第39話 エピローグ〜ハズール内乱編〜
セルジオたちを村に送り届けたその日は、せっかくだからと母さんに引き止められ実家で一泊することにした。
ちなみに夕食前に両親にはセルジオたちのことは話してある。
母さんはまるで数年ぶりの再会のように、はしゃいでいたけどまだエストレーラで村を出てから10日くらいしか経っていない。
「しかし、セルジオも苦労したんだなぁ……」
父さんも同じ家族の大黒柱として、気持ちがわかるんだろう。
「うっ……う……私はあなた達二人が心配でたまらないわ……」
「母さん、そんな大げさな……」
「大げさなんかじゃないわよ……旅に出て1週間で魔族と出会うなんてどう考えても普通じゃないわ!何かきっと良くないことが起こるのよ?だからそんなに焦らず明日も泊まっていけばいいじゃない、ね?」
ハンカチで涙を拭う母に呆れ気味なリアクションで返した俺だったけど、内心はそんなに嫌な気はしていなかった。
なんせ前世では大学入学のときに田舎を出て上京し、卒業後も数年に一度ちらっと帰省するくらいだったからな。実家の両親もあまり帰ってこいとは言わなかったし、それが普通だと思っていたからこんな風に心配してもらえてることへの反応にちょっと困ったというのが正直なところ。
ただまぁ、王都に食料を運ばなきゃいけないから母さんには悪いけど、明日も泊まるわけにはいかないんだけどね。
「話は変わるけど、父さん今年の近隣の村の農作物はどう?」
「ん?あぁ、あっちの村が小麦、そっちの村がトウモロコシ、んで向こうの村が豆類があまり過ぎててそろそろヤバいんだとよ」
父はちゃんと市場の調査をやっていたようで、各村の穀物保有量をしっかりと把握していた。
「そっか、ありがと!それ余ってるの全部買って帰っていい?」
「おう、うちの倉庫にはまだ比較的日持ちのするのがたくさんあるから問題ないぞ。それに、そうしてやれば村の農家も大喜びだな」
「ありがと、ちゃんとガラク商店の名前で買っておくから店の宣伝にもなるでしょ?」
「ハハハ、そりゃいいや!」
俺には店に残してある俺の給料分がだいぶ残っているから、それをつかって穀物を立替購入し、あとで国王に精算してもらうことになっていた。
「もぐもぐ……ん!!!この鶏のロースト美味しい!ローラさん、明日の移動中にも食べたいから作ってくれる!?」
「ええ……どうせ行っちゃうんですものね……わかったわ!フフフ……シエナちゃんのために心を込めて作るわね」
母さんもなんとか落ち着いてくれたようで良かった良かった。
「もぐもぐ……ていうかシリウス、王都に食料を届けたら次はどうするの?」
シエナが訊ねた。
「あぁ、結局すぐあんなことになったからまだ地図も探せていないし
アルフレドさんあたりに聞いてみようと思う。行き先を決めるのはそれからだね」
「そっか!私、海が見てみたいわ!」
「海?……あぁそっか、シエナはジーフ山とこの村の周辺で育ったから海なんて見たこと無いもんね!」
「……何言ってんのよ、シリウスだっておんなじでしょ?」
「え?あ、あぁそうだね!」
「ん〜??…変なシリウス」
危ない危ない、2つの世界の記憶があるとこういう時混同しちゃって困るんだよな。
まぁ確かにこの世界の海は見たことがないし、ヘラルドさんが操舵輪を手に入れたという港町にも是非寄ってみたい。というわけで、次の目的地はまだ見ぬ海辺のリゾートタウン(仮)で決まりだ。
「そう言えば……ずっと疑問だったんだけど、この辺の村には名前がないの?」
俺は転生した頃からずっとぼんやりと疑問に思っていたことを父ガラクに、訊ねた。
「ん?なんだ急に?知らんし疑問にも思ったことがないなぁ……それこそ、王都に戻ったら賢者様に聞いてみればいいじゃないか?」
なるほど、村人たちには特に違和感はないのか……
こりゃ、王都に戻ったら地図を確かめてみる必要がありそうだ。
◇◆◇◆◇
ギーベリーは薄暗い部屋の中で独り物思いに耽っていた。
彼が人の世界のとある王国に派遣していた下級魔族からの連絡がある日を境にピタリと途絶えた。そして、同じ日に思念の一部だけを憑依させていた人間が龍族に倒された。その人間はまだ生きているようだが、ギーベリーの思念は龍族によって跡形もなく消滅させられた。
「アレは間違いなくブレスだった。なぜだ……なぜあの場所に、よりによってあんな場所に龍族がいた?」
ギーベリーは不快感を露わにし、ぎりぎりと奥歯を噛み締めた。
「ギュジェスといい、グレムといい、下級の魔族ではあるが人にとっては如何ともしがたい難敵のはず……だとするとあの龍族が二人を?しかし、ギュジェスはジーフ山の守護龍に倒されたのではなかったのか?いや、それを見たものはいない……分からん、一体どうなっている」
この数日間何度も同じことを考え続けたが、いっこうに真実が見えてこない。
「私が直々に出向いて、あの龍の娘に問いただしたいところではあるが……くそっ」
ギーベリーは不快感を通り越した深い憎しみを顔に浮かべ、ゆらゆらと揺れる卓上の炎を見つめた。
「まだここを動くわけにはいかん……まぁ、良い。今回のことは計画のほんの一部分の誤差でしか無い。各地の魔族には龍の娘には気をつけろとだけ言っておこう」
そしてギーベリーは机上のグラスに注がれた、鮮血のように真っ赤な酒を一息で飲み干した。
◇◆◇◆◇
翌朝……
俺とシエナは早朝から家を出て、各地の村から穀物を集めて回った。どの村でも、余剰分の穀物を買い取ったことで大喜びされた。
これで実家の家業のいい宣伝にもなっただろう。
買い集めた穀物を荷台いっぱいに積み込み、エアバリアで囲って俺とシエナは爆速で街道を上った。行きはセルジオたちを載せていたけど、今乗ってるのは物言わぬ穀物だし、この世界には法定速度もないからその日のうちに王都に帰り着いた。
俺は再びエストレーラで王城の広間に乗り付けた。
「ただいま戻りました!」
「たっだいま〜!」
広間ではカストル国王とアルフレドさん、ララさん、それからヘリックスさんとその他何人かの家臣たちが輪になって座り何やら話し込んでいた。
「えっと……お取り込み中でした?」
「いや、構わん。それで、穀物は集まったのか?王都の周りの村もあまり今年の実りは良くなかったと聞いておるが」
「あ、そうだったんですね。うちの実家の方は、むしろ摂れすぎて困ってたようなので、ホラ!こんなに譲ってもらえましたよ、小麦にトウモロコシに豆!これだけあれば炊き出しももう少し長く持つでしょう?」
そして荷車の幌を外して中身を見せた。荷車の中には穀物の入った袋が天井まで隙間なくびっしりと詰め込まれていた。
「じ、実家ってあのバーリ地方の!?」
ララさんが目を丸くしているけど、まさにその実家だ。
「はい、こいつならあっという間っすよ!」
といって俺は愛車のボディを叩いてみせた。ララさんはもはや驚きを通り越して呆れている。
「しかし、それほどの食料、一体いくらで買い付けたのだ?」
今度は横からヘリックス。
「えっと……全部で20万Rもしなかったですね!」
「おいおい……さすがにそれは嘘だろ?小麦一袋でも王都じゃ5000Rはするぞ?見たところ100袋以上の穀物が詰め込まれてるじゃないか?」
「ですが……バーリ地方じゃ余って捨てるしか無かったのを安く譲ってもらっただけなので、小麦なんか1袋1000R でしたよ?」
「な、なんだって!?」
ヘリックスも衝撃の価格に絶句した。
「第一、自分で立替えて払ってるのに、わざわざ金額を低くいうわけないじゃないですか?」
「ハハハ、それもそうだ!」
カストル国王も納得したようで、俺は後からやってきた官僚に金の入った革袋を手渡された。
「あれ?カストル国王……だいぶ多めに入っているようですが……?」
革袋の中なんか開けなくても、それ全体を鑑定すれば総額が分かってしまうのは超便利!
「礼も兼ねてな。しかし、鑑定というのは便利なものだな……」
「それにしてもこれはもらいすぎですよ!礼なんかいいので、街の復興に使ってください!」
俺はそう言って20万Rきっかり抜いて残りを国王の側近に手渡した。
「おい、陛下のお心遣いを返すなど失礼であろうが!」
側近のおじさんに怒られた。まぁ、たしかに失礼かもしれないけど……
「よい。しかし、シリウス。何も礼をせんというのも王家の威信に傷が付くというものだ。何か金以外に望みはないのか?」
「そうですね……別にほしいというわけではなくてあれば見せてほしい、というくらいなのですが王国全土の地図、それから世界の地図はありませんか?」
「地図?あるにはあるが……そんなものでいいのか?」
「はい!それが今俺たちの一番欲しているものです!」
カストル国王はほんとにそんなものに何十万Rの金を固辞するだけの価値があるのかと不思議そうな顔をしていたが、やがて別の側近に命じて地図を持ってきてくれた。
「これが、ハズール王国の地図、それからこれが世界の地図だ。ただし世界の全容など載っておらん、あくまで近隣諸国のみだ」
確かに、この時代の文明レベルで全世界の地図は難しいだろう。少なくとも王国とその周辺の地理がわかったのだから結果としては上々だ!
「おぉ!ありがとうございます!ちょっと書き写させてくださいね!」
そして俺は知力をフル活用し一気に手元のメモに地図を書き写した。我ながら完成度の高い縮小地図の完成だ。
「シリウス…お、お前……今何をした……?」
驚きすぎて半分白目をむく国王。
「何って……地図を一度記憶して一気に書き写させてもらったのですが?」
「………もうよい。お前が普通ではないということがよく分かったわ」
ものすごくドライな国王……挙句にため息までつかれた。
「ところでカストル国王、あとアルフレドさんにも聞きたいんですが、なんでこの地図には村に名前がなくて『村』とか『街』とだけ書いてあるのでしょうか??」
「……村の名前?」
「はい、うちの父、も俺も自分の村の名前を知らないんですよね」
「……うむ……」
え?俺変なこと言った?
「それは恐らく初代様の影響だ。初代様は国は作るし民は守るが領土を『支配』しようとまではせんかったそうだ」
「なるほど、名前とは記号……国が主導で名前をつければ、それはすなわち支配・管理することにつながるのう……」
アルフレドさんがボソリと答えた。
「それにシリウス、お前の『えすとれーら』のような移動手段があるならともかく、大半の村人は王都にすら来ることなく一生を終える。そんな生活の中で村の名前など大して要らんかったのだろうさ」
「ふーん……でも、あったほうが便利なんですよね……うちの実家ではものの輸送なんかをやってますけど、割と近隣の村とも付き合いが出てきたし、それに旅の目的地も決めやすいしなぁ」
理由は何となくわかったけど、不便なことに変わりはない。
「まぁ、初代様の時代から300年も経ったのだ。昔は貴族などもおらんかったが、最近は領地・領民の守護という名目で実質貴族がその土地を支配しておるしな。そろそろ、そういったところも整備していかねばならんかも知れんな」
国王はハズールの歴史を思い出すような口調でそういった。
「えぇ、是非!ところで、俺たちはこれからこのあたりの港町に行ってみようと思っているのですが、ここはどんなところですか?」
「港町か……そこはたしかブルドー公爵という男の領地にあたるが……最近はなかなか大変なようだ」
「……大変?」
「海から『海賊』ってのが来るんだって!野盗みたいなもんね!」
ララさんが教えてくれた。
「なるほど、それはまた……」
行くのやめよっかなぁ……とか思ってたところで国王が口を開いた。
「どうせ行くのなら、ブルドーに会って話を聞いてみるといい。あとで一筆書いて渡そう」
……また厄介事に巻き込まれそうな予感しかしないけど、まぁシエナも海を見たいって言ってるし、せっかくだから行ってみようと思う。
−−−第2章 ハズール内乱編 完−−−
ここまでお読み頂きありがとうございました!
次章では新たな仲間も加わる構想です。
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