健康診断
今日は魔王軍全員の健康診断を行うこととなっている。被験者は大勢居るのに対し、係の者は人事部と医療班のみなので、本日中に全てを終わらせるならば、手早く済ませなければならない。
「私達人事部は、主に身体測定を行っていきます。身長・体重・視力、その他必要に応じて測定します。そして医療班の皆さんには、診察をしてもらいます。皆さんの健康状態をチェックし、異常があれば症状改善のための指示をお願いします。以上が本日の業務となります。白衣に着替えて、各自持ち場に着いてください」
その言葉を合図に、全員が一斉に動き出す。現在は始業三十分前、早めに出勤する人はすでに来ている時間である。故に、急いで準備しなければならないのだが……。
「なあ、なぜ白衣なのだ? 黒衣の方が格好いいぞ」
今日に限って起きている魔王様が、いつも通り茶化してくる。
「白衣ですと汚れが目立つからです。また、清潔なイメージがあり、被験者と係の者を見分けるのにも便利だからです」
「ふーん」
興味が無さそうに答える魔王様だが、その身は白衣に包まれている。いつもと違う雰囲気に興味を持ったのか、今日に限って働くなどと言ってきた。しっかりと手伝ってくれるならありがたいのだが、魔王様に限ってそれは無いと言い切れる。むしろ、確実に問題を起こす。だから、魔王様には特別な仕事をしてもらうことにした。
「魔王様には、皆さんの悩みを聞いてアドバイスをする、カウンセリングをしてもらいます」
「え~もっと別のやつが――」
「この仕事は一人一人に紳士に対応する必要があります。そして、そんなことが出来るのは、魔王軍を統べる魔王様以外にいないのです。これは、魔王様にしか出来ない仕事なんです」
今の発言は大半が嘘だ。魔王様が文句を言いそうだったから、面倒なことになる前に手を打っただけだ。そして、それは正解だった。
「そっか~我にしか出来ないことか~。まったく仕方ないな! お主らのために一肌脱いでやろう!」
「ありがとうございます」
カウンセリングの専門医は別にいるため、正直に言うと魔王様がする必要はない。ただ、異なる視点からの意見はあって損はない。そういうことにしておく。
「では、魔王様はあちらの部屋で待機をお願いします」
「よし! 任せておけ、完璧に仕事をこなしてやろう!」
そういうと、魔王様は上機嫌に部屋に入っていった。
普段からあれぐらいのモチベーションで仕事に臨んでくれると嬉しいのですが……まあ、無理でしょうね。さて、私も自分の仕事に取り掛かりますか。
私の今日の業務内容は全体を見て回り問題が無いかの確認と、適宜指示を出すことである。私の他にも、ベルナさんを筆頭に数人同じことを担当する人がいる。私はまず、身長測定のところからでしたね。
「ここでは、体長の測定を行います」
身長測定とは言っても、人間のように簡単には終わらない。特定の状況下において、体格が変化する魔物も多数存在するからだ。
「体格が変化する方は名乗り出て下さい。変化の度合いや条件によっては有利に働くため、作戦立案の参考にします」
私の話が終わると、それぞれが体長を図りだす。元から巨大な体を持つ魔物も少なくないので、どうしても時間がかかる。
「俺分裂出来るんだけど」
最初に名乗り出たのは二足歩行の蜥蜴で、いわゆるリザードマンと呼ばれる種族の人だった。リザードマンと一口に言っても様々な種類がある。彼は特殊な能力を有しているようだった。
「どのような条件で分裂するのですか?」
「尻尾を切り離すと、その尻尾から体が生えてくるぜ。無理をすれば、四分裂ぐらいは出来るぞ。ただ、数が増えるとその分個々が弱くなるけどな」
「なるほど。個体ごとに体のサイズを変えたり、自切以外から分裂したり出来るのですか?」
「さあ? やったことないからわかんねぇ」
「ではこの機会に試しましょう。ネアさん」
「はいなの~」
私が呼びかけると、ネアさんはすぐに飛んできた。その手には巨大な斧が握られており、周囲の光を反射して輝くそれは、その鋭利さを物語っていた。
「え?」
突然の状況に困惑している彼に、しっかりとした説明をする。
「自身の能力の把握は大切です。何が出来て何が出来ないのか、それを知るところから始まるのです」
「お、おう。それで?」
続きを求める彼への説明は、私より先にネアさんが口を開いた。
「今からお前で実験するの。分裂出来る条件を徹底的に調べ尽くすの。覚悟しろなの」
ネアさんはそう言うと、片手で彼の肩を掴んで引っ張っていく。
「えっ!? ちょ、やめて! 絶対やばい! ていうか、どこに連れて行く気だ!?」
「拷問部屋なの」
「いやだぁぁ! 助けてくれレイス!」
彼の縋るような瞳が私に向けられる。そんな彼に私は優しく声をかける。
「安心して下さい。回復魔法が得意な者がいますので、命の危険はありません。それに、痛みも抑えますので」
「そういうことなの。さっさといくの」
彼の顔が絶望に染まり、連れて行かれまいと必死に抵抗する。だが――
「こいつ力強すぎだろ! どこにそんな力あるんだよ!」
――ネアさんは意にも介さず引きずっていく。自らの運命を悟った男は、誰彼構わず助けを求める。
「いやぁぁ! 誰かぁ! 助けてぇ!」
そんな男の悲痛な叫びは段々と遠のいていき、やがて聞こえなくなった。そして、静まり返った部屋で私は口を開く。
「他にも体格が変化する方は遠慮なく名乗り出て下さい」
「「「いや、無理だろ」」」
この場に居る大半の人が、自分も何かされるのではないかという思いを抱き、周囲には重く沈んだ空気が漂う。そんな中、一人だけ浮かれた人がいた。
「いや~体格が変化する人は大変だね~。まあ、自分は~? 変わらないんだけど~?」
粘液で濡れた触手を蠢かしながら歩くその人物は、時折デュフフという笑い声をあげている。それは、開発部長のヌトーリアさんだった。
「というわけで~自分は先に行かせてもらいま~す」
気分が高揚しているのか、普段とは少し口調が変わっていた。上機嫌なまま、次の場所へ向かおうとするヌトーリアさんを呼び止める。
「ヌトーリアさんは、触手の長さも測りますので少しお待ち下さい」
「ああ、触手ね~。問題ないよ~」
「そうですか。では、遠慮なくやってもらいましょう」
その直後、黒服の屈強な男が二人現れる。片方がヌトーリアさんを後ろから拘束し、もう片方が触手の一本を掴む。
「えっ? なに? ちょっと――」
「触手がどこまで伸びるかを測るだけです。やって下さい」
その言葉を合図に、触手が引っ張られていく。やがて触手はピンと張った糸のようになった。
「あっ、やめて! そこはだめ! ちぎれるぅぅ!」
その様子を見ていた一人が、誰に問うでもなく呟いた。
「なんか……今日のレイス厳しくね?」
その声を聞いた周囲の人達も、同意するように頷いていた。
「モートン様の死に怯む皆さんを奮わせるため、人事部も心を鬼にしているのです」
「え? これまで以上に?」
「はい。ですので、今日は容赦なくいきます」
その言葉を聞いた人達は、これから自分がされることを想像したのか、膝から崩れ落ちる者もいた。それからも定期的に部屋には悲鳴が響き渡っていた。
「身長の次は体重です。天秤の片側に乗ってもらい、もう片方に重りを乗せて測っていきます。測っている最中は、あまり動かないで下さいね」
私の説明を受けている人達は、心なしか顔色が悪いようだった。
「皆さん顔色が優れないようですが、どうかされましたか?」
「お前のせいだよ!」
「あんなんトラウマになるわ!」
「限度ってものがあるだろ!」
そう叫んだのは、先程様々な検証が行われた魔物だった。
「自分の能力を正しく知る、つまり自己分析は最も重要と言っても過言ではないでしょう。それをしていたからこそ、命を救われる場面があるかも知れません。私達人事部は、皆さんがポテンシャルを最大限引き出せるようサポートしているのです。分かっていただけますか?」
「「「クソ、俺達のことを考えてくれてる! 何も言い返せねぇ!」」」
とりあえず話は分かってもらえたので、体重を測る作業に移る。
ある程度の人数を測ったところで、それは起きた。
「お前体重低いな~。そんなヒョロヒョロだと、すぐやられるんじゃねーの?」
これだけならよくある会話だった。ただ、これに反応した人がいた。
「体重があればいいわけではありません。身軽さを犠牲に体重を増やすならば、体力がついていなければいけません」
ベルナさんである。話の内容に思うところがあったらしく、珍しく強い口調で会話に割って入っていった。
「あちらの方を見てください」
そう言って手を差し向けたのは、二人組の男性だった。
「ははは。俺太ったわー」
「俺もだわー。最近飲んだもんなー」
その二人はヘラヘラと笑いながら、互いに贅肉を見せ合っていた。
「あのように、体重が増えたにも関わらず体力が伴わないのは、単純に肥満ですので……最適な体重まで減量できるよう、人事部処刑係が全力でサポートします」
その言葉を合図に、肉切り包丁を持ったネアさんが二人の前に現れる。
「「大丈夫です! 自力で減量します!」」
そう言って二人は全力でネアさんから距離を取る。
「まったく、私達は体が資本なんですから体調管理はしっかりしてください」
「じゃ、じゃあお前はどうなんだよ!」
その言葉に対して、ベルナさんは隠すこともなく不快感を露わにした。
「女性に体重を聞くなんて、どうかしてるんじゃないですか?」
「あれ〜? 太ってるから言えないんですか〜?」
「は?」
「あ? やんのか?」
売り言葉に買い言葉で、二人は一触即発といった雰囲気で睨み合っていた。このまま放っておくのもあれなので、仲介に入る。
「まあまあ、その辺にしてください。ベルナさんは筋肉多めであることを加味しても適正体重ですよ」
「けっ、なんだ」
「もう、なんで言うんですか!」
「具体的な数字までは言ってないので問題ないと思ったのですが……。それに、自己管理が出来る人は好きですよ、私は」
「――っ! そ、そんなに私はチョロくないですからね! ちょっとす、好きって言われたぐらいじゃ……なんとも……思いませんから」
だが、ベルナさんの顔は紅潮し、脚は内股でモジモジと動いている。視線は下に向けられ、どこを見るでもなく漂っていた。
「俺達は何を見せられてるんだ……」
「妬ましい。ああ、妬ましい」
「クソが。早く幸せになれよ」
ベルナさんは落ち着くためにか、顔を両手で扇いでいた。
「その……話を変えましょう。えっと……そうです! レイスさんの体重はどのくらいなんですか?」
「95キロです」
私がそう言った瞬間部屋が静まり返り、話を聞いていた者達が一斉に視線を向けてくる。
「え? 重くね? 身長は?」
「170ですね」
「やっぱ重いよな? 実は内臓脂肪たっぷりとか?」
「いえ、筋肉です」
「ですよねー。ちなみに、見ても?」
「構いませんよ」
私がそう言うと、彼は容赦なく服をめくり、はだけさせる。
私が許可したのですが、もう少し周りに配慮して欲しいですね。
「うわっ、すげえ筋肉」
「引き締まってやがる」
「――っ!」
声にならない悲鳴のようなものが聞こえたため、そっちを見るとベルナさんがいた。ただ、鼻から血を垂らし、それを必死に手で抑えている。
「大丈夫ですか? ベルナさん」
突然血を流し出したため、体調を確認しようとベルナさんに近づこうとするが――
「来ないでください! まずは服を! 刺激が強すぎます、破廉恥です!」
ベルナさんがかなりの剣幕で叫んだため、距離を取って服を直す。そして、先程と同じ言葉をかける。
「大丈夫ですか? ベルナさん」
「だ、大丈夫です。もう、落ち着きました」
そう言うベルナさんは、息も乱れておらず血を拭き取っていた。
「私は大丈夫ですので、仕事をしましょう。ぼーっとしている暇はありませんよ」
確かに本筋から逸れてしまっていましたね。とりあえず、作業に戻りましょうか。仕事はまだまだあるのですから。
「次は視力検査です。ランドルト環がどちらの方向に向いているかを判別してもらいます。所定の位置に立ってもらい、片目ずつ測っていきます」
「よし! まず俺がやる!」
そう言って出てきたのは、水棲魔物の一体で八つの頭を持つヒュドラだった。
「では、お願いします」
「まかせろ!」
「え~最初?」
「めんど」
ヒュドラのそれぞれの頭が各々の思いを口にする。ヒュドラという種族は、頭の数だけ自我がある。なので、意見が合わないことは少なくない。
「いくぞ! 右だ!」「いや、左だね」「右下だよ~」「下じゃね?」「はあ、左上」「右! 絶対右!」「下でしょ」「右上だな」
全員が一斉に喋ると、聞き取るだけでも一苦労だ。それにしても、ここまで意見が合わないのは問題だろう。
「正解は上です。皆さん視力が落ちてるようなので、注意してください」
「くっくっくっ、情けないのぉ。わしが手本を見せてやろう」
そう言って現れたのは、巨大な目玉だった。直径1メートル程の目玉は、床に接することなく空中に浮かんでいる。イビルアイと呼ばれる、邪眼を操る魔物である。
「では、どうぞ」
「わしはイビルアイだ、視力では誰にも負けん。上だ」
「下です」
「今のはたまたまだ。右上だ」
「右下です」
「……左」
「下です」
ランドルト環は二番目に大きいサイズだったにも関わらず、全て外した。
「もうよい……わしの視力は落ちている。騙し騙しやってきたが、視力の落ちたイビルアイに価値など無い。引退して晩年を送ろう……」
床を向き涙を流すイビルアイに、優しく声をかけ手を差し伸べる。
「諦めないでください。健康診断は不調の発見を目的としたものです。体調や能力に合わせて、転勤や部署移動も検討します。ですが、今は共に治療法を模索しましょう」
「レイス……」
その時流していた涙は、先程のものとは真逆の意味だった。
「視力補強となれば眼鏡ですが……かける場所がありませんね」
「そうなんだ。だから困っていてなぁ」
「任せてください。私に案があります」
「おお! なんだ、それは!」
「まぶたと眼球の間に半固形の透明な水を貼り付けます。暴れられると危ないので、押さえてください」
「え?」
本日二度目の登場である屈強な男達によって、あっという間に拘束され、まぶたも閉じれないようにされる。
「では、貼りますね」
魔法によって創り出してもらった、半固形の水を貼り付けていく。
「ぎゃぁぁ! いぃぁぁ!」
しっかりとした手法で行っているため痛みはないはずだが、やはり恐怖が強いのか暴れようとする。だが、体はピクリとも動かない。
「目に物を貼り付けるって……新手の拷問かよ」
「目は大事にしよ。ああなりたくないし」
絶叫の中にあって、そんな言葉に賛同する声がいくつも上がった。
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「次の者ー」
我の声に反応して、待機していた魔物が入ってくる。
「それで、今日はどうしたのだ?」
「最近、自分の火力不足に悩んでて……。こんなんで営業部を続けられるのかなと思いまして……」
俯きながらそう言う若い男の顔は暗い。
「今使用している装備は?」
「棍棒だけです……」
絶対にそれだな、火力不足の原因。
だが、ここで素直に口に出したりはしない。我は今日学んだのだ、こういう奴に思ったことを言ってしまうと、余計落ち込むかヒステリックを起こすかの二択だと。それは面倒なため、慎重に言葉を選ぶ。
「もっと、上等な装備は扱えないのか? 同じ打撃武器でもメイスにするとかあるだろ?」
「いや、自分金属アレルギーなんですよね」
なるほど、ならば対処法はあるな。
「お主用に皮で装備を作らせよう。武器はそれに慣れてから選ぶといい。これなら問題ないだろ?」
我の言葉を聞いた男の顔が、明らかに明るくなる。
「ありがとうございます、先生! 自分、もっと頑張ってみます!」
「うむ」
そう言うと男は笑顔で部屋を出て行った。
我ながらいい仕事をしたな。今日はずっとこの調子だし、あやつも驚くだろうな。
「次の者ー」
次に部屋に入ってきた者は足に包帯を巻いており、その足を引きずるように歩いている。
「営業で足をやられちまって、回復魔法の処置が遅れてこんなことに……。俺……もうあいつらと前線に立てねぇ……」
そう言って下を向く男の目の端には、涙が溜まっていた。
「諦めるな! 内勤の部署に紹介状を書いてやる! そこでリハビリに励み、必ずや前線に戻ってこい!」
男を勇気づけるため、肩を掴み目を合わせて力強く伝える。それは、男に絶大な効果をもたらしたようだった。
「は、はい! 先生!」
先程まで哀愁を漂わせていた男はおらず、そこにいたのは希望に満ちた顔をしたいい男だった。
「次の者ー」
この時部屋に入ってきた者を見て、思わず顔を顰めそうになる。その女は、黒を主軸にしたフリルの多くついた服を着ており、いわゆる地雷系女子だった。
「最近ピがひどくて~。すぐ他の女のとこいくの……マジぴえん」
我こういう女への理解は浅いのだが、面倒くさいのは間違いないんだよなぁ。否定するのは駄目だから、とりあえず肯定しとくか。女は同意を求める生き物だしな。
「そうか。それは酷いな」
「は!? ニーニャのピの悪口言わないで! ありえないんだけど!」
あーまじで、この女。これだからヒスる奴は嫌いなのだ。さっさと終わらせるか。
「はい、これ。抗不安剤のデパスな。酒では飲むなよ。以上だ」
女はそれで満足したのか、帰っていってくれた。
「先生! 急患です!」
そう言って運ばれてきたのは、背中に浅くない傷を負った経理部長だった。
「おい、誰にやられたんだ!」
さすがに部下のこんな姿を見せられたら、大人しくしているわけにはいかない。
「いえ、事故なんです。金銭を管理している金庫が倒れそうだったのを、無理に背中で支えてこの有様です」
「はぁ~? 何やってるんだお主は。いのちだいじにだぞ?」
経理部長は荒い息で言葉を紡ぐ。
「金は命より重い……!」
その言葉を聞いた全員が固まる。
なんで魔王軍には変な奴が多いんだろうな。なんか急にモチベ下がってきたわ。まあ、今日は最後までやるけど。
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時間は定時を少し過ぎた辺り。健康診断も終わり、私達は片付けに取りかかっていた。
「今日は皆さんの健康状態をチェックしましたが、ベルナさんは大丈夫ですか?」
私は手を動かしながら、隣で作業をするベルナさんに問いかける。
「ええ、レイスさんが魔王軍に来てから、信じられないほど体調が良いんです。そういうレイスさんこそ、大丈夫ですか?」
「もちろんです。体調管理はしっかりと行っています……の……で」
ベルナさんからの問いに答えている最中、唐突に頭部に痛みが走る。頭が割れたかと思う程の激痛に、立っていることもままならなくなる。視界は揺れ、目の前すらまともに見ることが出来なかった。
「レ……さん! しっ……て……さい!」
ベルナさんの声がやけに遠くから聞こえたような気がした。そこで意識を保つことが出来なくなり、気を失った。