05話 異世界は残酷なゲームだった
本日に投稿する2話目です。
あの世界でクソッタレな神のために魔神を退治したのは、クソゲーに手を出した時点で運の尽きだった。
――大学生活の後半に何気にやってみたVRMMORPGのとんでもない難易度にキレてしまった俺は、ユーザーの少ないそのクソゲーに本気でのめり込んだ。
ゲーム内の死なんて当たり前。
店売りの道具は少なく、お金は冒険者ギルドで地道に稼ぐしかない。そこら辺にいるNPCのほうがプレーヤーより強いし、道具屋のNPCなんて平気でお金を騙してくる。運営はこんなクソ面白くもないゲームで一体何をやらせたいのだろうと何度も罵ったもんだ。
武器や道具がほとんど販売されていないことに気付き、俺は生産系プレイに集中することにした。1年もの間プライベートをゲームの時間に注ぎこみ、ロストを気にすることもなく、世界各地を回りつつ、ありとあらゆる物を学びながら金稼ぎのためにアイテムの生産に励んだ。
プレーヤーからでなく、NPCキャラや国からも生産依頼を受注できるようになったし、追いはぎくらいなら自力で追い払えるまでにキャラが成長したそのとき、それが起こった。
――目の前いっぱいの魔法陣、気が付けばそこはゲームとほぼ同じの異世界だった。
そこに人神という老人がいて、この世界の破滅を回避させるために魔王と魔神を倒してくれと、同じく転移してきたゲームで最強の剣士と魔法使いを含む12人の廃人プレーヤーたちと一緒に頼まれてしまった。
元の世界へ帰還するために引き受けざるを得なかったが、ほかの12人は大抵ノリノリだったのが少し気に食わなかった。
「連れてきてなんだがな、ゲームのように蘇生はないから死んでしまったらそれまでだ。気を付けるように」
能力値はそのままであったことはまさにテンプレでしかないと当時の俺は呆れかえったもの、しかもデスゲームときたもんだから、人神ってやつはろくなもんじゃない。
元が生産系キャラな俺に戦う力などない。王国伝来の宝玉で測定したところ、桁外れの魔力だけはあるらしい。それでもこのクソッたれな状態を攻略するために王宮魔術師や凄腕冒険者から魔法を教わった。
火魔法なら各種の料理を炒めるくらいの火力。
風魔法なら暑さを吹き飛ばせる扇風機の風量。
水魔法なら短時間で風呂釜を満杯にする水量。
土魔法なら設営に役立つブロックがつくれる。
光魔法なら魔道具をつかわない照明となれる。
闇魔法なら周囲2メートルが暗闇に包まれる。
要するに魔法で攻撃することができないのだ。
勇者となった剣士、賢者となった魔法使い、あいつらが勇者と称えられて国々からチヤホヤされているとき、力ではあいつらに及ばない俺たち11人は騎士団や冒険者と行動を共にした。
俺を含む11人はみな冒険者となったが、そのうちの6人はすぐに逃亡を図った。
当時はそういう選択肢もあったかとバカ正直に騎士団と同行したことをすごく悔やんだ。だがしばらくしてから2人が戻ってきた。あいつらがいうには魔王軍から凄腕の幹部がきたらしく、4人が殺された時点で逃げ場がないと悟ったみたいだ。
最初は魔王軍に侵略された街や城の奪還作戦に参加させられた。
俺の主な仕事は薬品や道具の製作、空いてる時間は6人の転移者と一緒に都市の復興に従事したりした。そのうちに騎士団長が国から受けた命令で俺たちと熟練冒険者を含む討伐部隊を結成した。なぜか討伐部隊の副隊長となった俺は6人のプレーヤーとともにすべての戦場へ駆り出され、討伐部隊は最前線で激戦をくり返した。
勇者たちは最終兵器として大事にされ、魔王軍幹部と対戦するときだけの顔出し、俺たち討伐部隊はその露払いとしてせっせと働かされた。
ただまあ、思い返せばなにも悪いことばかりじゃない。
騎士団員と冒険者のほかにエルフや獣人など、仲の良い異世界の友達は随分とできたものだと今でもそれだけは良い思い出だ。もっとも、その人たちのほとんどが国や種族のためと叫んで、強大な魔王軍との戦であっけなく死んでしまったけどな。
騎士団長の暗殺を企てた魔王軍の幹部であるサキュバスは俺が罠を駆使して捕まえた。
従属の魔法陣で奴隷にしたのはストレス解消を考えての邪念だけど、結局ヤられていたのは俺のほうだった。あとになってからサキュバスを奴隷にするのはバカだと異世界の戦友たちから笑われた。
ゲーム脳は異世界に行っても治らないものらしい。
ようやくのことで魔王城にて残りの魔王軍幹部と魔王を倒した。
生き残ったプレーヤーは俺のほかに福本という気の弱かった元引きこもりの二人となった。
勇者たちは別口、あいつらは魔王城攻めのときでも対魔王戦しか出ていなかった。魔王城で待ち構えていた幹部たちは残り僅かな討伐部隊が倒して、満身創痍の騎士団長は大幹部のダークドラゴンと相打ちになった。
俺の親友だった騎士団長は家族を守れたと満足した表情で息絶えた。
奥地にある魔神の神殿に攻めようと国を挙げての大イベント、その頃には俺の周りは知り合いがほとんどいなかった。異世界で過ごした時間は10年、激しい戦いが続きすぎて、10年で馴染みの異世界で仲良くなった友達はみんな死んでしまった。
もう、だれとも関わろうとは思わないようになった。
神がいないと魔神とはまともに戦えないということで、魔神戦の前に久しぶりに人神が出てきた。
魔神に勝てたらなにか叶えてほしいことはあるかと問われた俺は、この世界から離れて元の世界へ帰りたいと伝えた。ここに残っても俺と一緒に生きる喜びを分かち合えるやつはほとんどが死に絶えた。俺にとってこの世界は悲しみしかない、とにかく一刻も早く家に帰りたかった。
福本はこの世界に残りたいと神に願った。
あいつは女騎士とそういう仲となったので、魔神戦の後に結婚するんだと意気込んでいた。おいおい、それフラグだぞって憎まれ口を出さず、明らかにやる気になってる福本を祝福してあげた。
「ごめん、行ってくるわ――向こうに帰ったら家族に迷惑かけっぱなしで悪かった、嫁とここで頑張っていくのでもう心配しないでくれって伝えてほしい」
引き留める俺の手を振り切った福本は、あいつの嫁になるはずの女騎士と一緒に魔神の強大な力の前で儚く命を落とした。
この世界で死んでしまったら生き返らないことを承知して、福本は与えられた使命に忠実な女騎士のために、勇者どもが往く道を切り開いた。
――人神と魔神が星一つを賭けたゲームはこうして人神の勝利で幕を閉じた。
次は一つの星系を賭ける艦隊戦のゲームに移るらしく、このゲームで負けた側が一足先にそこへ転移すると昨夜、人神が教えてくれた。
ここにいる人たちすべてに命があるだけの、ただのゲームで使われるコマだったんだ――
クソッたれの人神がみせる微笑みに見送られて、やつが最後に言った言葉の意味は理解できず、淡い光に包まれた俺はここへ来た当時と同じのように意識を失った。
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