。
「それってファミリーネームっぽいけど」
「すみません!ファーストネームはあまり好きでは無いので・・・」
「そっか」
力を使えば名前を知る事ができるが本人が嫌がっているのだから無理に知る必要もないだろう。
「それであの~あなたのお名前は?」
「あぁ、ごめんごめん!俺はヤマト!」
「ヤマトさんですか!よろしくお願いします。ちなみに役職は?」
「んー何というか神だ」
俺は口の横に手を添え周りの目を見ながら答えた。
「神っ?あっ冗談、ですよね?」
「いやこれが本当なんだわ」
「・・・へぇ~そうなんですね~」
ウィンチェスターの笑顔が徐々に引きつっていくのがわかった。
その顔のままウィンチェスターがソフィを見た。
「わたしはソフィ!ゆくゆくは魔おっ」
俺は急いでソフィの口を塞ぐ。
「こいつはソフィでゆうゆくは魔法使いの王様になりたいらしい」
「ソフィさんですか!よろしくお願いします!」
「ウィンチェスターってのはちょっと長いなぁ。ウィンって呼んでも良いか?」
「大丈夫ですよ!ニックネームがあった方が打ち解けやすくて助かります」
「そうか!あとウィンも気を使ったり敬語で話したしするのナシな!もう仲間なんだし!」
「はい!あっじゃなくてうん!」
「ま、ゆっくりで良いから!」
「じゃ僕親に話して来るので1度帰ってきます。すぐそこの武器屋でいるので後で来てください。」
「分かった!」
ウィンは行ってしまった。
勇者である事が知れ渡っていて帰りも勧誘の嵐にあっていた。
「ぷはぁ!ヤマト窒息させる気?」
「あぁすまん!忘れていた」
俺の手をソフィが払いのけた。
「さすが私が見込んだだけのことはあったわね
」
「さっき願い下げしてたのはどこのどいつだ?」
「さぁ覚えてないわ」
「お前さっき魔王の事言いそうになったろ?」
「何がいけないのよ」
「バカか!あいつは勇者で魔王を倒せる者なんだぞ」
理解しようでソフィの顔は青ざめていた。
「なんで勇者なんか仲間にしたのよ」
「知るかよ!俺だってびっくりしてるよ」
「私きっと退治されるんだわ!手足を切断されて馬で街中を引きづられんだわ!切られる前にはきっとこのナイスバディを街中の男たちにエッチなことされたり・・・」
「落ち着け!そんなことにはならないから!」
「分からないじゃない!」
「まずは魔王関係は黙っておけ!魔法使いってことにしとけよ!」
「わかったわ!」
「そういやウィンが後で来てくれっていってたな」
「私は行かないわよ」
「何言ってんだ!仲間になったばかりで来ないのはおかしいだろ」
「だって死にたくないよ~まだ恋もしたことないのよ!私には将来素敵な男性と結婚するって夢があるんだから」
「それは初耳だ。そんなことより俺がフォローするから安心しろ」
嫌がるソフィを無理やり連れウィンの行ってた武器屋へ着いた。
見たところ始まりの街にあると言われて納得できる外観だった。
ゲームと同じように並んでいる商品も初心者用の武器、防具を扱っているようで、正直ぱっとしない感じだった。
「お母さんは認めないわよ!」
奥の方から怒鳴り声が聞こえる。
「もしかして勇者様旅立ちを反対されてるみたいね」
ソフィがニヤニヤしている。
「お前嬉しいんだろ?」
「そりゃそうよ!殺されずに済むんだから」
「はぁ~。まぁそうだよな。普通に自分の息子が死と隣り合わせになるのは親として反対だよな」
「そんなもの?」
「お前の親は違うのか?」
「私の場合は『早くこの魔界を背負うような立派な魔王になれよ』って小さい頃からずっと言われてたわ」
「魔族と人間では違うんだよ、きっと」
「すみませーん」
店員を呼ぶように呼ぶと奥から誰が出てきた。
「いらっしゃいませ!お待たせしてすみません。」
男性だった。おそらくウィン父親だろう。
「あの~ウィンチェスター君に呼ばれて来たのですが」
男性の目の色が変わった。
「アリシアの?おーい母さん!アリシアのお友達が来たぞ!」
「アリシア?」
ウィンのファーストネームが意外にもすぐにわかった。
ドタバタと足音を立てながら女性が走ってきた。
お母さんだろう。ウィンは母親似よりは父親に似ている。
「まぁまぁあなたがアリシアの仲間の人たち?こんな可愛いこまで!まぁまぁこんな狭いところでごめんね。奥の部屋にどうぞ」
ソフィは照れている。
「お邪魔します」
「お父さん今日はもう店しましょうよ」
「そうだなせっかくの旅立ちの日だ」
「?」
反対していたとばかり思っていたので話についていけない。
「汚いところですが、どうぞゆっくりして下さい。」
お世辞にも広いとは言えないリビングに通された。
すでにウィンがシルバー一色のいかにもランスを持って聖十字騎士団のような防具に身を包んで立っていた。
「気合の入りようがすごいな」
「違うんです。これは父が勝手に」
「自分の子の旅立ちなんだ装備はしっかりしていた方が良いだろう」
武器を持てるだけ持って出てきた。
「自己紹介が遅れてすみません。私アリシアの父親のアレックスと申します。」
自分の名前が呼ばれたウィンの顔が赤面している。
「あの~さっき『認めません』って聞こえたんですが?旅立ちを反対されてるって事ですか?」
「聞こえてましたか?声が大きくてすみません」
母親かティーポットとカップをお盆に乗せて出てきた。
「興奮してたものでして、あ、すみません。母親のリリーです。」
「リリーは興奮すると声が大きくなるんです。」
誰でもそうだろと内心思った。
「興奮したら誰でも大声になるでしょ」
ソフィには気遣いを後で教えておこう。
「反対なんてしませんよ。この街で住んでいる以上いつか、どこかで勇者が産まれるんです。勇者になれるのはこの街では栄誉でしかありません。まして自分の子が勇者だなんて嬉しい限りです。」
「そうです。何百年も待った勇者がこの家から旅立つ。父親として最高の装備で送りたい、そう思って準備したのですがリリーがこの装備だとダメだと」
なるほどこのやり取りの途中を聞いていたのか。
「だって女の子なんですよ!それなのにこんなガチガチの男の子みたいな装備なんて!」
「女の子!?」
俺もソフィも同時に声を発した。
ソフィはなおさら恥ずかしくなったようで両手で顔を押さえている。
「ええ?そうですよ?」
「すみません」
謝罪の言葉しかでない。男の子を女の子と間違うのはまだ顔がキレイととってもらえるかもしれないが、女の子を男の子と間違うのはかなり失礼だ。
「男の子だと思ってた。だってあんたおっぱいないんだもん」
こいつは・・・。ただ俺も同じこと思ってた。ソフィ代弁ありがとう!
「女の子なんですからもっと可愛らしい格好で旅立たせたかったんです。」
「あの失礼ですが、勇者として旅に出るということは死と隣合わせになります。そこは大丈夫なんでしょうか?」
「この子を産んだ時から覚悟は決めておりました。私だけでなくこの街に住んでいる人全員同じだと思います。本人にも子供の頃から言い聞かせてましたし」
「確かに親として心配という気持ちもあります。ですが今日仲間が出来たと喜んで帰ってきたあの子と仲間であるあなた方を見て、そんな気持ちは一蹴されました」
そうかみんな覚悟は決まってたんだな!
俺は心の中で感心していた。
「あなたはどう思いますか?」
「そうだ!あなた方の意見を聞かせて下さい!」
そういうとウィンが着ている防具とは別の防具を持って来た。
フリフリのレースのようなものがついた女の子しか着れないよな防具だっだが、これは違うと俺もソフィも意見が一致した。
「うーんなんですかね?今来ているのは女の子には重すぎると思いますし、こちらのは派手なので魔物に見つかりやすく危険だと思いますよ」
「そうですか、自分たちの考えだけで決めるとダメですね」
「店内にあったあの防具はどうでしょう?」
俺は店内に飾ってあった防具を持ってきた。
「これなら動きやすいし見た目も目立たないかと」
うーんと2人とも納得がいかない様子だったが
「私これが良い!」
初めてウィンが声を出した。
『私』と言ったウィンを違和感を感じたが許してくれ。
「まぁアリシアがそう言うなら」
「そうねアリシアの旅だもんね!」
納得してくれた両親に別れを告げる。
ウィンは俺が選んだ防具と旅立ちには打って付けの小型を装備して店から出てきた。
「よし!行くか!」
「その前に名前のこと。驚いたよね?勇者が女の子だったなんて」
このタイミングで男の子だと思っていた事を謝った方が良いのだろうか?
「勇者は男の子って言うのがいつの間にか当たり前になってて、自分が女の子だって言うのが恥ずかしくて言い出せなかったの!ごめんなさい!」
「そんなの気にすんなって!現に今正直に言ってくれてるじゃないか!」
「そうよ!私は男の子より女の子が仲間になってくれた方が安心よ!」
「おい、どう言う意味だよ」
「だってこんなのと夜を過ごすなんて怖すぎよ、今朝だって私の着替え見ようとしてたし」
「はぁ向こう向いてたじゃねーか!俺がいるのに脱ぎ出す痴女はお前じゃんか」
そのやり取りをみてウィンがお腹をクスクス笑い出した。
その顔はどこにでもいる女の子に見えた。
「良かった!勇気を出して声をかけた最初の人があなたたちで。
もう一度自己紹介させて!私はウィンチェスター!アリシア・ウィンチェスター!役者は勇者よ!
ヤマト、ソフィこれからよろしくね!」
「こちらこそよろしく!」
「ま、私の仲間になるんだったら勇者くらいじゃなかったらね!」
仲間も1人増えた。次の街へと俺たちは歩みを進めた。
「やっと見つけた。魔王様に報告せねば」
1匹のカラスが日が沈みかけ暗くなりつつある東へと飛んでいった行った。