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死闘の末に

 俺はとある街を眺めていた。今から攻め込み滅ぼす街である、始まりの街だ。

 今回の作戦は至ってシンプル。暴れるだけ。まさに俺のためにあるような作戦だ。

 暴れるのは好きだ。ただ、暴れられれば何でもいいわけではない。多少なりとも張り合いがないと楽しくない。

 その点今回は退屈しそうだ。だからといって、手を抜くことはあり得ないが。


「さて、そろそろ行くか」


 誰に言うともなく俺は一人呟いた。

 ここから街までは、そこそこ距離がある。だが、俺の身体能力を持ってすれば十分も経たずに着くだろう。

 脚に力を込め、地面を蹴って走り出す。俺の通った場所は、爆発があったかのように地面が抉れている。

 そうして走ること数分。門番をしていた奴等が俺に気付き、防壁に付いている門を閉めていた。だが、俺にそんな物は無意味だ。

 速度を維持したまま門目掛けて全力でタックルをする。それだけで門は吹き飛び、街への侵入は容易に成功した。


「きゃああぁ!」

「バケモノだあぁ!」


 俺の姿を見た一般市民と思しき奴等が、叫びながら逃げ惑う。

 とりあえず近くに居た衛兵に手を伸ばし、その頭を握り潰す。鮮血が飛び散り、その体は力無く倒れる。

 街を落としてこいと言われたが、方法は伝えられていない。なら俺がやることは一つだけだ。

 破壊と虐殺の限りを尽くすこと。手始めに街の防衛戦力である冒険者の殲滅をしよう。

 噂をすれば何とやら、冒険者が俺に向かって走って来ていた。


「このっ! 魔物風情がっ!」


 その内の一人が跳躍して斬りかかってくる。全体重を乗せた渾身の一撃だったのだろう。

 俺はそれを虫でも払うかのようにあしらった。その腕に当たり吹き飛ばされた男は、壁に叩き付けられ赤いシミとなった。

 他の奴等は男の凄惨な最後を見て怖じ気づいたのか、誰一人としてかかって来なかった。

 分かってはいたが、つまんねえな。

 そう思いつつ、目についた人間を片っ端から殺していく。


「やめろ!」


 それをしばらく続けていると、一人の男に声をかけられた。

 声のした方向を向き男の姿を見る。その瞬間分かった。この男は別格だと。

 そいつはヘルムの無い漆黒の鎧に身を包み、煌びやかな装飾が施され白を基調とした大剣を構えていた。その立ち姿に隙はなく、周りの連中とは比べ物にならないほどの実力の持ち主だと分かる。

 だが、それと同時に違和感も感じる。鎧や大剣は超のつく一級品だろうし、それに見合うだけの実力を兼ね備えているはずだ。なのに男からは強さを感じない。だが、その立ち振る舞いは超一流のそれだ。わけがわからない。

 まあ、俺のバカな頭で考えても意味ねえよな。今はただ幹部としてやるべき事をやるだけだ。


「お前は誰だ! 何故こんな事をする!」

「俺は魔王軍幹部が一人、モートンだ。この街を滅ぼしに来た。貴様は何だ」

「僕は神崎剣! いずれ魔王を倒す勇者だ! 僕が来たからには、これ以上お前の好きにはさせない!」


 そう言うとツルギは斬り込んできた。

 こいつ今魔王様を倒すと言ったか? 良い度胸だ。それは叶わぬ事だとここで思い知らせてやろう。

 突っ込んでくるツルギに向けて拳を振るう。挨拶代わりの全力右ストレートだ。

 俺の攻撃方法は単純明快。武器も何も使わない、ぶん殴るだけだ。

 全力で胴体目掛けて放った拳は、直撃する前に大剣の腹で受けられる。だが、そんなことに構わず拳を振り抜く。

 ツルギはその勢いを殺しきれず、後方へ吹き飛んでいった。住宅の壁と激突し、辺りには土煙が上がる。その中から出て来たツルギは驚くことに、体どころか鎧にも傷一つ無かった。その姿を見て、俺は思わず笑みを浮かべていた。


「張り合いの無い奴ばかりで退屈してたんだ。やっぱり殺し合いはこうじゃないとなぁ!」


 俺は作戦の障害となる存在を煩わしいと思うことはなく、全力で戦える相手が居たことに対して歓喜していた。

 俺は叫びながらツルギとの距離を詰める。一瞬で目の前まで移動し、拳を振るう。さっきの威力重視のとは違い、威力を落とした代わりに連発出来るやつだ。

 無数に繰り出される拳に対しツルギは、大剣であることを感じさせないような軽やかな剣捌きで防御する。それでも全てを防ぐ事は出来ず、数発鎧に命中する。だが、鎧に傷はつかない。

 やはり堅い。あの鎧を破壊するのは無理そうだな。攻撃が有効な箇所は丸出しの頭だが……。

 もちろん自分の弱点は把握しているようで、頭を狙った攻撃は最優先で防御される。

 お互い決定打が与えられない状態で打ち合いが続く。拳と剣がぶつかる度に衝撃波が発生し、周囲の脆い建物が崩れ始めていく。

 このまま続けても意味が無いと判断し、一度攻撃を止める。それを隙と捉えたのか、ツルギは一気に斬り込んできた。剣を真上から振り下ろす全力の一撃。

 それを俺は片手で受け止めた。

 もちろん無傷ではない。親指と人差し指の間で受け止め、そのまま握ったため剣が肉に食い込み血が流れる。だが、掴んだ。

 この状況でも武器は手放さないらしく、即座に片腕を防御に回し、頭を守ろうとしていた。

 俺としては手を放そうと放すまいと、得になる最高の状況だ。こいつは頭を守っているが関係ない。元よりそこは狙ってない。

 俺は全力で腹部を殴る。もちろん鎧は傷一つつかない。俺の全力をくらっても鎧は耐えれるが中身はそうじゃない。


「がはっ!」


 ツルギの口から血が吐き出される。

 かなり威力は殺されているようだが、中身の本体にも攻撃が届いた。さらに、相手の剣を俺が握っていることにより体は吹き飛ばず、即座に追撃が可能となる。

 そのまま立て続けに三発ぶち込む。四発目を打ち込もうとしたところで、ツルギが体を捻りながら剣を引いてきた。掌が血で濡れていたこともあり、剣はすっぽ抜けてしまった。

 ツルギは一度体勢を立て直すべく、距離を取る。俺としては相手に時間を与えたくない。だが、同じ手は二度通じないだろう。そう思い次の行動に移る。

 まず地面に手を突っ込み、数メートルサイズの岩にして掘り起こす。それを抱えたまま全力で上に跳ぶ。

 理由は知らないが、高い所から重い物を落とすと物凄い力が生まれる。それをあいつにぶつけてやる。ただ、あいつを直接狙っても簡単に避けられるのは目に見えてる。なら、避けれない状況を作ってやる。


「自分のせいで人が死ぬのは嫌だよなぁ! 特に、勇者気取ってる奴はよぉ!」


 俺はさっきの打ち合いの時に崩壊した家屋の瓦礫の中に、逃げ遅れた人間がいることに気付いていた。そこ目掛けて岩を投げる。


「た……助けて……」

「――っ! その人は関係ないだろ!」


 ツルギも俺の言葉を聞いて気付いたらしく、その人間を助けようと動く。わざわざ自分の身を危険にさらしてまで。


「ぶっ潰れろっ!」


 俺がそう叫ぶと同時、ツルギが落下する岩の下に入っていき、そのまま潰れ――なかった。


「聖剣よ!」


 ツルギがそう言うと、手にしていた剣が淡く光り出す。その剣の持つ力はさっきまでの比ではない。それを岩目掛けて振るう。その力をぶつけられた岩は中央に切れ込みが入り、真っ二つに割れてしまった。

 俺が地面に着地した頃には、瓦礫の下敷きになっていた人間も救助されていた。


「どうやら俺はお前を見くびっていたようだな。認めよう、お前は俺の敵たり得ると。お前を敵として、全力で殺す」

「僕は負けない! お前を倒して皆を救う!」


 今までの戦闘で分かった。こいつは俺より戦闘技能が低い。確かに武具は強力だが、それを差し引いても俺の方が有利だ。さっきの攻撃を見たため、簡単に攻撃を受けれなくなったのはあるが問題ない。攻撃は最大の防御だ。

 俺は全力で踏み込み、一瞬で距離を詰める。それに対し、ほんの少しだけ反応が遅れたツルギの両腕を掴む。これで剣を振るうことは出来ない。

 掴んで分かったがこの鎧、可動域に制限が無い。どういう構造をしているのか知らないが、人体であれば不可能な動きも出来るようになっている。そこでいいことを思いつき、実行に移す。

 鎧の腕を肘の関節とは逆方向に曲げる。鎧は何の問題もなく動くが、人体にそんな動きは出来ない。

 バギィッ! 

 その鈍い音と共に骨が砕け、ツルギの顔は苦痛に歪む。


「っああああ!」


 ツルギが絶叫しながらのたうち回る。

 確実に殺すため腕を折ったが、俺に苦しませる趣味はない。両腕を離し、止めを刺そうと拳を構える。

 だが、ツルギは折れた腕に握られたままの剣で斬りつけてきた。それを少し大げさに避ける。

 これには流石の俺も驚いた。ツルギは肩を使い、腕ごと振り回すようにして攻撃してきたのだ。腕を折られても剣を離さず、諦めないその姿勢は尊敬に値する。

 ツルギはこの状況でも俺に向かってきた。相手の腕は使い物にならない。だが、油断はしない。そして、敬意を払い一撃で殺す。

 向かってくるツルギに突き出した拳は、切り落とされていた。動かないはずの両腕によって。

 何が起きた!? この短時間であの傷を治せる訳がない!? だとすればどうやって腕を動かしているんだ!?

 折れた腕も動かすことが出来るなら、さっきの攻撃は俺に腕は使えないと確信させるためだったのか!

 様々な思考の渦に呑まれ、俺の反応が一瞬遅れる。ツルギはその隙をつき、腹部に剣を振るってきた。

 即座に全力で防御をする。しかし剣は淡く光り輝き、凄まじい威力となる。


「うおおおっ!」


 ツルギが叫びながら振り抜いた剣は、俺の体を二つに切り裂いた。急速に薄れゆく意識の中最後に見たのは、天高く剣を掲げ勝ち(どき)を上げるツルギの姿だった。

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