04話 転移者は帰還を果たした
日間1位になれました!
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山と見紛う巨体の周りに小さな人の影がくり出される無数の触手を避けつつ飛び回っている。
人の影が剣を振るう度に見るからにおぞましい巨体から液体が噴き出し、耳障りな声で苦しそうな唸りをあげた。
「最後の、一太刀だああーー」
『ぐおおぉぉぉ――』
人の影が光る刀身を横へひと振り、それが止めとなって断末魔をあげた巨体が地響きを立てて地面に崩れた。
「――魔神、打ち取ったりぃぃぃ」
人の影が剣を掲げると声高らかに宣言した。
「……おおおーーー! 勇者様あああーー!」
その声に応えるように周りにいる魔神討伐に参加した軍勢が一斉に雄叫びをあげた。
勇者と呼ばれる人の傍へ二人が駆け寄る。
聖女と名高いケッテンハイム帝国の第一王女にして勇者の婚約者、人が極められる限りの魔法を極めた異世界から来た賢者。神によりこの世界へ連れて来られた勇者と合わせて、救世主と呼ばれたこの三人は今まさに最後の難敵となった魔神を打ち滅ぼした。
「じゃあ、もう帰るわ」
勇者の場所へ集まっていく軍勢から離れた場所で、疲れていた俺が神々しく淡い光を放つ老人に話しかけた。
「おぬしはあいつらと一緒に残らないのか?」
老人は苦笑いをみせ、俺の意思を再確認した。
「おいおい、魔神を倒したらすぐに帰らせてくれるって約束だろ? 神様よ」
「うむ。そうだが、人族ならこの後に祝いの宴を開く習慣があるのでな。お前さんもそれが済んでからでどうだ」
俺は今までのことを振り返ってから何度も頭を振る。
「いや、いい……語り合える戦友たちも、心が許せる人々もみんな死んだ。この世界に未練なんかない」
「そうか……それなら仕方があるまい。仲間――勇者たちにあいさつはいいのか?」
老人からの言葉に俺は冷笑で返す。
「それこそいらねえだろう。あいつらは結婚を待つ王女がいるし、統治する国も与えられるんでな、元の世界に帰るわけがない。その前にあいつらは俺の仲間なんかじゃねえよ」
「ふむ……同じく異世界から来た仲間かと思ったのだがのう」
「ちげえよ」
吐き捨てる俺に老人は肩を何度か撫でてから、頭の上へ手をかざした。
「この世界に留まらなくてもいいのだな?」
「――ああ、頼むからもう帰してくれ」
「そうか、ご苦労さん――よくぞ怨敵の退治に手を貸してくれた、礼を言う。お前さんがいなければ魔神は倒せなかった」
「なにがご苦労さんだ。あんたが無理やり連れてきてやらせたのだろうが」
神からのお褒めに俺は精いっぱいの抵抗で皮肉を言ってみせる。
「ほほほ、そうだったそうだった――お詫びというわけではないが、お前さんの願いを叶えるほか、授けたものがあるからそれは帰ってから確認してくれ」
「はあ?なに言っ――」
「もう会うことはないが、そっちのほうで幸せになってくれ」
「ちょ――」
俺の、たぶん鳩が豆鉄砲を食らったような表情に神は笑いながら神力を使った。
人々が勇者の偉業を称える頃、この場にいる人たちは一人として、勇者もどきと蔑まれたもう一人の転移者、芦田輝がこの世界から消えたことに気が付かない。
主人公は帰還を果たしました。
本日はあと2話を投稿する予定です。
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