一方その頃魔王軍は……
私の名前はロス。魔王軍幹部の一人であり、総務部長も兼任している。幹部として皆を導いてきたが、レイス殿が魔王軍に来てからはその役目を譲り、総務部の業務に注力してきた。
そして今回レイス殿が一週間休むということで、私が代役を担うことにした。普段あれだけ働いてくれているのだから、気兼ねなく休めるよう全力を尽くすと誓った。その結果は目の前にあった。
「飲め、飲め! 騒げ! 今日があやつがいない最後の日だ! 何があろうと我が許す! 宴だ!」
散らかる食堂。騒ぐ魔物達。その中心にいる魔王様。私には止めることが出来なかった。
もちろんここまで騒いでるのは本当に一部の魔物だけだ。それに四六時中騒いでるわけではない。だが、業務時間中には魔王様が毎日のように視察……という名の邪魔に来た。これだけでも仕事の効率は大幅に落ちる。その上で人事部が機能しなくなった。レイス殿とベルナ嬢がいない状態での仕事量やストレスなどに耐えきれず、ネア殿を除き皆欠勤するようになってしまった。私としてはこれを責めるつもりは一切ない。これは仕方ないことだ。私だって同じ状況なら投げ出すだろう。ベルナ嬢がいれば変わったかも知れないが、レイス殿の休息には必要不可欠な存在だろうと思われるため仕方ない。
この一週間で私も少しやつれた気がする。アンデッドの身であるため、睡眠も飲食も不要であるがストレスはある。こんな状況が続けば精神も削られるだろう。
それでも私は魔王様を止めるため動く。昨日までならしなかっただろうが、明日はレイス殿が帰って来るのだ。せめて魔王城内は綺麗にしておかなければ。今宴をやめさせれば、その後の片付けはどうとでもなる。
意を決して魔王様に声をかける。
「魔王様」
「ん〜? なんだぁロスよ。お前も飲むかぁ?」
魔王様は恐ろしいほど酒臭く呂律も少し怪しかった。おそらく意識はかなり朦朧としているのであろう。酒に強い魔王様がこんなになるとは、どれほど飲んだのだろうか。
「いえ、遠慮しておきます。それよりも、本日はお開きにしてはいかがでしょうか。明日にはレイス殿が帰って来ますし、お体に障るとよくありませんので」
私がレイス殿の名前を出すと、魔王様は露骨に顔を顰めた。
「あやつの話はするな〜。今いい気分なのだぞぉ。普段の仕返しだ、明日まで騒いでやるのだ」
「それでは魔王様が諭されて終わりですよ。そうなりたくなければ、もうお開きにすべきです」
「何かあやつに嫌がらせできないかなぁ〜」
まずい。話を聞いてもらえない。相当酔いが回っているようだ。このままでは仕事に復帰してすぐに、レイス殿が嫌がらせを受けることになる。それは阻止しなくては。
「そうだ! 今からあやつにちょっかいをかけに行こう! いいことを思いついたぞ〜」
最悪だ。今の時間帯ならレイス殿は眠っている可能性が高いだろう。そこに魔王様が現れて叩き起こされるのだ。これを最悪として何というのだろう。
「そうと決まれば早速行くぞ〜! テレポート!」
そう叫んだ魔王様は、未だその場にいた。
「おい。邪魔するなロス。我は嫌がらせをしに行くのだ」
私がテレポートの魔法構築を阻害したからだ。
「本気でやるぞ。我の魔法を阻止できるかな?」
今日一のキメ顔をしながら、魔王様は魔法を構築していく。当然私は全力で阻害する。魔力と魔力がぶつかり合い、辺りに激しい風が吹き荒れる。私は当然押されていた。
何という魔力。酔っていてなお、この構築速度。やはり魔王様の力は素晴らしい。力だけなら。人格も伴ってほしいとは思うが。
「ふっ、我の勝ちだな。テレポート!」
今度は魔王様の姿がかき消え、転移していってしまった。
阻止できなかった。魔王様相手に数十秒も時間を稼ぐことが出来たのは、過去最高記録ではあるが喜びは無かった。
「すまない、レイス殿。安らかな休息すら与えてやれないとは……」
私が自分の不甲斐なさを嘆いていると、魔王様が帰って来た。
「え?」
あまりの驚きに素の声が出てしまった。だが、これだけ早ければもしかするかも知れない。
「いや〜。いいものが見れたぞ。気分がいいから、今日はオールだ!」
邪魔をせず帰って来たのかも知れないという淡い希望は、その言葉で砕かれた。
レイス殿は日頃こんな魔王様をどうやって制御しているのだろうか。私には到底無理だ。
私は魔王様を止めることを諦め、酒を片手に再び騒ぎ出した魔王様を見送りながら、明日どうやってレイス殿に謝罪しようか考え出した。
1/1~1/7の間、一週間毎日投稿します。