異世界人と神と宅飲み その3
缶ビールもおつまみも残りわずか。
缶チューハイ、ハイボールももうすでに無くなっている。
カラリナさんの持ち込んだエプルエルも残り1杯分ほど、
そしてブブルクはすでに小さな肉片が残るだけとなっている。
「それにしてもサカイさんはいろいろな食べ物を用意したんですね」
「数日分の予定でいろいろ買ったんですけどね……
でも、一人で飲むよりはこうやってみんなで飲むほうが楽しいですからね」
「お酒もいろいろありますね。私はこの『缶チューハイ』が好きですね。
反対に缶ビールは苦みがちょっと…」
「ビールは苦みがちょっとっていう人多いですからね。
俺の世界にはもっと甘みの多い果実を使った缶チューハイもあるんですが、
今回は買ってこなかったので……」
「『缶チューハイ』はこの味だけじゃないんですか!?」
「そうですね。他にもシュワシュワの甘い飲み物を使ったものとか、
お茶とかを使ったものとか、いろいろな種類がありますよ」
「うらやましいです……私の世界は基本エプルエルですからね……」
「そうなんですか?『エプル』以外の果実や穀物があればできそうですけどね」
「なくはないんですが……
かなりキツめだったり、クセが強かったりするお酒ばっかりなので、
私には飲み辛いものなんですよね……」
「いいなぁ……異世界の酒……飲んでみたいなぁ……」
「私もサカイさんの世界のお酒もっといろいろと飲んでみたいですが……」
お互いに異世界の酒、つまみが他にもいろいろあることを知ったものの、
それを体験できる機会がないことに落胆する。
「それでは飲みに行けばいいではないか」
ジャーウスが赤い顔をしてニヤニヤしながら口に出す。
「「え!?行けるんですか?」」
俺とカラリナさんはジャーウスの言葉に同時に驚き、大きな声をあげる。
「ああ、多少の制約はあるが行っても構わぬぞ」
「本当ですか!?」
「楽しい時間を過ごさせてもらったお礼だ。
長い時間観察するばかりでほとんど娯楽がなかったからな」
ジャーウスの思わぬ提案に、酔いが徐々に醒めていく。
「それでは移動の制約を説明させてもらおうかな」
そこからジャーウスの説明する異世界への移動のルールを聞く。
・俺がカラリナさんの世界へ行くか、カラリナさんが俺の世界へいくかのどちらかであること
(俺がカラリナさんの世界に行ってる間に、カラリナさんが俺の世界へいくのはダメ)
・滞在時間は地球時間で1日
・言語は理解できるようにする
・ジャーウスの間を通りそれぞれの世界へ移動する
・ジャーウスの間へは各住居の入り口(玄関)を通ることで来ることができる
・異世界では実際の体とは異なり、異世界に適応した換装体となる
・お互いの世界にはジャーウスの許可したもののみ持ち込み可
「まぁ、こんなところだな。
飲食費に関してはこちらではなんともしがたいのでな。各自準備してくれたまえ」
「はぁ、それはいいんですが……毎回玄関開けるたびにここにくるのはちょっと……」
「それはそうだな。これをやろう」
そう言ってジャーウスは指輪を取り出す。
「これは?」
「ここに来るための許可証のようなものだ。
身に着けた手と逆の手の指で触りながら玄関を開ければこの間に来るようにしてある」
「おそらく待ち合わせすることになると思うのですが、どうやってしたらいいのでしょうか?
おそらくですが、私の世界とサカイさんの世界では時間の進み方も違うと思いますし……」
「そうだな。ここで待ち合わせした時に次回の予定を決めてくれれば、
こちらでその日になったらその指輪が光るようにしておこう」
ジャーウスに異世界移動のルールについての質問をし、
徐々に異世界移動することによる不安が払しょくされる。
異世界はもしかしたら、空気がないかもしれないし、謎の病原体とかいるかもしれない。
換装体であれば地球に異世界の病原体などを持ち込む心配はないだろう。
「だいたい理解できたかね?」
「あ、あの……」
俺はおずおずと手を挙げ、ジャーウスに質問してみる。
異世界とあればよくあるアレを。
「カラリナさんの世界には、魔法とかスキルとかそういうものはないんですか?
ジャーウスは大きく笑いながら答える。
カラリナさんは「何?」という顔をしている。
「魔法というのはアレだろう?火を出したりとか雷を出したりとか、地球でのゲームによくあるやつだろう?」
「そうですね。スキルも跳躍力がすごかったり、剣で大きな岩を一刀両断したり……」
「そんなのあるわけないだろう。おぬしの世界で考えてみろ。
火を起こすのに必要なのは燃えるものと酸素、そして温度が必要だ。
それだけのものを何もない空間に出すことにどれだけの労力が必要かを。スキルも同様だ。
魔法やスキルなどというものは、所詮、物語やゲームの中だけのものだ」
そうか、考えてみればジャーウスのいうことは至極当然だった。
それに異世界に行って「ステータスオープン!」とかやって、
見れた内容がショボショボだったら凹むもんな。
英雄なんてものになる気もないし。
「他に質問はないかね?」
「あの……」
今度はカラリナさんの番だ。
「サカイさんの世界はおそらくですが私の世界より文明が進んでいる気がします。
サカイさんの世界で知った知識などは問題ないのでしょうか?」
もっともな質問だ。
異世界転生系の小説でも、地球の技術で異世界を繁栄!なんてものも多々ある。
ただ、あれ系の小説の主人公はすごいよな。
ネットが使えなくて調べることすらできないのに作り方を完璧に覚えてたりするもんな。
「うむ……まぁしょうがない部分ではあるわな。
ただ、その時代に沿った文明の力というものもある。
突拍子の無いものは作れないし、流行りもしないだろう。
まぁ、料理ぐらいなら問題ないかもしれないな。食材が存在するかは別として」
「わかりました」
まぁ、そうか。
いきなりスマホが作れるかと言ったらそうではないもんな。
「質問はこんなもんかな?」
「そうですね。じゃあ次回どちらの世界にいつ行くか決めますか」
「はい。でも……どう決めましょうか」
「うーん……初回だけ決めて、あとは交互にしますか」
「いいですね、それ。じゃあ最初どちらにしましょう?」
決め方が問題だ。
日本人同士なら普通はジャンケンだが、カラリナさんは異世界人。
いちいちジャンケンの説明をするのもちょっとめんどくさい。
「しょうがないな。ホレ」
そう言ってジャーウスは小さなコインを出す。
コインの片面には縦に1本へこみ、逆の面には木と思われる模様が刻まれている
「これで決めたらいいじゃろう。
上に投げて床に落ちた時に上を向いているほうを選んだ側の世界に行くと」
コイントスか。
「カラリナさん、先に選んでください」
「え……いいんですか?」
俺は片手を差し出し、どうぞどうぞとジェスチャーする。
「ありがとうございます。そうですね……私は木の模様があるほうを選びます」
「じゃあ俺は縦1本のへこみがあるほうですね」
「決まったな。それでは行くぞ」
ジャーウスは親指にコインを乗せ、ピンッと上空へはじく。
2メートルほどの高さまで上がり、回転しながら垂直に落下する。
キィン……という音を立て、コインが床に当たる。
その様子を3人でじっと凝視する。
上を向いている面は……
「へこみのあるほうだな」
ジャーウスが床に落ちたコインを見て、俺たちに告げる。
「初回はサカイさんの世界ですね。楽しみです」
カラリナさんは笑顔を俺に向ける。
「最初なんでとりあえず基本的なお店にしようと思っています。
楽しみにしておいてくださいね」
「はい!楽しみにしています」
初回の移動先が決まった俺たちは予定を決める。
お互いの時間の進み方が異なるせいか、なかなか決めることができなかったが、
よくよく詰めることによって、だいたい月末になることが決まったのだった。
「お酒もつまみも無くなり、次回のことも決まったので、今回はこれで終わりですかね」
「そうですね。今日は楽しい時間が過ごせました。
サカイさん、ジャーウス様ありがとうございました」
「ああ、ワシも楽しかったぞ。次からはワシは行けんのが残念だが……」
「じゃあ、この異世界交流の機会を作ってくれたお礼として、
毎回何かお酒とおつまみ持ってきましょうか」
「それはいいですね。私たちだけ楽しんで、ジャーウス様が除け者というのはかわいそうですし」
「おお、すまぬな」
ジャーウスにお土産を持ってくる追加のルールが決まったところで、
カラリナさんとジャーウスとの異空間での宅飲みはお開きとなった。
「それでは次回よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
お互いに別れの挨拶を済まし、お互いの世界へ帰る。
こうして、異世界人のカラリナさん(たまに神様のジャーウス)との酒場を巡る交流が始まったのだった。