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第5話 はじめてのおつかい

 庭の塀をふっ飛ばしてからはや2年。気づけば早いもので俺も6歳になった。6歳といえば、日本では小学校にあがる年だし、もう幼児とは言わせない!日本の法律によれば確か就学以降は「児童」と呼ぶそうだ。

 ……そういえば俺就学してないけど?まさかそれまで幼児なのか?


 この国の学校制度はそれほど充実しておらず、そこそこ身分も高くお金のある家のこどもが10才から15歳の間に通うのが一般的なようだ。

 父ガラクの話によると学校自体は国営だが、日本のように公立学校が無償化されてなどいないわけで、逆に普通の家庭には到底払えないような学費がかかる。

 父ガラクも実家はそこそこ有力な地方の地主で、母ローラもそれほど身分は高くないが地方貴族の末娘なのだそうだ。


 だが、ガラクは色々あって実家から勘当されてるって言ってたし、ローラも王立学校時代にガラクと出会い、駆け落ち気味に家を出たと言う話で、要するに二人とも実家とは絶縁状態なわけである。


 学校に通ったおかげで文字が読めて、多少はカネの計算もできるということで始めたのがこの雑貨屋というわけだ。父は一生懸命学費をためて俺を学校に通わせようとしてくれているが、たぶん今のペースじゃ俺が50歳位にならないと金はたまらないだろう。それに俺自身、あまり学校に通いたいとは思っていない。


 二人の話からすると学校で学べるの、読み書き計算それから魔法(詠唱とクネクネする踊り付き)!くらいだ。魔法の授業があるとは言え、ガラクもローラも魔法が使えていないところを見ると、授業の光景はただの集団羞恥プレイ以外の何物でもないだろうだろう。


 ぶっちゃけ読み書きも魔法ももう出来るし、計算だってこんな文化レベルで微分積分をやるとも思えない。


 それよりも俺にはやりたいことが出来た!


「とーさん、俺、世界を股にかけるビジネスマンになりたい!」


あるとき父に俺の思いを打ち明けてみたが……


「…ビジネスマン?あぁ、商人のことだったな!俺も最初はシリウスに店を継いで立派な商人になってもらいたいと思ってたぞ!でもな、それよりも官僚になると良い!いや、宮廷魔道士でもいいぞ!どっちにしてもとても名誉な仕事だ!それに役人はモテるぞぉ?なんたってまず破産しないし、家も王都の一等地に構えられる!」


なんて言って全然取り合ってくれなかった。


 「モテる」という超ホットワードに一瞬気持ちが揺れそうになるのを、俺は全力で堪えた。


 両親は日本にもよくいるタイプのとりあえず公務員になっとけば安泰、というタイプの考え方のようだ。別に公務員が悪いとは思わないが、少なくとも俺には合わない、と思っている。


 それに前世では自分が、例えば某同盟国の大統領やAmaz○n、Go○gleのトップみたいな世界屈指のビジネスパーソンを目指すなんて言ったら、まず間違いなく「こいつ頭大丈夫か?」と思われただろうが、この時代ならもしかしたらと思ってしまう。


 男子たるもの勝負してナンボだと思わないか?




「そんなことよりシリウス、ママちょっと手が離せないからおつかいに行って来てほしいんだけど……大丈夫?一人で行ける?」


 ローラにお使いを頼まれてしまったので、俺の夢語りは一時中断!よかろう、ただのお使いですら本気を出してやる!

 

「うん、大丈夫だよ!何買ってくればいいの?」

「まぁ、大丈夫よね?買ってきてほしいのは人参ににジャガイモに牛肉よ。この中に600R(ルーツ)入っているから先に野菜を買った残りでお肉を買ってきてね?」

「分かった!てことは今日はビーフシチュー!?」

「ウフフ、そうよ。だからおつかいしっかりよろしくね」


 ローラのビーフシチューは我が家の献立レパートリーの中でもダントツに美味い!いつも牛肉が少ししか手に入らず量が少ないのが非常に悔やまれる。


 よし、ちょっと本気出して豪勢なビーフシチューを作ってもらおう!


 というわけで、商店の並ぶエリアにやってまいりましたー!


 まずはざっと各店舗の相場を見て回ろう。


…………

………

……


 ふぅ、そんなに大きな村じゃないけど肉屋も八百屋もいくつかあるからなかなか大変だった。


 相場はざっと

人参:3本セットで200R

ジャガイモ:ひと袋で200R

牛肉:100グラムで300R


ってとこだ。俺の鑑定結果ともそれほど変わりはないが若干高めに設定されている。店舗の利益を考えると妥当なところだ。しかしこのままだと牛肉が100グラムも買えない……だがせめて300グラムは欲しい。


 すると必要なのは1300R…不足は700Rか。元手の倍以上だ。


 こうなったら錬金術を……なんて馬鹿なことを考えたわけたんだけど……いや、あながちバカでは無いかもしれない。


 そして俺は肉屋と八百屋だけでなく、薬屋や酒屋や飲み屋をグルグルと回った。



「こんにちは!ガラク商店のシリウスです!父さんから何か足りなくて困っているものがあれば安く仕入れられるから何でも言ってみてほしい、と言われてきたのですが、何かお困りではないですか?」



 薬屋では傷薬に使うヨモギが足りないと言われたから、農家で雑草と一緒に生えてるやつをいくらか分けてもらった。もちろん少しお礼はしたけど!

そしたらなんと50Rが150Rに増えた!


 酒屋ではリンゴ酒を作る用のリンゴが足りないと言われた。そのまま客に出すわけじゃないので見た目は関係ないから八百屋でキズが付いて売り物にならなくなったリンゴを安く買い取った。

 数キロの廃棄リンゴを500Rで譲ってもらい、それを900Rと葡萄酒1本で酒屋に売った!

普通に商品用のリンゴを同じくらい買うと2000Rはするから酒屋の店主にはとても喜んでもらった。


 今の俺の保有資産は1000Rと葡萄酒1本。葡萄酒の相場は400R前後らしい。


 最後に葡萄酒のボトルが何本か不足しそうだと言ってた酒屋に足を運び、


「すいません!やっと安く仕入れたのがこの一本で…350Rでどうですか?あ、あとあっちの酒屋さんで1本400R でまだ何本かあったのでよければお遣いしましょうか?」


といって安く捌いた。ついでに酒屋の商売も助けたことでまたまた店主に感謝されてしまった。


 ふふふ、これで目標の1300R達成だ!50Rお釣りまでついてる。


 俺は肉屋と八百屋でちょっとだけ値切って、1250Rですべての材料を買い揃えた。


…………

………

……


「あらシリウス、おかえり。ちょっと遅かったみたいだけど、何かあったの?」


 ローラに心配された。まぁ確かにまっすぐ買い物して帰ってくるよりは遥かに時間がかかってしまったか。


「ううん!はいこれ!今日のビーフシチューは豪華になるね!」


と言って買い物かごを手渡した。


「人参にジャガイモに………ちょっと!このお肉の量どうしたの!?」


 驚くローラと店の閉店後に自宅に帰ってきたガラクに俺の錬金術の種明かしをすると二人とも舌を巻いて驚いていた。



 その夜、我が家にしてはとても豪華なビーフシチューを食べながら…


「今日みたいに人に感謝されながらものを流通させる仕事がしたいんだ」


 と再び胸の中の想いを両親に語った。


「うーん、だがなぁ……そんなことこれからもずっと上手くいくとは限らないじゃないか」


 想定通り、ガラクはなかなか認めてくれようとしない。俺の安定した将来を願ってのことだから、まぁ無下には出来ない。


「それは…そのとおりだよ。でも父さんだって雑貨屋を始めたときは、店を大きくしようとか、それなりに野心みたいなものがあったでしょ?」


「ま……まぁなぁ……」


 そして後頭部をポリポリと掻きだしたガラク。これはもうひと押しだ。


「自分で言うのも変だけど、俺の魔法なら宮廷魔道士にはいつでもなれると思うんだ?」


 そう、俺は初めて魔法を覚えてからの2年間で風の魔法をLv5『トルネード』まで使えるようになっている。あまり得意じゃない火魔法でさえLv3『火弾』までは無詠唱で撃てる。



「うむむ……まぁ確かに……」

「あなた、シリウスのやりたいようにさせてあげたらどう?きっとこの子なら何でも上手くやれるわ。それに……私たちだって自分の道は自分で決めてきたじゃない?」

「うむむむむむ……分かった。シリウス、お前のやりたいようにやってみると良い!ただし、俺たちは一切力を貸さないぞ?」


 ローラの援護射撃でついに俺はガラクの説得に成功した!


「うん!二人共ありがとう!で、早速なんだけど、父さんにお願いがあってさぁ……」


「ん?さっき力は貸さんと言ったばかりだぞ?」


「あぁ、力を借りたいわけでもお金を借りたいわけでもなくて……父さん、俺、父さんの店でしばらく働いていいかなぁ?もちろん給料はいらない!自分で稼いで増やすから」


「え?は?シリウス、お前まだ6歳だぞ?」


「うん、でも商人になるのに年齢制限なんかないよね?それに自分でお金を稼げない人間が、将来でかいことやりたいって言ったって説得力ないじゃん?」


「………ほんとに俺の子かって思うくらい大したもんだなぁ………まぁいいさ、俺のとこみたいな小さな店で何ができるか楽しみに見物させてもらうぞ」


 いや、アンタの店だし見物してないで働けよ!


「う、うん!頑張るよ!」


 そして、次の日から俺はガラク(タ)商店の従業員となった。

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