追放モノ
モートン様が作戦実行のため始まりの街に向かってから一月が経過した。しかし、未だ魔王城に帰って来ない。あまりにも遅すぎる。
行きはテレポートの効果のある魔道具で、街の近くまで転移した。帰りもテレポートで戻ってくる予定だった。もし何らかの理由でテレポートが使えなかったとしても、モートン様の身体能力ならば徒歩で魔王城に帰るのに十分すぎる時間があった。
そして、それだけ条件が揃っていると、不穏な空気も流れ始める。モートン様は作戦に失敗して、亡くなられたのではないかと。
作戦の失敗というのは考えにくいと思う半面、それ以外の可能性も考えにくい。
本来、始まりの街にモートン様に対抗できる戦力は無い。モートン様は王都の総力を挙げて防衛してもなお、油断ならない実力の持ち主である。そんな人が始まりの街で討たれたとなると、何かイレギュラーがあったと考えるほか無い。
これは……現地に赴いての調査が必要ですね。
それともう一つ問題がある。魔王軍の中で少数ではあるが私に不信感を向けている人がいる。私の立案した作戦でモートン様は死んだと。
これは当然のことですね。今回の件は私に責任があります。しかし、ここで信頼を失ってしまえば、今後私が信頼を取り戻すのは非常に困難になります。私はまだ魔王軍の役に立てます。そのためにも全力で事に当たらないといけませんね。
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魔王城内のとある部屋にて。
「あいつのせいでモートン様が死んだ!」
この部屋にいるのは、レイスに不信感を寄せる数少ない魔物の一人。
「あいつは魔王軍に必要ねえ。なんとしてでもあいつを……魔王軍から追放してやる!」
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昼休憩、多くの魔物が休憩スペースに集まり、思い思いのように過ごしていた。
「お昼休み中すみません。少し時間よろしいでしょうか?」
「おうレイス。どうした?」
「少し調査をしていまして。人間に化けることは出来ますか?」
「いや、無理だな」
「分かりました。ご協力ありがとうございました」
やはり、人間に扮する事の出来る魔物は少ないですね。私が現在調査に赴く際のサポート役兼監視役が欲しいのですが……やはり適任はベルナさんでしょうか。
元から人間に近い容姿をしている上、変化の魔法とテレポートが使えるため。今回の件においては最適な人選である。
「おい、レイス! 調査なんかして何が目的だ!」
そろそろ調査を切り上げようと思っていた頃、一人の魔物から声をかけられる。彼は二足歩行で狼のような容姿をしている人狼だった。
「現在調査の際の――」
「人間が現地調査に行くって!? 怪しいなぁ! 無能な人間が次は何をしでかすつもりだ!?」
「いえ、ただ調査を――」
「笑わせんな! てめぇの作戦でモートン様は帰ってこなくなったんだ! そんな奴魔王軍にいらねぇんだよ! お前らもそう思うだろ!?」
彼はわざと声を張り上げて、周囲の人達の注目を集めていた。その状況で私を糾弾する事で、周りを味方につけようということだろう。
「いや、モートン様が亡くなられたとは限らないだろ。それに、お前はこのひと月、レイスが俺達のためにしてくれたことを忘れたのか?」
「そうだぞ。それに、レイスだって人なんだからミスぐらいするって」
しかし、意外にも周囲の人達は私の味方をしてくれるようだった。
「お前らそれでいいのか!? こいつは人間なんだぞ!?」
「そうやって人間だからって差別するのよくないよ」
彼の思惑から外れ、彼はこの場で孤立していた。
「すみませんが、仕事に戻ってもいいでしょうか」
「なっ、何が仕事だ! この非常時に遊んでる連中を放っとく職務怠慢の人事が!」
「非常時こそ休める時間を大切にしなければなりません」
「そうだそうだ! 俺達は真剣に休憩してんだ! ふざけんな!」
「お前を処刑すれば職務怠慢じゃないの」
彼は周囲の人達にも怒りの矛先を向けるも、自分が罵声を浴びる結果となる。ネアさんに至ってはメイスを取り出して構えている。
「……っ! わかった! 現地調査とやらの監視役は俺が引き受ける!」
何をどう理解すればそうなるのか、私には分からないのですが。
「……分かりました。本来は私とベルナさんの二人でいいのですが、あなたも含めて三人で行くことにします」
「よし! 俺がてめぇの無能さを証明してやるからな! 覚悟しとけよ!」
彼はそう言うとどこかに走り去ってしまった。
……とりあえずベルナさんにこの事を伝え、準備を始めるとしましょうか。
後日、私達は三人で街へ向かった。