そうだ、海へ行こう! ※ポロリもあるよ
青い空、白い雲、輝く太陽! そう、ここは海である! しかも、魔王軍で貸し切りである! そして今回はなんと、女がいる! 前回とは違って女がいる!
海ということは当然水着であり、その豊満な肉体を見せつけるかのように、際どい姿の者もいる。もちろん我はガン見する。むしろ見ない方が失礼というもの。
それに、あやつらは自らあの格好になっているのだ。どれだけ見られようと文句は言えまい。ならば、見ない理由など無い!
「あの~魔王様。そんなにガン見するのは、どうかと思うんすけど」
近くにいた一人の男が、我の行動に異を唱える。
「お主も男なら分かるであろう。見ろ、あの揺れる双丘を。あそこには夢と希望が詰まっているから、あんなにでかいのだ」
「なに真剣な顔してバカな事言ってるんすか。いや、分かりますけど」
我が突っ立って女共を眺めていると、突如軽く水をかけられた。
「もう~魔王様~。何ぼーっとしてるんですか。せっかくの海なんですから、一緒に遊びましょう?」
声のした方を向くとそこには、No.1サキュバス嬢のリリンちゃんがいた。しかも、水をすくって飛ばすため前傾姿勢になっており、谷間が見えて凄い。
リリンちゃんからの誘いを断る訳も無く、そばまで走っていく。
「やったな~。この~」
我はそう言って、自然な流れで水をかけ合う。
そして、タイミングを見極めて……ここだ!
完璧なタイミングで、少し強めに水をかける。それと同時に水魔法を展開し、飛ばした水を自然な動きで操る。
「きゃっ!」
我が操った水は、綺麗に上半身の水着を剥がすことに成功した。剥がれ落ちた水着は、波によって攫われていった。もちろん後で回収しておく。
「ちょっと魔王様~。強くし過ぎですよ~」
「すまん。とりあえず我の上着貸すから」
「ありがとうございます。替えの水着に着替えてきます」
それだけ言うと、リリンちゃんは小走りに去って行った。
にしても、良い物が見れたな。水着が取れた瞬間、とっさに腕で隠していたが、我の動体視力を持ってすれば全く問題ではない。隅々まで見て、脳に焼き付けておいたわ。
「魔王様……最低っすよ」
「店に行けばいくらでも見れるものだが、こういうシチュエーションもいいな。特に恥じらっていたあの表情、最高だった」
「はあ……多少強引にでも、レイスを連れて来るべきだったか……」
そう! 今日この場には、あの堅物がいないのである! よって、我を止めれる者は誰もいない!
「あ、そうだ魔王様。海に来たんですし、砂浜に埋まるやつやりたくないですか?」
「おお、あれか。確かにやりたいな」
「じゃあ俺埋めますよ」
「悪いな。頼む」
こやつは土魔法を使って、もの凄い勢いで砂浜に穴を開けていく。その穴は縦に三メートルはある深い穴だった。
「出来ました。入ってください」
「おう」
そして、我が穴に入ると、首から上以外が埋められた。
……あれ? 埋まるのって基本横じゃなかったっけ? 何で我縦に埋められてんの?
「これで、この看板に文字を書いて……」
「おい待て、何て書く気だ」
「えーっと、『私は、こんな時でも部下にセクハラをしました。砂に埋まって反省します』よし出来た」
「おいこら!」
「じゃあ魔王様、俺行くんで。楽しんでください」
くそっ、あやつ本当に行きやがった。どうして我が、こんな屈辱を受けねばならんのだ……! しかも、我が埋まっている場所は砂浜のど真ん中。目立って仕方がない。心なしか周囲の魔物の視線も冷たいし。
くそ……こんなの……いや、下から見上げる感じのアングルになるから、これはこれで有りだな。
あー暇だ。ただ埋まっているだけなので、非常に暇だ。魔物観察ぐらいしかやることがない。
今は、焼きそばを食べている二人組を眺めている。あの焼きそばは、海の家的なのをやり出した魔物の所で買ったものだ。
二人組は食べ終えると、ゴミをポイ捨てし、どこかに行こうとした。
まったく最近の若いのは、マナーがなってないな。それに、あんなことをして無事でいれるわけなかろう。ほら来たぞ。
突如海面が盛り上がり、そこから海蛇のような竜が現れた。
「貴様らぁ! 神聖な海を穢すとはなんたる事か! 海を穢す者は何人たりとも許さん! その身をもって贖え!」
リヴァイアサンがそう叫ぶと、穏やかだった波は荒れ狂う津波となって押し寄せてくる。その津波は二人だけではなく、この場の全てを飲み込む程の勢いだった。
そんなものを放っておけるはずもなく、相手の魔法に干渉して波を元に戻す。
「なっ!? 儂の能力が無効化されただと!?」
「お主バカか。あんな規模の津波起こすな。罰を与えるにしてもやり過ぎだ」
「で、ですが……」
「お主らもポイ捨てなんかするな。ゴミはゴミ箱へ、だ。分かったな」
「「は、はい!」」
まったく、部下の世話をするのも一苦労だ。
「のう、魔王様よ」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「そのような状態でものを言っても、大した効果はないと思うのだが? 引き抜いた方がよいか?」
あーそういえば、我今埋まっとったわ。確かになー効果ないかー。うんうん。
「やかましいわ!」
我の言に効果がないわけなかろう! これだから新入りは。
とりあえず、力任せに地面から体を引き抜く。
「出ようと思えばいつでも出れたわ。我を見くびるな」
「魔王様よ。体が砂塗れぞ。流しておこう」
「…………」
リヴァイアサンに上から水をかけられ、体についていた砂が流れ落ちる。
もう、いや……。一人で綺麗な貝殻でも拾っておこう。
「魔王様なにしてんすか。そんなことしてないで、遊びましょうよ」
我が砂浜の端っこで石をつついていると、ヘラヘラした男が話しかけてきた。どうやらこやつは代表して声をかけたらしく、後ろに四人の男女が控えていた。
「何をするのだ」
「ビーチバレーボールっす。海に来たらやるっしょ」
「……よし、やるか」
よくよく考えたら、我が落ち込む必要なかったな。我魔王だし。
「ちゃんと審判も用意したんで。チーム分けは一対五で、魔王様が一っす」
「え?」
「ハンデっすよ。魔王様強いんで」
「お、おう」
まあ? 我魔王だし? ハンデぐらい当然だな。……当然だよな?
「ルールとして、魔法の使用は禁止っす。五点先取した方の勝ちってことで。じゃあ、いくっすよー」
そんな緩い声で打ち出されたボールは、とてつもなく鋭いサーブだった。
いや、ガチだなおい。遊びのレベルでやるサーブじゃないぞ。まあ、我は余裕で追えるがな。
即座に落下地点に移動し、しっかりとレシーブをする。高く上げたボール目掛けて跳躍し、右手でボールを打とうと構える。
ボールに触れる直前、突如として右手が重くなる。さらに、体の動きも若干鈍り、横から突風も吹きつける。
それでも無理矢理に腕を振り抜く。が、風で位置がずれていた事もあり、ボールはコートに入らなかった。
「よし! まず、一点だ!」
「よしじゃないが!? 審判! あやつら、魔法を使ったぞ!」
我の右手に重力魔法と麻痺魔法、さらに風魔法でボールの位置をずらした。完全に不正だ。
「確かに魔力の流れに変化があり、魔法の使用が確認されまし――」
「今度いいメシ奢るぞ!」
「……魔法の使用は確認されませんでした」
「おい!」
くそ、審判のやつめ。買収されよってからに。というか、買収するにしても、バレないようにやれ。堂々としすぎだろ。そこまでして我に勝ちたいか。よかろう、ならば叩きのめしてやる。不正した上で、負けたという事実を突きつけてやる。
「次がラストだ! 絶対に取るぞ!」
現在の状況は、四ー四で我のサーブだ。
魔法で妨害する暇も与えず、凄まじい速度のサーブを放つ。
がっしりとした体格の男が、我のサーブをレシーブする。が、ボールの勢いに負け、男は後ろに吹き飛ばされる。それでも出来る限りの事をして、ボールを打ち上げることに成功する。その代償として、男は立つこともままならない程に、消耗していた。
打ち上げられたボールを、一人の女がトスする。前衛にいる男が、最も打ちやすい位置にボールが来る。
「決めて!」
「ああ! くらえ、日頃の恨み!」
おい。まさかとは思うが、勝ちたいのは日頃の恨みを晴らすためか? そんなことのために、こんなに頑張ってんの?
男がスパイクをした瞬間、ボールが五つに増え、それぞれ別の場所に向かって飛んでいく。この程度、我の身体能力を持ってすれば、余裕で全部取れる。全てのボールをレシーブするが、そのどれもが幻であり、本物はなかった。
もちろん知っていた。その上で、念のため確認しておいた。本物は透明になって、コートの端に落ちようとしている。
我レベルになれば、見えずとも空気の流れで把握可能よ。この勝負もらった!
ボールが落ちるより早く、我の腕が地面との間に入り、打ち上げる。そして、全力でスパイクを打ちにかかる。相手の苦し紛れの魔法で、ボールが石になるが問題ない。むしろ、威力が増す要因となる。
我が全力でボールを打つと、相手のコートに突き刺さる……ことはなく、粉々に砕け散ってしまった。
あ、やってしまった。これ、勝敗どうなるのだ。なんか、嫌な予感がするが。
その場にいた全員が、一斉に審判の方を向く。
「えー魔王様はボールを破壊したため、失格となります」
「異議あり! 我が打つときには、既にボールは石になっており、ボールとしての機能を果たせない状態だったため、破壊したのは相手チームである!」
「異議あり! あれは石化魔法をかけただけであり、解除すれば元に戻るので、破壊はしていない!」
「……えー魔王様の敗訴です」
くそっ! 負けた! あんな不正ばっかのやつらに、しっかり負けてしまった!
相手の五人はハイタッチをして、皆で抱き合っている。
まあ……けっこう楽しめたし、いいか。それにしても、今日来なかったやつらはどうしてるのだろうか。
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「まったく、こんな忙しい時に社員旅行だなんて、魔王様は何を考えているのでしょうか。いえ、何も考えていないのでしょうね」
ベルナさんが業務をしながら、呆れた様子でそう呟く。
「まあ、たまにはいいじゃないですか。今回の件は、魔王様自らが考えて、提案してきたのです。理由も、非常時だからこそ気分転換が必要という、正当なものでした。いつも否定するだけではいけませんからね」
「レイスさんがそう言うなら、私はいいですけど。今日は静かに働けますし」
ベルナさんの言うように、今日の魔王城は非常に静かだ。全体の七割以上が社員旅行に行ったためである。そして、人数が減ったことにより揉め事などが激減し、いつもよりスムーズに業務が進む。
「ところで、今夜空いてますか?」
「デートのお誘いですか!? そうですよね? 空いてます!」
「いえ、違います」
「そうですよね……。ええ、分かってましたよ……。それで、用件は何ですか?」
「王城に潜入して、モートン様の遺体を回収したいと思っています。付き合っていただけますか?」
現在モートン様の遺体は、王城の地下で保管されている。女神を生け捕りに出来た時の事を考えて、遺体の回収は必須。そして、回収はなるべく急がなければならない。というのも、国が行っている研究の一つに、魔物の解析がある。表向きの理由は、魔物を研究し弱点等を見つけるといったものだが、魔物を使った生物兵器の開発も行っている。そんな研究に、モートン様の遺体が使われないわけがない。なので、今夜忍び込む事にした。
「レイスさんの頼みでしたら、喜んで受けますよ」
「ありがとうございます。この埋め合わせは、今度しますので」
「別にいいですよ。レイスさんといるだけで、私は幸せですから」
ベルナさんは微笑みながら、さらっとそんな事を言う。
純粋な好意を持たれるのは嬉しい。そして、時折その好意に甘えてしまいそうになる。だが、そんな事はあってはならない。
「では、二十三時に部屋に向かいます」
「わかりました」
準備を整えて、ベルナさんの待つ部屋に向かう。今回は潜入なので、いつものスーツに加え、フード付きのローブを身に付け、顔を隠す為の仮面も持ってきた。
部屋の前に立ち扉をノックすると、中から私と似たような服装をした、ベルナさんが出てきた。
「では、行きましょうか」
「はい」
ベルナさんと手をつなぎ、テレポートの発動を待つ。構築が終わり、魔法が発動する直前、
「俺も連れていけ!」
一人の人物が、私の体に飛びついてきた。