表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/53

ダンジョン調査

 時は流れ、季節は移ろう。3月になり冬の終わりが近づき、春の訪れを感じるこの時期に、魔王軍は繁忙期を迎える。


「新年度の予算決議に、確定申告…」


 今年度は魔王軍が大幅な改革を迎えた年であり、新たな法体系や制度に則り、金銭面や人事面での事務作業などが数えきれないほどある。昨年度までは制度自体存在しなかったため、培ってきたノウハウなどもなく、1から業務をこなす必要がある。それに加えて……


「営業の外回りの再開ですか……仕事が山積みですね」


 多くの生命にとって冬は活動を控える時期であり、それは魔王軍に属する魔物にとっても例外ではない。魔王城は大陸の北部に位置しており、冬になると辺り一面が雪に覆われ、厳しい寒波に晒される。そんな状況で営業部が外回りを行えば、犠牲者が出てしまう可能性が非常に高いため、必要最低限の業務のみをこなし、残った時間は自己鍛錬に費やしていた。

 だが季節は3月。春も近づき雪解けも進んでいる。本格的に春を迎えれば、冬の間活動を休止していた冒険者たちが動き出す。そのため、滞っていた業務を進める必要がある。営業部の行う外回りにはいくつかの種類がある。

 まず、周辺地形の把握。定期的に現地に赴いて調査を行い、地図の確認・修正を行う。

 次に、冒険者の討伐。王都近郊や主要都市の周辺を主な活動範囲とし、冒険者を討伐し敵戦力を減らす。営業部のメイン業務である。

 そして最後がダンジョンの管理。ダンジョンには大きく分けて2種類ある。魔王軍が管理・運営する人工物のダンジョンと、野良の魔物が洞窟などに住み着いて出来る天然物のダンジョンである。魔王軍が管理するダンジョンは、主に中継拠点としての役割を果たし、日頃の業務の休息拠点や、大規模行軍の際の拠点として幅広く活用されている。唯一魔王城に通じるダンジョンのみ、敵の侵入を拒み、敵を撃退・討伐することに特化したダンジョンである。

 そんなダンジョンも冬の間は最低限の管理しか行われておらず、この時期には特に入念な整備・点検が必要となる。


「つーわけで、れいちゃんにもダンジョンの視察来て欲しいんだよね」


 軽い口調でそう話す彼女は、営業部長のルミューズさん。ただ、軽薄そうに見えるのは言葉だけであり、仕事ぶりは真面目そのもの。モートン様とは異なる魅力・能力で営業部を支えてくれている。


「私も一度現地の確認をしたいと思っていましたので、ぜひ同行させて下さい」

「マジ? ちょ〜助かる! ありがと! あ、あとさ、罠担当で開発部長のヌトーリアも来るからよろしくね!」

「承知しました。三人で日程を調整しておきます。決まり次第連絡しますので、よろしくお願いします」






「なんか変じゃない?」

「変だね〜」

「妙ですね」


 王都近郊にあるダンジョンの調査を開始してすぐ、私たちは全員が同じ感情を抱いた。数ヶ月間簡易的な管理しか行ってこなかったとはいえ、ダンジョン内部が大荒れしていた。加えて……


「侵入者を検知する罠確認したんだけどさ〜ここ数ヶ月の間に山のように来てるよ〜」


 本来冬の間は活動を休止する冒険者が多いはずだが、例年のデータと比較しても異常なほどの数の冒険者が冬の間にダンジョンに侵入していた。


「最近外回り行ってる子たちが言ってるんだけどさぁ。なんかめちゃくちゃ冒険者と出会って大変だって」


 さらに、ダンジョン外での接敵はダンジョン内以上に増加傾向にある。王都はその名の通り、人間の一つの国の首都であるため、冒険者が集中するのは当然である。だが、そのことを差し引いても異常なほどの数が観測されている。その影響で営業部にも少なくない被害が出ているという。


「私が冒険者をしていた頃の経験からしても、明らかに異常ですね」

「てか王都の宰相ってうちらのスパイっしょ? 何が起こってるか聞けばよくね?」

「残念ですが彼とは3ヶ月ほど前から連絡が取れていません。これだけの間音信不通ということは、魔物であることが発覚し殺されてしまったのでしょう」

「……そっか」


 彼のおかげで入手できていた情報の存在は重要であり、魔王軍の行動指針を決定する上でも重宝されていた。敵主要国内部の情報を入手する手段が失われたのは、魔王軍にとって大きな損失である。


「もし単純に冒険者の数が増加しただけであれば、営業部の強化や人員補充で対処可能ですが……。なにか国内で動きがあったと考えるべきでしょう。近いうちに王都に調査に行く必要がありますね」


 幸い私は何の問題もなく王都を出入り出来るため、軽い聞き込み調査程度なら行える。そうすれば、王都の現状について、何かしらの情報は得ることが出来るだろう。


「とりあえず今はダンジョンの調査を続けましょう」






「当面の目標は営業部の強化ですね。外回りなどにおいては、1グループの人数を増やすなどの手段を取り、こちらの被害をなるべく抑えるように動きましょう。必要であれば人事異動なども検討します」

「れいちゃんマジありがとね。助かるわ〜」


 あの後いくつものダンジョンの調査を行ったところ、冒険者の数が増えているのは王都近郊のみであり、王都から離れるほど冒険者の数は例年通りへと落ち着いていった。むしろ、例年よりも若干の減少傾向が見られる。ということは、全国的に冒険者の数が増える現象が起こったのではなく、王都でのみ何かしらの変化があったということになる。

 この調査結果をもとに、ひとまず営業部の強化を優先することにした。ルミューズさんから聞いたところ、最近の営業部には無視出来ない被害が出始めているらしい。遠くない未来に来たる決戦の日に備え、魔王軍の戦力が削られる事態は避けるべきである。


「営業部の今後の行動方針も立てられましたし、本日は解散としましょう。お疲れ様でした」

「おつ〜」

「おつかれ〜」


 二人と別れ、今後の予定を考える。とりあえず、なるべく早期に王都での調査を行う必要がある。魔王軍全体としてどう動くかは、調査の結果を元に会議を挟み決定するべきだろう。

 そう思い、後日のスケジュールと業務内容を確認しながら、調査の日程の候補を考えつつ、この日は残った時間を使い通常業務をこなした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ