第11話 疫病
俺たちはかれこれ10日ほど街道を北上していた。道中で何度か魔物に遭遇したが、今のところすべて俺のエアカッターだけで処理できたので、大して問題はなかった。
それより俺が驚いたのは、二人が俺の倒した魔物から牙や革を剥いで回収していたことだ。二人によると、魔物は一般的な動物より強く、身体も頑丈なため牙や革は良い素材として取引されるそうだ。
確かに俺の鑑定でチェックしても結構いい値段がついている。例えば、昨日倒した「鉄爪熊」の毛皮は3000Rの鑑定結果がついているが、アルフレドの話では一般的な熊の毛皮だと500Rくらいらしい。
そうなると、俺が先日ツインウルフを焼却処分してしまったのは実にもったいなかったといえる。せっかく商材がわざわざ向こうから現れてくれたというのに……
とにかく、二人はこうやって素材を売りながら旅費の足しにしているのだ。ララさんはめっちゃイヤイヤやってる感じだけど……
俺も何もしないのは悪いし二人に教えてもらいながら色々な動物の解体を教えてもらった。
【スキル『日進月歩』の効果により特技『解体』を獲得しました】
おお!久々の特技獲得!
【スキル『日進月歩』と特技『解体』の相乗効果によりスキル『ブッチャー』を獲得しました】
あれ?いきなりスキルに昇華した?それにしてもブッチャーって……俺には大昔の悪役レスラーのイメージしか沸かない。まぁいっか…
スキルの名称には不満があったが、その効果は文句無しだった!自分でもびっくりしたけど、どこをどうすればきれいに解体できるかが瞬時に頭に浮かぶし、身体も慣れた手つきでそれに反応できる。
二人はまた驚きの目で俺を見ているが、子供は物覚えが早いということで!
そしてその後もいくつか新しい村を経由したが、長居はせず一泊だけ宿をとって体を休めると、その後はひたすら先を目指した。
初めて訪れた村で俺が必ずやったのは市場調査だ。肉屋、八百屋、酒屋、薬屋、などなど色んな店を見て回って大体の相場をメモしておいた。
街道が快適になれば、この辺にもビジネスの手を伸ばしたいところだ。中には包丁や刀剣などの刃物を実にいい仕事で作る鍛冶屋もあったし、ああいうものは早々にブランディングして世に広めていきたい。
今からすでに旅のあとのことで頭がいっぱいだ!
そして今は、最後の村を出てから丸2日、そろそろ次の村が見えて来ようかというところだ。
「地図によるとそろそろ新しい村につく頃ですよね?」
アルフレドさんから見せてもらっている地図には「村」とだけ書いてある。なんか違和感あるけどまぁ今はいっか。
「そうじゃ、そしてそこからは街道を外れ、樹海へと入っていく」
「いよいよって感じがしてきましたね!」
「ハハハ、あまり浮かれすぎて気を抜きすぎるでないぞ?」
「はい!」
そんなやり取りをしているうちに、真っ直ぐな街道のはるか先に、次の村と思われる集落の外郭が薄っすらと姿を現した。あと一時間ほども歩けば到着しそうだ。
「お!見えてきましたね!じゃぁちょっとペースを上げますか!」
「ハハハ、若いのう」
「シリウスくん…正気?お姉さんもうクタクタなんですけどぉ?」
「じゃぁちょっとひとっ走りして様子を見てきますね!」
俺は新しい村の魅力に我慢できず、二人をおいて駆け出した。
……………
…………
………
……
…
そして、村の外門のすぐ前まで来たわけだが……
「現在、この村はよそ者の立ち入りを禁止している!すまんが先に進むのであれば回り道して向かわれよ」
ってな感じで、二人の門番に通せんぼされて中に入れてもらえず立ち往生していた。立っている二人は剣や槍を持ってはいるが、ステータスからして軍人ではなさそうだ。
身分は庶民だし、能力も総じて低い。
そこにアルフレドさんとララさんが追いついた。俺が二人に事情を説明したわけだが……
「ふむ、こういうのはワシに任せておけ」
そういってアルフレドさんが一歩前に進み出た。
「 門番よ、あらためて頼むがわしらを中に入れてはくれんかの?」
「ならん!」
「そうか……一応言うておくがワシの名前はアルフレド。巷じゃ『賢者』なぞと言われてちったぁ名の売れた爺さんなのじゃが……」
アルフレドの名前と賢者というフレーズで二人の表情に変化が現れた。
「け、賢者様!?おぉ、これは天の助けか!?」
「バカ!早まるな!本物かどうかなんて分からないだろうが!」
「そ、そうだな……そこのご老人、賢者様を名乗るからには何か証拠は有るのだろうな?」
「証拠?証拠か……ふむ、一応国王直筆の勅命書と王家の印の入った短剣くらいであれば持っておるが……お主らにその真偽がわかるのかのぅ?」
「う…それは……」
おお!鉄壁を誇った門番さんが徐々にガードを下げはじめた!賢者のネームバリューはなかなかのものだ。
「ここはワシを信じてみんか?どうせワシらが偽物じゃったとしてもこんな年寄と女子供に何ができるわけでもなかろう?」
「ま、まぁ確かに……」
「ほれ、そうと分かればまずは村の代表を呼んでこんか!」
「は、はい!しばしお待ちを!」
そして門番の一人が奥へと走り去っていった。おー!これはもうほとんど突破したようなもんだ。
飛び込み営業でも、受付のシャットアウトをかいくぐり、オフィスの一番奥に偉そうに座っているおっさんを引っ張り出せればほぼほぼミッション達成だ。
しばらくして門番ともう一人、アルフレドさんと同じくらいの歳に見える老人が戻ってきた。老人は口元を隠すように布を巻いている。
「はじめまして、私がこの村の長をしているトマと申します。あなた様がかの高名な賢者アルフレド様というのは本当でございますか?」
「ふむ…さっきも言うたが本当じゃというてもワシには勅命書と短剣くらいしか示せるものはないぞ?示したところでワシの偽造という可能性もあるんじゃから、最初から本当という前提でこの村に何が起こっているか話してみよ」
「……おっしゃるとおりでございますね」
そして村長トマはこの村の異変について俺たちに話をしてくれた。
村は現在、原因不明の疫病が蔓延していて健康なもののほうが少ないそうだ。疫病の始まりは今から数ヶ月ほど前、最初は風邪でも流行っているのだろうと皆楽観視していた。しかし一度病を患ったものが誰も回復せず、一方で新たな感染者が増え続けるという状況が続いているようだ。そして体力のない高齢者を中心にすでに何名か死者も出ているらしい。
トマは最悪のケースを想定し、疫病を村の中だけで封じ込めるために、外部からの村への立ち入りを禁止したらしい。
「なるほどのう…」
「そして私も…どうやらその病を患ってしまったようです…こうして口元を覆っているのは御三方へ病を移してしまわぬようにと思ってのこと…素顔をお見せできぬご無礼を平にご容赦願いたい」
「なに、構わんよ。ところでシリウス君、ちとトマ殿の状態を『見』てやってはくれんか?」
アルフレドからの急な振りに一瞬戸惑ったが、これは鑑定を使って状態を確認しろいうことだろう。
「え??……あ、あぁ分かりました」
俺はトマさんに視線を合わせると鑑定を発動させてその状態を確認した。
名称:トマ・ガゾン
身分:庶民
HP:63
MP:20
状態:毒
(以下省略)
……ん?毒?たしか昔ローラが風を引いたときは「風邪」と表示されていたはずだ。だからトマさんにも「病気」とか「疫病」みたいな表示がされるものだとばかり思っていたけど…
「アルフレドさん、その……トマさんは疫病ではありません」
俺は鑑定結果とそこから考えられる推測ををアルフレドに伝えた。そして一番驚いていたのはその場で俺の鑑定結果を聞いていたトマ村長だった。
「なんと!では、何処かから村に入ってきた毒が徐々に村人たちを蝕んでいる可能性が高いと?」
「ふむ……どうやらその可能性が高そうじゃな。トマ殿、村で毒……いや今は便宜上『疫病』というておこうか、疫病を患っておる者とそうでない者に何か思い当たる共通点などはないかの?」
「共通点……ですか?そう言われましてもなぁ……」
トマさんは原因に思い当たらないようだ。俺もそんなのさっぱり分からないが、ふと昔見た歴史モノのドラマだったか映画だったかで、敵が城の井戸に毒を入れるというなんとも卑劣な計略を使っていたのを思い出した。
「えっと……水はどうですか?」
ついボソリとつぶやいてしまった。
「水……村の水源は2つあります。一つは村の中央にある共用の井戸、もう一つは村の西側を流れる小川でございます」
「えっと……トマさんの水源は?」
「私のところは井戸からですな」
「じゃぁ門番さんは?」
この二人の門番が「正常」であることはさっき確認しておいた。これで、この二人が小川の水を使っていれば、一気に井戸水汚染説が濃厚になる。
「俺達は西の小川ですね、それにそう言われてみれば確かに西側の村人のほうが健康な者が多いかもしれない……」
俺ってもしかして名◯偵コ◯ン?あとは西側で毒に侵されてる人たちの原因か……
「もしかして、西側で毒に侵されてる人たちって、中央の井戸水を使って作られたものを食べたり飲んだりしてませんか?」
「う~ん、どうだかなぁ…」
まぁ全員のことなんて分かるわけ無いか。でも、多分原因は水だろう。
「ララさん、トマさんに解毒をお願いできますか?」
「まかせて!」
そしてララさんの解毒の魔法を受けたトマさんの状態を確認してみるとちゃんと正常に戻っていた。
「おぉ!身体が急に楽になりました!」
「トマさん、もう大丈夫よ!」
ララさんは得意気に親指を立ててみせた。
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
ララさんに向かって両手をすり合わせ急に拝み出すトマ村長…なんかララさんが女神に見えてきた。
「さて、では問題の井戸に案内してもらえるかのう?」
「か、かしこまりました」
そして俺達はトマさんの先導で門をくぐると、村の中心部にあるという井戸へと向かった。




