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最強たる所以

「想定外? やっぱり僕の方が強いじゃないか」


 ツルギは私が発した言葉で余裕を持ったのか話しかけてくる。


「君は一見人間にしか見えないけど、どんな魔物なんだ? 僕はまだこの世界の事をよく知らなくてね」


 先程から口にする、この世界という言葉が気になりますね。ここは会話に乗って、可能な限り情報を引き出すとしましょうか。


「私はあなたと同じ人間ですよ」

「は?」


 その言葉を聞いたツルギが怒りを露わにする。

 失敗しましたね。あえて真実を伝え、相手から情報を引き出す予定だったのですが……おそらくツルギは私が最も苦手な、話が通じない人ですね。


「なんで! なんでそんなことを! 一体今まで何人の人間を殺してきた!」

「あなたは今まで殺した魔物の数を覚えているのですか?」


 記憶を辿れば人数も言えるでしょうが、そんなことをしたところで何の意味もないので、するだけ無駄ですね。


「くっ! お前は自分が『悪』だと気づいていない……もっともドス黒い『悪』だ!」


 確かにこの人の視点からだと、私達は悪に見えるでしょうね。ですが私達も、魔物にとっての理想の世界を作るという、正義を掲げて世界征服を目指しているので、私達からすれば人間が悪になるのですよね。まあ、正義の反対は別の正義という言葉もあるので、私は人間を悪だとは思いませんが。少し前までは私もそちら側でしたし。


「お前は僕が倒す! 今ここで!」


 ツルギはそう言うと、まるでそれしか攻撃方法を知らないかのように、大剣を上に持ち上げ真っ直ぐ振り下ろす単調な動きを再び行った。

 私はツルギが大剣を持ち上げている間に至近距離まで接近し、振り下ろされた剣を体を捻って最小限の動きで躱す。直後に襲ってくる暴風も受け流し、体勢を崩さずに前進する。

 そのままの勢いで、剣を振り下ろしたままの無防備なツルギに四度剣を振るう。

 ツルギの体からは血が流れ、前のめりになっていた事もあり前方に倒れ込んだ。


「なん……で。さっきは……想定外だって……言ってたのに。僕は最強の……勇者なのに」


 ツルギは苦しそうな声をあげながらも、立ち上がろうと手足に力を入れているようだった。しかし、どれだけ力を入れようと立ち上がる事は出来ない。

 当然でしょうね。私が両手足の腱を切断したのですから。


「勘違いしているようですので訂正しますが、私が想定外と言ったのはあなたが想定より弱かったからですよ」

「嘘だ……嘘だ! 僕は……僕は魔王を倒す勇者なんだ! それに、僕を殺しても無駄だ! 僕は女神様に蘇生してもらえる! ははは!」


 ツルギは負けたことが信じられないのか、錯乱した様子で叫びぶ。

 女神様に蘇生してもらえるとは……気でも狂ったのでしょうか。とりあえず、魔王城に連れ帰って拷問して情報を吐いてもらいましょう。後は、あの異常な破壊力を持った大剣の解析も必要ですね。

 そう思いツルギに向けて手を伸ばし――体の軸をずらすようにして身を翻す。

 直後、先程まで私の顔があった場所を拳が通過する。

 相手の初撃を回避した私はバックステップで距離を取りながら、二人が待機していた場所まで戻る。


「怪我はないですか?」

「大丈夫です。それよりもあれは何でしょうか」


 私は改めて相手の容姿を確認する。それは漆黒の鎧だった。異質なのは、その鎧の首から上が全く無いということ。誰かが鎧を着ているわけではなく、鎧自体が動いていた。

 真っ先に考えつくのは、アンデットの魔物である首無し騎士のデュラハン。しかし、こんな場所にデュラハンが出没するはずがなく、そもそも首を手に持っていないため、その考えは即座に否定される。


「助けに来てくれたのか! ヴァルキリー!」

「当たり前だろ。まったく、手のかかる勇者様だな」


 ヴァルキリーと呼ばれた鎧から声が発される。人間の声と大差ない普通の声だ。


「あの鎧が居る限り、ツルギの生け捕りは不可能に近いでしょう。殺害の方向でお願いします」

「わかりました」


 あの鎧はおそらく魔道具の類いでしょう。自分の意思で動く鎧など、人知を超えた代物ですが。使用方法は人が中に入るのは確定として、使用者のサポートでしょうか。自立しているのはそのためだと考えるのが妥当ですね。問題は鎧の実力なのですが……。

 そこまで考えたところで、ベルナさんが右手を前にかざし魔法を発動させる。


「『ヘルファイア』」


 ベルナさんが放ったのは最上位の炎魔法。巨大な炎が進路上の全てを焼き尽くしながら、ツルギに向かって進んでいく。

 だが、その炎は到達前にかき消される。鎧が大剣を振るったことによって。

 あの鎧相当強いですね。あれならモートン様とも張り合えるでしょう。


「すみません。殺し損ないました」

「問題ないです。殺しました」

「え?」


 ベルナさんが疑問の声をあげるが、ツルギの頭にはナイフが刺さっており、既に絶命している。そのナイフは私が死角から投擲したものだ。

 とりあえずツルギの殺害には成功しましたし、一応モートン様の仇は討ったということにしておきましょう。実際にモートン様を殺したのはあの鎧でしょうが。


「やってくれたな。本当はお前達を倒していきたいが、蘇生は鮮度が命って女神様が言ってたからな。ここは引かせてもらう」


 鎧はそう言うとツルギを担ぎ、街の方向へ去っていった。

 女神に蘇生ですか……。ツルギだけなら妄言としていたかも知れませんが、あの鎧も言うとなると真偽を確かめる必要がありますね。


「これ以上の調査は危険と判断し中止します。魔王城に帰還しましょう」

「はい」

「……ああ」


 あれに対しては、今後も継続的に監視を行っていかなければなりません。対策も考える必要があります。これから、より一層忙しくなりそうですね。

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