第1話 近藤涼介の最期
はじめまして、ちゃぶ台と申します。
基本的には毎日1投稿めざしてがんばりますのでよろしくお願いいたします!
俺、近藤涼介は株式会社山菱商会のトップセールスマンだった。
(今さっきまでの話だけど)
〜時を遡ること数時間前〜
「近藤くん!いや今期もノルマ達成率200%オーバー!君は我が社の誇りだね!」
「いやいや、庄司課長、我が社の誇りだなんて〜、それほどでも…ありますよね?アハハハハハ!」
「先輩!まじ半端ないっす!俺一生先輩についていきます」
「おいおい、金森!俺に一生ついてきたって俺より上には行けないんだぜ?ここは追い越してみせますとか言ってみろよ!」
社員数はそれほど多くないが、業績を順調に伸ばし続けている中小企業。アットホームな雰囲気の会社だが、その中でも異色の戦闘部隊といわれる営業一課で俺は不動のナンバーワンに君臨していた。
「よし!今日は私のおごりだ!みんなで祝杯と行こうじゃないか!金森くん、みんなに声かけといてくれ!」
「はい!」
「お!さすが課長!ゴチになります!」
今は3月の下旬。決算月というやつで俺たち営業マンは最後の追い込みに必死になっていた。
そんな中、半年間温めてきた大きな取引のコンペに勝ち残り、数億円規模の取引の受注にこぎつけたことで俺はもちろん営業一課全体が興奮状態だった。
……………
…………
………
……
…
そして帰り道。俺は事務スタッフの下村ちゃんと並んで駅に向かって歩いていた。
「でも、ほんとに近藤さんってすごいですよね!仕事もできるし、メンバーからの信頼も厚いし」
「いやいや、そんなことないよ!むしろ煩わしい事務作業なんかをいつも下村ちゃんにお願いしちゃって悪いと思ってる!今回の商談が滞りなく進められたのも下村ちゃんのおかげです!」
「もう!フフフ、恥ずかしいからやめてください!」
道の真中でビシっと敬礼した俺に、下村ちゃんは照れ笑いを浮かべた。
あ〜、下村ちゃんかわいいなぁ〜…
彼女は営業一課の紅一点で、俺たち営業マンたちの心のオアシスだ。俺は密かに下村ちゃんに好意を寄せているのだが……実際のところ何も行動を起こせていない。そう、俺は仕事に関してはどんな困難にも特攻できるが恋愛については全くの素人なのだ。商談相手がバリキャリのきれいなお姉さんでも物怖じせずに攻め込めるが、プライベートでそんなお姉さんに話しかけられたりしたら100%キョドる自信がある。
だが、今こそ酒の力を借りてすこし踏み込んでみせよう!
「そういえば、下村ちゃんって彼氏とかいるの?」
「彼氏ですか?フフフ、内緒です!」
何だこのエンジェルスマイルは!
「えー!教えてよ?あー、でも言うまでもないか?下村ちゃんならきっとモテるだろうし!」
「そんなことないですよ〜………ってキャ!」
「え?」
ガッシャーーーーン!
ほんの一瞬、超一瞬頭が痛いと感じた気がしたけどよくわからない。その後は視界も真っ暗になり周りの音も聞こえなくなった。
◇◆◇◆◇
「うっ……うーん……」
しばらくして目を開くと見たことのない一面真っ白な部屋の中だった。
「どこだここ?」
周りをキョロキョロと見渡してみるが、ほんとに何もない。壁も床も天井も、シミひとつ無い真っ白な部屋だった。
「お!目が覚めたかい」
ふいに後ろから声をかけられ思わず肩がビクついた。
「あんたは……?俺は確か営業一課の飲み会の帰りで……」
必死に記憶の糸をたどるが、下村ちゃんと帰り道に話していたあたりからの記憶がない。いくらなんでも、記憶が飛ぶほど飲んだりはしなかったはずだけど。
「あぁ…そっか。自分じゃ何が起こったのかも分からなかったよね。残念ながら、君は道を歩いている途中でビルの屋上から飛び降り自殺を図った別の人とぶつかって死んだんだ。首の骨がボキッといってたし、ほぼ即死だっただろうね〜ご愁傷様!」
「ご、ご愁傷様……って…はぁ!?おい!悪い冗談はよしてくれ!これは誘拐か何かか?お前は誰で、ここは何処だ?」
突然見知らぬ男から自分の訃報を聞かされても、全くピンとこない。それどころか現にいま生きてるじゃん?
「まぁ、信じられないよね?まずは自分のすがたを確認しよっか?」
そう言って男は何もないところから鏡を取り出すと俺に向けて差し出した。
「ほらやっぱ生きてるじゃないか……って透けてる?」
俺は自分の手で顔を触ってみるが感触がない。いや、厳密に言えば触れなかった。手が頭をすり抜けてしまったのだ。だが、自分で確認できたことで少し冷静になることが出来た。
「………ちょ、まじかよ?そうすると、あんたは神様とかなんとかってやつなのか?」
「まぁ、そんなところかな?」
ひどすぎる、俺まだ童貞だぞ?まだ死にたくはなかったけど、どうせ死ぬならせめて「男」になってから死にたかったってもんだ……
「はぁ……ちくしょう…こんなことなら下村ちゃんに思い切ってアタックしとくんだったぜ…」
「下村ちゃん?あぁ〜、あの女の子かい?そういえば彼氏がいるのか聞いてたところだったね」
「そうだよ!ったく、いないと分かればちょっと本気でアタックしようかと思ってたのによ」
神様(仮)はなにやら気まずそうに頭をポリポリとかいている。
「神様でも、俺に同情してくれるのか?」
「いや……まぁ同情はするかな?あの子にはれっきとした交際相手がいたからね!」
「なんだと!?誰だそいつは!俺の知ってるやつか?」
「うーん、知ってるも何も、君の後輩のあの男の子だよ?」
……ん?後輩の男?………
「…金村?」
「そうそう!確かそんな名前!ほら!」
神様(仮)が真っ白な壁の一面を指差すと突如スクリーンのようにそこに映像が映し出された。そこには、地面に横たわる俺ともう一人の死体と、規制線の外側の野次馬たちがいる。なるほど、時間はそれほど経ってないってことか?なんて思ってみていると、事故現場に駆けつけた金村に肩を抱かれ泣きついている下村ちゃんの姿があった。
かぁなぁもぉりぃーーー!
金森は下村ちゃんと手をつなぎ、事故現場から二人して去っていった。おい金森!お前どこ行くつもりだ!
「きっとこのあとは、金森くんが彼女を慰めながら……いつの間にかしっぽりやることやっちゃうんだろうねぇ」
神様(仮)は傷心の俺に1ミリも気を遣うことなく、平然ととんでもない不謹慎なことを言ってのけた。
「おい!もうちょっと俺を労れ!」
「まぁまぁ、もう死んじゃったんだししょうが無いじゃないか!でも、君はとても良く頑張ってたみたいだし?それなのに人前でカッコつけすぎて実は童貞のままだし?このまま成仏させちゃうのもかわいそうじゃん?特別に僕が転生させてあげようと思うんだけど、どうだい?」
「……転生?……いや、ちょっと待て!なんでアンタは俺が童貞だってことまで知ってやがる?」
「そりゃまぁ神様だし?」
「はぁ……まぁ今更どうこう言ってもしょうが無いか…で、転生ってのはなんだ?」
「あれ?聞いたこと無い?結構巷じゃ人気のあるネタだって聞いたんだけどなぁ〜」
…そういえば、金森が読んでた「ライトノベル」とかいう小説の内容がたしか転生だとか異世界だとか言ってたな。俺はビジネス書しか読まなかったからよくわからないけど、そういうジャンルが確立されているのだろう。
「異世界で、今の記憶を持ったまま生まれ変わる、とかいうやつか?」
「そうそれ!なんだ知ってるんじゃないか!で、せっかくだから神様特典で君に有利な設定で転生させてあげるけど、何か希望はある?」
いきなり希望を聞かれても、俺はそもそもその手のことに知識がない。
「そんなこといきなり言われても、俺にはさっぱりなんだけど」
「うーん、じゃぁ3つ選択肢を提示してあげるから、そこから好きなのを選ぶと良いよ!まず一つ目、家柄。なかなかの上流階級に生まれさせてあげるよ!二つ目、アイテム。向こうの世界じゃ手にはいらないようなおもしろアイテムをプレゼントしちゃうよ!そして三つ目、スキル。これは生まれ持った能力のことだね!何が出るかはお楽しみ!」
神様(仮)はとても楽しそうにそういって、俺の反応を伺っている。俺は「転生する」と言う前提はもう受け入れることに決めていたし、3つの選択肢の中から何が最善かを考えることにした。
まず家柄。これはダメだ、例えば王家とか貴族とかどこかの大財閥とかに生まれたとしても、家が絶対に没落しない保証はない。それに俺はいつだって自分の力でのし上がってきた。
次にアイテム。これも微妙なところだ。そもそも、転生ってことは赤ん坊で生まれてくるはずだし、万が一物心つくまでにアイテムをなくしたりしたら恩恵がパーだ。
最後にスキル。何が出るかわからないというところが唯一にして最大の問題点だ。だが「特典」としてもらえる以上、あからさまにネガティブなスキルがあるとは思えない。
「決めたよ………スキルで頼む!」
「ファイナルアンサー?」
……何だこいつ?みのも◯たか?
「……ファイナルアンサー!」
「OK!じゃぁこの中から1枚選んで引いてね!」
そして差し出されたカードの束から、俺は適当に1枚を引いた。そこには梵字のようなよくわからない文字で何か書いてあった。
「これなんて書いてあるんだ?」
「どれどれ………おぉ!これはなかなか、まぁ詳しいことは向こうに行ってからのお楽しみ、ってことで!」
淡い光が俺の身体を包み始めた。
「おいおい!これは当たりなのか!?外れなのか!?」
光はだんだん強くなっていき、神様(仮)の姿も徐々に見づらくなってきた。
「大丈夫!当たりだよ、それもとびきりの!君ならきっとうまく使えるはずだから、あっちに行ってもがんばってね!あ、今度こそ童貞卒業してね!(笑)」
「うるせえ!余計なお世話だ!」
そしてまばゆい閃光とともに俺はその場から消え、異世界で転生することになった。
まずは第1話をお読み頂きましてありがとうございました。
第1話の投稿で非常に緊張しておりますが、面白そうだと思っていただけましたなら幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします!