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魔王の一日

 我の朝は早い。五時には起床し子供達の朝食を作る。年齢は息子が12万6723歳で娘が37万7254歳。ちなみに我は1651万9524歳である。

 六時ごろになると子供達が起きてくる。


「パパおはよー!」


 まだ小さな子供である息子が、元気な声と共に我の足に抱き付いてくる。我に似て凜々しくそれでいて可愛らしい。そんな息子の頭を撫でながら、娘の方に目を向ける。


「おはよう。お父さん」


 娘は思春期真っ盛りの年頃だが反抗期は無く、素直な良い子に育っている。


「おはよう。ご飯が出来ているぞ。一緒に食べよう」

「パパのご飯おいしくてすき!」


 本当に可愛い子達だ。子供達といる時間が最も幸せを感じる。我が子の為なら何だって出来る。……仕事以外は。

 食後は子供と一緒に遊んだりして過ごす。ちなみに子供達に名前は無い。魔物にとって名前とは特別なものだ。大人になったときに付けてやろうと考えている。

 その後九時前になると出勤のため自宅を出ることになる。


「我が帰ってくるまでの間、子供達を頼んだぞ。カール」

「お任せ下さい」


 出勤中は子供達の面倒を見る事が出来ないため、いつもカールに頼んでいる。カールは子供達に懐かれており、良い関係を築けている。


「では、行ってくる。定時には帰って来るからな」


 三人に見送られながら我は部屋を後にする。


 九時には仕事部屋に着き、仕事の時間となる。この時間になると我にはまずやることがある。それは……睡眠である。

 我は日々子供達の朝食を作るため早起きする。それに前日眠りにつくのは深夜二時頃である。そんな生活で睡眠が足りる訳がない。

 というわけで、部屋に備え付けてあるベッドに潜り込み昼頃まで惰眠をむさぼる。


 十五時頃に目を覚まし、弁当として持ってきた軽食を食べる。睡眠も十分にとったので、この後は基本的に暇である。

 なので、部下たちの元にちょっかいをかけに……ではなく、視察に行く。どこに行くかだが、基本的に適当である。ただ、人事部にはそうそう行かない。奴とのエンカウント率が高いからな。なので今日は開発部に行くことにする。


 仕事部屋を覗くと皆研究に集中しており、入り口に立つ我に気付いていない。

 まったく、魔王である我が視察に来てやったのに、挨拶がないどころか気付きもしないとは。これはしっかり言わねばならんな。

 そう思い部屋に入ろうと足を前に出すと、

 バチンッ!

 という音がし、それと共に足に僅かな痛みが走る。視線を落とすと、そこにはトラバサミに挟まれた我の足があった。


「ああ! 我の足がぁ!」


 我がそう叫ぶと、その場にいた全員に視線を向けられる。


「あ、魔王様。どうも」

「いや、どうもじゃないわ! なんで入り口にトラバサミを仕掛けとるのだ!」

「主に魔王様と営業部への対策です。殴り込まれたら困るので」


 さっさとトラバサミを外し、返事をした奴に詰め寄る。


「そもそも、我に挨拶の一言もないとはどうなって――」


 我が言い終わる前に後頭部に衝撃を受ける。振り向くとそこには、丸い小さな体に小さな手足と尻尾、さらに耳を生やし、ふわふわと浮く魔物の姿があった。その手にはメイスが握られており、今しがた我を叩いた張本人である。


「おい、ネア! 我を叩くとはどういうことだ!」


 こやつの名はネア。その可愛らしい見た目とは裏腹に、人事部の拷問・処刑担当だ。ちなみに無性である。


「レイスさまが、魔王様を止めるときは多少強引でもいいって言ったの」

「レイス……さま!? 様付け!? 何故だ!?」


 様付けされていいのは、魔王である我と幹部ぐらいだ。それなのに人間風情のあやつが……許せん。


「レイスさまは特別なの。魔王様より特別なの」

「はあ!? あやつのどこが我より特別なのだ! ん? 言ってみろ!」

「魔王様と違ってちゃんと仕事も気配りも出来るの。グダグダだった魔王軍を立て直して、世界征服に現実味を帯びさせてくれたの」

「ぐぬぬ……」


 そう言われると何も反論出来ない。もう、何もかもあやつが悪い事にしておこう。

 そう、我は悪くない! よし元気出て来たぞ。


「そもそもお主人事部だろ? 何故ここに居るのだ」

「通りかかったら魔王様が大声出してたから叩いたの。まだ騒ぐなら静かになるまで叩くの」


 そう言ってネアはメイスを構える。

 我が静かになるまでって……我死んでない?


「分かったから業務に戻れ。もう我も部屋に戻る」

「はいなの~」


 ネアもどこかに行ったし、我も今日のところは大人しく帰るとするか。




 十七時になるとタイムカードを切り速攻で帰宅する。


「ただいま~。パパが帰って来たぞ~」

「パパおかえり~。おしごとおつかれさま~」


 家に帰るとすぐに息子が抱き付いてくる。その息子を受け止めて、頭を撫でる。


「お帰りなさい、お父さん。仕事はどうだった?」

「いつも通りだ。問題なく終わらせてきたぞ」


 もちろん真っ赤な嘘である。だが、我は今後もこう言い続ける。子供達との関係を保つために。家庭を壊さないために。

 この前この話をレイスにしたら『職を失った事を家族に言い出せず、出勤するふりを続ける人みたいですね。そのうち嘘は露呈するのですから、真面目に働いた方がいいですよ』と言われた。だが、何と言われようと我はこの生活を続ける! 楽だから!


 その後食事を取って、子供達と遊んだり、魔法を教えたりする。そうこうする内に二十二時になる。息子はとっくに寝ている時間であり、娘もそろそろ眠りにつく時間。


「おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」


 我も自室に戻り、眠りに……つかない。まだ我にはする事がある。まず、子供達にバレないようテレポートを使って家を出る。そして、城内にある一つの店に入る。


「いらっしゃいませ。本日もご来店ありがとうございます、魔王様。本日はどの子をご希望ですか?」


 店内はピンクの照明で照らされ、甘ったるい匂いが充満している。ここに居る従業員は皆露出の高い服を着ており、その全てがサキュバス。そう、ここは風俗である。


「今は誰が空いているのだ?」

「今はラナちゃんとレティちゃん、イリスちゃんですね」

「ふむ……レティちゃんで。120分コースで頼む」

「かしこまりました。あちらの部屋でお待ち下さい」


 今回我が指名したレティちゃんは、豊満な肉体と高い包容力を持つ。甘やかすのが得意で、全てを肯定してくれる。


「魔王様、今日はよろしくお願いします」


 我はレティちゃんが部屋に来るや否や、すぐに抱き付き胸に顔をうずめる。


「あっ、もう魔王様ったら。甘えん坊さんなんだから。仕事で嫌な事でもあったの?」


 レティちゃんは優しく声をかけ、我の頭を撫でてくれる。


「今日、部下に叩かれたのだ。だから優しくしてくれ」

「大変だったね。私は魔王様が頑張ってるの知ってるからね。いっぱい癒してあげるから、まずは一緒にシャワー浴びよっか」




 ふう……。

 あの後我はレティちゃんに甘やかされながら、至福の時を過ごした。あの店のサービスは最高である。しかも120分コースだというのに一万という安すぎる値段設定。これには訳があり、サキュバスは生きるのに精気が必要であり、サービスを提供する代わりに客の精気を少し吸っているからだ。

 因みにあの店、生で本番OKだったりする。避妊はちゃんと出来てるらしい。

 さて、現在の時刻は二十四時を少し過ぎ日付が変わった頃だ。まだ寝ない。この後は酒を飲む。

 いつも通り行きつけのバーを訪れ、カウンター席に座る。この時間になると利用者も少なく、店内は静かである。


「いつものでよろしいでしょうか」

「ああ」


 このバーは福利厚生とやらの一つらしく無料で飲み放題である。ただ、飲み過ぎると明日に響き子供達にバレるので、飲み会などの日以外は量を抑えている。だが我は酒に強く、抑えてもかなりの量を飲む。

 この日も深夜二時まで飲んだところで切り上げ、自室に戻って眠りにつく。

 これが我の一日である。

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