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異世界酒場交流記  作者: じんぐ
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異世界人と神と宅飲み その1

「疲れたー」


 俺、サカイ ヨシトは27歳のシステムエンジニアだ。

 数か月に及ぶ業務システムの開発プロジェクトに参加し

ブラックほどではないが、ほどほどに残業や休日出勤もこなし、つい数日前にその業務システムがリリースされた。


 それなりに忙しかったため、趣味である飲み歩きになかなか行けず、ストレスがたまっていたが、それもこの金曜日で終わり。

 ただ、疲れもたまっているため、明日からの土日は飲み歩きをせずに、自宅で一人飲みパーティをする予定だ。


 右手には缶ビール6缶パック、缶チューハイ、缶のハイボールが入ったビニール袋。左手にはポテトチップ、柿ピー、チータラなどなどのおつまみが入ったビニール袋。

 両手にパンパンのビニール袋を抱え、自宅の玄関を開ける。


「はぁー、早く酒飲もうっと」


 そう言って玄関のドアを開ける……

 普段見慣れている自宅とは異なる光景が目の前に広がっていた……


「どこだ、ここは?」

 普段見慣れた自宅とは違った光景。真っ黒な空間に、真っ白に光る床……

 しかし、周りは真っ暗なのだが、なぜだか暗さを感じず、逆に明るさを感じるくらいの6畳ぐらいの空間が目の前に広がっていた。

 そして、その空間の対面には自分と同じように突然の異空間に戸惑っているように見える女性が一人。


「おっとっと……」


 しげしげと観察していると、急に何かに引っ張られるようにその空間へ数歩踏み出すことになった。


ヤバい!


 そう思って振り返った先には、先ほどまであった玄関のドアはすっかり消え失せ、何もない真っ黒な空間だけが広がっていた。


「ハハハ、そんなに怯えんでも大丈夫だぞ」


 不意に声が聞こえ、空間の中央に光が集まる。

 光が消えると、そこにはいわゆる『神』のような恰好をしたおじさんが、俺と女性を呼ぶように手をヒラヒラとさせて立っていた。


「お二人さん、何もせんからちょっとこっちへきて座ったらどうかね?」


 いつの間にか椅子とテーブルが用意されていて、俺は不審がりながらもその椅子に座り、女性も俺の隣の椅子に座る。


 神のようなおじさんは、俺と女性の対面にテーブルをはさむように座ると自己紹介を始めた。


「さて、まずは自己紹介をしようか。

ワシの名前はジャーウス。君らの世界を管理する、いわゆる『神』というやつだ。この部屋で君らの住む2つの世界の経過を観察している」


 そう言って、俺と女性の顔を交互に見ていた。


「神かぁ……」

 俺はぼそりとつぶやく。

 今流行りの異世界転生でチートでハーレムみたいなことが、自分の身に起こるのかな?

 そして、2つの世界を管理するということは、隣に座るこの女性は異世界の人ということなのか……


「じゃあ、君から自己紹介してもらおうかな」

 ジャーウスから就職活動の面接官のような口調で、俺に自己紹介をするように促す。


 自己紹介を促されたのはいいものの、ジャーウスには言葉がわかるから日本語は通じると思うが、隣に座る女性には通じないんじゃ……

なんてことを考えていると、ジャーウスは俺の考えを読んだのか、


「言葉は気にせずとも大丈夫だ。

言っただろう、ここは2つの世界の観察をする間。

それぞれの言葉を翻訳することなんていうは容易いのだよ」


 と、俺の不安を払しょくするような言葉を投げる。


 なるほど、さすが神だ。

 それなら遠慮せず日本語で自己紹介させてもらおうか。


「じゃあ、自己紹介させていただきます。

俺……私はサカイ ヨシト、東京に住む27歳のシステムエンジニアで、飲み歩き…おいしいお酒とおいしい料理を食べに行くことが趣味です」


 社交辞令的、当たり障りのない自己紹介を終え、ジャーウスの顔を見る。


「システムエンジニアか。情報処理系の技術者ということだな」


 隣に座る女性にわかりやすいように言い換えてくれているのだろうか、ジャーウスが補足をしてくれる。


「じゃあ、次は君だな」


 ジャーウスはそう言って、女性に自己紹介をするように促す。


「私はカラリナ メラージュと申します。アルメカ王国の第一王女の侍女を務めさせていただいております。

私もサカイさんと同様にお酒を飲んだり、おいしい食事をすることが好きですね」


 女性……カラリナさんは落ち着いた口調で自己紹介を終える。


「よし、二人とも自己紹介ありがとう。

お互い聞いたことがない言葉が出てきたところで

相手が自分の住む世界とは別の世界の人だということが理解できただろう。

そこで、なぜ君ら二人がここに来たかわかるかい?」


「うーん……

俺……私の住むところで流行っている話でよくあるのは

神が間違って死なせてしまったため、そのお詫びに別の世界に転生させるとか…」

「ハハハ、そんなことはできんよ。

生きるも死ぬもその人次第。神が死なせてしまうなんてことはありえんよ」

「それでは……なんですかね……私にはサッパリ……」


俺とカラリナさんは思考を巡らせ理由を探す。


「それではヒントをやろう。二人の自己紹介の共通点に関することがその理由だ」


 ……自己紹介

 俺は東京に住む27歳のシステムエンジニア、カラリナさんはアルメカ王国に住む第一王女の侍女……

 そして趣味は……


「「あっ!」」


 俺とカラリナさんは同時に声をあげる。


「気づいたようだな。

君らの住む2つの世界はいわゆる表裏世界という関係にある。

そこで同じ時に生まれた男女は表裏体という関係になり、

それが同じ時に同じ思考になったとき、その二人はこの間に呼ばれるというわけだ」


 ということは……


「二人は酒が飲みたいという共通の思考になったためここに呼ばれたのだ。

過去に何度かここに表裏体の関係の二人が来たことがあるが、こんなにくだらなく、面白い理由で呼ばれたのはお前たちが初めてだぞ」


 ジャーウスは笑いながら二人にこの間に呼ばれた説明をする。


「お酒ですか……」


 酒は好きだが、それが理由でこんなことになるなんて…

 お酒が原因で異世界転移なんてシャレにならん。

 会社もあるし、両親もいる。

 いきなり行方不明になったらそれこそ大事になってしまう。


「おや?サカイ君は何か悩んでいるようだが…」


「あの、元いた世界には戻れるんでしょうか?」

 俺は不安に思っていることを口に出す。


「ああ、そんなことを気にしていたのか。ここはあくまで二人が出会う間。

無理やり別の世界に送り出し、戻ってこれなくするようなことはあり得ないぞ」


 その言葉を聞き俺は安心した。隣を見るとカラリナさんも安心したようだ。


「じゃあ、不安もなくなったところで酒盛りでも始めるか」


「「はぁ?」」

 ジャーウスの提案に俺とカラリナさんは素っ頓狂な声をあげる。


「二人が持っているのは酒となにかしらの食べ物だろう?

酒が原因で知り合った二人だ。ここでお互いの世界の酒を飲んでみるのも悪くないだろう。

だからここで酒盛りをしようじゃないかという提案だ」


 異世界の酒か……正直興味はある。

 ただ、地球人の俺が向こうの世界の酒、食べ物を摂取してもいいものか……

 向こうの世界では食べ物でも地球人には毒だったりとか

逆に地球の食べ物が向こうの世界の人には毒だったりしないのか……


「うーむ……サカイ君はまた悩んでいるようだな……意外と心配性なのかい?

ただ、君の悩んでいることはだいたいわかる。

まぁ、ここはワシがいる。そんなに気にするようなことは起こらんから気にするな」


 『神』であるジャーウスが言うのであれば気にすることもないだろう。もし、毒だったとしてもジャーウスがなんとかしてくれるはずだ。

 それならこの機会に異世界の酒、食べ物を楽しんでやろうじゃないか!


「カラリナもよいかね?」


 ジャーウスが声をかけると、カラリナさんは不安と期待が入り混じったような表情でうなずいた。


「それでは、異世界交流飲み会を始めようとするか!」


 こうして、異空間での異世界の女性と神との宅飲みが始まったのだった。


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