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第49話 町の希望

 2隻の海賊船を沈めた俺たちの周りでは、公爵や兵士たちの鳴り止まない歓声が今も続いていた。

 次第に港や港に近い町の方からも騒ぎに気づいた町民が集まって来て、その都度大歓声が連鎖した。


「ガハハハ、シリウス!それにシエナ!よくぞやってくれた!こんなに気持ちが晴れたのは久しぶりだ!」


 ブルドー公爵は興奮気味にバンバンと俺の背中を叩きながら喜びの感情をあらわにした。


「しかし、船を沈められた報復があるかもしれません。そうなれば、俺たちは当事者なのでいつでも戦闘に出ますが、念のため兵士の皆さんにも警戒を怠らないように伝えてください」


「分かっている。やつらはきっと報復に来るが、前とは違う……この町には指一本触れさせんさ」


 ブルドー公爵はまるで獣のような鋭い眼差しでそう言うと、沖で沈みゆく海賊船を見やった。


「ガハハハ!それよりも、だ!シリウス、礼は何がいい?」


「礼……ですか?」


「おう、あの忌々しい海賊どもに一泡吹かせてくれたんだ。何も礼をせんわけにはいかんだろ?」


 ブルドー公爵はさも当たり前のことのように、満面の笑みを見せているがそもそもこれは俺が勝手にやったようなもんだ。


「い、いやいや、流石にそれは……アレは俺とシエナが勝手にやったようなもんですし」


「百歩譲って仮にそうであっても、だ!今日の一件で、長いこと一方的に苦しめられてきた町の人間たちは希望をもらったのだ。領主として礼はキッチリさせてもらうぞ」


「シリウスさん……父上は言い出すと聞かないですよ」


 横でクレーが諦めたような表情を見せて首を横に振った。


「はぁ……では、何か考えておきます」


「おう!遠慮するなよ!」


 そしてブルドーは兵士たちを引き連れ屋敷の方に引き返していった。後ろに従う兵士たちはいまだに興奮冷めやらぬ様子だった。


「シリウスさん、私からもお礼を言わせてください……ありがとうございました」


 クレーまで俺に頭を下げた。ほんとにさっきのは感謝されようと思ってやったわけじゃないんだけどな……


「クレーさん、スカッとしたでしょ?」


 至って真面目な表情で、深々と頭を下げるクレーにシエナがいつもののように人懐こく笑いかけた。頭を上げたクレーはしばらく答えに逡巡していたがやがて、


「えぇ、とてもスカッとしました!」


 と笑みを浮かべてみせた。それは、俺たちと出会ってから初めて見せた心からの笑顔だった。


「こうすればもっとスカッとするわよ!」


 シエナは堤防の上にぴょんと飛び乗り、海に向かって大声を上げた。


「海賊のバカヤロー!!!ほら、みんなも!」


 俺とクレートソニアは3人で顔を見合わせお互いにクスリと笑うと、シエナにならんで堤防の上に立った。ハズール語がほとんどわからないソニアにも、シエナの意図は伝わったようだ。


「「「「海賊のバカヤロー!!!」」」」


 俺たちは何度も海に向かって大声で叫んだ。シエナが余計なことを吹き込んだせいで、クレーが途中から「F●CK!」を連呼して中指を立てていたときには若干引いたけど……この人も相当ストレス溜まってたんだろうね。


………

……


「はぁっはぁっ……あぁ、スッキリしました!」


「クレーさん、最後の方はもうわけわかんなかったもんね」


「私は皆さんや父上のように強い人間ではないですし……町を襲われたときも、はらわたが煮えくり返る思いだったのに、奴らに何もやり返せない自分が許せなくて……こんな自分がゆくゆくは父の跡をついでこの町を守っていくことなんて出来るのでしょうか……」


 そりゃ普通の人がヤ●キーに喧嘩売られても絶対買わないもんなぁ…俺だって前世なら見て見ぬふりして逃げただろうね。


「シリウスとシエナは……異常……クレーは普通」


 ソニアが片言のハズール語でフォローしたけど……それ俺達のことディスってるよ?


「さっき、お店の人が言ってましたよ?クレーさんは、町に悪い人や物が入ってこないようにいつも目を光らせてくれてて助かってるって。クレーさんのお陰で町の治安もいいし、粗悪な品も出回らなくて済んでるんだって、とても感謝していました」


「あぁ!だから私達がお店にいる間もずっと通りをキョロキョロしてたのね!」


「……それは……」


 クレーは苦笑いしながら頬をポリポリと掻いた。


「まぁブルドー公爵はまだまだあと50年はピンピンしてそうですが……もしその時が来たら公爵のことは一旦置いといて、クレーさんはクレーさんなりのやり方を考えれば良いんじゃないですか?」


「……はい、ありがとうございます」


 落ち着いたトーンではあったが、その声にはクレーの熱い気持ちがこもっていた。


「あ!そうだ!良かったら今から港の裏にあるドックに行きませんか?皆さんにお見せしたいものがあるんです」


「あ、ちょっと!」


 クレーはそう言うと、俺たちの返事も待たず先を歩きだした。俺たちは半ば追いかけるような形でクレーの後を追った。


………

……


「おぉぉぉぉ!」

「すっごーい!」

「これは……船?」


 港の裏というクレーの言い方が気になっていたけど、たしかに港のあまり目立たない奥まったところに大きなドックがあった。そして、そこで造られていたのは、停泊している3隻よりも遥かに大きな船……


「海賊を返り討ちにしようと、父上の発案で密かに軍艦を作っているんです」


「これは……カッコいいですね」


「ええ、ですがカッコいいだけじゃないんですよ!どうぞ甲板へ」


 俺たちは建造中の船の甲板に上がらせてもらった。  


「側面には私が設計した投石機が7基ずつ配置されています。石はもちろんですが油壷などを飛ばすことも可能です。それから船の甲板には錆びにくい銅板を貼っていて強度も十分、海賊たちの火矢もへっちゃらです!さらに!側面の小窓からは弾力のある魔物の革で作った弩を射出することも出来るんです!」


 ものすごい勢いで軍艦の魅力を語るクルー。しかし、確かにこの軍艦にはブルドー公爵はじめ町の人達の意地が感じられた。


「しかし、クレーさんこれだけの船を造るとなるとかなりの費用がかかったんじゃないですか?」


 これはクレーが説明を始めてからずっと気になっていたことだ。船がすごいことは分かったけど、一体その資金をどうやって工面したのか……


「……うちの屋敷、ほとんど何も無かったでしょ?」


 クレーの言葉に俺の予感は確信に変わった。


「まさか……」


「えぇ、もともと父上は派手なものを好みませんでしたが、それでも貴族の中でも最上位の公爵です。金も財宝も昔はそれなりにありました……」


 クレーはそこまで話すと、一瞬何かをためらったが意を決したように俺を見つめると話を続けた。


「父上には止められていましたが……海賊たちが町に攻め入ってきた時、母上は市場で買い物をしていたんです……そして、運悪く……」


 それ以上言葉を続けられず、唇を噛むクレー。その口の端には血が滲んでいた。


「もちろん海賊に殺されたのは母上だけではありませんでした……年寄りも子供も見境なく奴らの餌食になりました……父上はそんな状況で母上の死に落ち込んでいる場合ではないと、事情を知る者に箝口令を敷き、街の復興と海賊の撃退にすべてを注いできたのです」


 ……きっと俺だってローラとガラクが野盗に襲われたりなんかしたら理性を保っていられないだろう。間違いなく、野盗を殲滅すると思う。でもそれは、個人的な恨みによるものだ。しかしこの二人は自分の身内の死を二の次にして、この街のことを一番に考えている。


 俺のステータスは確かに人間離れして高いのかもしれないが、人としての器じゃこの二人には遠く及ばないなぁ、と思うと少しへこんだ……ブルドー公爵なんか、もう財産も何も残っちゃいないのに俺に何か礼をするなんて言ってたんだ……カッコよすぎだろ。


 でも、だったら俺は俺の出来ることで二人の、この町の力になろう。


「クレーさん、俺に船を一隻貸してくれませんか?」


「……船ですか?」


「ええ、軍艦には護衛艦がついてるもんですよ?」


「護衛艦……って、えぇ!?いや、お気持ちはうれしいですが、それならせめてこの艦に!」


 クレーは俺たちが小舟で海賊との戦いに参入しようとしていることに気づいて激しく動揺した。  


「いえ、俺たちが本気で動こうと思ったら、むしろ大きな船は勝手が悪いんです」


 さっきは石を投げて船を沈めるくらいで済ませたけど、今の俺に海賊を見逃すつもりは全く無い。やるからには徹底的に、だ。


「し、しかし……」


「さっきの「お礼」の件、コレでどうですか?ブルドー公爵」


「……え??」


 するとブルドー公爵が甲板に姿を表した。


「……いつから気づいてやがった?」


「えっと……けっこう前から。それで…船の件は?」


「ちっ……遠慮するなと言ったのは俺だ。好きな船をやるよ。それはそうとクレー、お前喋りやがったな?」


「ち、父上……それは、その……」


「クレーさんを責めちゃダメよ!」


 シエナが、ブルドー公爵とクレーの間に割って入った。


「責めねぇよ……この町をこんなにしちまった俺にはそもそもそんな資格はねぇ」


 ブルドー公爵は決まりが悪そうに顎ひげを手で弄んだ。


「公爵……お願いです、俺たちも力にならせてください!」


「ったく……そりゃこっちのセリフだってんだ……シリウス頼む、力を貸してくれ。この町を絶望から解放したい」

 

「はい!」


 そして俺と公爵は互いに決意に満ちた視線をぶつけ合うと、その場で固く握手を交わした。

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