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百合の間に挟まる男

 この間、魔王様と娘さんの関係が崩壊したかと思ったら、仲良く帰ってきた。しかも、その日から魔王様が真面目に働くようになった。しかも、娘さんも働き出した。さすがのレイスさんもこれは予想外だったらしく、少しだけ悩んでいた。と言っても、本当に少しだけで五分程度なのだが。

 そんな変化があって、未だバタバタとしている魔王軍に、新たな混乱の種が()かれようとしていた。


「は〜い、注目〜」


 そう言って、どこか間延びしたような声で話すのは、開発部長のヌトーリア。


「今日みんなに集まってもらったのは〜新しい魔法の被験者になってもらう為で〜す」


 今現在、大広間に一部の例外を除いて、魔王軍全員が集まっている。それだけの人数を集めて魔法の実験をしようと言うのだ、絶対に面倒ごとになる。


「ふざけんな!」

「俺達は実験に同意してないぞ!」


 まあ、当然そうなりますよね。正直私も嫌ですし。


「まあまあ、体に害はないから〜……たぶん」


 今小声でたぶんって言いましたよね? 安全性も保証されてないんですか。


「それに、レイスからの許可も取ったから〜……しぶしぶだけど」


 なんかさっきから重要なとこだけ隠してますね。でも、レイスさんがしぶしぶとはいえ、了承したなら仕方ないですね。


「というわけで〜みんなには、性別の違いによるお互いの苦労を知ろう、という建前のもと遊び半分で作られた性別逆転の魔法をかけま〜す」


 落ち着いて来ていた空気の中伝えられた魔法は、再び場を乱すには十分すぎるものだった。


「おい、ちょっと待て!」

「そんな魔法だなんて聞いてないんですけど!?」

「いやあああ!」


 あ、これさっきより酷いことになってますね。


「ちなみにだけど、下手に抵抗すると変な形で魔法が発動するからやめた方がいいよ〜。あと〜魔法の効果には個人差があるけど〜長くても明日には解けるから〜。じゃあかけるよ〜」


 ヌトーリアがそう言うと、床に巨大な魔法陣が出現した。大広間全体を覆うほどの大きさのそれは、紫色の妖しい光を放っていた。

 なんですかこの魔法陣。性別逆転の魔法なんかよりも、よっぽど凄いもの開発してるじゃないですか。

 強化魔法や弱体化魔法などの一般的に補助魔法と呼ばれるものは、基本的に魔法をかけれる対象は一人、多くても数人だった。だが、今魔王軍全員に同時に魔法をかけようとしている。もしこれが成功すれば、魔法技術の大きな発展になる。

 魔法陣の放つ光が一際大きくなり、魔法が解き放たれる。私にも魔法がかかり体に変化が――


 ――なかった。

 不発……というわけではなさそうですね。魔法自体はかかってましたし。となると、私には効かなかったのですか。

 他の人はどうなったのかと思い、辺りを見回して見ると、そこは地獄絵図だった。


「いやああ! 私に……アレが生えてる!」


 ああ、女性が男性になればそうなりますよね。体つきもゴツくなっていますし。私には効かなくてよかったです。


「お前胸デカすぎだろ! ちょっと揉ませろよ」

「いや、自分の揉んでろよ」

「オレは貧乳になったんだよ。こんな体意味ねえだろ」


 は? あの男なんて言いました? 貧乳には価値がない?


「ひっ、なんか殺気が……」


 まあ、あの男のことは一旦置いておいて、本命はレイスさんですよ。

 今日はここに一緒に来たわけではないため正確な場所はわからないが、探せばすぐに見つかるだろう。というか、見つけれる自信がある。案の定すぐに見つかった。


「レイスさ……ん……?」

「ああ、ベルナさん。どうされました?」


 そこにいたのは、普段とは全く違うレイスさんだった。

 身長は私より低くなっており、端正な顔の中に可愛らしさが混じっている。肌はもちもちとして柔らかそうであり、体のラインも女性らしくなっている。着ていた服はサイズが合わなくなった為にだぼだぼとしており、萌え袖になっているのはもはや狙っているのではと思えるほどに可愛らしかった。

 そんな中、一番目を引かれるのは胸部である。その小さな体には不釣り合いなほど大きなものがあった。服もその箇所だけは張り詰めており、今にもはち切れそうだった。


「なんでレイスさんの方が胸があるんですか。レイスさんも胸は大きい方がいいんですか」


 しまった。つい、思ったことをそのまま口にしてしまった。しかも、嫌味みたいな口調で。レイスさんは胸の大きさなんて気にしない人なのに。


「いえ、私は胸は小さい方がいいと思います」


 あれ? レイスさんはそういったことに興味がないと思っていたのですが……やはりレイスさんも男性ということでしょうか。でも小さい方がいいというのは……。


「その……どうして小さい方がいいんですか?」


 もしかしたら以前は興味がなかったが、私といるうちに好きになったとかかも知れない。もしそうだとすれば、嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ。


「そうですね……やはり大きいと戦闘の際に邪魔になりそうですから、小さい方がいいですね」


 レイスさんからの返答は、私のそんな期待を裏切るものだった。


「ええ、薄々わかってましたよ。レイスさんが性的な目で見てないことぐらい。だから全然残念でもなんでもないですから……ええ、本当に……」

「大丈夫ですか? 今日のベルナさん少し変ですよ」


 それは確かに自分でも思う。ただ、全部レイスさんが悪いと思う。そんな体で……誘ってるようなものじゃないですか。


「本当に大丈夫ですか? もし体調が悪ければ……」


 黙ったままの私を心配してくれたレイスさんが近づいて来て――

 パァン!

 何かが弾けるような音が響き渡った。音の発生源に目を向けると、そこには今にも溢れそうな胸を両手で支えるレイスさんの姿があった。

 ……さっきの音は歩いた時の衝撃で上着のボタンが弾け飛んだ音ですか。いや、歩くだけでそうなるとか、どれだけですか。


「やば……レイスデカすぎだろ」

「というか、今の二人がイチャついたら百合じゃね?」

「間に挟まりてぇ〜」

「は? 異端者がいるぞ」

「殺せ。慈悲はない」


 なんか外野が騒がしいですが、今のレイスさんはあまりにも目の毒すぎるので、とりあえず私の上着を羽織らせる。


「まずは、サイズのあった服に着替えましょう」


 私はそう言って、レイスさんを連れて服を見繕いに向かう。


「ありがとうございます」


 私を見上げてお礼を言うレイスさんは上目遣いになっており、柔らかな微笑みを浮かべていることもあって、とてつもない破壊力だった。

 それを見た私は行き先を変更する。もう服とかどうでもいい。今すぐに襲いたい。


「あの、ベルナさん? 方向が違うように思えるのですが」


 レイスさんからすればそう見えるだろう。向かっているのは私の部屋なのだから。

 私は何も言わずレイスさんの腕を掴んで、かなり強引に部屋まで連れてくる。部屋に入ると鍵をかけ、レイスさんをベッドに押し倒す。


「あ、あの、ベルナさん? どうされました?」


 珍しくレイスさんが動揺している。もしかすると、心も若干女性らしくなっているのかも知れない。


「レ、レイスさんが悪いんですからね。あんな言動で……誘ってますよね?」


 それだけ言うと、私はレイスさんの服を脱がせにかかる。


「だ、だめです。今は……仕事中ですから」

「どうせあの様子だと、今日は仕事になりません。なら、今日しかできないことをしましょう。レイスさんに、女性の体のことを隅々まで教えてあげます」

「……確かにそうですね。お願いします」

「え?」


 急に冷静な声を聞かされたことで、私にもいくらかの理性が戻ってきた。

 私とレイスさんの初めてがこんな形でいいのだろうか。そもそも、ムードも何もあったものじゃない。


「……仕事に戻りましょうか」

「してくれないのですか? 実際に体験して知ってみたいのですが」

「しません」

「そうですか。では、他の人に――」

「だめです!」


 思わず大声をだしてしまった。でも仕方ないだろう。レイスさんが寝取られる未来を幻視してしまったのだから。

 今日のレイスさんは少し変だ。さっきみたいに押されたら、簡単に体を許してしまいそうで怖い。今日はずっと一緒にいよう。


「とりあえず、仕事に戻りましょう」

「……そうですね。年末に向けてしないといけないことも多いですし」





 あの後仕事に戻った私達だったが、仕事は全くと言っていいほど捗らなかった。全部レイスさんが可愛すぎるのがいけない。目を引かれて仕事どころではなかった。

 そんなレイスさんは今、私の腕の中で眠っている。今日は離れるつもりはなかったため、夜も一緒に寝ることにしたが、普段と違う体で過ごしたのが影響したのか、お風呂から出るとすぐに眠ってしまった。

 目の前で安らかに眠るレイスさんは幸せそうで、いつまでも眺めていたくなる。しかも、いい匂いもする。まあ、いつもいい匂いなのだが。ずっと起きていたくもあるが、明日に響くといけないので、私も眠ることにする。


「愛してます、レイスさん。おやすみなさい」


 そう囁いて、レイスさんの頬にキスをする。そのまま私も眠りについた。




 翌朝、私が起きた時も、レイスさんは腕の中で眠っていた。ただ、体は元に戻っており、いつものレイスさんがそこにいた。

 私が起きてもレイスさんが眠ったままというのは珍しい。というか、レイスさんが眠っている姿を見れること自体、滅多にない。レイスさんは警戒心が強すぎる。私達を警戒してのことではないが、少しでも人の気配があると目が覚めると、以前聞いたことがある。

 なら、私の腕の中で眠ってくれているということは、私を本当の意味で受け入れてくれているということなのだろうか。もしそうなら、これ以上ないほどに嬉しい。


「ん、んぅ……」


 私がそんなことを考えていると、レイスさんが目を覚ました。


「おはようございます、レイスさん」


 レイスさんにしては珍しく寝ぼけているようで、私に抱きついてくる。

 だめだ、可愛すぎる。


「ん〜ベルナさん、好きですよ〜」


 は、え? 今、好きって? いや、え?


「……あ、おはようございます、ベルナさん」


 私が混乱している間にレイスさんはしっかり目覚めたようで、私から離れて体を起こす。


「さて、準備しましょうか」


 そう言うレイスさんの口調は普段と変わりなく、まるでさっきのことがなかったかのような振る舞いだった。もし私がさっきみたいなことになったら、恥ずかしくて平静ではいられないだろう。

 まさか覚えてないのでしょうか。あのレイスさんが?


「あの、レイスさん? 恥ずかしくないんですか?」


 まだ混乱している頭で発言したため、完全に聞く順番を間違えた。私はいきなり何を言っているのだろう。


「何がですか?」


 レイスさんは本当にわかっていないような感じだった。やはり忘れているのだろうか。もうここまで来たら最後まで聞くことにする。


「その……さっき私のことを……好きって言ったことです……」


 やばい。聞いてるこっちの方が恥ずかしい。


「はい?」


 あ、この反応は覚えてなさそうですね。ならどうやって誤魔化せば……。


「自分の本心を伝えることは、全く恥ずかしくないですよ? 気持ちを相手に伝えることは大切ですし」


 それだけ言うと、レイスさんはベッドから起き上がった。

 え? なら、さっきの発言は本心ってことになって……。あ、やばい。幸せでどうにかなりそう。


「あ、あの、レイスさん。私も……好きです……」


 昨晩眠っているレイスさんに言ったのとは訳が違う。やはりとてつもなく恥ずかしいが、これは言わないといけないと思った。


「はい。ありがとうございます」


 そう言って笑うレイスさんを見た私は、絶対に幸せにしようと改めて思った。

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