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メタルギアソリッド

 転移した先は、前回と同じ路地裏だった。即座に飛びついてきた人物にローブを被せ、姿を隠すと同時に、周囲の状況を確認し、人の目がないか確かめる。完全に人の目がないことを確認し、問題の人物に話しかける。


「どうしてこんなことをしたのですか、ワルフさん」


 私に飛びついてきた人物は、以前ツルギと遭遇した際に、一緒に来ていた魔物――現在はワルフという名を持つ――だった。


「本当ですよ! テレポートが発動する瞬間に、飛び込んで来るなんてありえません! 今回は無事でしたが、術が乱されると、どこに転移するかも分からないのですよ!」


 ベルナさんが周囲を気にして、抑えた声でワルフさんに詰め寄る。


「わ、悪かった……。お前達が、モートン様の話をしているのを聞いて……。俺も行きたいと思った。でも、そう言ったところで、却下されるのは目に見えてる。だから、こうするしかなかったんだ」

「だとしても、あなたの行動は自分の為だけに他人を危険にさらすものであり、許されるものではありません。ベルナさん、送り返してもらえますか?」

「わかりました」

「ま、待ってくれ!」


 ワルフさんは一歩後ずさると、その場で正座をして土下座した。


「頼む……。俺も行かせてくれ……。俺はモートン様のために、出来る限りの事がしたかった。でも、俺は何も出来なかった。仇も討てず、いたずらに混乱を広め、あまつさえレイスに八つ当たりをした。それなのに、今もワガママを言っている。俺は最低だ。でも、頼むから……せめて、骨だけは拾わせてくれ……」


 彼は消え入りそうな声で、弱々しく懇願してきた。その姿からは、打算的なものが一切感じられず、本心から話している事が分かる。ただ、それを受け入れる事が出来るかどうかは、別の話だ。


「――っ! これじゃまるで……私達が悪いみたいじゃないですか……!」


 ベルナさんは彼の言葉を聞いて、怒りを露わにし声を荒げる。

 ベルナさんが怒るのも頷ける。彼の発言はあまりにも自己中心的で、私達には何のメリットもない。ただ、それでも……


「ベルナさん、彼を連れて行きませんか?」


 私は、そう選択した。


「な、なぜですか? こんな自己中の頼みを聞いても、いいことありませんよ?」


 ベルナさんが困惑した様子で、(さと)すかのような声をかけてくる。


「確かにその通りです。ですが、今この時を逃すと、恐らく彼は一生このままです。ですから、彼にチャンスを与えてくれませんか?」

「……はぁ、わかりました。あなたがそう言うなら、私に異はありません」

「ありがとうございます。では、行きましょう」


 私がそう言うと、ベルナさんはワルフさんに変化の魔法をかける。私も彼に被せていたローブを回収し、羽織る。


「ほら、さっさと立ちなさい。まったく……この魔法結構大変なのに……」

「あ……ありがとう……」


 ワルフさんは感謝の言葉を述べた後、少し遅れて私達の後を追いかけた。






 あれからしばらく歩き、王城の手前までやってきた。正門から堂々と入れる訳も無く、現在私達の目の前には、王城を囲む巨大な外壁がそびえ立っている。


「それで、どうやってこれ超えるんだよ」


 ワルフさんがいつも通りの口調で、私に話しかけてくる。


「なんですか。さっきは、あんなにしおらしかったのに、もう元通りですか。別にいいですけどね」

「まあいいじゃないですか、ベルナさん。今は外面の変化よりも、内面の方が大切ですし」


 まあ、世の中では、内面より外面の方が大事な時が多いのですけどね。


「侵入方法は単純です。壁をロープで登ります。今は王城の兵士も少ないですし、気付かれる事はないでしょう」


 私はそれだけ言うと、持ってきた道具の中から、鉤フック付きロープを取り出す。そして、それを壁の頂点目掛けて投射する。フックを引っかけることに成功し、数回体重を乗せて引っ張り、外れない事を確認する。


「なあ、今は兵士が少ないってどういうことだ? 単に夜ってだけじゃないよな?」

「最近この付近の山に、ドラゴンが棲み着きました。国に危険が及ぶ前に討伐しようと、軍からもかなりの兵士を出したそうで、今は王城も手薄なのです。ここからは私語は禁止です。城内は私が先行しますので、警戒しながらついてきて下さい」

「わかりました」

「おう」


 その返事を聞いた後、私達はロープを登り、城内へ侵入した。






 侵入してからは何事もなく、目的地付近までたどり着けた。城内の地図に、兵士の巡回ルート、人数や配置まで暗記しているので、当然と言えば当然だが。現在位置は宝物庫前。扉のそばまでは戦闘を避けれたが、中に入るとなるとそうはいかない。扉の前には見張りの兵士が二人いて、深夜勤務のためか欠伸(あくび)をしており、緊張感は感じられない。

 二人と目配せをし、事前に打ち合わせておいた作戦を実行する。作戦はシンプル、私とワルフさんが奇襲し、確実に殺す。ベルナさんは、風魔法で音が周囲に聞こえないようにし、私達のどちらかがミスをした時にフォローをする。

 ワルフさんとタイミングを合わせ、それぞれの相手に向かって走り出す。


「なっ!? 貴様らなにも――」


 兵士が叫ぶ前に口を押さえ、短剣を喉に突き刺し切り裂く。瞬く間に兵士は絶命し、力無く倒れる。

 ワルフさんの方に目をやると、同じように兵士が倒れていた。

 全員無事な事を確認し、返り血を軽く拭き取り、宝物庫の扉を開ける。

 そこには、大量の金貨や高価そうな調度品などがあり、それら数々の品は、窓から差し込む月明かりに照らされて、輝いていた。

 ただ、今回の目的はそんなものではない。ここにある隠し通路が目的だ。


「警報装置がありますので、私が歩いた所以外は歩かないで下さい」

「了解です」

「はーい」


 警報装置の範囲に入らないように、慎重に進みながら壁の一面に着く。その壁のレンガの一つを押し込む。すると、壁が音を立てて動き出し、下へ続く階段が現れた。


「この階段の先に――」


 ジリリリリ!!

 私が話している途中に、警報が大音量で鳴り響く。

 私とベルナさんは先程から動いておらず、となると残る人物は一人になる。二人同時に振り向くと、ワルフさんが手に一冊の本を持って、オロオロしていた。


「あなた勝手についてきておいて、何やってくれるんですか! ああ、もう、本当に! 置いてきた方がよかったですかね!?」

「私もそんな気がしてきました」

「いや、ほんとにごめん! 悪かった! でも、この本世界に十冊しないんだよ!」


 そう言って彼は、私達に本を見せてきた。その本のタイトルは『清楚な彼女が魔物に堕ちる~彼氏の前でNTRセ●●ス~』だった。


「最低です! そんな本のためにこんなことしたのですか!? あと、NTRモノじゃないですか! 滅ぶべきです!」

「最後のは別にいいだろ!? 性癖は人それぞれだぞ! この純愛過激派が!」

「二人とも落ち着いて下さい。問題はそこじゃありません。すぐに兵士が来るので、どうにかしないといけません」


 ベルナさんが風魔法を展開してはいるが、それはあくまで周囲のみ。城中に響き渡る警報音を防ぐことは出来ない。


「ど、どうする? ダンボールならあるけど、隠れてみるか?」

「そんなもので、隠れられるわけないじゃないですか! もう黙ってて下さい!」


 計算上では、兵士がここに着くまで、十秒ちょっとでしょうか。となると一番効果的なのは、階段を降りてそれを元に戻すことでしょう。これなら、見つかったとしても追われはしません。


「二人ともまずは階段に――」


 私が言い終わるより早く、私とベルナさんはワルフさんに突き飛ばされた。突き飛ばされた先は階段であり、彼はこの通路を隠すためのレンガを押し込んだ。崩れた体制を立て直し、彼に向けて手を伸ばすが、すでに通路は閉じ始めており、彼の通れるスペースはなくなっていた。


「ここは俺に任せて先に行け」


 通路が閉じきる直前、彼は私達に向かってそう言った。

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