計画
あれから数週間が経った。エレトのことを完全に忘れることは出来ていないが、気にしないようにして過ごせてはいる。そんな中、一つ気になることがあった。なんでも、レイスさんが風俗店に入り浸っているとかいう噂があった。まず、間違いだろう。仮に噂が真実だったとしても、仕事の関係で出向いているだけだろう。
レイスさんのことは信用していますし、間違っても女遊びに走るような人ではないですからね。何も不安になる必要はありませんね。魔王様じゃないんですし。
というわけで、今夜風俗店に視察にいく。もし、レイスさんがいれば本人に話を聞いて、いなければ店長に事実確認をする。そうと決まれば、さっさと仕事を終わらせて準備をしなければ。
というわけでやってきた。恐らく一番忙しいと思われる時間にアポ無しで行くという、とんでもない行為だが気にしない。ここまでやったのならもはや躊躇いなどなく、無断で裏口から店内に入る。そのまま店長室まで直行し、聞こえてきた声に部屋の前で立ち止まった。
「なあレイス。この前言ったこと、やってくれるんだよな?」
「ええ、やりますよ。それの確認のために今日は来たのですから」
やるって……ナニをヤるんですか!? ……いや、落ち着きなさい私。まだ、何をやるのか聞いてないのだから。
「どの程度までやればいいですか」
「そうだな……私が泣いて、やめてって言うぐらいやってくれ」
そんなに過激なことを!? 私もされた……じゃなくて。
「あっ、だめですよそこは。ビンカンなので」
「え〜少しぐらいいいじゃねえか」
ビンカン……敏感!? もう前戯でも始めてるんですか!?
もうこれ以上聞き続けるのは嫌なので、突入することにする。たとえ、中で何を見ることになっても。
扉を勢いよく開け、叫びながら中に入る。
「レ、レイスさんは、私のです!」
そして、中で私が見たものは――
――椅子に座ったまま、こちらを見つめてくる二人だった。
二人とも特に驚いた様子はなく、レティさんに至っては、ニヤニヤと笑っている。この反応からして、私がいることが分かっていたのだろう。
レイスさんはともかく、レティさんは何故分かったのだろうか。
「なんで私にバレてたのか不思議か? サキュバスはな、特定の感情に敏感なんだよ。情欲とか嫉妬とかな」
そこまで言われれば流石に分かる。私はめちゃくちゃに嫉妬していたのだから。
「いや〜嫉妬心がダダ漏れだったぜ? それに『レイスさんは私のです!』だってよ。モテモテだな」
とてつもなく恥ずかしいが、ここまできたら気になることを全部聞くことにする。
「じゃあ、さっき敏感って言ってたのは何なのですか!」
「敏感?」
レティさんは身に覚えがないのか、レイスさんと顔を見合わせている。
「ああ、あれか。レイス言ってやれよ。すごい勘違いしてるぞ」
「敏感じゃなくて、ビン・カンですね。レティさんが、紙パックをビン・カンのゴミ箱に捨てていたので注意したんです」
やばい。これ以上はないだろうと思っていたのに、それを軽く超えて恥ずかしい。
「なら、何をやるって話してたんですか……」
私がそれを聞いた直後、それまで笑っていたレティさんが真剣な表情になった。
「魔王様に復讐するんだよ」
「それ、私にもやらせてください」
ほとんど反射で答えていた。
「え? な、何かあったのか?」
私があまりにも食い気味に答えたため、レティさんは少し気圧されたようだった。
「魔王様に初夜を邪魔されました」
「え、なにそれ。後で詳しく」
あまり人に教える気はないんですけどね。まあ、気が向いたら後で教えましょうか。
「それで、そっちは何があったんです?」
「ああ、うちの新人が魔王様の相手をしてな。プレイの一環でレイプされたんだよ。本当に嫌だったらしいんだが、魔王様には逆らえなくてな。うちの可愛い新人を傷つけた魔王様に復讐することにしたんだ」
プレイ中のことなら仕方ないとも思いますが、普段があれなのでフォローする気も起きませんね。
「それで、どうやって復讐するんですか?」
「さあ? それはレイスに任せてるから知らないな。ただ、やばいことをするんじゃないか? そう頼んだし」
「魔王様の日頃からの悪行を記事にしてばら撒きます」
なんというか……思っていたより普通ですね。というか、魔王様がアレなのは周知の事実なので、あまり意味が無いようにも思えるのですが。
「そして、それを魔王様の娘さんの目に入るようにします」
「えっぐ」
「鬼ですか」
まあ、レイスさんの考えがそれだけとは思いませんでしたが……。魔王様って、自分の子供の前ではいい親を演じてましたよね。それ、とてつもないダメージになるんじゃないですか。
「止めに、魔王様の行為現場を見せます」
「もうやめてやれよ」
「トラウマものですよ」
「そうですね。では、行為ではなくセクハラにしておきましょう」
まあ、それなら大丈夫……ですかね。
「決行は一週間後、それまでに準備を整えておきますので。当日はレティさんが魔王様を誘惑し、セクハラされてください。ベルナさんは周囲の人払いと監視をお願いします。場所は魔王様の仕事部屋です。では、準備もありますので私は帰らせてもらいますね」
「おう、お疲れ様」
「お疲れ様です。無理したらだめですよ。しっかり休んでくださいね」
レイスさんがいなくなり、二人だけになった部屋で話を続ける。
「いや〜レイスはほんとに凄いこと思いつくよな」
「全くです」
「ところでさあ」
雰囲気が変わった。さっきの会話が形式的なものならば、ここからは本当にしたい話なのだろう。そう感じるほどには、興味や好奇心といった感情が見え見えだった。
「それで、初夜がどうのこうのっていうのは?」
「ああ、それはですね……」
意外にも、この話は盛り上がった。