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水着回

「魔王様、起きてください。新しく出来た施設の視察に行きますよ」


 今日も今日とてベットで熟睡していると、レイスが邪魔をしてくる。

 何だ、せっかく気持ちよく眠っていたというのに。


「うるさいぞ。我は寝るのだ」

「いけません。施設の把握も大切な仕事です。それに魔王様は――」

「あ~。聞こえない。聞こえないぞ」


 我はレイスの相手をする事無く、頭から布団に包まる。


「魔王様、他人との会話を拒絶するような態度は、よくありません。以前も言いましたが、コミュニケーションは大切です」


 あ~、確か研修の時にそんな話をした気がするな。


「我だってコミュニケーション取ろうとしたぞ? あの後何人かと飲みに行ったのだが……何故か翌日から、誘っても来なくなったのだ」


 あの日は楽しく飲めていたと思うのだが。飲みニケーションの何がダメだったのだ。


「魔王様、飲み会の記憶は?」

「泥酔するまで飲んだから、ほとんど覚えてないな。最初の方は、世界征服のなんたるかを教えてやったぞ」


 酌み交わした者達は、黙って話を聞いておったな。こやつも、それぐらい大人しければいいものを。


「確実に避けられているものと思います。飲み会での絡みが嫌だったのでしょう」

「じゃあ誘っても来ないのは、嫌われているからか?」

「はい。間違いないと思います」


 なんたることだ……魔王である我が嫌われているとは。


「そんなことよりも視察に行きますよ」


 そんなこと!? 我が嫌われているのがそんなことだと!? ていうか施設の説明もされてないし、そもそも新施設の話は先に我にすべきだろ!

 我がそう考えている間にも、レイスは先々に歩いて行っている。我は文句を言うためにベッドから身を起こし、その背を追いかけた。





 そういうわけで、例の施設とやらにやって来た。

 レイスは数人の水棲魔物を連れて来ていた。そやつらは至る所にヒレが生えているが、普通に肺呼吸をしている。当然だが、えら呼吸も出来る。

 水棲魔物を連れて来たということは、水が関係する施設だろう。まあ、そんな風に考えずとも、ここに来るまでに水着に着替えさせられたから何の施設かは分かるが。というか、ここまで条件が揃っていてプール以外なんてありえんだろ。


「まず、シャワーを浴びて汚れを落として下さい」


 プールに入る前の基本だな。しかし、かなり本格的に作ってあるな。まあ、こやつが主導で作ったのなら当然か。


「水出しますね」


 そう言った直後、頭上から水が出てくる。それが体にかかり、心地よく汚れを落としていく――


「「「いやぁぁぁ!!」」」


 ――何てことはなく、水に触れた部分がもの凄く嫌な感じになる。浄化魔法をかけられたような気分だ。


「なんだこれは! 嫌がらせか!?」


 こう感じたのが我だけでないのは明らかだ。その証拠に、シャワーを浴びた者は悶絶している。


「嫌がらせではありません」

「じゃあこの水はなんだ! なんでこんな最悪な気分になるのだ!」

「聖水ですから」


 なるほど聖水ね。


「聖水!?」

「ええ。この施設は女神対策の一環として、聖水耐性を付けていただくために作った聖水プールです」


 イカれてるのか!? 確かに運動や水中訓練をしながら聖水耐性を身に付けれるのは効率的かもしれんが! 普通やらんだろ!


「我は帰るぞ! 絶対に入らんからな!」

「既に体も濡れているのですから帰らないで下さい。見ていくだけでもいいですから」


 惑わされんぞ、絶対に帰る。

 ふと視線を感じて横を見ると、連れて来られた魔物達が我の方を見ている。

 まさか……我の評価が低いのは、こういう所か?


「……なら、見ていくだけだぞ」

「では、正面に見えるのが25メートルプールです」


 まあ、一般的なやつだな。聖水じゃなければ。


「あちらには、流れるプールや波の出るプール、ウォータースライダー等があります。気分に合わせてご利用下さい」

「どんな気分にも合わないだろ!」

「そう怒らないでください。しっかりと必要な物は用意してあります」


 レイスはそう言うと、プールサイドの端に手を向ける。


「浮き輪の貸し出しもありますので、ご安心を」

「泳げるわ! バカにしてるのか!」

「ちょっと俺借りてくる」


 一人の魔物が、浮き輪を借りに走って行く。


「お主は水棲魔族だろ! 泳げなくてどうする!」

「プールサイドは走らないで下さい」

「ツッコミが間に合わんから黙っててくれ!」


 何だこの状況は!? まともなのは我だけか!?


「お、俺はやるぞ……。俺は長男だから我慢できる……」


 一人の魔物が、まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、波の出るプールの手前まで行く。

 だがやはり怖いのか、なかなか入らない。


「お……押すなよ! 絶対押すなよ!」

「はやくしろ」


 こんなフリを見逃せる訳もなく、後ろから押して水に落とす。


「ああああ! じぬぅぅ!」


 落とされたやつは、プールサイドに必死に這い上がろうとしながら、水中で手足をばたつかせている。

 今にも溺れそうだな。水棲魔物だというのに情けないな。


「聖水の退魔効果で死に至らないことは確認済みです。安心して聖水に挑戦して下さい」


 やっとの思いでプールサイドに登り、のたうち回っているところにレイスが声をかける。

 こやつ鬼だな。もう少し優しくしてやれ。

 先程まで入っていたプールを眺めていると、一つの疑問が浮かんでくる。一体どうやって波を発生させているのかと。

 それを探るため周囲を見渡すと、プールの傍で水色の光を放つ魔物が居た。


「儂の『水を操る程度の能力』を、斯様(かよう)なことに使うなど……! 儂は海の支配者であり水竜、本来であれば崇められる存在であるぞ……!」


 そんなことを呟きながら、波を発生させているリヴァイアサンがわなわなと震えている。

 悔しさで震えながらも水の操作を辞めないあたり、プロ意識を感じるな。


「なあ、もう少し楽しめる物はないのか?」

「聖水耐性を身に付ければ、楽しめると思いますよ。そのためにプールにしたのですし。子供と一緒に来てはどうです?」

「我の子供を殺す気か!」


 絶対に子供は連れて来んぞ。

 それよりも、プールならもう少し楽しみがあるだろ。ほら、女の水着とか……それだ! まだ見てないぞ!

 その場に居る魔物達に目を向け、姿を確認すると――

 全員が男だった。

 どうして男しか居ないのだ! むさ苦しい!


「二度とここには来んからな」

「それは困ります。魔王様には最優先で聖水耐性を付けてもらわなければなりません。ですが、魔王様がプールは嫌だと言うのであれば……」


 おっ、もしやこやつが引くか? まあ? 魔王である我の意見を優先するのは当たり前だし? 当然と言えば当然だな。


「聖水風呂でも作りましょう。リラックスしながら聖水耐性を身に付ける事が出来ます」

「そういう問題じゃない!」

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